第482話 雪山フィールドの攻略開始と、戦闘機な鳥
「それじゃ、留守の間は任せたよ」
「はい、お任せ下さい。そちらも、十分にお気を付けて、泊りがけは初めてなのですから」
レベリングをした翌日、フォルコ君が御者をする馬車に、ダンジョンギルドまで送ってもらった。普段はギルドの厩舎に預けているのだが、泊まり掛けとなると預けっぱなしになるので馬が可哀想である。(無論、有料でのお世話サービスもあるが)
41、42層の雪山フィールドを攻略するにあたり、女性陣から早めに抜けたいとの提案があったので、一泊二日の強行軍を計画してみた。雪山装備を購入しに行った際に、店員さんから色々アドバイスを貰ったので、多分大丈夫だと思う……まぁ、普通の人は墓地フィールドでも2日掛けるようであるし、ぼちぼち泊まり掛けの探索もしておいた方が良いという考えもある。ソフィアリーセ様達が加入する前に、経験しておいた方が良いだろうし。
……早く進む腹案はあるけど、実地で試していないからな。先ずは新しい魔物の分析が先だ。
受付にて、テオ達が納品したコカ肉を受領する。コカ胸肉が10個に、レアドロップ品のジューシーコカもも肉が3個もあったので、かなり頑張ってくれたようだ。30層は人気で込んでいるから、ショートカットを走っても、待ち時間があるからな。報酬用の預け金に追加をしてから、ダンジョンへと向かった。
エントランスの青い鳥居……転移ゲートの順番待ちをする間に、俺以外にヴァルムドリンクと、雪山用マントを渡しておく。周囲の順番待ちをする、他の探索者へ目を向けると、同じようなマントのパーティーがチラホラ見える。スキー板を抱えている人も居るので間違いない。ただ、スキー板を持っていると言う事は、多分採取パーティーなんだろうけど。
順番が回って来たので、41層へと降りた。
転移したのは、41層の休憩所を出た直ぐの所である。周囲は一面の銀世界。晴天なのに雪がちらつく変な場所ではあるが、新たに購入した防寒着のお陰で、それほど寒くはない。心配していたレスミアとフィオーレも大丈夫そうである。
「まだちょっと寒いけど、歩けば暖まるんじゃないかな?」
「……私も何とか。このチャームのお陰かな? 村の時よりは暖かいですよ」
もこもこに厚着をして、頭には獣人用の猫耳の形をした毛皮の帽子を装備したレスミアが、首元からペンダントを引っ張って見せて来た。それは、ペンギンの形をしたチャームである。レア物ショップの雪山コーナーで販売されていたので、寒がりな二人用に購入した物だ。
【アクセサリー】【名称:ペンギンチャーム】【レア度:C】
・グライピングの力を宿したアクセサリー。身に付ければ、寒さ全般に強くなり、凍結の状態異常を予防する。ペンダントトップのみなので、他のアクセサリーと組み合わせよう。
・付与スキル〈凍結耐性 中〉
1個50万円と、そこそこ高い……いや、冬場の寒さに対応出来るし、長年使えると考えれば安いのか?
兎も角、寒さを嫌がる女性陣の不満を緩和出来ただけでも、十分である。
この他にも、薄手でも暖かい毛皮のコート(レスミアとフィオーレは貴族向けの刺繍付き白いコート)や、雪山用のスパイク付きブーツ、新雪の上でも歩けるスノーシュー、両手に持つスキーストック等も人数分購入済みである。スノーシューは所謂、かんじきだな。ブーツの上からベルトで固定する、楕円形の小さめのかんじきである。フレームの分だけ接地面積が増え、雪に沈みこまないそうだ。
ただし、レスミアはスティングレイブーツが〈接地維持〉を備えているので不要。ついでに謎だった付与スキルも〈スキル鑑定〉しておいた。
【武具】【名称:スティングレイブーツ】【レア度:C】
・シュヴィロッヘンの革で作られたブーツ。水と熱に強く、硬く、砂漠を泳ぐように歩く事が出来る。
また、表面の細かい鱗には光沢感があり、砂海の宝石と呼ばれることもある。
・付与スキル〈接地維持〉〈天眼〉
・〈接地維持〉:両足裏に自動発動。地面、及び堆積しているものを踏みしめている限り、足が滑る事は無い。
・〈天眼〉:天から見通す力により、感知系スキルの効果範囲を広げる。
感知系なので〈敵影感知〉や、〈猫耳探知術〉の効果が上がっているものと思われる。使用しているレスミアは、気が付いていなかったようだが、改めて思い返すとトレジャーハンターの時には、俺よりも早く敵に気が付いていた。恐らく1割~3割くらいは効果範囲が広がっているものと思われる。
そして、ベルンヴァルトは装備が重い分だけ、スノーシューの径も大きい。重い血魂桜ノ赤揃えではなく、以前のジャケットアーマーにすれば多少は楽になるのだが……防御力は落としたくないのと、とある魔物対策で武者鎧のままとした。
更に雪山装備を買い替えるついでに大楯……タワーシールドをウーツ鋼製の物に買い替えた。
【武具】【名称:ウーツタワーシールド】【レア度:C】
・外側をウーツ鋼、内側をチタンで作られたタワーシールド。全重量の半分、内側をチタンにすることで軽量化を施してある。主に敵の攻撃を受け止めるための盾であり、受け流すのには不向き。また、その重量と大きさから、打撃武器としても使える。
俺のカイトシールドも一緒に買い替えたが、大きさと形違いなので割愛。ウーツ鋼とチタンを張り合わせているのか、リベットの様な物が打ち込まれており、これはこれで武骨な感じ。表面はウーツ鋼製なので、自然と入る波模様が格好良い。
因みに、ツヴェルグ工房では、購入した武具に紋章を入れる有料サービスもある。タワーシールドの真ん中には、わざわざリベットの無い空間が明けてあるので、紋章や何かの意匠を入れる事を進められた。折角なので、白銀にゃんこのロゴを入れないかと提案したのだが、固辞されてしまった。可愛いにゃんこは騎士に不釣り合いなんだそうだ。
皆が準備を進める中、俺は少し離れてから、独自の準備を始める。〈スキル鑑定〉を使ってから、考えたアイディアがあるのだ。先ずは、変身ポーズを取って……
「〈緊急換装〉! ……からの『
装備したのはミスリルフルプレート+ブラストナックル。更にミスリルフルプレートを〈魔喰掌握〉で取り込み、『魔喰抜剣』で全身真っ赤なドラゴンフルプレートへ衣装チェンジした。
この状態で、鎧へ魔力を流せば、全身が発熱状態になる。これで、雪を溶かして進めないか?と言う実験だ。
先に足元の雪から解け始め、ずぶずぶと下に沈み込んで行く。積雪は1m程だったので、程なくして地面に足が付いた。溶けだした水で地面がぬかるんでいるが、〈設置維持〉の効果で足を滑らせる事はない。
問題なのは……意外と周囲の雪が、溶けない事である。
いや、全身で発熱すれば、近づくだけで勝手に溶けて行くと想像していたのに、あんまり溶けない。直接雪に触れば溶けて行くのだが、少し離れると、じわじわ溶ける程度。なので、歩き始めると、雪を掻き分けて進まないと駄目だったのだ。
「ガハハハッ! リーダー、普通に歩く方が早いぜ!」
「……だよなぁ。もうちょい楽になると思ったんだけど」
「でも、暖かいのは良いですよ」
「だね~。ザックスが前を歩いて、その風下に回れば……キャッ! っとっと。危な! 氷張ってんじゃん!」
フィオーレが俺の後ろに回り込もうと、雪の溶けた溝に飛び込んだのだが、危うく転びかけていた。何かと思えば、俺の歩いた後は泥濘になっていたが、更に後ろでは溶けた水が凍り始めていたようだ。
数m離れただけで凍り始めるとか、この階層の気温の低さを嘗めていた。こんな調子では溶かした溝自体が、魔物との戦闘の邪魔になるな。俺が動き回った後に氷が張って、天然のトラップとなってしまう。
結局、この案は没にして、『魔喰解放』で普通のミスリルフルプレートへと戻すのだった。
緩やかな斜面を歩いて進む。
この階層は、奥に行くほど木々と傾斜が増えるゲレンデみたいな場所だ。さしずめ、階段近くのここは、初心者コースかな?
雪はちらついているが、吹雪いているわけでもない。雪対策さえしていれば、なんとか踏破出来そうである。
俺は、皆の先導として先を歩きながら、索敵と罠の解除、それに〈サーチ・ストックポット〉で採取物の探索も行う。いつもながらにやる事は多いが、いつも通りに自由に動けるのは俺だけなのでしょうがない。
ミスリルフルプレートの〈設置維持〉は素晴らしい。なにせ、新雪が積もる場所でも、足跡も残さず歩けるのだからな。砂漠フィールドでも体験済みであるが、雪でも同じように足を取られる事もない。加えて、腕の部分だけブラストナックルにしているので、〈熱無効〉で寒さも感じない。腕だけ発熱させれば、パーティーメンバーへ暖かさをお裾分け出来るので良い事ずくめである。一人だけ離れて歩くのは、ちょっと寂しいけどな。
アビリティポイントを合計25p、ストレージも合わせて計30pも使ってしまうが、経験値増に回している分を使っているので、複数ジョブは4つ(15p)もセット出来る。残りの5pは〈詳細鑑定〉に。初見の魔物が居るので、最初からセットしているのだ。調べ終わったら、ジョブを5つにしても良いし、追加スキルを入れても良いな。
ゲレンデのど真ん中に【落とし穴の罠】を発見したので、〈罠解除初級〉で消しておく。こんな雪山で落とし穴とか、そのまま雪まで落ちてきて生き埋めになりそうだ。罠の殺意が上がっている気がする。
〈サーチ・ストックポット〉の反応はあるが、ゲレンデの方には殆どなく、木々の生えている方が多い様だ。この階層には目当ての果物が生っているので、近ければ取りに行きたい。何なら、他のメンバーは休憩させて、俺だけ採りに行っても良いかも知れないな。
取り敢えず、進行ルート上の一番近い反応に寄る事を皆に伝えて、先に進んだ。
時折、〈サーチ・ストックポット〉を使って位置を確認するのだが、採取地に辿り着く前に、赤い光点が視界の地図に映った。魔物と判断して、皆に戦闘指示を出す。
「ザックス様、敵が!」
「ああ、魔物が急速接近している! 戦闘準備!
反応が上の方だから、多分空を飛ぶ方の鳥魔物! フィオーレは〈語らいのブルーバード〉を頼む!」
「りょうーかい!」
この階層で、登場する2種の魔物の情報は、皆に教えてある。フィオーレには念の為、指示を出しておいたけどね。
俺も準備を整えるべく、左手から生えた刀の柄を握って〈魔剣術・初級〉を発動させた。
ブラストナックルに『耐火の刀』を取り込ませたのだけど、ミスリルソードや紅蓮剣とはまた形態が違う。左手の甲の宝珠も、魔剣術は効いたようだ。次いで、次なる魔法を充填しながら、敵の様子を伺う。
〈敵影感知〉の圧力が徐々に大きくなってくる。その方向……進行方向から見て1時の方向、その上空で緑色の光が見えた。風属性の魔法陣だ。それも5つが列をなして、V字に並んでいる。
右手の親指と人差し指で丸を作り、〈モノキュラーハンド〉の望遠効果で敵を観察する。すると、その鳥の赤い顔が見えた。
【魔物】【名称:ヴィルファザーン】【Lv41】
・雪山の上空を飛ぶ雉型魔物。空から索敵し、獲物目掛けて(ウインドジャベリン)打ち下ろす。また、風属性魔法の亜種〈ジェットゲイル〉を足から出す事により突風を巻き起こし、上空へ舞い上がることが出来る。
しかし、MPはそう多くはなく、魔法を撃った後は息切れをして着陸する。地面では高速で走り回り、嘴による突っつきと、魔法で戦う。
また、火属性が弱点であるが、その翼で風を起こす事により火属性魔法の威力を半減させる特殊能力を持つ。
・属性:風
・耐属性:土
・弱点属性:火
【ドロップ:雉の破魔矢】【レアドロップ:火消しの雉翼扇】
〈モノキュラーハンド〉越しに〈詳細鑑定〉が効いた。ざっと斜め読みしたが、大体事前情報通り。まぁ、空を飛んでいるので、対処方も限られているんだけどね。
最初は、フィオーレが召喚した青い小鳥が5羽、青い光の尾を引きながら飛んで行った。魔法の充填を阻害する〈語らいのブルーバード〉である。高速に飛来するヴィルファザーンに対し、すれ違うのかと思いきや、その背中に吸い付くようにしてくっ付いた。ここからでは、鳴き声は聞こえないが、耳障りな鳴き声で邪魔しているのだろう。敵の魔法陣の充填が、バラけるようにズレ始めた。
視認距離に入ると、ヴィルファザーンが急降下を始める。こちらに向けられている魔法陣で、完成しているのは3つ。5つ同時でないだけ十分だ。
「ジャベリン魔法は、直線にしか飛ばない。散会して回避優先!
ヴァルトは〈挑発〉も頼んだぞ!」
「おう!」
急降下して来たヴィルファザーンが一鳴きすると、首下に出している魔法陣が光り、緑色のクリスタルなジャベリンが撃ち下ろされた。俺に向けて飛んできたのは1本のみ。斜めに降ってくるジャベリンを、〈摺り足の歩法〉でスライド移動して回避する。
他のメンバーに飛んで行った分は見ている暇はないが、HPバーは減っていないので、大丈夫だろう。それよりも、ヴィルファザーンの内、魔法陣が完成していない2羽が、他の個体よりも急降下して来ているのが見えた。白い翼を広げ姿勢制御をすると共に、鋭い爪の足をこちらに向けている。急降下の威力を乗せた爪撃だ。
……早い! でも、回避するだけなら!
〈摺り足の歩法〉で横にズレ、すれ違う様に回避……すると共にカウンターの〈虎振〉が発動した。勝手に動いた右手が、左手から刀を抜刀し、すれ違い様に片翼を断ち切った。
カチンッと左腕に納刀する。しかし、最後の1羽が続いて急降下して来ていた。
……時間差連携とは、魔物ながらに天晴れ! ぎりぎり避けられるけどな!
無理せず、カウンターの事は考えずに、〈フェザーステップ〉で大きく横に避けた。
「〈ツインアロー〉!」
急降下爪撃がスカッたヴィルファザーンに向けて、2本の矢が飛来し突き刺さる。その衝撃もあってか、敵が空中で止まった。
「〈一閃〉!」
その隙を逃さずに、高速抜刀斬りにて、ヴィルファザーンを両断した。そして、地面に墜落した片翼の方も、止めを刺しておく。近くで見ると意外に小さい。鶏くらいか?
緑色の胸毛に白い翼、特徴的な赤い顔。桃太郎だとかの挿絵にあった通りで、なかなか格好良い。
それは兎も角、先に魔法を撃ってきた3羽に目を移す。〈敵影感知〉の反応に従い斜め上の方を見ると、ヴィルファザーンが足からジェット気流を放出して舞い上がっているところだった。
あれが解説文にあった、風属性魔法亜種〈ジェットゲイル〉か。その様子は、まるで戦闘機のようだ。
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