第478話 ニンジャの真骨頂と釘打ち機
〈素材置換調合〉にて、鉄製のダガーをウーツ鋼製に作り変えたのは良いのだが、手持ちの装備品には置換出来そうな物は殆どなかった。長物やカイトシールドは錬金釜に入らないし、ギリギリ入りそうだったフィオーレのテンツァーバゼラードも拒否られた。
「え~、重くなったらアタシが持てないじゃん」
「それもそうか、本末転倒だな」
他の皆にも聞いてみたのだが、これといった候補は出てこない。
「俺の前使っていたジャケットアーマー、アレの追加装甲はどうだ?
街中を歩くにゃ、あっちの方が良いからな。強度が高くなるなら助かるぜ」
「う~ん。あれは硬革だからなぁ。薬品で固めた革だから、金属のウーツ鋼とは置換出来ないよ」
「私も採取の時に使うナイフくらいしか、ありませんよ? それも最近は〈自動収穫〉のお陰で使っていませんし……あ、料理用の包丁なら切れ味が上がって良いかも?」
「まぁ、包丁なら後でも良いな。帰ってからやっておくよ」
他にも、採取用のナイフや鋏。採掘用のハンマーと蚤、スコップとかも置換しておくか。ツルハシは錬金釜に入らないのでNG。
いっその事、大型錬金窯の購入も検討するか?
いやいや、最低でも3千万円はするので、ポンっと買えるものではない。いずれ買うにしても、もうちょい資金に余裕が出来てからでいい。
それにまぁ、素人の俺が加工するよりも、プロが作るツヴェルグ工房や、フェッツラーミナ工房で購入した方が良いよな。
取り敢えず、余ったウーツ鋼のインゴットを細切りに加工、〈メタモトーン〉で形を整えて、手の平サイズの大きな釘を作成しておいた。20本程出来たが……何に使うかは、次の周回のお楽しみだ。
そんな訳で、ボス部屋へと戻って来た。今度はレベル40まで上げたニンジャジョブの力試しに、俺一人でボスに挑むことにする。ベルンヴァルトにはお供の馬頭鬼の相手をお願いしておいた。
「そろそろ、演奏始めるよー〈狩人のフーガ〉!」
前にいるフィオーレが敏捷値アップの祝福の楽曲を弾き始めた。何故前なのかと言うと、俺の方が入口付近の壁際に居るからである。ボチボチ魔法陣が光り始めたので、俺も前線へ行くべく、壁にむかって走り始めた。
壁に激突する前に跳びあがり、壁を蹴り上げる。そして、そのまま壁を走り始めた。これは闇猫が壁を走る〈猫体機動〉に似たスキルである。いや、上位互換と言えるかもしれない。
何故なら……壁を駆け上がり、高い天井にまで辿り着くと、今度は天井に跳び移り、そのまま天井を地面の如く走る事が出来たのだ。重力が変わった訳でもないので、頭に血が上りそうであるが、天井を蹴って走っても落ちる気配など無い。これが、ニンジャレベル40で覚えた新スキルである。
【スキル】【名称:
・走っている場合に限り、壁や天井も地面の如く走ることが出来る。
ただし、走っている途中でも、歩き以下の速度に落ちた場合、その時点で効果は消える。
いや、ニンジャが天井を走るとか聞いた話ではあるけど、アレって天井の
そのまま、天井を走って行き、魔法陣の近くまで来た。登場の光が収まる瞬間に、充填待機していた〈アシッドレイン〉を発動させる。頭上で発動したせいか、魔物達は俺に気付いた様子は無い。属性ダメージが入ってよろけてはいるが、正面に居るレスミアや、横合いに居るベルンヴァルトへ注意を向けている。
天井付近に〈アシッドレイン〉の黒い雲が立ち込めて来たので、それに乗じてチェーンヒュドラの直上に行き、その首を目掛けて飛び降りた。
空中で体勢を入れ替えて、足を下にする。目指す着地地点は、チェーンヒュドラの真ん中の首の根元だ。背中側は尻尾まで傾斜があるので、着地には不向き。一番上なら多少の足場になる部分もあり、万が一落ちそうになっても首の鎖を掴めば良い。
なんて考える間に、チェーンヒュドラが近付いてきた。結構な高所から落下した筈であるが、軽い着地音を立てて、軽やかに降り立……った直後、俺の背中側で爆破音が響いた。
ちらりと後ろを少しだけ見ると、チェーンヒュドラの背中が爆破されたように土煙を上げている。ちょっとくらいのダメージになったか? いや、本当に隠密って言葉が似合わないニンジャである。
【スキル】【名称:着地爆破演出】【パッシブ】
・華麗に着地を決める際、背後で爆破を起こして注目を集める。
ただし、術者の身長より高い位置から飛び降り、着地した場合のみ発動。この時、落下エネルギーを爆破に変えている為、どんな高さであってもケガする事なく着地出来る。
また、敵を踏み付ける事でもダメージを与える事は出来るが、微々たるもの。
……忍者を特撮ヒーローと間違えていないだろうか?
まぁ、それは兎も角として、着地の衝撃を爆破に転用してくれるのは良い。狩猫の〈猫着地術〉に通じる物があるが、目立ち過ぎるので、方向性が180°は違う。現に、チェーンヒュドラの5つの首が、揃って振り向いていた。無機質な蛇顔なので表情は変わらないが、爆発に驚いたのかね?
「だけど、気が付くのが遅いな! ニンジャ、ザックス! 推して参る!
〈幻影乱れ斬り〉!」
つい、〈名乗りの流儀〉してまったが、ニンジャのせいと割り切ってスキルを発動する。すると、ウーツダガーを握っている右手が、勝手に動き出す。真ん中の首を斬り付け、間髪入れずに左手のウーツダガーが攻撃し、×の字を刻む。それに加え、首の反対側では光るダガーが舞い踊る。俺が攻撃した軌跡を真似たように、鏡写しになったダガーの幻影が、一泊遅れて攻撃を加えたのだ。
攻撃はまだ終わっていない。俺が横一文字斬り、斬り降ろしの連撃を加えて米印に切り刻むと、反対側のダガーの幻影も同じように動いて、鎖を断ち切った。
【スキル】【名称:幻影乱れ斬り】【アクティブ】
・二刀流を装備している場合のみ発動可能。左右の4連続斬りで攻撃し、同時に武器の幻影を召喚して攻撃させる。
この時、幻影は敵の注意が一番薄い方向から、攻撃を加える。
両側から斬られた鎖がバラバラと落ちていく。怒涛の8連斬りである。〈アシッドレイン〉による強度低下に加え、ウーツ鋼にバージョンアップしたダガーの切れ味、更にはスキル効果で上手い事削れたようだ。
ついでに、さんざん爆発させたり、名乗ったりして注目を集めたせいか、ステータス補正も上がって、スキル後の硬直も短い。恥ずかしい事を除けば良い事ずくめである。
最後に残った首の中心部分を、自力で攻撃して断ち切ることに成功した。首1本、討伐である。
ただし、残りの首4本からも、注目を浴びたまま。左右の2本ずつの首が、その身を曲げて俺に狙いを定めているのが見え……、順次、突撃して噛み付きに来た。
流石に足場が狭い。1本目の嚙み付きを〈フェザーステップ〉で横に避け、2本目の攻撃も避けたら逃げ場が無い。
……一旦退却だな。
ただし、置き土産はしておこう。両手のダガーを納刀し、胸の前で手を組んでニンニンポーズを作り、1本目の頭の上に乗ってスキルを発動させる。
「〈釜蛙の術〉!」
蛇頭の上に、大きな釜蛙を召喚した。そいつが、大口を開けて、今にも飛んで来ようとする3本目の首に〈アクアニードル〉を撃ち放つ。その隙に、俺はチェーンヒュドラの上から飛び降りた。
もちろん、飛び降りたその先は、牛頭鬼の目の前である。ついでに、高い所から飛び降り、着地したので、〈着地爆破演出〉の条件が成立。牛頭鬼の足元から爆破した。爆発音に紛れて、牛頭鬼の牛のような鳴き声が上がる。
「ハハハハハッ! あーばよ!」
大したダメージにはならないと分かっていたので、その場を〈ボンナバン〉で離れた。ニンジャは軽戦士スキルも内包しているから、便利だな。
距離を取ってから振り向くと、爆炎の中から怒りに満ちた表情の牛頭鬼が現れる。〈アシッドレイン〉の雨が降っているのにも関わらず、タワーシールドと金棒を構えて、俺を追ってきた。
……ちょっと、挑発し過ぎたようだ。
むろん、その分のステータス補正が上がっている気がするけど。さて、どうしようか?
蛇頭の上に設置した釜蛙は、健闘していたようだが、他の首と同士討ちするかのような噛み合いで倒されてしまったようだ。追加で召喚しても、そう長くは持たないだろう。
少しだけ逡巡したが、4本の首と牛頭鬼の10対の目で注目を感じて、派手にやる事にした。ぶっつけ本番だが、多分大丈夫だろう。一度は見ているし。
ドスドス、ジャラジャラと、怒りの足音を立てて、牛頭鬼とチェーンヒュドラが間合いを詰めてくる。
先に攻撃して来たのは、首の長いチェーンヒュドラの方だ。4本の首が高く伸び上がり、順に落下してくる。
1本目を先程の様に〈フェザーステップ〉で躱し、2本目も躱すが、3本目は逃げ場が無い。なので、前に出た。ただし、3本目の直撃は免れそうにないので、ちょいとズルをする。スキルを発動、手の中のダーツを投擲した。
「〈ダーツスロー〉!」
〈ワンスロー〉の効果で分裂したダーツを落ちてくる首に投げ、3本とも命中する。1本に付き2秒停止、なので6秒の間だけ、チェーンヒュドラを停止させる。
その間も前に走っていた。そして、残る牛頭鬼が立ちはだかる。チェーンヒュドラに比べれば小さく見えるが、ベルンヴァルトよりも巨漢なのは変わっていない。そして、怒りに満ちた牛顔が吠え、金棒を振り下ろした。
……下手に頭に喰らったら、即死しそうだ。
万一があるので、左手を掲げてガードする。無論、それでも大けが必至であるが……緊張で周囲の時間が遅く感じる。そして、金棒の振り下ろしを左腕で受ける瞬間に、視界が移り変わった。
チェーンヒュドラの背中や尻尾が見える。そのまま下を見ると、牛頭鬼の頭が見えた。どうやら、上手く発動してくれたようだ。そう、これは、ニンジャ餓鬼にもしてやられた〈空蝉の術〉である。
【スキル】【名称:空蝉の術】【パッシブ】
・ダメージが発生する直前に自動発動。残像を残して回避する。術者は攻撃してきた敵の真上か、後ろへ移動する事が出来る(場所は任意)。この時、残した残像は、攻撃を受けると派手に光ってから消える。
ただし、このスキルが発動するは1戦闘に一回のみ。
ついでに、一緒に着けていた〈リアクション芸人〉との優先順位も分かった。どちらも『HPが減る攻撃を受ける直前に、自動発動』であるが、〈空蝉の術〉が優先されるようだ。
そして、下に残した残像が閃光を放った。牛頭鬼が光に目をやられたようで、手を翳して怯む。
チャンスである。再度、2本のウーツダガーを抜刀し、落下しながらスキルを発動させた。
「〈一刀唐竹割り〉!」
右手を大上段に構えて、下に加速する。折角の二刀流であるが、〈一刀唐竹割り〉なので、片手になるのはしょうがない。スキルの効果を受けた、高威力の斬り降ろしは、牛頭鬼の片角を斬り飛ばした。
牛頭鬼の目の前に着地……牛頭鬼の腹に巻き付いているチェーンヒュドラの首の上であるが……ただし、スキル後の硬直で数秒は動くことが出来ない……のだが、無理やりにスキルを追加発動させた。
「〈二段斬り〉!……もう一つオマケの〈幻影乱れ斬り〉!……最後に止めだ〈ブラックダイス・ブラスト〉!」
硬直を無視してスキルの連打を叩き込んだ。〈二段斬り〉で牛頭鬼の角を切り落とし、次いで〈幻影乱れ斬り〉で上半身を切り刻んだ。縮んでいく牛頭鬼の鎧の隙間や関節などを狙い、自動で攻撃していく。最後に指を鳴らして〈ブラックダイス・ブラスト〉の爆発で格好良く締めた。うん、3つのダイスの合計が『4』だったので、しょぼい爆発だったが、これにはダメージは期待していないので、問題ない。
そう、スキルの硬直を無視するとか反則も良い所であるが、ニンジャが覚えた新スキルである。
【スキル】【名称:波状の攻め立て】【パッシブ】
・スキル使用後の硬直を後回しにして、スキルを連続使用できるようになる。基礎レベル依存で連続使用回数は増える。
ただし、連続使用が終わった後、トータルの秒数×2倍硬直する。
アクティブスキル後の硬直が無くなるなんて、剣客の抜刀術系スキルでしか出来なかった(ニンジャジョブは目立つと短くなるのみ)。それが、デメリット付きとはいえ、連打出来るのは強い。特に二刀流……ダガーだと、刃渡りが短いから、手数が欲しくなるので丁度良いのだ。
そして、デメリットも、なんとかする方法も見つけた。それは、賭博師レベル40で覚えた新スキルである。
【スキル】【名称:勝ち逃げからの踏み倒し】【パッシブ】
・ギャンブルスキルが良い結果で終わった時、自身に掛かるデメリット(デバフ、状態異常、スキル後の硬直)を帳消しにする。ただし、ギャンブルスキルのクールタイムは踏み倒せない。
ギャンブルで負け越しても、最後の大勝負に勝てば帳消し! みたいなスキルだ。
まぁ、実際は大勝でなくとも、良い結果で終われば良いので、勝てる確率の高い〈ブラックダイス・ブラスト〉や〈ダイスマジック〉を使えば安パイで、デメリットをリセット出来る。今回は硬直×2倍を踏み倒した訳だな。
崩れ落ちる牛頭鬼を横に蹴り倒す頃には、〈ダーツスロー〉の効果が切れたのかチェーンヒュドラが動き出し始める。後は、コアを潰すだけなので、大人しくしてもらおうか。
「〈影縫い〉!」
左手のダガーを地面の影に投げて、再度拘束した。その隙に、牛頭鬼に巻き付いていた首の後ろに入り込み、弱点であるコアと対面した。
チェーンヒュドラの身体……手の平に例えると、真ん中の目……菱形の赤いコアが有る。チェーンスネークと形は同じだが、50㎝程もあり結構大きい。ダガー1本で壊すのは大変そうであるが……
ポーチに入れておいた、ウーツ鋼製の釘を4本取り出す。その1本をコアに当てて、スキルを発動させた。
「〈ネイルガン〉!」
手元に持っていた釘が、ガツンッと音を立てて、コアに根元まで突き刺さる。次いで2本目を違う場所に釘を当てると、それも撃ち込まれた。連続で4本の釘が撃ち込まれたコアは、大きな亀裂が走る。最後は、ダガーの柄で、ガツンと叩けばバラバラと崩れ落ちた。
本当は戦闘用のスキルじゃないけど、固そうな敵には使えると思って試してみたのだ。熟練職人レベル40の新スキルである。
【スキル】【名称:ネイルガン】【アクティブ】
・スキル使用後、一定時間だけ効果の持続する釘打ちスキル。
釘の先端を対象に当て釘頭を指で押すと、勢いよく根本まで打ち込む。この時、釘のレア度が高い程、先端に貫通効果を付与し、固い物にも釘打ちが出来るようになる。万が一、自身に釘を当てても、効果は発動しない安全設計。
また逆に、打ち込まれた釘の頭を触ると、抜くことが出来る。
本当は職人さんが、家具とか家を作る時のスキルなんだろうな。ただし、今の様に攻撃に使う事も出来る。安全設計と言いながらも、自分以外には打ち込めるからな。ある意味、〈指弾術〉で甲殻弾を撃つ、簡易銃撃にも似ている。名前もガンだからね。
攻撃力を求めるなら、もうちょい太めの釘を作っても良いかも? あんまり太くすると、杭打機になってしまうが……鑑定文には『釘』としか書いていないので、どこまでが釘判定されるのか試すのも面白いかもしれない。流石に、丸太サイズの杭を持って、パイルバンカーは出来ないと思うけど。
そんな訳で、ニンジャを始めとした新スキルを使って、チェーンヒュドラを単独討伐する事が出来た。大分、無駄な手数が多かったけれど、色々試して戦術に組み込んで行けば、洗練されて行くだろう。
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