第476話 三天・虎牙の顎と巨大なもふもふ虎

 チェーンヒュドラが倒れた事を確認し、集合してから健闘をたたえ合う。特に、ボス相手に善戦したフィオーレは褒めておいた。アレくらい戦えるなら、普通の雑魚戦での前衛戦力になる。


「ふっふっふ~、でしょでしょ! 結構、厳しいレッスンを受けているんだから、これくらいとーぜんよね!」

「そこで、調子に乗らなければ、もっと褒めるんだけどな。

 レスミアとヴァルトの新スキルも強いことが分かったし、戦術に組み込んでいこう」

「私としては、正面戦闘より背後から奇襲する方が好みですけどね~」

「おう、正面は俺の居場所だから、取らんでくれよ」

「「「ハハハハ!」」」


 ベルンヴァルトが少し不安そうに言うので、笑ってしまった。確かに、4人全員が前線で戦えるので渋滞を起こしそうだ。

 ただ、ベルンヴァルトの新スキルには、まだ試していない能力があるので、次の周回では試すようにお願いをする。すると、「任せとけ!」と、ガッツポーズで返してくれた。

 先程も首を沢山潰したのは良いけど、止めはレスミアに持っていかれていた。少し不完全燃焼だったのかもな。




 チェーンヒュドラが登場すると同時に〈アシッドレイン〉で弱体化を図る。お供の方はレスミアに任せるとして、ベルンヴァルトが戦いやすい状況を作っておくことにした。


「〈遠隔設置〉〈トラバサミの罠〉!

 ……〈遠隔設置〉〈トリモチの罠〉!」


 罠術師の新スキル〈遠隔設置〉を使うと、範囲魔法を使った時の様に、点滅する指示カーソルが出てくる。これを、魔物の足元に移動させてから罠術を使う事で、離れた場所にも罠が設置できるのだ。



 罠術師レベル40では、新スキルを2つ覚えた。


・習得スキル

 Lv 40:遠隔設置【NEW】、魔物鑑定中級【NEW】


【スキル】【名称:遠隔設置】【アクティブ】

・手元でしか発動出来ないアクティブスキルを、遠隔で発動できるようになる。

 使用する際は〈遠隔設置〉に続いて、使用したいアクティブスキルを連続使用すること。


【スキル】【名称:魔物鑑定中級】【アクティブ】

・5回以上倒した事のある、自身の基礎レベル以下の魔物の情報と、ドロップ品が分かる。



 〈遠隔設置〉は鑑定文を見ると分かるが、罠術以外にも使える。手元で使うアクティブスキルなら、制限はないようで、乾燥させる〈フォースドライング〉とか、〈メタモトーン〉などにも効果があった。まぁ、指でなぞる必要のある〈メタモトーン〉は地面が柔らかくなっただけなので、微妙だけどな。何か組み合わせを考えるのも面白いかも知れない。


 そして、もう一つの新スキル〈魔物鑑定中級〉は、〈詳細鑑定〉があるので出番はないだろう。一応、初級と比べると、戦闘回数が10回から5回に減り、基礎レベル未満が以下に変わっている。まぁ、〈詳細鑑定〉を持っていない一般の探索者なら、条件緩和は助かるところだろう。既存のダンジョンなら、図書室とかで調べた方が早いけど。



 そんなわけで、〈トラバサミの罠〉で牛頭鬼の足を拘束、〈トリモチの罠〉でチェーンヒュドラの尻尾を拘束する事に成功した。これで、変な行動は出来まい。後は、思う存分暴れてもらおう。


「これで良し! ヴァルト、新スキルの本当の力を見せてくれ!」

「……なんか、いつもとノリが違くねーか? まぁ、良いか。

 行くぜ! 〈一天・金剛突撃〉!」


 ベルンヴァルトを指差して合図をしたのだが、怪訝な目を返されてしまった……いや、ニンジャを着けているせいなのだよ。ついつい、ポーズを決めてしまう呪いなのじゃ……

 そんな弁明をする前に、ベルンヴァルトはチェーンヒュドラの元へと走って行ってしまった。レスミアはお供を倒しに行ったし、フィオーレは近くで防御力低下の呪いの踊りを踊っている。弁明する必要も無いのだけど、何も注目を集めないのも少し寂しいものだ……いや、こんな気持ちになるのもニンジャのせいか?


 大盾を構えて走るベルンヴァルトが、集魂玉スキルを使い加速した。


【スキル】【名称:一天・金剛突撃】【アクティブ】

・集魂玉を1個消費して発動する。金剛の如き耐久力を一時的に得て、体当たりを行う。ノックバック有。


 そこに、チェーンヒュドラの真ん中の3本首が、連続で落ちてくる。その全てを体当たりで受け止め、ノックバック効果で弾き返したところで、効果が切れたようだ。2つ目の集魂玉スキルが発動し、右手が光を放つ。

 次の瞬間、垂直に飛び上がった。あの巨体でよく飛べるなと、感心する程の高さだ。チェーンヒュドラの真ん中の首は全てノックバック効果で地面に転がっている。その為、チェーンヒュドラを見下ろすほどの高さまで飛んだベルンヴァルトは、斜め下に飢餓の重根を投擲した。


【スキル】【名称:二天・流星落とし】【アクティブ】

・集魂玉を1個消費して発動する。高く飛び上がり、武器を流星の如く投げる。対象に命中後、武器は自動的に戻ってくる。

 その際、〈一天・金剛突撃〉の直後に使用する場合、スキル使用後の硬直を失くし、即座に〈二天・流星落とし〉を使用可能となる。


 光を纏った重根が、流星の如く墜落する。しかし、狙われていた牛頭鬼もまた、タワーシールドを掲げて攻撃を受け止める。派手な金属音が響いたが、質量の差か、地面に固定されていたせいか、牛頭鬼が防ぎ切ったようだ。


 二天は通用しなかったが、次が本番である。空中から落下するベルンヴァルトは、三度目の集魂玉スキルを発動させた。


「〈三天・虎牙の顎〉!」


 集魂玉が光を放つと同時に、弾かれて地面に落ちた飢餓の重根が光を放った。その光は徐々に大きくなり、ベルンヴァルトが着地する頃には、1.5m越えになっている。

 ベルンヴァルトが立ち上がると共に、光も消えて正体を現した。


【スキル】【名称:三天・虎牙のアギト】【アクティブ】

・集魂玉を1個消費して発動する。一定時間、敵に攻撃すると集魂玉で生み出した虎の顎が追撃する。

 また、一天、二天、三天を順に連続発動した場合にのみ、効果が変わる。二天で投擲した武器を、熊虎ゆうこな虎へと変化させ、一定時間戦闘に参加させる。この時、虎の強さは武器のレア度に依存する。


 全高1.5m、頭から尻尾まで全長3mはある巨大な虎が出現した。きつね色の体毛に黒いメッシュが入った、虎と聞いてイメージする姿である。

 そんな威圧感のある召喚獣な虎であるが、ベルンヴァルトの腕に、もふもふな頭を擦り付け唸り声を漏らす。どうやら、誰が主人なのか分かっているようだ。

 おっと、観察するのは後にして、ストレージから取り出した武器、シュネル・ツヴァイハンダーをベルンヴァルトに向かって放り投げておく。飢餓の重根が虎に変化してしまった為である。


「ヴァルト! 予備の武器だ!」

「……おっと、助かるぜ!

 おい、虎さんよ。言葉が分かるなら、アイツの側面から攻撃してこい。良いな?」

「グルルルゥ!」


 軽く一鳴きした虎は、巨体に似合わぬ俊敏さで、チェーンヒュドラの側面へと走って行った。訓練もせずに意思疎通が出来るとは羨ましい。ヴォラートさんのワンコもそうだったが、召喚獣なので術者と無意識化で繋がっているとかか?


 ベルンヴァルトも大剣を抜き、正面戦闘を始めた。こっちは何度も戦っているので大丈夫、虎さんの方を見よう。

 側面に走って行った虎は、一番端の首へと飛び掛かっていた。大口を開けて威嚇する蛇頭の下に潜り込み猫パンチ……いや、虎スラッシュ?

 五つの爪が振るわれると、金属音の悲鳴を上げて、盛大に鎖の破片を巻き散らした。一撃、二撃と左右の虎スラッシュで攻撃し、首が細くなったところで噛み付く。爪の強度もだが、牙による噛み付きも黒魔鉄製の鎖を易々と噛み砕く。そんな、流れるような3連撃で、早々に首を1つ落とした。


 流石は集魂玉3つ分のスキルである。見た目が格好良いだけでなく、強い。


 それからも、虎さんは大活躍した。チェーンヒュドラの背中を爪で切りつけながら縦断し、反対側の首を落とす。そして、尻尾の鎖も切り落としてしまったのだ。

 その頃にはベルンヴァルトが、真ん中3本の首を落としている。そうなれば、チェーンヒュドラはコアが有る胴体のみで、牛頭鬼が甲羅を背負ったような状態になっていた。

 虎とベルンヴァルトは、二人掛りで左右から襲い掛かり、牛頭鬼が可哀想なくらいに、ボコボコにするのだった。




「わあ~、でっかいもふもふ~、めっちゃ気持ち良い~」

「もっとゴワゴワしているかと思いましたけど、結構柔らかいんですね。う~ん、スティラの方が上かな?」

「まぁ、同じ猫科だからね。……確かに撫で心地は良い」


 戦闘が終了するや否や、呪いの踊りを中断したフィオーレが、虎さんに飛び掛かった。物怖じしない奴である。四つ足で立っている状態でもフィオーレよりも大きい。お座り状態になれば、フィオーレは前脚の間にすっぽりと入ってしまうくらいだ。ついでに、そのまま白い胸毛に抱き着いている。

 鳴き声は猫と比べると重低音なので少し怖いが、レスミアが喉を撫でると、ゴロゴロと喉を鳴らした。ギャップが可愛いかも?

 俺も一緒になって撫でさせてもらったが、大きい分だけ撫で甲斐がある。フィオーレの様に、抱き着ける巨大もふもふとか、子供や女性に人気が出そうだな。ただし、惜しむらくは、召喚コストと効果時間である。


 撫でていられたのは、ほんの1分程。チェーンヒュドラの死骸が霧散して行き、ドロップ品が出現すると、虎さんは一鳴きしてから消えて行ってしまった。

 すると、全身で寄りかかって頬擦りしていたフィオーレは、突然現れた飢餓の重根と共に、地面に転びそうになる。


「あっぶな! ……アタシのもふもふが、トゲトゲ棍棒になっちゃったよ! ヴァルト! 戻して!」

「そっちが元々の姿だっての。どの道、集魂玉は今手に入れた2つしかねーからな。無理だ」


 ぎゃいぎゃいと騒ぐフィオーレを尻目に、レスミアと笑いあってから、ドロップ品のブラックスネークウィップと、宝箱に入っていたウーツ鉱石を回収した。

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