第475話 受付嬢達からの支持と種族専用ジョブのレベル40スキル
テオ達と飲み会をした翌日、朝からダンジョンギルドの受付を訪れていた。先日、テオに頼んだ指名依頼を頼む為である。フォルコ君に、依頼書を書いてもらったし、(酔い潰れて泊まった)テオも同行しているので、手続きは早いだろう。勲章持ち用のカウンターから呼び鈴で、メリッサさんを呼び出して手続きをお願いした。
「……はい、確かに受領致します。では、報酬と仲介料を合わせて、これだけお支払い下さい。
請負人のテオ様は、こちらの書類に署名をお願いします」
本当にパパっと終わった。テオが同行していたのが良かったのか、ものの5分も掛からずに処理が終わった。
「それと、依頼品に生ものの『コカ胸肉』『ジューシーコカもも肉』があります。依頼が達成された場合には連絡を入れますので、早めに引き取りに来て下さいね。ギルドの冷蔵の魔道具で保管しておきますが、1週間を超過すると破棄されます。ご注意下さいませ」
「分かりました。隔日でダンジョンギルドには顔を出していますから、その時に引き取りますね」
「宜しくお願い致します。
では、手続きは以上で終了出ございますが……ザックス様、他の依頼について、ご相談がありますので、少しお時間を頂けますでしょうか?」
メリッサさんは、俺に笑顔を向けた後、ちらりとテオの顔を見る。どうやら、テオが居ると不味い話の用だ。機転を利かせて、テオをカウンターから離すことにした。
「少しで良いなら話を聞きましょう。
テオ、依頼の件と祭りの件、手伝ってくれてありがとうな。買い取りに上限はないから、沢山頼むぜ」
「ははっ! コカトリス程度なら楽勝だからな。使えきれないくらい集めて来てやるよ」
早速、メンバーを招集すると息巻いたテオは、ギルドの外に向かっていった。
さて、ギルドからの依頼と聞くと、あまり良い印象はないけど……テオを見送ってから、カウンターへ向き直ると、メリッサさんが、周囲の女性職員に召集を掛けていた。すると、手の空いている人達がわらわらと集まってくる。なんか、デジャヴ。
15人ほどか……集まった女性職員達は、一斉に頭を下げるのだった。
「「「「この度は、ありがとうございました!」」」」
「(例の件、トルートライザ様から、皆に1枚ずつ支給されたのです。
次回以降は有料との事ですが、次の入荷を心待ちにしております)」
一番前に居たメリッサさんが、小声で事情を教えてくれた。例の件と、ボカしているのも周囲に聞かれないためだろう。すると、他の女性職員さんも、小声で口々にお礼を言ってくる。
「(ザックス様が、領主夫人に陳情して下さったと聞きました。ありがとう存じます)」
「(早速使ってみましたの! どう?頬がほっそりしたでしょう!)」
「(私は年末年始にゴロゴロするから、年始に使うわ! 次の連休までに、入荷よろしく!)」
交代でカウンターに乗り出して来ては、小声で囁いてくる。あまり、広めたくない内容なので、声を潜めているのだろうけど、少し近い。中には、俺の手を握って、催促してくる人までいる。
すると、途中で左腕が引かれて、カウンターから一歩下がった。どうやら、レスミアが腕を絡ませて、助けてくれたようだ。
レスミアは笑顔を深めて、牽制するように言う。
「皆さんに喜んで頂けて良かったですね、ザックス様。でも、そろそろダンジョンに向かわないと、時間がありませんよ」
「……ああ、そうだな。
例の件は運が絡むので、次にいつ納品出来るかは分かりません。気長に待っていて下さいね。では、ダンジョンに行ってきます」
取り敢えず、言質を取られないように納期をボカして、踵を返す。
すると、何人かが落胆したような表情を見せたが、残りの女性職員の皆さんは笑顔で手を振って見送ってくれた。
「「「「行ってらっしゃいませ!」」」」
それに手を振り返し、ダンジョンへのゲートへ向かう。いや、予想以上に喜んでくれたのは良いけど、ギルドに来ていた他の探索者達からも注目を浴びてしまった。近くにいた人がこちらを見てくるが、恥ずかしがってばかりは居られないので、堂々としておく。ニンジャジョブは手に入れているので、別に注目を集める必要も無いんだけどな。
まぁ、貴族を目指すなら、こういうのも慣れておかないといけないだろう。
40層のボス階層を周回する。3週ほどしたところで、俺以外のメンバーの主要ジョブがレベル40を超えた。その為、戦術を変更して、新しいスキルを組み込んでみる。ああ、もちろん、小部屋の雑魚敵で試し打ちをしてからだけど。
4戦目は配置換えをして、俺がお供の馬頭鬼担当となった。
開幕と同時に〈アシッドレイン〉で、強酸の雨を降らせる。馬頭鬼が雨の影響を最小限にする為か、蹲った所に駆け寄った。魔法の充填もしていないので、警戒の必要も無い。さっさと倒してしまおう。
蹲る馬頭鬼の狙い所を探す。馬面な為か、頭の下に隙間が空いている。そこを狙い、救い上げるようにして蹴り上げた。
所詮は魔道士タイプ、筋力値の高い武僧の蹴りには耐えきれず、馬頭鬼の身体が起き上がる。すると、狼狽えたような眼をした馬頭鬼が、慌てて両手の杖を防御に構える……が、正直遅い。蹴り上げた足で、そのまま大きく一歩踏み込んだ俺は、既に肉薄している。腰だめに引き絞っていた右の手刀を突き出した。
狙いは首元。固そうな頭を避け、急所でもある長い馬首を狙った一撃は、自分でも驚くほどに突き刺さった。グローブ越しに肉を貫く嫌な感触が伝わる。チラリと目を向けると、手刀の内、指の第2関節までが突き刺さっていた。
【スキル】【名称:地獄貫手】【パッシブ】
・手刀をもって敵を突き刺す際、〈防御貫通 小〉の効果を付与する。この時、掌を伸ばし、指先で突くので、指を痛めやすい。部位鍛錬をするか、耐久値補正を上げよう。
はい、パッシブスキルの効果で、素手が凶器に早変わりしました。いや、そうでもないと、手で肉を貫くのは難しいって。
黒豚槍ことフェケテシュペーアの効果が〈防御貫通 中〉なので、それより効果は低い。まぁ、素手で貫くのは、あまり気分が良い物ではないから、普段使いはしないかな?
いや、刃物持った方が早いし……
刺さったままの手で首を握り締め、無理やり引き寄せる。首の肉を引き千切りながら、再び馬頭鬼を跪かせた。そして、その横顔に〈三日月蹴り〉叩き込む……骨を圧し折った感触が足を伝う。首を抉られた馬頭鬼は、横からの痛撃な蹴りを喰らい、倒れ伏したのだった。
ついでに、その腕に巻き付いていたチェーンスネークが、地面に落ちてくる。今回はフィオーレの〈コンセントレーション〉が無いので、魔法一発では倒せていないようだ。
コアが丸見えなので、そこを踏み抜くように足を落とした。見様見真似な震脚であるが、強度が落ちた鎖なら十分である。コアごと踏み潰して討伐した。
よし、俺の担当分は終了。経験値がもったいないので、既にレベル40になっている武僧を別のジョブに切り替えた。
武僧レベル40で覚えたのは、先程の〈地獄貫手〉と、ステータス補正のHP大である。
・ステータスアップ:HP大↑【NEW】、MP中↑、筋力値大↑、耐久値中↑、知力値小↑、精神力中↑、敏捷値中↑、器用値中↑
・習得スキル
Lv 40:HP大↑【NEW】、地獄貫手【NEW】
ボスのチェーンヒュドラの方へ目を向ける。丁度、雨が上がり、戦闘の様子が良く見えるようになった。チェーンヒュドラと相対しているのは、フィオーレとベルンヴァルトの二人である。既に首の数は4本に減っている。どうやら、ベルンヴァルトが1本減らしたようで、バラバラにされた鎖が彼の足元に散乱していた。
残る首を2本ずつ受け持っているようだ。フィオーレが舞い踊りながら、首の叩きつけを避け、カウンターで一撃返している。チタン製のテンツァーバゼラードで、黒魔鉄製の鎖をよく切れるなと、感心するが、2重のデバフのお陰だな。一つは、俺が掛けた〈アシッドレイン〉で防御力ダウン。そしてもう一つは、フィオーレ自身が踊っている呪いの踊り〈空虚のドルシネア〉の効果、耐久値を更に下げているのだ。
そして、呪いの踊りを踊っているので、〈幻影舞踏-アン〉の効果により、幻影が囮としてもう1本の首を引き付けている。
最近のレッスンのお陰か、フィオーレは堂々たる踊りを披露しながら、ボス(の半分)と渡り合っていた。
後ろの方ではレスミアが、ハラハラと心配した表情で、槍を握りしめている。万が一の時は介入してもらう予定だったが、これなら止め以外には手出しせずに終わりそうだ。
フィオーレの足元には、戦闘を優位に進めている証である、鎖が散乱している。よく、そんな中で踊れるなと思うところであるが、そのからくりには新スキルがあった。
ソードダンサーレベル40では、ステータス補正の器用値が大に上がり、新スキルを覚えた。
・ステータスアップ:HP小↑、MP中↑、筋力値中↑、知力値小↑、敏捷値中↑、器用値大↑【NEW】
・習得スキル
Lv 40:器用値大↑【NEW】、流水の舞【NEW】
【スキル】【名称:流水の舞】【パッシブ】
・どのような荒地、斜面であっても、足を引っかけることなく、流れる水の如き踊りが出来るようになる。
また、踊り系スキルを使っている間、敵の攻撃を回避し易くなる。
鎖の破片が散乱した中で踊れる秘密がこれである。注意してフィオーレの足元を見ているのだが、ステップを踏んでも、着地地点では鎖を踏むことが無い。絶対に踏むだろうと思うような、足の踏み場の無い所に着地しても、何故か床を踏んでいる不思議なスキルである。試し打ちの時にもフィオーレに聞いてみたのだが、別段、足元なんて意識しないでも避けているらしい。心得系のスキルの様に、身体が勝手に補正してくれているのかも?
因みに斜面……九十九折の小部屋の坂で試した……では、斜面の上を平面の如く踊れるようになる。つまり、斜めになった状態が正常に感じるらしい。つくづく、変なジョブである。
おっと、ついでに 楽師レベル40も記しておこう。ただ、ステータス補正の精神力と器用値が上がり、緘黙耐性が中に上がっただけで新スキルは無い。
・ステータスアップ:MP中↑、知力値小↑、精神力中↑【NEW】、敏捷値中↑、器用値大↑【NEW】
・習得スキル
Lv 40:精神力中↑【NEW】、器用値大↑【NEW】、緘黙耐性中【NEW】
そんなフィオーレが善戦している横では、ベルンヴァルトが無双していた。フィオーレが回避と受け流しで戦うのならば、ベルンヴァルトはその逆、盾で受け止めて反撃、時には首の攻撃自体を飢餓の重根で、叩き落している。
そして、飢餓の重根が首に叩きつけられた次の瞬間には、半透明な虎の顔が出現し、打点に噛み付いた。スキルで召喚されている虎の頭は、鎖で出来た蛇の首を噛み千切り、破片を巻き散らしては、首をどんどんと細くしている。
鬼徒士レベル40では、ステータス補正の精神力小を新たに覚え、新スキルを覚えた。
・ステータスアップ:HP中↑、筋力値大↑、精神力小↑【NEW】、敏捷値中↑、器用値中↑
・習得スキル
Lv 40:精神力小↑【NEW】、三天・虎牙の顎【NEW】
【スキル】【名称:三天・虎牙の
・集魂玉を1個消費して発動する。一定時間、敵に攻撃すると集魂玉で生み出した虎の顎が追撃する。
また、一天、二天、三天を順に連続発動した場合にのみ、効果が変わる。二天で投擲した武器を、
耐久値補正より、先に精神力が上がるとか、良く分からん構成である。まぁ、鬼人族自体が元々、耐久値が高い種族なので、魔法に対する抵抗力を得るのは間違いではないけどな。
そして、ベルンヴァルトが殴る度に、出てくる虎の頭が〈三天・虎牙の顎〉である。黒魔鉄の鎖を易々と嚙み千切っている辺り、攻撃力は十分に高い。飢餓の重根で殴る打撃力に加え、虎の頭が噛み付いたところで蛇の首が吹き飛ぶからである。途中からは盾で受ける事も無く、飢餓の重根で殴り返し、細くなった蛇の首は数撃で地面に落下した。
首の数が減るに連れ、ベルンヴァルトが攻勢に出る。自分が受け持っていた3本を落とし、ついでにフィオーレ担当分も1本落とす。「あっ! 良い感じで削ってたのに、取られた!」とフィオーレは不服そうに漏らしていたけどな。
そして、首が1本しかなくなったチェーンヒュドラであるが、根元に居る牛頭鬼の方は健在である。ただそれも、ベルンヴァルトと戦い始めると、戦局は直ぐに傾いた。元々、魔法での属性ダメージが残っているのもあるだろうが、金棒と飢餓の重根で打ち合うと、虎の頭が金棒にも噛み付き、行動を阻害するのだ。タワーシールドを殴っても同じ、虎の頭がタワーシールドの縁に噛み付き、動きを阻害する。その隙に、別の部分を殴れば、そこにも虎の頭噛み付く。フルプレートメイルを着ている牛頭鬼であるが、飢餓の重根で殴られ、齧られて大分弱っているように見えた。
そんな時、急に牛頭鬼が横に飛んだ……否、チェーンヒュドラ自体が牛頭鬼を抱えたまま回転したのである。この行動はチェーンスネークでも見た覚えがある。その場で回転したチェーンヒュドラは、その太い鎖尻尾で、戦場全体を薙ぎ払う行動に出たのだった。
至近距離に居たベルンヴァルトは、大盾を構えて尻尾の薙ぎ払いを受け止めるが、耐えきれずに横に流されていく。防御スキルの無い鬼徒士では、しょうがないか。フィオーレは少し離れていたお陰か、後方に逃げた上で、尻尾の細い部分が通り過ぎるタイミングを見計って宙返りで躱していた。流石はダンサーである。
二人とも無事ではあるが、戦闘は仕切り直しとなってしまった。ベルンヴァルトは外側に流され、フィオーレも後方に少し下がった。その間に、牛頭鬼の体勢を立て直そうというのだろう。
しかし、そんなチェーンヒュドラへ向かって走る影があった。〈宵闇の帳〉で全身を暗幕で隠したレスミアだ。
そんな、怪しい影に対して、魔物側も迎撃態勢を取る。牛頭鬼が武器と盾を構え直し、最後に残った蛇の首が破城槌の如く、暗幕を狙って振り下ろされた。
「〈
蛇の首が暗幕に当たる直前、レスミアの声が響いた。すると、暗幕が残像を引くような速度で、急加速した。それも、チェーンヒュドラを中心として半円を描くように背後へと、高速移動したのである。
〈ボンナバン〉ほどではなく、目で追えるので〈稲妻突き〉に近い速度だが、近距離で使われたら見失うな。
そして、背後に到着すると、その速度を乗せたまま、槍の一撃を喰らわせた。もちろん〈不意打ち〉や〈宵闇の狩〉の効果も乗っている。突き出された槍は、チェーンヒュドラの背中を貫き、中に隠れたコアと、牛頭鬼諸共に串刺しにするのだった。
うん、闇猫で覚えた新スキルだな。狩猫系にしては、珍しいアクティブスキルでもある。
闇猫レベル40では、ステータス補正の器用値が大に上がり、新スキルを覚えた。
・ステータスアップ:HP小↑、筋力値中↑、耐久値小↑、敏捷値大↑、器用値大↑【NEW】
・習得スキル
Lv 40:器用値大↑【NEW】、背面狩り【NEW】
【スキル】【名称:
・対峙している敵の背後へ高速移動し、その背中を攻撃する。〈宵闇の帳〉を纏っている場合、敵は術者を見失いやすくなる。
〈不意打ち〉を発動させるのには、敵に察知されないよう行動しなければならないのだが、このスキルの登場によって目の前に居ても〈不意打ち〉可能になる。えげつない。多分〈心眼入門〉とか、〈格闘家の勘所〉のように、視覚外の攻撃を察知出来る手段を持っていないと防げないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます