第469話 蛇使いとスキル鑑定

「ちょっと重い槍ですけど、貫通力は凄いですね~。〈不意打ち〉との相性が良いかも?」

「ああ、突き刺すならサーベルより、こっちの方が良いだろうね。俺が使わない時なら、いつでも貸すよ」

「俺のハルバードでも良いぜ!」

「あんな重そうなの持てませんって」


 アドラシャフト家の離れに滞在期間中、ウベルト教官の戦闘訓練を受けていたが、その時にレスミアも簡単に武器の扱い方も教えてもらっていたのである。当時のレスミアの筋力では、槍を振り回すのは重過ぎたのだが、レベルが上がって闇猫の筋力値補正も中アップに上がっている。その為、なんとか扱うことが出来たのだ。まぁ、自在に振り回すのは無理でも〈不意打ち〉で突く程度なら、十分である。

 現に、お供に居た馬頭鬼の止めを刺し、強酸の雨が止んでからチェーンヒュドラの背中を攻撃して、牛頭鬼諸共に串刺しにした。敵のパーティー4匹中、3匹の止めを刺すとか、頼もしい。


 そんな反省会をしていると、チェーンヒュドラ達が霧散していき、ドロップ品と宝箱が出現した。ドロップ品は、黒い鎖……いや、柄のような持ち手があり、反対側の先端には鏃のような菱形の刃が付いている。鎖の長さは1m程度と少し短いが、鞭の類かな? 〈詳細鑑定〉を掛けてみた。



【武具】【名称:ブラックスネークウィップ】【レア度:C】

・チェーンスネークを模した黒魔鉄製の鞭。大きく振り回し、先端を加速させてから敵にぶつけることで強い威力を発揮する。ただし、金属製な為、扱いは難しい。巻き込み注意。

 重量の問題もあるので、重ければ鎖を短くし、威力が足りないならば同種の武器から継ぎ足して使おう。

・付与スキル〈念意操鎖ねんいそうさ


「フィオーレ、鞭が手に入ったけど、使ってみるか?

 確か、レッスンで習うような事を言っていただろ?」

「え~、まだ習ってないよ。でも、ちょっと貸して……重!」


 クヴァンツコーチがデモンストレーションを見せてくれたらしく、それ真似してみるそうだ。ただし、金属製の鎖鞭なので、重そうに両手で柄を持ち、振り上げた。

 『ジャラララ』と鎖が音を奏でながら宙を舞う。そして、フィオーレが柄を振り下ろすと、しなりを加えた鎖鞭が、地面を叩いて大きな音を立てた。ついでに、変な方へと跳ね返り、ベルンヴァルトの大盾に当たって引き裂くような金属音を奏でる。


「おい! あっぶねぇな!」

「あはは~、ごめん、ごめん。やっぱり無理だった~」


 ベルンヴァルトに怒られたフィオーレは、鞭の柄を俺の方に放り投げると、「宝箱を開けに行くね」と逃げて行った。まぁ、訓練もしていないのなら、扱うのは難しいだろう。俺はベルンヴァルトを宥めつつ、面白い物を見せてあげることにした。フィオーレと同じく、ぶっつけ本番だけど、多分大丈夫だろう。鎖鞭の柄を握り、魔力を流す。そして……こう言う時は、何というのだったか? 懐かしネタでしか知らないけど……


「ブラックスネーク、カモンッ!」


 鎖の先端の菱形の刃が、ぴょこんっと立った。そのまま、蛇をイメージして、にょろにょろと動かしてみる。なかなか、イメージが難しいな。魔力にイメージを乗せる感じは、錬金調合のようだ。


「おいおい、チェーンスネークみたいに動き出したぞ……敵じゃないんだよな?」

「ハハハッ! 俺が魔力を流して動かしているだけだって。蛇っぽく、動かしてみせるぞ」


 その場でぐるぐると回転させて、とぐろを巻かせる。最後に菱形の刃を蛇頭に見立てて、鎌首を擡げさせれば完成だ。

 そう、これは付与スキル〈念意操鎖〉の効果を使ったのである。更に、簡単に使い方を把握しているのかと言えば、ポップアップに掛かれていたからだ。


・〈念意操鎖〉:このスキルが付与された鎖に魔力を流すことで、意のままに動かすことが出来る。ただし、金属の種類によって動かし難さは変わり、術者の慣れも必要。


 〈詳細鑑定〉の鑑定分とは別にポップアップが追加表示され、付与スキルの効果を知ることが出来たのである。これは、つい先ほど付与術師のレベルが40に達し、新たに覚えたスキルだ。



【スキル】【名称:スキル鑑定】【アクティブ】

・付与スキルが施された物を鑑定系スキルで調べた場合、効果内容が分かるポップアップを表示する。

 ただし、術者が鑑定できるレア度に限る。



 以前から欲しかった、念願のスキルである。決め手は『術者が鑑定できるレア度に限る』って部分だな。俺には〈詳細鑑定〉があるので、レア度EXでも問題ない筈。これで、謎だった特殊武具達の付与スキルの効果が分かるのだ。


 ただ、お楽しみはもうちょっと後にする。婚約用のダイヤモンドも2つ作らないといけないので、今日のところは、少し早めに探索修了とし、41層を軽く覗いてから帰ることにした。

 宝箱に入っていたシードル筒竹20本を回収して、休憩所へと転移した。




 41層の休憩所から、外へ通じる扉を開く。すると、そこには白い雪化粧が広がっていた。晴天の青空なのに、しんしんと雪が舞い降り、見渡す限りを白に染めている。扉の周辺は雪原の様に何もないが、奥に行くにつれ木が増え、林になっていた。指で輪っかを作って覗き込むと、遠くに大きな木が見える。


「目標は奥に見える林の中にある、一際大きく生えている木だ。根元に下へ続く階段があるらしい。42層も雪山フィールドらしいけど」

「こりゃまた、遠いな。俺は雪道を歩くのには慣れてっけど、リーダーとかは大丈夫か?

 街中よりもしっかりした防寒具や、ブーツが要るぞ」


 ベルンヴァルトは、父親がアドラシャフトの領都に引っ越して来る前には、同じく領内の山村に住んでいたそうだ。確か、父親がダンジョンを討伐したけど、貴族にならずに騎士団入りしたんだっけか。シュミカさんの父親も同じパーティーだったらしく、両家族そろって上京……もとい、領都に出てきたと晩酌に付き合った際に聞いた覚えがある。

 そのため、雪山は子供の頃の遊び場だったので慣れているらしい。ついでに、鬼人族は体温が高いので、多少の寒さなんて物ともしない。


「俺とレスミアは、以前の村ダンジョンで使った防寒具があるよ。な?」

「そ、そ、そうですけど……さ、寒いので、扉を閉めて下さい!」


 後ろのレスミアに話を振ったのだが、居ない。声がした方を見ると、扉から離れた位置に逃げてフィオーレと抱き合っている。別にキマシタワーな状況ではなく、ただ単に寒がっているだけだ。そういえば、猫なだけあって、寒いのが苦手だったな。雪女アルラウネを討伐しに行くときも、もこもこに着膨れしていたっけ。フィオーレもダンスレッスンを受けているせいか、あんなに食べているくせに細い体だからなぁ。

 取り敢えず、扉を閉めてから女性陣に話を振る。


「フィオーレは、北の方の生まれって言っていなかったか? 雪が多そうなイメージがあるんだけど」

「雪国育ちだからって、皆が寒さに強い訳じゃないよ!

 冬場は、暖炉の側で音楽を弾いたり、詩を歌ったりするだけで稼げるからね。酒場兼宿屋から、殆ど出ずに春を待つのが大正義!」

「うんうん、私も最近朝が寒くてね~。陽光石と家の暖房がなかったら、コタツに住みたいくらいだよ」


 レスミアの答えは若干ズレているが、寒いのは嫌だと言いたのは伝わってくる。ただ、ダンジョン攻略なので、人数が欠けるのはNGだ。41層から魔物パーティーが5匹に増えるのに、俺とベルンヴァルトの二人じゃキツ過ぎる。


 ただ、セカンドクラスで身体が成長してしまったフィオーレは、子供用の防寒具しか持っていないので、新たに購入する必要がある。ここのダンジョンギルド3階のレア物ショップでは、雪山フィールド用の防寒具も売っているので、そこで購入するか。


「ああ、うん。ヴァルムドリンクは量産して準備してあし、新しい防寒具も買ってあげるから、雪山行軍も頑張ろうな」

「「ええ~~~!」」


 まぁ、形だけだろうけど、嫌がる女性陣の背中を押して、防寒具を買いに行くのだった。




 本日のレベル変動は以下の通り。

・基礎レベル39→40     ・アビリティポイント49


・軽戦士レベル39→40     ・重戦士レベル37→40

・魔道士レベル38→40     ・トレジャーハンターレベル39→40 

・付与術師レベル36→40

・戦技指導者レベル38→39   ・遊び人レベル36→39

・錬金術師レベル36→39    ・熟練職人レベル36→39


 軽戦士レベル40では、ステータス補正の筋力値が大に上がり、新スキルを覚えた。


・ステータスアップ:HP中↑、筋力値大↑【NEW】、耐久値中↑、敏捷値中↑、器用値小↑

・習得スキル

 Lv 40:筋力値大↑【NEW】、連撃の心得【NEW】


【スキル】【名称:連撃の心得】【パッシブ】

・自身が連続攻撃をした場合、回数が増える分だけ攻撃力を増加する。なお、連続攻撃とは、攻撃の間隔が、3秒以内と定義する。


 これは、武僧レベル35で覚えた物と同じだな。流石に素手ほど連続攻撃は出来ないけど、軽戦士の身軽さなら3秒以内に連続で斬ることは可能だろう。もしかしたら、〈ツインアロー〉にも適用されるのかも? 俺は弓が使えないので検証する気はないけど。

 俺的には、剣客と軽戦士のパッシブスキルの相性が良いので、〈二光焔・燕返し〉の威力アップになると思う。



 重戦士レベル40では、ステータス補正の筋力値が大に上がっただけ。複合ジョブとかと比べると、少し寂しいな。いや、筋力値が上がるだけでも助かると言えば助かるが。筋力値大アップは剣客、武僧、魔法戦士だけだったので、組み合わせに幅が出来る。


・ステータスアップ:HP大↑、筋力値大↑【NEW】、耐久値大↑、敏捷値小↑

・習得スキル

 Lv 40:筋力値大↑【NEW】




 魔道士レベル40では、ステータス補正の知力値が大に上がり、新スキルを覚えた。


・ステータスアップ:MP中↑、知力値大↑【NEW】、精神力中↑

・習得スキル

 Lv 40:知力値大↑【NEW】、オフセットマジック【NEW】


【スキル】【名称:オフセットマジック】【パッシブ】

・敵の魔法と、自身の魔法がかち合った場合、互いの魔法の威力を相殺する。属性とランク、知力値を比べて有利であれば、敵の魔法を打ち消けし、こちらの減衰した魔法でダメージを与える。逆であれば、相殺した分だけ敵の魔法威力を弱める。

 範囲魔法の場合、発動から属性ダメージが入るまでに、かち合えば良い。



 似たような効果の〈フィリングシールド〉があるが、あっちは魔法陣を盾にする方だな。敵味方で魔法を撃ち合う場合に、相殺してくれるスキルのようだ。先日、レグルス殿下とハイムダル学園長に聞いた話でも、深層は魔法の打ち合いが激化するという。こういったスキルで魔法を打ち消し、被ダメージを減らして、状況を有利に運ぶのも魔法使い系の役割なんだとか。




 トレジャーハンターレベル40では、ステータス補正の敏捷値が大に上がり、新スキルを覚えた。どうやらレベル40は、各ジョブの得意とするステータス補正が、大に上がる頃合いらしい。


・ステータスアップ:HP小↑、筋力値小↑、敏捷値大↑【NEW】、器用値中↑

・習得スキル

 Lv 40:敏捷値大↑【NEW】、モノキュラーハンド【NEW】


【スキル】【名称:モノキュラーハンド】【アクティブ】

・手を筒状にして覗き込む事で、遠くを見る事が出来る。輪を小さくすると倍率が上がる。発動は念じるだけでよい。



 最初は只のピンホール効果かと思ったのだけど、実際に使ってみると、双眼鏡レベルで遠くを見ることが出来た。いや、両手でやると間抜けっぽいけどな。親指と人差し指で丸を作って覗き込むだけでも効果はあるが、穴を小さくしたり、使う指を増やしたりすると、倍率がどんどん上がっていく。先程、41層の遠くにある木が良く見えたのも、このスキルを使っていたお陰である。

 両手だと、左右の倍率の調整が難しいので、片手で単眼鏡として使う方が良いだろう。




 付与術師レベル40では、ステータス補正の知力値が中に上がり、新スキルを覚えた。


・ステータスアップ:HP小↑、MP小↑、筋力値小↑、耐久値中↑、知力値中↑【NEW】、精神力小↑、器用値中↑

・習得スキル

 Lv 40:知力値中↑【NEW】、スキル鑑定【NEW】



 〈スキル鑑定〉に関しては、この報告書を書き終わってから検証しよう。

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