第467話 婚約指輪と決め台詞
〈燃焼身体強化〉の銀カードの分配を決め、代金として2枚の大金貨を頂いた(2千万円)。その後は、来週の休日の予定を決める事となる。それと言うのも、既に39層に辿り着いているので、40層攻略は時間の問題である。その為、次の休みの日に、エディング伯爵へ面会予約を入れたうえで、婚約の承認をしてもらえるそうだ。
「先に断っておきますが、ザックスが貴族籍を得るまでは、ヴィントシャフト領内でしか効力がない、婚約になります。他領では吹聴しないように。ソフィアリーセも、『領内の者と婚約した』と話すだけで、ザックスの名前は安易に使わないようになさい」
「お母様、わたくし達の婚約に異を唱える事に関して、レグルス殿下の名前を使って断ってもよい、と許可を得ております。王族の威光を借りれば、他領からの横槍は防げるのではありませんか?」
いつの間に、そんな取り付けをしたのかと、周囲から驚きの声が上がる。ソフィアリーセ様が胸を張って得意気に微笑むが、トルートライザ様は頭を振って却下した。
「根回しの良いところは褒めてあげるけれど、みだりに王族の名を使うのではありません。先ずは、わたくしやエディング様が断りの返事をするのです。もちろん、マークリュグナー公爵からの苦情であってもね。
それでも聞かないようであれば、レグルス殿下の御厚意に甘えましょう」
貴族の婚約は親が主導するものだからと、浅慮を諫められるのだった。
そんな調子で話が進み、今度は婚約時プレゼントするアクセサリーの話となる。そのついでに、先日手に入れたルビーとサファイアに関しても相談し、レスミアがお揃いのアクセサリーを作りたがっていた事も話す。昨晩、マルガネーテさんに相談した為、ソフィアリーセ様には話が通っているようで、専属の宝石職人が呼ばれた。
やって来た職人さんが、テーブルにサンプルのアクセサリーが何種類も並べる。ペンダントや指輪のような定番から、腕に嵌めるバンクルやブレスレット、足に嵌めるアンクレットに、首に巻くチョーカー等々。俺もお揃いに含まれているので、髪飾りの類は用意されていない。
ソフィアリーセ様は、その中の一つを手に取り、俺に見せてきた。
「ザックスがダンジョンでも使いたいと言うのならば、狙いを付けやすい指輪がお勧めなのだけど……貴方、前線で剣も振るうからグローブやガントレットを身に着けるのよね?
そうすると、次点としてブレスレットはどうかしら? 留め具で調整出来るから、グローブの上からでも、素手にも着けられるわ」
「では、それでお願いします。宝石を付けるとして、周辺の意匠はソフィアリーセ様とレスミアに合わせますよ」
花柄とか、あからさまな女性向けでなければ良いと、お任せすると、女性陣は楽しそうに相談をし始めた。二人の母親も一緒に交じって、仲睦まじい様子を見ると、なんだかほっとする。
俺も内職をしながら、ちょくちょく会話に参加する。
そして、大方のデザインが決まったところで、もう一つの案件が来た。
「婚約の時のアクセサリーは、わたくしの分は発注してあります。以前、ザックスが話していた『ダイヤモンドの婚約指輪』よ。なので、以前の約束通り、わたくし用のダイヤモンドを用意して下さいませ。
あ、レスミアも正式に婚約したのよね? 一緒に作りましょう!」
「え?! でも、私はザックス様からペンダントとイヤリングを頂いていますから……」
レスミアは遠慮したように、手をバタバタと振る。レスミアが言っているのは、ランドマイス村を出立する前にプレゼントした物の事だろう。アレはアレで喜んでくれていたが、庶民の宝石で作ったアクセサリーなので、ここに並べられているサンプルよりも見劣りする。俺が自作した事もあり、大事にしてくれるのは嬉しいが、貴族のソフィアリーセ様と並び立つのならば、相応の品を用意するべきだとした。
「レスミアの分も含めて、ダイヤモンドを作成しますね。今日は〈フェイクエンチャント〉に集中したいので、作れるのは明日。明後日には、こちらに届けますので、レスミアの分のリングも発注、お願いします」
「ええ、もちろんよ。公の場でも身に着けられる、見事な物にしましょう」
「……あはは、ありがとうございます」
照れて笑うレスミアは、そのまま専属職人さんに、指輪のサイズ確認をしてもらうことになった。
その様子を見たトゥータミンネ様が、小さく溜息を付いて、言葉を漏らす。
「ヴィントシャフトでの身内で行う婚約式だから、わたくしは参加出来ないのが残念ですわ。
ザックス、早くダンジョンを攻略しなさい、そうすれば、アドラシャフト家の貴族の一員として、ウチでもお披露目できますのに……」
「それは、レグルス殿下とハイムダル学園長にも言われましたね。何とか、春までに管理ダンジョンを攻略しますので、お待ち下さい」
「……普通は管理ダンジョンを攻略するのに、1年から3年はかかるのですけど……貴方なら何とかなりそうね」
……まぁ、経験値増5倍と内職による資金稼ぎで、大分楽をさせてもらっている自覚はある。ただ、みんなして期待を掛けてくれるから、努力目標を達成してしまいたくなるんだよ。
5の鐘(17時)が鳴り、トゥータミンネ様はアドラシャフト領へと帰って行った。見送りをしようかと思ったのだが、トルートライザ様に夕飯に誘われてしまう。どうやら、滞在時間を延ばして、ブラックカードを量産して欲しいらしい。
まぁ、今日限定なので、仕方がない。6の鐘(20時)が鳴るまで、お持て成しを受けながら、内職を続けるのだった。
もちろん、帰った後も日付が変わるまで、自分達用に追加生産しておく。ウチの女性陣が喜ぶだけでなく、対女性の取引材料には持ってこいだからな。「明日の朝は寝坊する」と、予め断っておいたところ、逆に女性陣からはエールを受け、夜食まで準備してもらえた。
そして、翌日。朝は出遅れたものの、予定通り39層の攻略に乗り出す。既に倒し方も確立しているので、特に苦戦することもなく、歩みを進めた。余裕があったので、昨日の会談で話した内容も試しておいた。先ずは、新しい複合ジョブ……と思われるニンジャを解放するため、二刀流で戦ってみる。ただし、手持ちの武器で、同系統なのが少ない。大体、上位武器に買い替えていたからなぁ。チタン製のテイルサーベルは3本あるが、牛頭鬼と戦うには少々心許ない。その為、雷のロングソードに合わせて、特殊武器のミスリルソードを取り出し、二刀流とした。
いや、耐火の刀と飢餓の脇差でも、刀系統で行けそうなんだけど、万が一飢餓の脇差を壊してしまったらと考えると使える訳がない。やっぱり、ダイエットの剣として使う以外は、封印だな。
二刀流は習ったことはないが、戦技指導者の〈二刀流の心得〉のサポートを受けて、なんとか戦うことが出来た。片手でロングソードを扱う為、騎士か重戦士の〈装備重量軽減〉がないと武器に振り回されてしまう。
【スキル】【名称:二刀流の心得】【パッシブ】
・利き腕でない方の手も、利き腕と同様に動かせるように補正する。ただし、両手に持つ武器が同系統の場合のみ。
スキル】【名称:装備重量軽減】【パッシブ】
・重量級装備を身に着けた場合、その重量の半分だけ筋力値に補正が掛かる。
ソードダンサーなフィオーレも、「こうやって、くるっと回って……」と手本を見せてくれるのだが、流石に踊りながら戦うのは性に合わない。ロングソードで出来そうな連続斬りの動きだけ真似させてもらったり、ベルンヴァルトが騎士団で見聞きした二刀流の使い方を教えてもらったりしているうちに、40層への階段へ到着した。
結局、ニンジャのジョブは得られず。二刀流は条件でないのか、他に解放条件があるのか……
「高い所で高笑いを上げながら登場? 流石に恥ずかしいぞ」
「はっはっはっ!
まぁ、見てんのは俺達だけだから、気にすんな!」
「まぁ、検証で変な事をやるのは、いつもの事ですし……確か、あの魔物は戦いながらも笑っていましたよね?」
「あははははははっ!」
40層はボス階層なので、九十九折の土手道と小部屋で構成されている。見慣れた周回ステージであるが、九十九折の回数が増えて、階層自体は大きくなっているように感じた。
そこを、ショートカットを歩きながら、雑談していたのだが、皆に揶揄われてしまう。俺だって、好きでやる訳でもないのに。取り敢えず、馬鹿笑いするフィオーレに、軽くチョップを入れてから指示を出した。
「笑ってないで、準備しろ。こっちの〈アシッドレイン〉は、そろそろ完成するからな」
「もう、仕方がないなぁ……〈コンセントレーション〉! 〈魔道士のラプソディ〉!」
フィオーレの演奏が始まり、バフが掛かった事を確認してから、坂道を駆け上がり壁の上に立った。眼下の小部屋の中には、牛頭鬼が1匹、それに巻き付いたチェーンスネークが1匹、単独のチェーンスネークが2匹居る。
壁の上で腕組をして、笑い声をあげた。
「くはははははははははっ! 俺は通りすがりの探索者だ! 覚えておけ!
イッツ! 〈アシッドレイン〉 ショータァァイム!」
最初の笑い声には〈ヘイトリアクション〉も掛けてある。それが余計だったかも知れない。広範囲魔法である〈アシッドレイン〉の指定範囲を小部屋にしておいたため、その上に四角い雨雲が現れる。しかし、雨が降り始める前に、牛頭鬼が突進してきて、金棒を振り下ろす。長身な牛頭鬼と長い金棒は、壁上に居る俺に余裕で届いた。横にステップして避けるが、足場が薄すぎる。雨が降り始めたのを確認して、小部屋の外……坂道側へと降りて逃げた。
暫く、壁を殴る音が響いていたが、雨足が強まると収まり、代わりに呻き声が上がる。これで、勝ちは確定だな。
雨が上がったところで、小部屋中を覗き込むが、蹲る牛頭鬼が居るのみ。チェーンスネークは、只の鎖と成り果てて転がっている。止めを刺すべく、笑い声をあげながら飛び降り、二刀を首筋に突き立てた。
楽勝なのは良いのだが、肝心のニンジャは取れていなかった。
すると、ショートカットを進みながら、皆口々に意見を出した。
「やっぱ、高さが足りんのじゃないか? あの時のレア種は、見上げるような墓石の上から出てきてたろ? そこの壁じゃ、低すぎるわ」
「う~ん。物語の英雄譚みたいに、名乗りを上げてみるのはどうでしょう?
『我は聖剣の英雄 ザックスなり! 貴様たちを断罪する!』みたいな?」
「いやいや、魔物に自己紹介しても、しゃーないじゃん。勝手に悪と決め付けるのはどう?
悪徳貴族を成敗する劇のシーンだけどさ『今から裁かれる貴様らに、名乗る名前など無い! さあ、地獄行きはどいつからだ!?』なんて、良くない?」
どうやら、他人事だと思って、面白がっているようだ。一人で考えるより、複数人でブレインストーミングした方が、面白い意見が出るから良いけどさ。
取り敢えず、高さはどうにもならないので、後回し。代わりに、ボス部屋に行くまで、〈アシッドレイン〉の魔法陣が完成するたびに、格好良い決め台詞を言わされたのだった。
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小ネタというか、雑記
先日、とあるゲームの体験版をプレイしました。アトラス/バニラウェア開発のユニコーンオーバーロード、王道戦記物のSRPGですね。シミュレーション系はあまり好みではないのですが、体験版なのに5時間も遊ばせてくれるし、なかなか面白かったです。モンハン以来、久しぶりに買いたくなったゲームでした。
感想はさておき、気になったキャラが居ました。
いえ、前話で胸ネタを書いたからと言って、胸揺れする金髪ヒロインさんではありません。
幼馴染で従者のレックス君です。
赤髪で軽戦士な武装、名前が似ているせいで、ウチのザックスを彷彿とさせます。性格はザックスより、かなり明るめですけどねw
今までザックスの見た目は、テ〇ルズオブジアビスのルーク(アッシュ)をイメージしていたのですが、レックス君みたいな系統も良いですね。
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