第466話 トゥータミンネ>レスミア>トルートライザ>マルガネーテ>ソフィアリーセ>>>ルティルト

 あらすじ:ソフィアリーセ様は普乳。


 散々騒いだ後に、側仕えがブラックカードの在庫を持ってきたので、仕切り直しとなった。お茶やお菓子が勧められ、それを頂きながら、雑談する。ついでにトゥータミンネ様が来ていたことに驚いた事を伝えると、テーブルに広げられていたボールペン各種を紹介された。

 金銀宝石で装飾された豪華なボールペンに、赤や青の色ペン……青い方はマナインクが使われており、そのままレシピを書くことが出来る。その他、軽量化を施された物や、細い線が書ける物等が開発されていたらしい。


「わたくしの工房で、アイディアを出し合ってボールペンを改良したのです。今日は、此等のレシピと引き換えに商談に来ましたの」

「『細く優美な文字が書けるように』と要望の手紙を送ったら、開発してくださったのですって。流石は、トゥータミンネ様ね。

わたくしからは、マナグミキルシュに使うキルシュゼーレを定期的に輸出する契約にしたわ」


 マナグミキルシュのレシピは、両方に差し上げるつもりだったが、肝心のさくらんぼこと、キルシュゼーレがアドラシャフトでは手に入らないそうだ。その為、ヴィントシャフトが融通して、身内価格で輸出する事で量産体制を整えるらしい。

 そこら辺の詳細を詰める為、俺を含めた三者での話し合いが組まれたそうだ。朝方にはレグルス殿下に呼ばれて、ノートヘルム伯爵が会議ヴィントシャフトに来ていたらしいし、午後はトゥータミンネ様が来てくれた。忙しい領主夫妻を呼び立てる事になるとは申し訳ない。

 そんな感謝を述べておいたのだが、何のことはないように笑い返された。


「ノートヘルム様も、わたくしも、領地の為になる事なので、貴方が気にする必要はありませんよ。特にレシピの件は、女性にとって気になる話題ですからね。

 送ってもらったマナグミキルシュは、マナポーションを料理やお菓子の様に、ゼラチンで固めるアイディアは面白いわ。

 甘いマナポーションは開発されているけど、味が微妙だったり、美味しい物ほどMP回復量が減ったりして、イマイチなのよね。その点、マナグミキルシュは美味しくて回復量も多くて、言う事無しよ。アレなら、調合仕事をしながらのオヤツにも出来ますし……勿論、ザックスにも対価は用意してあるわ。

 マナインクのボールペンのレシピと、登録用の現品をザックスに」

「畏まりました」


 既に準備してあったのか、トゥータミンネ様が指示をすると、メイドさんの一人が歩み出る。その手に持っていたトレイには、


「おお、助かります。正直、ボールペンに慣れると、インク瓶を使うのが面倒でしたから。〈フェイクエンチャント〉〈燃焼身体強化〉」


 内職を一時中断して、レシピを頂いた。ただし、これ以外のレシピや商品は有料だそうだ。それはヴィントシャフト側、トルートライザ様も同じようで、細ペンのレシピを追加で購入したらしい。

 身内であっても、融通を効かせるのは基本レシピだけで、新規開発したのは商売に使うのは上手い。


「わたくしもザックスには対価を払いましょう。

 先日のダイエットの剣について、貴族や商人達がざわめき、混乱しているようなので、それを収めて差し上げます……貴方が『伯爵家に相談します』なんて言ったせいで、問い合わせが殺到したのですよ」

「ハハハ、すみません。伯爵家の威光がなければ、暴動が起きそうな雰囲気でしたので……〈フェイクエンチャント〉〈燃焼身体強化〉」

 ※以下、内職の描写はカット


 やっぱり、迷惑を掛けてしまったようだ。迷惑ついでに、〈燃焼身体強化〉の銀カードの販売に付いてもお願いする事にした。白銀にゃんこで販売しても、さらなる騒動の種にしかならない。先ずは慣習に従い、上から……貴族から流すべきと判断したのである。

 それなら、王族から流すべきかも知れないが、トルートライザ様の判断で止められた。それというのも……


「王族……王妃様には10年程前に献上しているので、十分でしょう。万が一、このカードの所在がバレたとしても、生産量が限定されている事を理由に断るわ」

「10年前にも、騒動が起きたのですよね?

 ダンジョンギルドの受付嬢が覚えていましたよ」

「ええ、あの時も大変な騒ぎになったわ」


 トルートライザ様は、当時の資料を用意していたのか、ファイルを見ながら掻い摘んで話してくれた。


 事の発端は、現役を引退するサードクラスの探索者パーティーが、田舎に帰る前の資金稼ぎ……キルシュゼーレの採取から帰ってきた所から始まる。

 6人パーティーがレア種に遭遇して、半壊していたのだ。そのパーティーは意気消沈して、戦利品のダイエットの剣を売り払い、田舎へ帰ってしまった。


 沸きに沸いたのは、買い取ったダンジョンギルドの女性職員だ。皆で交代に使用していたのだが、徐々に取り合いにまで発展し、貴族家も巻き込んだ騒動となった。それに領主権限で介入し、事を収めたのがトルートライザ様である。


 一方、この情報を元に、商業ギルドが2匹目のドジョウ狙っていた。大規模な採取チームを36層へ派遣し、キルシュゼーレを大量に採取しながらレア種を探し始めたのだ。

 ここで、誤算だったのが、レア種の強さを知る最初のパーティーが田舎へ帰ってしまった事である。どんなレア種だったのか情報もなく、『キルシュゼーレを採取していた』と職員が聞いた情報だけで、手当たり次第に採取し始めた。

 そして、乱入して来たレア種に、非戦闘員(植物採取師や、アイテムボックス持ちジョブ)が狙われて犠牲者が多数出たそうだ。


「あの階層はアンデッドが沢山出ますからね。90名、15パーティーを3つに分けて、採取を開始……1グループが全滅、残りの2つのグループはレア種らしき魔物と交戦し、多数の犠牲を出しながらも討伐。

 ただ、ドロップ品がダイエットの剣じゃなかったそうで……ええと、光る投擲具と、細身の剣(直ぐ折れた)のみ。

 この結果を受けた商業ギルドは、欺瞞情報に踊らされたと宣言。36層におけるキルシュゼーレの採取量に制限を掛けて、再発防止に取り組んだそうよ。

 その頃から、2本目のダイエットの剣が手に入らないと広まって、わたくしに貸し出しの陳情が届くようになったの。お茶会に出る度に催促が来るものだから、煩わしくなって王妃様に献上したのよ……」


 ダイエット効果を求めて、女性貴族の間がギスギス、ドロドロしたものになってしまったらしい。

 その辺のことを聞くのは少し怖い。取り敢えず、話題をズラすべく、2種のレア種、ニンジャ餓鬼と、血魂桜の亡霊武者の資料を皆に見せた。


「恐らくですが、倒せたレア種は『ニンジャ餓鬼』の方ですね。ドロップ品が『光る投擲具……曳光手裏剣』と、『細身の剣……餓鬼ノ忍者刀』ですから。

 全滅した方は、強さから言って『血魂桜の亡霊武者』だと思います。コイツは血魂桜のギミックに気付かないと、無敵に近いですからね」


 確か忍者刀は、日本刀でも反りのない片刃の直剣だったはず。知らない人からしたら、細身の壊れやすい剣にしか見えないだろう。

 その点も踏まえて、36層には2種類のレア種が存在することを説明する。登場する条件も似通っているので、面倒なのだ。ニンジャ餓鬼が『数多の同胞が戦う気配を感じ、祭りと勘違いして参戦する』で、亡霊武者が『幽魂桜を伐採し過ぎると』である。

 キルシュゼーレを採取しようとゾンビ餓鬼を沢山召喚すれば、ニンジャ餓鬼が出てくる。そして、キルシュゼーレを採取し終えると、幽魂桜も消えてしまうので、沢山取り続ければ(もしくは木を伐採するか)亡霊武者が出てくるといった具合だ。


すると、資料を読んだソフィアリーセ様が、華やいだ声を上げた。


「ここまでの情報があるなら、ダイエットの剣を集める事も出来るのではありませんか?

 ザックスも銀カードを量産するのは大変でしょう? 少しでも出回れば、負担は減ると思います。

 ザックス達は4人パーティーで勝てたのですから、6人パーティーで狩りに行かせれば……」

「いえ、自分で言うのもなんですが、ウチのパーティーは大分特殊ですからね」

「特殊なのはザックス様だけですけど……」

「ゴホンッ! 兎も角、情報があっても、かなりの強敵ですからね。36層の適正レベルでは、苦戦は必至だと思います。トルートライザ様が教えてくれた、10年前の商業ギルドの例を見るに、数を揃えるより少数精鋭で……レベル40以上、もしくはサードクラスだと安心ですけど」


 余計なことを言ったレスミアの脇腹を突っついて止め、安全策を提案した。この案には、ダンジョン攻略では先輩のトルートライザ様とトゥータミンネ様も、賛同してくれる。ただし、誰を派遣するかが問題らしい。


「ザックス達は先を急ぐのよね。他に倒せそうなパーティーとなると……騎士団からサードクラスを長期間、派遣するのは難しいわね。強力なレア種は、出現頻度が低かったり、次に出現する期間が長かったりする場合があるもの。サードクラスを何ヵ月も中層に派遣するのは、騎士団が嫌がるでしょうね」


 そういえば、砂漠フィールドの大サソリのレア種の時に聞いたな。数ヵ月から半年くらいで、再出現リポップするとか。なるほど、条件を満たしても出てこない場合は、その出現間隔の情報が出揃うまで、通い詰めないといけないのか。


 この場では、判断出来ないので、エディング伯爵や騎士団長と相談する事にしようかと、話がまとまり掛けた時、護衛騎士から声が上がった。ソフィアリーセ様の後ろに立つ、ルティルトさんが、おずおずと挙手をしたのだ。


「護衛任務中ですが、発言させて下さい」

「ルティルト……発言を許します」

「ありがとうございます。

 その墓地フィールドのレア種討伐の役目を、我がセアリアス家に任せては貰えないでしょうか?

 ヴィントシャフト家を支える子爵家の中では一番大きく、サードクラスの人材も豊富です。もちろん、騎士団に所属していない、引退した者だけでもパーティーは組めましょう。

 そして何より、同じ派閥の方が、手に入れたダイエットの剣の分配に困らないかと……」


 ……なんか、最後の言葉が本音に聞こえた。要は『私も自分専用のが欲しい!』と、言っているようなものだ。

 ただそれは、ここにいる女性全員が思っていそうなことである。10年前は1本だけで取り合いになったが、数本あれば身内で回す分には足りるだろう。側仕えの皆さんも、便乗できるかも……周りを見ると、口角を上げて笑っているメイドさんも居た。

 暫し、考え込んでいたトルートライザ様だったが、ルティルトさんの進言を飲んだようで、「では、エディング様と、セアリアス家、当主のシュトラーフ騎士団長と相談してみましょう」と、話を終わらせた。



 ただ一人、蚊帳の外であったトゥータミンネ様が、ため息をついてから、俺に流し目をする。


「他領のダンジョンでは、仕方がないのですけど、少し羨ましいですわ。ダイエットの剣自体を手に入れるのは無理そうですもの。流石に、他領に騎士団を派遣する訳にもいきませんし……

 ザックス、わたくしにもダイエットの銀カードを分けてくれるのですよね?」

「ええ、もちろんですよ。

 使用回数はブラックカードの方が多いので、今作っているものをヴィントシャフト家に。既に作ってきた銀カードの半分くらいは、アドラシャフト家に分配したらどうでしょう?」


 元々、欲しがる人は多いだろうと思って、朝の営業もサボって内職をしていたのだ。次にいつ当たりが出るか分からないから、多めにあげておいた方が良い。お世話になっている身内みたいなものだしな。

 トゥータミンネ様に笑い返していると、待ったが掛かった。


「お待ちなさい。数に限りがある銀カードも、交渉の対象ではなくて?

 ヴィントシャフト家は、普段の3倍の価格で買い取りますよ」

「お母様、わたくしの婚約者への援助にもなります。そこは強気で5倍くらい出しましょう!」

「わたくしの元息子が、『半分はアドラシャフト』と言ったのです。決まっていない残りの半分が、交渉の対象ですわよね?」


 二人の領主夫人が笑い合う……ただし、目でバチバチと火花が散っている様な、雰囲気が漂い始め。交渉を始まるのだった。


「いや、これっきりと言う訳ではないのですよ? それに、俺からも提案があるんですけど!?」


 取り敢えず、生産者としての言い分を飲ませるために、笑顔でやり合う二人に介入した。




 結局、アドラシャフト家には150枚、ヴィントシャフト家にも150枚(+ブラックカードの出来た分だけ)、各々3倍価格で落札した。ただし、ヴィントシャフト家の分から、100枚はダンジョンギルドの受付嬢へ販売することにしてもらった。

 何故かと言うと、10年前と今回で、大分不満が溜まっていそうだからである。一昨日の様子からして、ガス抜きをしておいた方が、(俺が)ダンジョンギルドを利用しやすくなると思う。

 一応、トルートライザ様も似たような考え(上級貴族出身者にだけ販売)をしていたらしいので、その範囲を拡大させる事を飲んでくれたのだ。ただし、希望する受付嬢全員には足りないので、その時は身分が上からとなる。


「まぁ、義理の息子(予定)のお願いですからね。伯爵家の評判にも関わる事なので、これはわたくしが負担しましょう。

 そうそう、この〈燃焼身体強化〉を3回使うとお腹が減るのは知っているようですけど、他の効率の良い使い方を教えてあげますわ」


 なんでも、10年前に手に入れた際に、色々試した成果らしい。先駆者の話が聞けるのは、試行錯誤の手間が減るので非常に助かる。ありがたく拝聴する。


「それは、スキルの効果中に『痩せたい部分を動かす運動をする』と、より効果が見込めるのですよ。お腹周りなら腹筋や、お腹を動かす体操とか……」

「あの、お母様? 普通に使うだけでは駄目なのですか?」


 ソフィアリーセ様がおずおずと聞き返すが、その顔は『運動はちょっと』と言いたげである。そんな娘に対して、トルートライザ様は、笑顔で谷に突き落とした。


「それでも痩せますけど、全身均等に減っていくので、お腹周りが痩せる頃には胸も減りますよ?」

「そんなっ! ただでさえ、差があるのに!

 ……分かりました、頑張ります。ルティはもっと切実でしょ? 運動の方法、教えてね」

「運動に付き合うくらいは良いですけど……私は普段から運動しているので、そのカードは要りませんよ?」

「あはは……」


 ソフィアリーセ様に、胸を凝視されたレスミアは、恥ずかしそうに手で隠しながら苦笑するのだった。






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小ネタ

 何がとは言いませんが、主要キャラ分です。

トゥータミンネ>リスレス>レスミア>フロヴィナ>>アメリー=メリッサ>トルートライザ>マルガネーテ>ソフィアリーセ>ピリナ>リプレリーア>トゥティラ>>>ルティルト>フィオーレ>ベアトリス>プリメル>スティラ

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