第464話 今後の進路と60層以上の戦術

あらすじ:前回のまとめ

 ・エヴァルトさんとリプレリーアが、地下書庫で情報収集。

 ・俺は、複合ジョブのヒントが得られたら、検証をしながらダンジョン攻略。

 ・レグルス殿下率いる第0騎士団は、複合ジョブの取得者を増やし、戦力を拡充。フォースクラスを目指す。

 ・戦力が揃ったところで、統一国家の首都にある筈の複合ジョブをもたらす転職装置(仮)の魔道具を取りに行く(遺跡漁りとも)

 ・ついでに、3月中旬までに、管理ダンジョン(51層)を攻略したら、4月から学園に通える。ソフィアリーセ様が喜ぶ。

  →ただし、大分厳しい日程なので、努力目標程度で無理をしない。



 まとめると、こんな感じだ。なんか、どんどん締め切りが前倒しになっている気がするが……

 ただ、予想以上に大きなプロジェクトに巻き込まれているのは、確かだ。そんな俺の危惧が的中するかのように、ハイムダル学園長が、特殊アビリティ設定が書かれた資料を手にして笑った。


「ザックスの〈経験値増 5倍〉があれば、レベル上げも捗るであろう。第0騎士団に入団させ、色々なパーティーに巡回すれば、底上げも容易である……ふむ、このスキルは、一緒に戦った他パーティーには効果はないのか? あれば砦での狩りが捗るのだが」

「ええと、恐らくパーティー内だけにしか効果はありません。以前、共同でレア種を倒した時も、パーティーを組んでいない人はレベルが上がりませんでしたし。

 ところで、第0騎士団って、王族の関係者で構成されていると聞いていますけど……私は対象外なのでは、ありませんか?」


 大サソリのレア種を倒した際も、パーティー外だったヴォラートさんはレベル変動しなかった。神使狼レベル51らしいが、レア種の経験値増付きなら、1ぐらいは上がっても良さそうなのにな。(ただ単に、レベル差で経験値が激減した可能性もあるが)

 それはさておき、急に第0騎士団への入団の話が、降って湧いた。正直、騎士団という組織に縛られるのは好みではない。ベルンヴァルトとかに聞く限り、治安維持活動が有ったり、パーティーも好きに組めなかったり、採取物を提出しなければならないからだ。

 調合や料理にアレコレ使いたいので、素材が取られるのは御免であるし、好き勝手に行動で来ている今の状況が楽しくて、まだ縛られたくないと言うか……正直なところ、安定した職に就くのは、結婚した後や、子供が出来た後で良いのではないだろうか? 守るべき家族が出来たなら、命の危険が少ない職に就いた方が良い。いや、婚約者なレスミアは既に守るべき対象だけど……

 取り敢えず、経験値アップの置物扱いは勘弁願いたい。どう断れば角が立たないか、言葉に迷っていると、横から助け船が出た。レグルス殿下が手を広げて、制する様にハイムダル学園長を止める。


「その話は、時期尚早である。

 ザックスが爵位を得て、学園を卒業した後の話ではあるが、その後の選択肢の一つでしかない。

 現状、王族からは進路を強要する事は無いと思ってよい。もちろん、選択肢は用意するが、それを選ぶも、自身の道を作るのも其方の好きにすると良い。

 ただ、第0騎士団に入れば、我が庇護下に置く事を、約束してやろう。もちろん、何か要望があるならば、考慮もする」


 ……おお! 王族と仲良くしておいて良かった!

 殆ど空手形を貰えた様な事に加えて、滑り止めに第0騎士団に入る事も出来るからだ。取り敢えず、要望として先程の考えを話したところ、大笑いされてしまった。


「はっはっはっ! 騎士団入りよりも自由を欲しがるとは、夢追い人な探索者であるな!

 それに、結婚後に家族を守るために、安定した職へ就きたいと言う気持ちは分からんでもない。我も遠征に出る度に、妻達に心配を掛けているからな。

 まぁ、良い。ザックスの貢献を考えれば、考慮に値する。あまりにも危険な場所に赴き、何かあってはゴールドカードが供給されなくなってしまうからな。そうだな……王族が後援する探索者とするか……騎士団の外部協力者とするか……詳細は国王陛下とも相談しておこう」

「はい、お願い致します!」


 現状の考えられる進路として、皆さんが色々と相談に乗ってくれた。

・一般市民として平凡に生きたいのなら、ヴィントシャフトで白銀にゃんこと魔道具店を経営し続ける。

・ダンジョンに関わって稼ぎたいなら、現状の様に探索者を続けるか、騎士団に入る。

・更に上、フォースクラスを目指したいなら、第0騎士団に入る。

・自分の土地が欲しいのならば、魔物の領域を討伐して土地を解放。開拓すれば村長や町長くらいには成れる。

・更に、広大な土地を持つ領主になりたいのなら、隣接する魔物の領域を10個ほど潰して解放。周辺の貴族や王族に認められれば、小領地の領主くらいには成れるかも?


 ……いや、教えてくれるのはありがたいのだけど、目線が上位貴族過ぎる。

 少なくとも、開拓とか面倒なことは、やりたくないなぁ。




 今日の会談は15時までなので、余った時間でハイムダル学園長の深層攻略講義を受ける事になった。ダンジョンを2つ攻略したツヴァイスト・フリューゲル勲章持ちならば、全員が受けている内容らしい。

 安全にフォースクラスに到達する方法とは…………ずばり、ダンジョンの80層ボスには事だそうだ。


「うむ、61層を境に、魔物の強さが段違いに強くなるうえ、70層80層のボスは別格な程に強い。

 現に儂のパーティーは、80層のボスに負け、半数の犠牲を出して逃げ帰ったのだ」


 ハイムダル学園長が話してくれたのは、人類の最高到達点である80層の冒険譚である。しかし、バッドエンドの。

 80層のボス部屋は広く、ボス階層全域と同じくらいの広さであり、その中を埋め尽くす様な数の魔物を召喚され、物量で押されたそうな。


「今でも覚えている。獅子の如き顔に大きな2本角、背中に鷲の翼を4つも持つ異形の魔物だった。

 あやつが羽ばたき、魔法陣を光らせる度に、至る所から魔物が溢れて来たのだ」

「……しかし、広範囲魔法であるランク7で一掃すれば、良いのでは?」

「無論、試したとも。中級属性ランク7である〈プラズマブラスト〉、〈コキュートス〉、〈ジャングル・インパウンド〉、そのどれもが、魔物を多く打倒したが、ボスの羽ばたきで次々に魔物が追加されたのだ。魔法の充填が間に合わない程にな。

 加えて、魔法が当たっている筈のボスはビクともしない。魔法に合わせて、騎士が突撃をしたのだが、それすらも効かずに返り討ちにあってしまった」


 初戦で前衛の3人を失ったハイムダル学園長のパーティーだったが、そこから再起と復讐リベンジに燃える。追加メンバーを入れて地道に70と80層の雑魚魔物でレベリングを繰り返し、レベル80に到達。フォースクラスを手に入れた後も、レベリングを繰り返して、レベル75にまで上げ直してから再戦に挑んだ。

 上級属性である、光属性と闇属性。更に騎士のフォースクラスのスキルがあれば!……と、意気込み挑んだものの、結局どちらの属性も弱点ではなかったようで、80層ボスを揺るがす事も出来なかった。結局、更に4人の犠牲を出しながら撤退するしかなかったそうだ。


 ただ、話はこれで終わらない。当時、トップを独走していたハイムダルの敗退は大きなスキャンダルとなった。彼等の輝きに見せられ、ダンジョンの深層に挑んでいた若い貴族達も、70層と言う大きな壁に阻まれて多数の犠牲者を増やしていたからだ。跡取り候補を亡くした貴族達から『無謀な80層への挑戦』等と揶揄され、失意の底に居たハイムダルは現役の引退を表明。次期領主の座も捨てて、後進を育てるために学園の教師となるのだった。

 その後、80層まで戦い抜いた経験を元に指導力を発揮し、学園長に昇り詰めるが、それは別の話。


「安全を重視した教えのお陰で戦死者が減り、貴族の数も増えたのはハイムダル学園長の功績であるな。

 その教えを受けた者が騎士団に配属されることで、今では騎士団でも同様の手段を使っている。

 一番有名なのは『61層以上で苦戦するようならば、地上の魔物の領域で、複数パーティーによる狩りでレベル上げをすべし』だ」

「え? ダンジョンの外なのですか? 魔物の領域の方が危険に思えるのですが……」

「ほっほっほ。教えを聞いた者は、挙って同じ反応をする。

 魔物の領域と言っても、砦のような逃げ込める安全地帯がある事が前提じゃ。スカウト系の者が魔物の領域から、少数の魔物を誘き出し開けた場所に誘導、3パーティー以上の火力を持って殲滅するのじゃよ。これならば、レベル70以上の魔物でも、安全に倒せる」


 所謂、『釣り野伏』みたいな事らしい。

 ダンジョン内でも複数パーティーを組んで戦う事は出来るが、通路などの狭い場所では戦い難い。加えて、魔物の数は階層数で固定である為、61層以上では7匹同時に出てくる。6人パーティーで苦戦するなら、人数を増やせと言う事らしい。

 俺も、その教えには納得するのだが、一つだけ引っ掛かる事があった。以前見た、演劇の内容だ。


「魔物を釣り出して来るにしても、手に負えない高レベルの魔物に襲われたりはしないのですか?

 『ミューストラ姫』の劇のように、王都を壊滅させるようなドラゴンとか……」

「はっはっはっ! 確かにアレは史実を元にしているが、心配は要らん。その為に砦を築いているのだ。

 それに魔物の領域は、発生源たる廃棄ダンジョンに近い程、高レベルの魔物が生息している。外側から削る様に釣り出して行けば、戦うレベルもある程度狙えるのだよ」


 その辺のノウハウも蓄積されているらしい。各砦にて、周辺の魔物の分布も調べられ、潰せそうな廃棄ダンジョンか否か、無理そうならば監視するか、近場ならレベリングに残すか等が決められているそうだ。


 ともあれ、俺も行けるところまでは挑戦したいと思う。それが、60層を超えて何処まで行けるか分からないが、フォースクラスが気になるのは確かなのだ。試しに、61層以上の困難さを聞いてみたところ、エヴァルトさんが苦笑して話してくれた。


「私もノートヘルムの付き合いで67層まで行きましたが、深層に行くのは二度と御免ですね。敵味方共に魔法が飛び交うので、盾役の守護騎士や重装歩兵を魔法から守る為に、私も前線で〈アリベイト・テリトリー〉を使ったものです。いくらミスリルの軽鎧や、軽盾を身に着けていても、防御系のスキルが無い司教には肝が冷えましたよ。

 レグルス殿下の様に、魔導剣士が居るパーティーは羨ましいですね」

「……まぁ、これからは解放するのだから大目に見よ。それに、魔導剣士は魔法に対する抵抗力はあるが、物理防御のスキルは殆ど無い。防御面では司教と変わらぬのではないか?」

「騎士は〈ミラーシールド〉と〈リジェネレイト・キュア〉で守らせれば良いじゃろ。それよりも〈天使の羽衣〉を切らさずに掛けておく方が重要であろう。状態異常の防止は、装備品の付与スキルだけでは足りんからな」


 守護騎士と重装歩兵は、それぞれ騎士と重戦士のサードクラス。そして、〈アリベイト・テリトリー〉は、魔法を軽減する〈アリベイトマジック〉の範囲版らしい、

 その後も、色々なスキルの名前が出てくるが、全てサードクラスのスキルである。それらのスキルを質問したり、戦術を聞き出してはメモを取ったり、ダンジョンコアとの闘いを聞いたり、〈連携魔法〉の実用的な組み合わせ等を聞いたりしていたら、あっという間に時間は過ぎて行った。




 15時前になると、帰り支度が始まった。レグルス殿下とフェリスティ様は、護衛に扮して帰るようで、またフルプレートメイルを着込んでいる。何気なく聞いてみたけど、黒いメタリックな鎧であるが、中身はミスリル製だそうだ。王族らしく、闇の神と光の女神の色で装飾が施されているらしい。

 別れの挨拶を部屋で済ませ、玄関前まで見送りに出る。すると、馬車に乗る前に、皆さんと軽く言葉を交わした。


「次に会うのは、叙勲式になるだろうが、新しい複合ジョブを発見した場合は、私に知らせるのだぞ」

「なかなか、実りのある日になったわ。ごきげんよう」

「こちらこそ、面白い話を聞けて良かったです。お元気で」


 レグルス殿下はフェリスティ様をエスコートして、馬車に乗り込んでいく。そして、その間にハイムダル学園長が、俺に耳打ちをして来た。


「(光属性魔法の〈インビジブル〉は、見破られ難い。覗きをするのも、他人の弱みを握るのにも最適であるぞ。男なら欲しくなるであろう?

 早よう、フォースクラスへ至れるよう精進するんじゃな)」

「いやいや、そんな目的に使いませんよ!」


 慌てて否定したのだが、ハイムダル学園長は笑って馬車へ入って行った。

 ……思いっきり犯罪教唆きょうさな気がするけど、もしかして常習犯なのだろうか?

 次に、俺の肩を叩いて来たのはエヴァルトさんである。


「では、私も行くよ。地下書庫で面白い情報があると良いのだがね。

 今後は王族経由で手紙を出すから、私宛もそっちに寄越してくれ」

「了解です。後は、リプレリーアの手綱をお願いしますね。俺には手に負えませんでしたけど、エヴァルト司教なら手懐けられると信じています」

「ひっど! 私は只、本が読みたいだけなのに……エヴァルト様! 荷造りが終わり次第、そちらの図書室に行きますからね! 鍵を開けて待っていて下さい!」

「いや、君は先ず、自分の家の別荘に行きなさい」


 早くも迷惑を掛けている様な気がしてならない……まぁ、もう俺の管轄じゃないから、お任せするしかないか。

 そんな訳で、王都から来た一行は、黒騎士に守られながら帰途に付いた。

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