第463話 地下書庫からの情報と、一緒に学園生活?

 視界に映るカーソルを動かして、赤い光剣を動かし〈エレメンタル・ソード〉の光剣と並べてみた。やはり、同じ物にしか見えない。MP効率的に、こっちの方が良いなと考えていると、レグルス殿下は、別の事で驚いていた。


「ほう、聖剣の呼び出した光剣は、動かせるのか?」

「ええ、カーソルを動かせば、位置を指定して動かせますし、敵を斬る様に動かせば斬撃も指示出来ます。そっちは同じではないのですか?」

「……カーソルとは何の事だ?」


 同じようなスキルでも違いがあるようだ。詳しく情報交換してみたところ、〈エレメンタル・ソード〉は召喚後に射出、その後自動戦闘しか出来ないらしい。更に、元になった魔法のランクにより効果時間は増減するし、追加で〈エレメンタル・ソード〉を召喚したとしても、先に出していた分が消えてしまう。

 それに、レベル65で覚える〈エレメンタル・サードソード〉で、3本召喚。

 〈プリズムソード〉は最初2本だったのが、レベル10上がる毎に1本増えて、レベル39の今では5本同時召喚が可能である。多分41になれば、6本召喚。51で7本全てが召喚できる算段だ。

 魔導剣士がレベル70、80辺りで本数が増えたとしても、〈プリズムソード〉の方が有利である。


「やはり聖剣の方が上手であるな。精霊の祝福で強化されるとか、羨ましいではないか。それに、ミスリル以上の切れ味……所有者以外は触れない等という制約がなければ、国庫を開いてでも召し上げたのだがな」


 レグルス殿下は、テーブルの上の聖剣クラウソラスを触り、バチバチと弾かれながら、冗談めかしたように笑った。

 胸の内で安堵する。今まで、友好的に接して来て良かった。聖剣を奪われる事は無いにしても、険悪だったら無理難題を押し付けられるかも知れない。

 笑うに笑えないが〈営業スマイルのペルソナ〉で笑い返しておいた。


 それからは、他の特殊武具も見たがったので、順に紹介した。特に、MP吸収付きの聖剣 天之尾羽張は、ダイヤモンド依頼に使った事も含めて、大いに受けた。魔導剣士なレグルス殿下も、前線で戦うスタイルだからだ。逆にハイムダル学園長には受けが悪かった。純魔法使い系なので、後方から一方的に倒す事を至上としており、前で戦う事をナンセンスとしている。ついでに、特殊武具に杖のラインナップが無い事にも苦言を呈していた程だ。

 

 そして、伯爵邸では大人気だったプラズマランスは「見た目は良いのではないか? これならば上級貴族の騎士でも欲しがりそうであるな」と、評された程度である。それもその筈、レグルス殿下もハイムダル学園長も自前で〈プラズマブラスト〉を覚えているからだ。実際に覚えるのは魔導士レベル65であるが、魔導剣士も魔導士のスキルを内包しているので、使えるようにしたらしい。


 その後も特殊武具や、フォースクラスの大魔道で覚えるスキル等の話をしていたら、いつの間にか昼食の時間となっていた。

 今日用意したのは、ベアトリスちゃんが腕によりをかけた、『秋の味覚たっぷりキノコカレー』である。先週、ソフィアリーセ様達に出して、絶賛された物の改良品だな。例のキノコ飴の残りを使いコクを加えているだけでなく、お好みでトンカツを追加できるようにしてあるので、ガッツリ系が好きな人でも喜んでもらえる。


「おお、この香辛料の強さは慣れぬが、それなりに美味しいではないか。平民街の一角ゆえに、少し心配してはいたが、平民の食事も捨てたものではないな」

「レグルス殿下……今日の食事は上級貴族なみの味でございます。流石に平民の食事ではありませんわ」


 レグルス殿下が育ちの良さから来るボケをして、ソフィアリーセ様に突っ込まれていた。ついでに、度胸試しに使われる『ダイスの実』のハズレだと教えると、かなり驚きの声を上げる。どうやら、学園生時代のパーティーで食べた事があるそうだ。王族でも、ノリは学生だったようだ。


「ふっ、私は3年間の間で、1度もハズレを引いた事が無い豪運の持ち主であるからな。

 しかし、このような味ならば、一度くらいハズレを引いてみるべきだったか……」

「いえいえ、ハズレのダイスの実は、香辛料の塊ですから、とんでもなく辛いですよ。ただ、食べられるくらいに香辛料を薄めて、スープにしているだけですから」

「儂は、このトンカツとやら気に入った。もう少し、取り分けてくれ」

「私は、次の資料が読みたい」


 ご老体向けとしてキノコカレーをベースにしたのに、当の本人は揚げ物を好んで食べていた。意外ではあるが、その食欲からは、味に満足して頂けているようなので問題無い。

 問題なのは、早々に食事を切り上げて、報告書を催促するリプレリーアの方だな。食事を栄養補給程度にしか考えていなさそうである。こりゃ確かに、世話を焼く側仕えが居るわ。




 食後も話し合いは続く。

 今度の話題は、エヴァルトさんが調べて来てくれた、エメラルドの封結界石に対しての続報である。執事に指示を出し、テーブルの上に手のひらサイズのエメラルドが置かれた。ただし、以前俺が真っ二つに切ったので、正確には2つだな。

 


【宝石】【名称:エメラルドの封結界石の残骸】【レア度:C】

 〈封結界〉が施されていた宝石。宝石の内部に、****を封印していた。対象が風属性の場合、封印が強固になるが、既に効果は失せている。

 ※既に開封され、破損している。只のエメラルドでしかない。



 〈詳細鑑定〉をしてみると、こんな感じ。レア度もAからCに下がって、効果が無い事が明記されている。この封結界石の情報を求めて王都の図書館、その地下書庫を調べて来たそうだ。


「最初に結論から言いますが、同様の物が書かれた記述は見つかっていません。しかし、類似品を見付けました。500年前に滅んだ統一国家時代の話です。どうやら、魔物を捕らえて見世物にする事があったようで……」


 エヴァルトさんが語ったのは、所謂モンスター闘技場だ。ダンジョンで捕らえた魔物と、反抗的な奴隷を戦わせて娯楽にしていたらしい。奴隷ってのは、現神あきつかみ族以外の種族の事である。

 模範的な奴隷の中で、戦えそうな者はダンジョンでの仕事に従事する。魔道具を使って魔物を捕らえるのも、仕事の一環らしい。ダンジョンでの採取や魔物のドロップ品の成果が良ければ、セカンドクラスやサードクラスへジョブを変更させてもらえる事もあったようで、従順であればそれなりの暮らしは出来たらしい。ダンジョンを討伐するレベルになると、現神族と同じくらいの生活が出来たとか。

 しかし、反抗的な奴隷は、ジョブを職人などの戦えないジョブに強制的に変更。見世物として闘技場で戦わせられる。


「統一国家が崩壊し、奴隷から解放された人が後年に書いた手記でね。当時の様子を知る事が出来たんだ。

 現神族の魔道具で魔物を捕獲していたのは事実らしい。ここからは推測だけど、その改良版であれば、精霊も捕獲出来るかも知れない。まぁ、捕らえて何に使うのかは分からないがね。闘技場で妖精同士を戦わせるなんて、メルヘンな事ではないと思うよ」

「ザックスが遭遇した、精霊を内包した侵略型レア種にも関係があるかも知れないが、断定するには情報が足りん。この封結界石とやらを手に入れた経緯からして、現神族が犯人だと決め付ける事も出来ぬ」

「ギャンブルスキルで、引き当てただけですからね。元の持ち主なんて分かりませんよ」


 よくよく考えると窃盗なような気もするが、スキルが勝手にやった事だと主張したい。俺のステータス画面の名前が灰色に変わっている訳でもないので、多分セーフなのだろう。


「現状では、警戒を強めながら、相手の機先を制す……何かを企んでいる現神族の影響を削ぐのは、正しかったと言う訳であるな。

 彼奴等め、いつまでも支配者面で接して来るのだ。今でも我々人族を奴隷として、見ているのだろう」


 レグルス殿下が忌々しそうに呟くと、隣のフェリスティ様が肩をポンポンと叩いて慰める。

 確かルティルトさんに聞いた話だな。全属性を強化するダイヤモンドが使われた王錫おうしゃくの所有権を巡って、『土地ごと返還しろ』と要求して来たので断ったとか。500年前では流石に時効だろうに……交渉する王族は大変な様だ。


「今から話す事は、関係者以外には内密にするように……

 複合ジョブの力を得ることで、戦力の増強に努めるとする。

 しかし、敵が精霊の力を使うのならば、こちらも御伽話でしかなかった力を取り込みたい。エヴァルト司教には、複数ジョブを得る方法に関して、地下書庫で情報を集めてもらう」

「複数ジョブですか? 複合ではなく?」

「ああ、もちろん複合ジョブも調べるが、優先順位的に統一国家時代に付いて調べるんだ」


 俺の問い返しに答えたのは、エヴァルトさんの方だ。既に朝一、伯爵を交えた会議で話されていた内容らしい。


「ああ、君も報告書に書いていただろう? 〈フェイクエンチャント〉は、複数ジョブが前提なスキルだと。

 今まで複数のジョブを扱うのは、伝説上の物語でしかなかった……しかし、実際に複数ジョブを扱う君が現れ、同じく御伽話だった精霊の存在も明らかになった。で、あれば、複数ジョブを得る方法も実在すると考えられる。

 各教会にある転職装置みたいな物だね」

「うむ。現神族の使者や商人は、ジョブを1つしか持っていない。ならば、複数のジョブを得る手段は、現在では持っていないと推測する。

 恐らくは、統一国家時代の首都に置き去りにしたのであろう」


 鷹揚に頷いたレグルス殿下は、推察と現状を交えて話してくれた。

 ラントフォルガー王国の北東に存在した統一国家の首都であるが、そこは広大な街なうえ、現在は全域が魔物の巣となっている。無論、街から国境……第0騎士団が防衛する砦までも魔物の領域になっている為、詳しい状況は分からない。

 その転職装置らしき物を取りに行くにしても、有りそうな場所を絞る為の情報を、地下書庫から探し出すそうだ。


 ここまで聞いて、もの凄く嫌な予感がした。魔物の領域の奥地にまでスニーキングして、お宝を取りに行くとか、RPGでは良くあるシチュエーションであるが、リアルでは決死隊としか思えない。もしかして、俺に白羽の矢が立っていないよね?

 恐る恐る、遠回しに聞いてみたところ、笑い飛ばされてしまった。


「はっはっはっ! そんなに急な話ではない。5年、10年後にフォースクラスを揃えてからの話だ。其方も見たであろう?ハイムダル学園長が使った、姿を隠す魔法〈インビジブル〉を。

 それと同様に、他のジョブでも強力なスキルが増えるに違いない。先ずは複合ジョブで戦力の幅を広げ、全体のレベルの底上げを行う。

 無論、ザックスのパーティーも、その時にフォースクラスに達していれば協力を要請するやもしれんが……お前達はダンジョンを一つ攻略するのが先だな。

 ああ、そうだ。大分厳しい日程となるが、来年の3月中に攻略すれば、準男爵の位を授与する事も可能である。そうすれば、4月には学園の咲誇しょうこコースに入学出来るな。学部は違えど、ソフィアリーセと共に通うのも一興であろう」

「あら? それは良い提案ですわね。授業は別でも、学生同士で行う社交は、一緒に出来ますもの」


 隣に座るソフィアリーセ様が、こちらを向いて微笑んだ。確かに、レスミアとソフィアリーセ様の両手に花状態で学園に通うのも悪くない……いや、どちらかと言うと、3年生になるソフィアリーセ様の庇護下に入れた方が、やっかみが少ない気がしたからだ。咲誇コースは、貴族としての教養を学ぶだけなので1年間のみ。その後、一緒に卒業するのも良いかもな。





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小ネタ

 最初に宣言しておきますけど、学園編はスキップする予定です。

 いや、学園編とかトーナメントとか、ダレるだけですから。ダンジョン関係無いし。

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