第462話 大昔のジョブに付いて考察とエレメンタル・ソード

「〈一閃〉! ……〈二光焔・燕返し〉! ……〈虎走り〉!」


 庭に置いた大きい丸太を斬り付け、更に追撃の炎を纏った4連撃でバラバラに斬り裂く。ガラガラと音を立てて崩れ落ちた薪に対し、下段狙いの居合切りで、更に細かくした。最後に納刀するスキルを選べば、硬直はない。延々とスキルを連打出来る特性を観客に見せたのである。


 現在、庭でデモンストレーション中である。第3王子……レグルス殿下の「実際に見せてみろ」との要望なのだ。見学の皆さんは、応接間の庭に面した2つの窓から、こちらを見ている。遮音の結界で双方の声は届かないが、レスミアはどんなスキルなのか見知っているので、解説してくれているようだ。


 次いで、ベルンヴァルトに頼んで、バラバラにした薪を投擲してもらう。それを〈摺り足の歩法〉で、地面を滑るように回避、余裕があればカウンター技の〈虎振とらふり〉で薪を斬り裂く。避けられない直撃コースの薪に関しては、〈切落きりおとし〉で、切り捨てた。




 一通り、スキルを使ってみせてから、応接間へ戻る。すると、中では興奮冷めやらぬ様子のレグルス殿下が、刀を見せるように言って来た。武器の携帯を禁止されていたので、ストレージから取り出して、執事さんへ渡す。そして、受け取ったレグルス殿下は、慎重に抜刀し、刀を検分するのだった。


「……なるほど、確かに折れそうな薄さであるな。報告書には〈抜刀術初伝〉と〈エレメント・ソードガード〉の二つで防護しているとあるが、使っていない場合や、片方のスキルのみで、折れ難さはどれほど変わるのだ?」

「いえ、現状の手持ちが、その1本だけなので、検証は出来ていません。懇意にしている鍛冶師が、製法を編み出したところなので、量産体制が整ってからですね」


 刀という種別ならば、飢餓の脇差もあるのだが、別の意味で使えない為、黙っておく。ついでに、ウーツ鋼での刀作成を頼んでいるので、量産化するのはいつの事になるのやら。

 暫し、考え込んでいたレグルス殿下だったが、刀を納刀すると、執事へ指示を出した。


「名称に『刀』と付いていれば良いのだな。

 ……王都の騎士団と第0騎士団の武器庫を洗わせろ。それでも無ければ、ダンジョンギルドに協力依頼をする手配をしておくように。

 ソフィアリーセ、其方は職人の保護を」

「はい、父に進言し、資金援助や後ろ盾となる事を条件に、製法を伝授するよう働き掛けます」


 ……あの頑固職人みたいなリウスさんが、そう易々と製法を教えるかな?

 製法を秘匿するのではなく、自分がやったように試作品を渡して『鍛冶師なら、現物から製法を盗み出せ』とか言いそうである。

 今後も刀の供給にはお世話になりたいので、リウスさんを懐柔する案を出してみた。


「フェッツラーミナ工房のリウスさんは職人気質なので、交渉には気を付けて下さい。ミスリルを加工する炉が無いとか、ミスリル鉱を調達する伝手が無いと嘆いていましたから、その辺の援助を検討してはどうでしょうか?」

「……情報はありがたいのだけど、ミスリル用の炉は、かなりの高額なのよ。予算が回せるかしら?」

「ふむ、では、ミスリル鉱の手配を出来るようにしておけ。炉に関しては、我ら王族から手配してやろう。

 ただし、製法の伝授や、こちらが派遣する弟子を受けいれる事が条件であるがな」


 刀がジョブに関わるので、公的資金が投入される事になったようだ。

 これは、こじれると後が面倒になるな。俺もリウスさんに状況説明をして、協力するようお願いする手紙を書いておかないと。




 話題は複合ジョブの解放条件について、移り変わった。俺が見付けたのも殆どが偶然であるが、一応は手掛かりらしきものがある。以前、リプレリーアから聞き出した、古代のジョブの事だ。以前の資料を取り出して、皆に見せる。



・竜を使役する騎士

・時を操る魔法使い

・転移ゲートを作る錬金術師

・残像を残す程の高速剣で敵を斬り裂き、凍り付かせる戦士

・騒がしく、目立つのが好きな暗殺者

・他者を癒やし、悪霊をも跳ね除ける光の騎士

・何本もの剣を同時に操る剣士

・他国からの侵略軍を眠らせ死者0で守った猫族の英雄

・革命に大量の白虎を引き連れてきた虎人族の王

・竜に変身する蜥蜴族の族長

・精霊を使役する魔法使い


 これを見たエヴァルトさんは、嬉しそうに笑ってからボールペンを取り出して、追記した。


「ふむ、御伽話からよくもここまで、拾い集めたものだ。私が知っている話を付け足すのならば、 この3つですね」


・他人に呪いを掛ける、嫌われ者の魔法使い

・使用人の代わりに人形を働かせる、呪われた貴族

・街に攻めて来た毒蛇龍を全て叩き落し、討滅した空を支配する翼人


 ……最後のは『翼人』なので、天狗族かな? 他にも翼がある種族が居るのかも知れないけど。


「ねぇ、さっきの剣客がコレじゃない?」


 リプレリーアが指差したのは、『・残像を残す程の高速剣で敵を斬り裂き、凍り付かせる戦士』である。確かにそれっぽく見えるけど、『高速移動』するだけのスキルなら、軽戦士の〈ボンナバン〉や〈稲妻突き〉がある。それに『凍り付かせる』スキルは無いので、違うような気がした。もちろん、サードクラスで覚える可能性もあるけど。


「ふむ……確か守護騎士には氷属性のスキルが有るが、アレは槍から撃ちだすものである。剣で斬り裂くとなると……私が知るところでは無いな。ああ、下の方にある白虎の話ならば、フェリスティが詳しいのではないか?」


 レグルス殿下が騎士のサードクラスの話をした後、隣のフェリスティ様へと話を振る。すると、今まで静かに聞いているだけだった夫人が凛とした口調で話始めた。


「ええ、虎人族の王族にも似たような話が伝わっているわ。高レベルの『白虎爪びゃっこそう』が使うスキルで、眷属である白虎軍を呼べると聞く。ただ、レベル65の私は覚えていないので、もっと上でしょうね」


 虎人族の専用ジョブ、そのサードクラスが『白虎爪』と言うらしい。後で聞いた話であるが、ファーストクラスが『虎拳とらけん』、セカンドクラスが『虎爪こそう』であり、スキルで巨大な爪を作って戦う攻撃的なジョブだそうだ。牙を作って戦う犬族の『神使狼しんしろう』に似ているな。

 それに、眷属を呼び出すスキルは、神使狼であるヴォラートさんが使っていた。大サソリのボス戦で、大型犬を何頭も召喚していた事は記憶に新しい。それに、最近だとフィオーレも分身とか、青い鳥を召喚していた。

 それが、レベル70か75くらいで覚えるスキルになると、大量召喚になるらしい……なんだ白虎軍って。六甲お〇しを流したくなるじゃないか。



 順に考察を話していく流れになり、俺の番になった。


「鉄板だと思うのは『他者を癒やし、悪霊をも跳ね除ける光の騎士』ですね。騎士と僧侶の複合ジョブだと思います。

 解放条件が問題ですけど、文面から察するに、回復の奇跡を使った回数と、〈ホーリーウェポン〉や〈ターンアンデッド〉で倒した数、とかですかね? 騎士の要素が無いので、別の条件もあるかもですが」

「ふむ、それならば、第0騎士団でも検証させてみよう。宣誓のメダルでなくとも、〈ヒール〉が付与されたゴールドカードがあるからな。騎士から僧侶に変える事は容易い」


 まぁ、後衛の僧侶を鍛えて騎士(戦士レベル30、修行者レベル30)にするよりは、元々騎士の人を僧侶に変える方が早いか。エリートな騎士様を僧侶に転職させるとか、王族の強権でもないと反発は多そうなので、検証してくれるのは助かる。


「もう一つは『騒がしく、目立つのが好きな暗殺者』で、ニンジャですかね?

 この間戦ったレア種にニンジャ餓鬼と言う名前の魔物が居たのですけど、餓鬼はジョブに似たスキルを使ってきます。逆説的に、ニンジャってジョブがあるかも知れないと考えたのです。

 それに〈詳細鑑定〉の説明文にも『基本的に目立つ事が好きで、注目を集める様な無駄行動が多い』とありますから、類似性はあると思います」


 類似点は多いし、ニンジャ……もとい、忍者のジョブってのもゲームで定番である。ただし、ニンジャ餓鬼の資料も見せながら理由を述べたのは良いけど、肝心の解放条件が分からないのだよな。

 なんのジョブの組み合わせなのか、何をするのか。

 忍術っぽいなら、火柱や水を呼び出す魔法使いか? 素早く移動する軽戦士か? ゲームでお世話になる二刀流ならソードダンサー……いや、これは種族専用ジョブか。

 それに、ニンジャ餓鬼の行動を参考にしようとしても、碌な事は思いつかない。高い所から、高笑いを上げて登場するとか、光る手裏剣を投げるとか、戦闘中に大口を開けて笑うとか……真似するのはちょっと恥ずかしいな。

 そんな考察を話していたら、レグルス殿下が呆れたように言う。


「ダンジョンならば、見ているのはパーティーメンバーくらいであろう。気にする事は無い、検証をしておけ」

「了解です」

「あはは……大丈夫ですよ。事前に検証する内容を教えてくれれば、手伝いますから。

 それよりも、こっちの『何本もの剣を同時に操る剣士』は、ザックス様の聖剣の事ではありませんか?」


 レスミアが機転を利かせて話題を逸らしてくれた。

 確かに、〈プリズムソード〉ならば、光剣を召喚するので条件を満たしている。ただ、漫画とかだと、三刀流なんて代物もあるからな。異形でもいいなら、腕を4本に増やして四刀流とか。無数の剣を浮かべて、射出する宝物庫なんてのもある。もう少し、詳細な情報が欲しいところだ。

 リプレリーアに、この逸話が載っていた本の詳細を聞こうとしたところ、別の所から声が上がった。


「その話は、魔導剣士じゃろ?」

「そうだな、王族とパーティーを組んだ者にしか分かるまい……ザックス、其方の聖剣を見せてみよ。比較をしてみようではないか」


 ハイムダル学園長が問いかけると、レグルス殿下は鷹揚に頷き、俺に指示を出す。そして、後ろに控えている執事にも「杖を」と一言で指示をした。そうして執事さんがアイテムボックスから取り出したのは、長い杖である。先端に渦巻く炎を模したような巨大なルビーが輝いていた。

 それを受け取ったレグルス殿下は、床に杖を立てて持つと、先端に白く小さい魔法陣を展開した。ランク0の大きさなので、直ぐに完成しスキルを発動する。


「〈魔剣術・中級〉!」


 魔法陣がくるりと細長く丸まり、ナイフサイズの刀身となって杖の先にくっ付いた。その先に、今度は大きな魔法陣が再展開される。大きさ的にランク3くらいなのだが、その充填速度が早い。〈エレメント・チャージ〉を使った充填加速だろうけど、俺よりも早いのは上位互換なスキルを持っているのかも知れない。


 魔導剣士は魔法戦士のサードクラスだった筈だ。まだ見ぬスキルにワクワクしながらも、特殊アビリティ設定を変更して、聖剣クラウソラスを取り出した。こっちは特殊な武器なので、魔力の充填も要らない。柄を握り、使用したい属性を思い浮かべてから〈プリズムソード〉を召喚した。呼び出したのは、通常サイズ(50㎝程度)の火属性と、精霊の祝福で強化された水属性(80㎝程度)の2つである。いや、来客前に〈フェイクエンチャント〉を連打していたので、MPが回復していないのだ。


「ほう! 即座に2属性の剣を生み出せるのか! 資料の通りだが、実際に見ると驚くものであるな」


 ハイムダル学園長が興奮した様子を見せ、光剣をまじまじと観察する。聖剣クラウソラス自体も見たそうに視線を向けて来たので、テーブルの上を少し片づけてもらってから、そこに乗せた。

 その一方で、レグルス殿下の方も充填が終わったようだ。


「〈魔剣術・中級〉! ……〈エレメンタル・ソード〉!」


 大きい魔法陣な分だけ、丸まった魔剣術の刀身も大きくなる。そして、次のスキルの効果が発動すると、魔剣術の刀身が杖から離れて舞い踊る。それは、形状を変化させ、ショートソードくらいの赤く光る剣へと変貌し、クルクルと回りながら3つに分裂し、レグルス殿下の頭上に静止した。


「おおっ!……〈プリズムソード〉と同じ光剣を出せるのですか!」

「いや、そちらの大きい方と比べれば劣化版だな。パッシブスキル〈エレメンタル・サードソード〉の効果により、一度の〈エレメンタル・ソード〉で3本召喚出来るのが強みであるが」


 ……魔法戦士は『エレメント』スキルだったのに、魔導剣士だと『エレメンタル』スキルになるのか!

 あれ? MP効率的に、ランク3の魔法陣で展開出来るなら、こっちの方が使い勝手良くね? 〈プリズムソード〉は、レベルが上がって最大MPが増えた今でも、2本で3割くらい消費するのだ。それに、〈プリズムソード〉の方は、1属性に付き1本しか召喚出来ない。弱点を突くのなら、同じ属性の3本の方が良いじゃん!

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