第455話 宝石ざっくざくと模様替え

「〈サンライト〉!」


 宝箱部屋の中で光源でもあったマリス・エレマン倒した後、部屋が真っ暗になってしまったので、照明を用意した。そして、ずぶ濡れのままなので、〈ライトクリーニング〉も自分に掛けて乾燥させる。

 すると、近くに来ていたベルンヴァルトが、青い残骸を手に取り、苦笑した。


「やっぱり、魔法でしか倒せんかったな。俺があんなにぶっ叩いても、殆ど壊れなかったのに、〈ストーンジャベリン〉であっさり穴が空きやがった」

「……〈詳細鑑定〉には『魔力の篭った武器、スキル、魔法でなければ倒せない』なんて書いてあった。多分、込めた魔力の差と、弱点だったからだと思うよ。ほら、〈ホーリーウェポン〉は魔力の消費が少なく、簡単に発動できるだろ。ついでに属性は無い。だから、水属性のマナで構成されたマリス・エレマンには効果が薄かったんだ。もっと、魔力を消費するスキルなら、もっと効果はあったと思う」


 鬼徒士の集魂玉スキルに付いては、MPを消費しないという利点が裏目に出たのかもな。加えて、俺の戦術ミスもあった。最初から〈グランドファング〉を使えば、避ける余地もない飽和攻撃で倒せたと思うのだ。どの道、〈ツナーミ〉を喰らうのだったら、〈ストーンジャベリン〉に拘る必要も無かった。いや、そもそも、一撃目を真芯に捕らえていたら、無駄にダメージを負う事も無かったかも知れない。


 殆ど情報無しの敵とはいえ、苦戦したからなぁ。今回の件も、資料にまとめて分析してやる。次会ったら瞬殺するくらいにな!

 そんな話をしていると、マリス・エレマンの破片が霧散化し始めた。そればかりか、地面に生えていた芝生の如きヒカリゴケも一緒に消えていく。

 そう言えば、ヒカリゴケはマナが多い場所に生えると聞いたな。歩きマージキノコもマナを求めてヒカリゴケのある場所に、胞子を撒くとか。


 ……なるほど、『マナの濃い場所にて強力な魔法を使われると、誘われるようにして顕現する』とは、今回の状況が当てはまるな。偶々ヒカリゴケの群生地がモンスターハウスで、〈アシッドレイン〉を撃ったから、水属性のマリス・エレマンが誘われて出て来たのかも知れない。

 そう考えると、狙って呼び出す事も可能か?


 霧散して行った後に残されたのは、青い宝石だ。3㎝程の球体のサファイアである。村の侵略型レア種を倒した時に手に入れた、アメジストの属性違いのようだ。



【宝石】【名称:サファイア】【レア度:C】

・高密度の水属性のマナが凝縮した宝石。厳密には鉱物としてのサファイアとは別物。

 内部に大量のマナを貯蔵することが出来、放出する時に水属性の魔力となる。魔道具の動力源や、魔法の発動媒体として使われるが、その美しさから宝飾品としての需要も高い。発動媒体にした場合、水属性の威力が上がる。

 外部から魔力を注ぐことで繰り返し使うことが可能だが、内包するマナが少ないときは強度も落ちるので注意が必要。



 念のため〈相場チェック〉を掛けてみると、【8万円】だった。意外と安い……いや、最近は値段の高い物ばかり見ているから、金銭感覚が狂い始めているだけだ。8万円は十分に高価な筈。内職フェイクエンチャントをすれば、十分も掛からず稼げる等と考えてはいけない。


「わっ! また宝箱だ!」

「ザックス様~、ヴァルト! こっちに宝箱が出ていますよ!」


 女性陣の華やいだ声が、聞こえて来た。それは〈サンライト〉の光の外側に出現していたようで、気が付けなかったようだ。偶々、合流しに向かって来ていたフィオーレが目敏く見つけたらしい。

 俺達も合流しながら、レスミアに〈サンライト〉を張り、〈アンロック・アイアン〉で宝箱の鍵を開ける。


「わぁ~! 宝石ですよ! ルビー!」

「こっちはサファイアだ!」


 宝箱に手を入れた女性陣が、各々両手に宝石を取り上げた。宝箱に入っていたのは、ルビーが3つに、サファイアが1つである。



【宝石】【名称:ルビー】【レア度:C】

・高密度の火属性のマナが凝縮した宝石。厳密には鉱物としてのルビーとは別物。

 内部に大量のマナを貯蔵することが出来、放出する時に火属性の魔力となる。魔道具の動力源や、魔法の発動媒体として使われるが、その美しさから宝飾品としての需要も高い。発動媒体にした場合、火属性の威力が上がる。

 外部から魔力を注ぐことで繰り返し使うことが可能だが、内包するマナが少ないときは強度も落ちるので注意が必要。



 ルビーも属性違いというだけで、類似品のようだ。確か、本物のルビー、サファイアも元は同じ鉱物であり、混じっている不純物の違いで色が変わっているだけと聞く。それが、属性になっただけのようなものだろう。


 ……さて、降って湧いた宝石であるが、どうしよう?

 丁度人数分、ドロップ品を含めて5個あるので、分配する事にした。ぼちぼち、40層に到達するので、ソフィアリーセ様にプレゼントするアクセサリーが欲しかった&同じく婚約したレスミアに、お揃いのアクセサリーを上げた方が良いと考えたのだ。ついでに、ベルンヴァルトも年末年始に、彼女の実家に挨拶に行くのなら、プレゼントは多いに越した事は無い。


「……そんな訳で、皆どっちが良い? 俺が2つ貰う代わりに、アクセサリーへの加工代を持つから好きに選んでくれ。

 俺はソフィアリーセ様用にサファイアを一つと……レスミアはどうする?」

「う~ん、そうですね……私達3人の繋がりが分かるようにしませんか?

 ソフィアリーセ様にはルビーを、私とザックス様にはサファイアにするのが良いと思います」


 俺は単純に、サファイア色の宝石髪を持つソフィアリーセ様には、サファイアが良いと考えてしまったが、女性目線だと違うらしい。俺が赤髪なので、同じ赤色のルビーをプレゼントすれば、誰からの贈り物なのか分かり易いそうだ。同じ理由で、俺とレスミアがサファイアのアクセサリーを身に着ける事で、ソフィアリーセ様の関係者とアピール出来る。


「お揃いのアクセサリーにするのも、良いですね。もちろん、第2夫人になる私は、ちょっと控えめにして……」

「いや、今の内から差を作る必要は無いだろう。仲良しアピールなら同じで良いじゃないか。

 俺としては、レスミアの方が大事なんだから」

「むぅ……そう言ってもらえると嬉しいですけど、最初が肝心とも言いますよ。見ている人は見ているのですから、最初から差を付けていた方が良いです」


 口論となってしまった。暫し話し合うも、互いの主張は平行線。仕方が無いので、ソフィアリーセ様の意見も聞く事にして、保留となった。丁度、明日来る予定だからな。

 ホッと息を突いたのも束の間、ベルンヴァルトとフィオーレから、生暖かい目で見られている事に気が付いた。慌てて、言い繕う。


「あ、そういや二人はルビーで良かったか?

 好きに選べと言いながら、俺がサファイアを二つ選んじゃったけど」

「あー、まぁルビーで構わんぜ。ただ、アクセサリーにする加工費は自分で払う。自分の女へのプレゼントだから、リーダーに払ってもらうのは筋違いってもんだ」

「アタシもルビーで良いし、加工費もお世話になるよ~。

 何にしようかな? 髪飾りにしても良いし、衣装を彩るアクセでも良いよね~。あ、祝福の楽曲に効果があるならギターに付けるのもあり?」


 フィオーレが悩みに悩んでいたようだが、明日までに考えておくように言っておいた。明日は学園長が来るのだが、15時くらいには帰るらしい。その見送りついでに、ツヴェルグ工房へ注文しに行くのも良いだろう。因みに、俺はマナグミキルシュの件で、領主夫人に呼び出しを喰らっているけどな。

 あ、フィオーレもレッスンだから別か。まぁ、ツヴェルグ工房に話を通して置けば、レッスン帰りに寄らせる事で対応してくれるだろう。




 散らばったドロップ品を回収し、38層の探索を続ける。チェーンスネークの対処法も確立した事もあり、特に障害も無い。植物系採取地に寄り道をしてから、39層へ降りる事が出来た。



 本日のレベル変動は以下の通り。

・基礎レベル38→39      ・アビリティポイント48→49


・軽戦士レベル37→39     ・武僧レベル35→38

・魔道士レベル35→38     ・トレジャーハンターレベル38→39

・戦技指導者レベル35→38

・新興商人レベル35→38    ・鍛冶師レベル35→38




 帰宅したところ、庭に見覚えのある馬車が止まっている事に気が付いた。ソフィアリーセ様が使う者よりワンランク下なので、マルガネーテさんかな?


 そんな予想を立てつつ玄関を開けて入ると、中の様子が変わっていた。何故か絨毯が、ふかふかで色鮮やかな豪華な物になっており、壁際には見慣れない高そうな壺に花が飾られている。何事かと思いながら周囲を見回すと、応接間の方から話し声が聞こえた。

 一応、ノックをしてから扉を開けると、中は模様替えの真最中のよう。数人のメイドさんが動き回って、部屋を飾り立てたり、掃除をしたりしている。壁にタペストリーや絵画が飾られ、テーブルやソファーまでもが入れ替えられていた。

 その中心で指示を出しているのは、やっぱりマルガネーテさんである。

 彼女は俺に気が付くと、恭しく礼をした。


「お帰りなさいませ。ザックス様。

 誠に勝手ながら、旦那様の命により、この部屋の模様替えをさせて頂いております」

「あ、はい。大家である伯爵家の意向であれば、問題ありませんよ。

 明日の為ですか?」

「ええ、急な話なのですけれど、既に学園長一行はヴィントシャフト領にいらしています。今晩は伯爵家にて、一泊する事になったのですよ。お嬢様も、王都からの案内と晩餐会のお持て成しで、大忙しでございます。

 ……明日は予定通り10時に、こちらへ案内致しますね」


 何やら、当初の予定から変更があったらしい。俺の所に来る時間は変わっていないので、特に影響は無いけど。


 ……ん? でも、なんでこんな直前に模様替えする必要があるんだ?

 家の家具が下級貴族レベルなのは、大家である伯爵家も先刻承知の筈である。ついでに、学園長が来ると予定されてから2週間も時間があったので、事前に模様替えする時間はあったのに?

 しかし、そんな疑問を質問する前に、別の話題に入ってしまった。


「それと奥様から伝言が有ります。

 『ダイエットの剣について、幾つかの貴族家から質問状が来ています。明日の案件が終わり次第、顔を見せなさい』

 それと、『明日の学園長一行には、この件は伏せるように』、との事です」


 そう言って、マルガネーテさんは左手に持っていた『飢餓ノ脇差』を見せてくるのだった。




 結局、模様替えする理由については聞けずじまい。俺が真意を知るのは、翌日の事である。




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連絡事項

 反響の多かったダイエットの剣こと、『餓鬼がきノ脇差』ですが、名前を間違えていた事に今更気が付いて、修正しました。正しくは『飢餓きがの脇差』です。

 飢餓の重棍と同じ系統なのに、間違えるとは……

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