第454話 正八面体の魔物マリス・エレマン
【魔物】【名称:マリス・エレマン】【Lv38】
・正八面体の魔結晶型魔法生物。大地で浄化しきれない悪意の塊である。高密度のマナで構成されており、属性によって色が変わる。マナの濃い場所にて強力な魔法を使われると、誘われるようにして顕現する。マナを求めてふよふよ漂っているが、人や魔物のマナを感知すると、敵味方を問わずに魔法攻撃する。この時、倒した者の残MPを吸収し、一時的に魔法陣への充填速度を大アップさせる。
魔力の篭った武器、スキル、魔法でなければ倒せない。
・属性:水
・耐属性:火
・弱点属性:土
【ドロップ:宝石】【レアドロップ:宝玉】
マリス・エレマンは、その金平糖のような角それぞれに、魔法陣を展開している。その数、8つ。最早、魔法陣で出来たサッカーボールのようだ。しかも、その中の3つはかなり大きく、ランク6の〈ツナーミ〉に違いない。しかも、初撃の〈アクアニードル〉乱射で、大角餓鬼を倒しているせいか、充填は極めて速い。つまり、猶予時間はあまりない。
覚悟を決め、右手に魔法陣を展開してから、矢継ぎ早に指示を出す。
「ヴァルトの情報は大体あっている。魔法を連射する魔物だから、俺が中に入って、引き付けるよ。二人は、その隙に魔力の籠った武器で攻撃してくれ。
フィオーレは、俺に水属性耐性の曲を〈コンセントレーション〉で頼む」
「〈水精霊のプレリュード〉だね!」
「ザックス様、大丈夫なんですか?」
「ああ、魔法に対する耐性は俺が一番だからな。ヴァルトより、俺が適任なんだよ。〈アリベイトマジック〉!」
心配するレスミアを安心させるように、属性ダメージを軽減するヴェールの奇跡を自分に掛けてから、宝箱部屋へ飛び込んだ。
「こっちだ! 宝石の化け物め! 砕いてアクセサリーにしてやる!」
〈挑発〉で注意を引き、駄目押しで〈指弾術〉で甲殻弾を撃ち込んだ。直径1m程の大きさの星型八面体なので、狙って当てるのは簡単だったが、魔法陣の奥の本体に当たっても揺らぎもしない。ただ、注意を引く事は出来たようで、マリス・エレマンは回転すると、小さな魔法陣を俺に向けて来る。そして、小さい魔法陣が青い光を発し〈アクアニードル〉の水の針を発射した。
それを、〈フェザーステップ〉で横に飛び避ける。しかし、逃げた先にも、小さな魔法陣を向けられて〈アクアニードル〉が発射された。更に〈ボンナバン〉で前に飛んで回避する。
5つの小さな魔法陣が絶え間なく〈アクアニードル〉を撃ってくるので、回避に手一杯だ。一応、〈ボンナバン〉で距離を移動すると、少しだけこちらを見失ようだが……その隙に〈聖光錬気〉を発動し、両手に白い光を纏う。アンデッド用のスキルであるが、魔力を纏うという点を利用するのだ。
〈アクアニードル〉をステップで回避し、カウンターで白い光を纏った甲殻弾を撃ち込んだ。魔法を撃ち終わり、魔法陣が消えた角へ吸い込まれるように当たると、甲高い音が響いた。
今度は効果有り!
被弾したマリス・エレマンの回転が少し止まり、当たった箇所に小さなヒビが入った。それに追撃する声が響く。
「〈ツインアロー〉!」
「喰らえやぁ!〈二天・流星落とし〉!」
二本の光る矢が角に撃ち込まれ、ヒビ割れを大きくする。次いで、跳躍したベルンヴァルトが、白い光を纏った飢餓の重棍をぶん投げた。二人とも、渡してあった銀カードで〈ホーリーウェポン〉を使ったようだ。現状、武器に魔力を纏わせるのは、コレか一部の攻撃系アクティブスキルしかないからな。
流星の如く落ちた飢餓の重棍が、マリス・エレマンへ直撃する……しかし、成果はヒビの入った角が1つ折れただけであった。結構な重量の飢餓の重棍が、当たったにも関わらず、質量で負けたように弾かれたのだ。その一方で、マリス・エレマンは回転が止まっただけで、空中に浮かんだままである。残りの魔法陣は7つ。
ただ、隙が出来た事には変わりがない。充填していた魔法を撃ち放った。
「〈魔攻の増印〉!〈ストーンジャベリン〉!」
本当は強力なランク7の〈グランドファング〉が良かったのだが、それでは充填速度がアップしたマリス・エレマンのランク6〈ツナーミ〉には速度で勝てない。その為、ランクを落とした魔法を選択したのである。
狙うはど真ん中!
魔法陣から射出された石の投げ槍は、一直線に飛んで行く。しかし、当たる直前にマリス・エレマンが、スーッと滑るように回避行動を取り……中心から外れて、星型八面体の端の方を貫いた。ヒビの入った角が壊れて落ちる。それに伴い、大きな魔法陣が一つと、小さな魔法陣が2つ消えた。これで破壊した角は4つ。半壊状態である。
スキルでの攻撃より魔法の方が、段違いにダメージが入った。弱点属性を突いたにしても、予想以上である。もしかして、中心を撃ち抜けたら、一撃で倒せていたのではないか?なんて、推測してしまう程だ。
で、あれば、次の手は決まっている。再度、逃げながら〈ストーンジャベリン〉を充填し始める。
何故逃げているかと言うと、マリス・エレマンが充填していた〈ツナーミ〉が完成したからだ。ゆっくりと回転しながら、2つの大きな魔法陣の狙いを定めてくる。俺が逃げ込んだのは、入口から対角方向。他のメンバーを巻き込まない位置へ誘導した。
2つの魔法陣が青い閃光を発し、怒涛の如く水が溢れる。水が
波に対して飛び込み、必死に泳ぐ。
幸いな事に、最初に襲ってくる属性ダメージは、あまり痛くなかった。HPも2割減った程度である。〈アリベイトマジック〉と〈コンセントレーション〉付きの〈水精霊のプレリュード〉で大分軽減されたようだ。
濁流の中を泳ぐ。流れるプールを、潜水で逆走している様な気分である。時折、横から、後ろからも水流が来るのは、部屋の中で水が渦巻いているせいだろう。暗いので、水中は見通しが悪いが、水底をチェーンスネークの死骸がゴロゴロと転がって行くのを見かけた時は、噴きかけてしまった。
そこで、ふと気が付いた。視界に映る〈敵影表示〉の赤点が、1つに減っていたのだ。どうやら、瀕死で生き残っていた筈の大角餓鬼3匹は、〈ツナーミ〉に巻き込まれて亡くなったようだ。南無。
……あっ! マリス・エレマンが倒したのならば、また充填速度がアップしてしまう!
泳ぎながら、右手に充填していた魔法陣をチラ見するが、もうちょい時間が掛かる。それを踏まえて、対抗策を練った。
魔法の効果が切れ、プールとなっていた水が、フッと消え去る。濁流の勢いが弱まっていた時から、予想はしていた。水底近くを這うように泳いでいたお陰で、両手両足で着地すると、直ぐさま起き上がって状況確認をする。
暗い部屋の中で唯一光るマリス・エレマンは、頭上の角に大きな青い魔法陣を展開していた。あの大きさは最近よく使うから知っている。ランク7〈アシッドレイン〉だ。
流石に、強酸の雨なんて喰らいたくもない。さっさと阻止するべく、ストレージからインク瓶を取り出した。それを、野球のボールに見立てて、〈投擲術〉のサポートも借りて投擲した。狙ったのは、〈アシッドレイン〉を充填している角である。
武僧の筋力値補正と、〈投擲術〉による剛速球は見事角に命中。インク瓶は粉々に割れて、中の黒い液体で、角全体を黒く染め上げるのだった。その途端に、〈アシッドレイン〉の魔法陣への充填が目に見えて遅くなる。
何を隠そう、アレは最近の綿菓子機研究に使っている、魔絶木の樹脂なんだ。
【道具】【名称:魔絶木の樹脂】【レア度:D】
・魔力を通し難い性質を持つ、魔絶木の樹液を加工した熱硬化性樹脂。目的の箇所に塗布し、軽く炙るか、天日干しする事で硬化する。魔力離散を防ぐ目的で、容器の内側に塗ったり、魔力配線を覆ったりするのに使われる。
俺は主に銀配線に塗って、被膜銅線みたいに使っている。要は電気配線に使われる絶縁用ゴムの、魔力版だな。
これを、魔法陣に魔力を充填する箇所に塗布したら、どうなるか?
結果は見てのご覧の通りである。大容量の魔力は少し通してしまうが、低出力の魔力ならば殆どカットしてしまう。現に、〈アシッドレイン〉の魔法陣は遅々として充填が進んでいなかった。
……良し! 後は、こっちの〈ストーンジャベリン〉が完成するまでに、向こうの動きを止めたいところだ。
最初の様に、避けられては溜まらない。現に今も、残った4つの角の内、3つで〈アクアニードル〉を交互に撃ってきているのだ。〈フェザーステップ〉で避けてはいるが、中々接近できない。〈ボンナバン〉で前に出ようにも、絶えず回転して、俺に狙いを定めて来るから隙が無いのだ。
そんな時、マリス・エレマンを挟んだ反対側から、ベルンヴァルトが突進してきているのが見えた。
「吹き飛べぇぇ! 〈一天・金剛突撃〉!」
ノックバック効果を持った集魂玉スキルだ。右手の集魂玉が輝くと、大盾を構えたまま急加速し、体当たりをぶちかました。金属の大盾と鉱物っぽいマリス・エレマンが衝突し、派手な激突音が響く。
……ナイスタイミングと言いたいところだが、ちょっと早い!
ワンドでなく右拳に魔法陣を出しているせいか、いつもより少しだけ充填時間が掛かっているのだ。後数秒で〈ストーンジャベリン〉が完成するのに……しかし、折角のチャンスだというのに、マリス・エレマンの復帰が早い。交通事故かと思う程の音にも拘わらず、吹き飛んだのは1m程のみで、地面に落下する直前に浮き上がる。
それでも、〈アクアニードル〉の弾幕が止まったのは確か……咄嗟の閃きを信じて、前に〈ボンナバン〉で飛んだ。数mを一瞬で跳躍し、マリス・エレマンの目前へと迫る。この状況での最善は、数秒を稼ぐために、更なる隙を作る事である。
ぱっと見で狙うべき場所を判断した。4つ角の先にある魔法陣の内、魔力の充填を始めたばかりの1つを狙い、右フックを叩きこんだ。
俺の充填完了間近な魔法陣と、マリス・エレマンの魔法陣が激突する。そして、魔法陣をパリンッと割りつつ、青い結晶を殴り倒した。只の右フックなので、そこまでの威力は無い。威力で言えば〈一天・金剛突撃〉の方が上だろう。しかし、魔法陣を打ち砕いた一撃は、マリス・エレマンを地面へ落下させたのだった。
【スキル】【名称:魔光相殺】【パッシブ】
・拳の先に魔法陣を出し、そのまま格闘攻撃する場合、充填された魔力の分だけ攻撃力を上げる。
また、その状態で敵の魔法陣を攻撃すると、MPの分だけ相殺し発動を遅らせる。こちらが上回った場合は、敵の魔法陣を破壊して、短時間スタンさせる。
武僧のパッシブスキルを利用したのだ。相殺に〈ストーンジャベリン〉用の充填魔力が減ったが、相手側が殆ど充填されていなかったのが幸いした。追加で数秒充填すれば、間に合う。
それでいて、スタンしたマリス・エレマンは、地面に落下したまま動かない。結晶のような身体の中心に狙いを定め、0距離〈魔攻の増印〉付き〈ストーンジャベリン〉を撃ち放った。
すると、先程までの頑丈さはどこへやら。あっさりと、ど真ん中に風穴があくと、結晶全体にヒビ割れが発生し、バラバラに崩れ去った。
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