第452話 コンセントレーションでゴリ押し

【魔物】【名称:大角餓鬼(重戦士)】【Lv37】

・大柄な人型タイプの魔物。小角餓鬼のリーダーである為、大角餓鬼はパーティーに1匹しか登場しない。この個体は重戦士タイプであり、相応の武器防具を備えており、レベルが上がると武器の質や腕前が上がる。また、大角餓鬼の固有スキルには貪欲な渇きの効果があり、武器や防具で触れただけでも精気、HPを吸収するので注意が必要。

 リーダーらしく小角餓鬼を統率して連携を取るが、頭の二本角が折られるとステータスが激減し、配下の小角餓鬼が反逆し始める。

※現在、チェーンスネークを装備中。

・属性:風

・耐属性:土、火

・弱点属性:無し

【ドロップ:装備品、大銅貨5枚】【レアドロップ:餓鬼の大角】


 牛頭鬼を〈詳細鑑定〉した結果だ。弱点だった火属性が、耐属性へと替わり、弱点が消えている。チェーンスネークの弱点である水属性は、上書きされないようだ。これでは等倍ダメージな水属性以外に攻めようがない。

 取り敢えず、魔法陣に水属性魔法を充填し始めてから、定番の指示を出す。


「ヴァルト、拘束しろ!」

「おうよ! 〈茨ノ呪縛〉!」


 ベルンヴァルトの右手の甲に嵌められた、集魂玉が光を放つ。すると、牛頭鬼の足元から茨の枝が伸び、足に絡みつき始める。ただし、いつもなら全身拘束なのだが、今回は下半身のみである。手持ちにあるのはチェーンスネークから採れた集魂玉しかない為、〈魂ノ戒メ〉が発動していないせいだ。


【スキル】【名称:茨ノ呪縛】【アクティブ】

・集魂玉を1個消費して発動する。対象の足元に茨を召喚して、拘束する。

 この時、〈魂ノ戒メ〉が発動している場合、効果がアップして全身を拘束する。


 しかし、牛頭鬼の歩みを止めるだけなら、それで十分。つんのめり、右手の金棒を地面に突き立てている隙を狙い、〈ボンナバン〉で前に出た。狙いは、牛頭鬼の右脇を抜け、背後を取る事である。視界がブレる程の高速で、前に飛ぶ。そして、停止した直後に、振り向きながら短剣を投擲した。


「〈影縫い〉!」

「〈ツインアロー〉!」


 牛頭鬼の足元の影を貫き、短剣に込めた魔力で拘束する。更に、それに合わせてレスミアも、角狙いの矢を射ったようだ。牛頭鬼の背中がデカいせいで見えんけど。

 数瞬の後に、金属音……着弾の音が響いた。その間に、手に持っていた黒豚槍を地面に突き刺し、手放してから更なる追撃を行った。


「〈双竜脚〉!」


 左右同時のハイキックで、牛頭鬼の頭の角を折りに行く。軽く飛び上がりながら、身を捻り右のハイキック……したのだが、牛頭鬼のマフラー、もとい首元に巻き付いていたチェーンスネークが邪魔をした。尻尾を盾の様に構え、ハイキックの軌道に割り込む。威力的に受け止めきれる筈もなく、鎖の尻尾ごと角にはヒットしたのだが、威力は減衰されたのか折るには至らない。そこから、刹那の時間で左のハイキックを叩きこむが……こちらはチェーンスネークの頭が邪魔をした。


 結果として、チェーンスネークが気絶して首元から、剥がれ落ちて行ったが、肝心の牛頭鬼の角は両方とも健在である。更に、そればかりか、拘束した筈の牛頭鬼が動き始めた。咆哮を上げながら右手の金棒を振り回し、追撃に来ていたベルンヴァルトを攻撃。そのままの勢いで、背後に居る俺まで薙ぎ払いに来る。


 予想外の出来事に驚きながら、着地と同時に槍を掴み、〈ボンナリエール〉で後ろに逃げた。流石に盾も無しに金棒の一撃を喰らいたくはない。


 ただ、後ろに下がった事で、戦況が良く見えた。

 一番の問題は、牛頭鬼の足元に居る、短剣を咥えたチェーンスネークである。多分、腰に巻き付いていた奴だろう。下に降りて、〈影縫い〉の短剣を抜き取ったに違いない。短剣を捨てたチェーンスネークは、茨に噛み付いている辺り、結構賢そうである。


 茨の拘束が1本1本噛み切られ、徐々に牛頭鬼が動きを取り戻していく。開幕に魔法でダメージを負っている筈なのに、ベルンヴァルトと正面から殴り合っているのは流石である。更に、レスミアの援護射撃が加わるが、右腕に巻き付いていたチェーンスネークが尻尾を伸ばして、盾になっていた。


 ……重戦士型なだけあって、元々固いのに、チェーンスネークが合体すると益々厄介だな。

 ただ、それでも付け入る隙はある。右手に充填待機させたままの魔法陣を構えた。


「ヴァルト! 一旦離れろ! ……〈ウォーターフォール〉!」


 俺の警告に、ベルンヴァルトがバックステップで離れたのを見てから魔法を発動させた。滝のような大瀑布が、牛頭鬼の頭上から流れ落ちる。牛頭鬼にとっては、弱点でもない等倍ダメージの属性魔法であるが、チェーンスネーク達は弱点のままだ。上から流れ落ちる濁流にのまれ、チェーンスネークが牛頭鬼の身体から外れて流れ落ちた。


 〈ウォーターフォール〉の効果が終わると、3匹のチェーンスネークは、地面に転がっていた。ただ、予想よりも流されてはいない。黒魔鉄製の身体が重かったせいだろうか?

 取り敢えず、理由を推察するのは後! 〈ボンナバン〉で急接近した。


「今度こそ! 〈影縫い〉!」


 急停止しながら振り上げた黒豚槍を、茨に噛み付いたまま転がっているチェーンスネークに突き立てた。胴体中央のコア諸共に、牛頭鬼の影を貫き、再度拘束する。最早、障害は無い。


「〈双竜脚〉!」

「〈疾風突き〉!……こいつもオマケだ!〈二段撃〉!」


 俺が牛頭鬼の角を二つともへし折り、少し遅れてベルンヴァルトの突きが頭に突き刺さる。身体が萎み始めた直後だったので、耐えられる筈もなく、牛頭鬼の頭は爆ぜ割れた。


 後は残敵掃討である。足元に転がった2匹のチェーンスネーク目掛けて、〈二段撃〉が振り下ろされるのだった。





「結構面倒な蛇ですよね。コアを隠すように巻き付いていたから、狙えませんでしたし……〈スナイプアロー〉で、大角餓鬼の腕ごと貫く事は出来るかなぁ?」


 合流したレスミアが、あまり活躍出来なかったと嘆くと、ベルンヴァルトも苦笑して赤揃えの肩アーマーを小突いた。


「ああ、俺も大角餓鬼と殴り合っているところを邪魔されたぜ。腕に巻き付いてた蛇が急に噛み付いて来たからな。まぁ、新しい鎧にゃ、歯が立たなかったみたいだけどよ。

 それで、どうする? なんか新しい作戦はあんのか?」

「ん? 単純な力押しならあるよ。水属性魔法を使えば良い」

「それ、最初に使って倒せなかったじゃねぇか……」


 ベルンヴァルトが言い返して来たのは、チェーンスネークとの初戦の事だ。確かに〈魔攻の増印〉付きの〈アシッドレイン〉で弱らせたものの、一撃では倒せなかった。しかし、牛頭鬼の弱点である火属性が選択肢から消えたとしても、チェーンスネークの水属性が弱点から消えたわけではない。

 〈ウォーターフォール〉で合体を解除する程度には、効果が望めたからだ。その点を踏まえて説明し、これからの対処方法を話した。


「……そんな訳で、開幕に〈アシッドレイン〉を撃つのがベストだな。ただ、その時にバフは盛り盛りにする。具体的には〈魔攻の増印〉と、フィオーレの〈魔道士のラプソディ〉。それでも駄目なら〈コンセントレーション〉を追加って具合にな。

 効果は実戦で試すけど、一撃で一掃出来なくとも、瀕死くらいはなると思うよ」

「えー、アレ結構重いんだけどな~」


 〈癒しのエチュード〉を弾きながら、フィオーレが億劫そうにぼやいた。詳しく聞いてみたのだが、〈コンセントレーション〉は発動すると、効果対象となる祝福の楽曲の消費MPが、倍くらいに増えるらしい。むろん、高いレベルで覚えたスキルの方が、消費MPが多い傾向にある。ただ、その消費量は定量的に分かり難いので、消費した感覚とMPバーの減り具合から判別するしかない。その為、〈コンセントレーション〉を使った演奏が、何回行えるのか把握する意味でも、試すよう説得した。





「いくよ~〈コンセントレーション〉! ……からの~〈魔道士のラプソディ〉!」

「〈魔攻の増印〉! 〈アシッドレイン〉!」


 打ち合わせをしてから2戦目。1戦目では〈コンセントレーション〉無しを試して、倒せなかった為、2戦目では全バフ入りで試してみた。大部屋の上空に暗雲が立ち込め、強酸の雨を降らし始める。


 強酸の雨を浴びた牛頭鬼は、咆哮を上げながら逃げ惑う。その身体に巻き付いていたチェーンスネークを落とし、途中からタワーシールドを掲げて蹲り、動かなくなってしまった。

 一方、地面に落とされたチェーンスネーク3匹は、牛頭鬼の後を這って追っていたが、遠くに落とされた2匹は途中で力尽きて動かなくなる。最後の1匹は、蹲った牛頭鬼の下に潜り込んだ。 

 総じて、以前使った〈アシッドレイン〉よりも、煙が立ち込める量が増えている気がした。もしかすると、バフで強化されたのは、発動時の属性ダメージだけではなく、強酸の雨もパワーアップしていたのかも知れない。


 雨が止んでから、近付いてみた。〈敵影感知〉では、未だに反応がある為、牛頭鬼は生きている。ただ、傘替わりに掲げていたタワーシールドがボロボロに溶け落ち、鎧兜も穴が空いている様相である。浅く呼吸を繰り返す様は、痛みに耐えているだけで、近付いた俺達を気にする余裕が無いように見えた。

 明らかに、以前試し打ちをした時よりも威力は上がっているのだが、なんというかギリギリ死んでないだけ可哀想な気がする。ベルンヴァルトに頼んで介錯してもらうと、その下からは、同じく事切れたチェーンスネークが転がっていた。こちらも鎖がボロボロで、今にも千切れそうである。

 検死ではないが、裏返して弱点のコアの様子を見てみると、半分溶け掛けていた。弱点のコアは腹にあるので、強酸の雨の中を這いずり回っているうちに、地面に接触してダメージになったのだろう。


 若干、可哀想な惨劇となってしまったが、魔物だからと割り切る事にする。魔法一発で倒せる事の方が重要であるからだ。牛頭鬼が瀕死で生き残ってしまうが、止めを刺すだけならば問題無い。


 むしろ、生き残ってしまう事が気になったので、少し呪文威力について計算をしてみた。今までの経験からなので、正確な数字は出せないが、多分〈魔攻の増印〉は1.5倍くらいのダメージアップ、〈魔道士のラプソディ〉も同じく1.5倍くらいのダメージアップで、重複可。〈コンセントレーション〉で〈魔道士のラプソディ〉の効果が1.75倍~2倍くらいには上がっていると思われる。

 まぁ、敵のレベルだとか種類によっても変わるだろうが、弱点無しの敵であっても、3重バフを掛ければ、ランク7魔法で、殲滅する事は出来そうだ。


 そのお陰で、37層の戦闘は楽に進む事が出来た。

 ただし、毎回使うとMP消費が激しいけどな。MP回復手段を作っておいて良かった。

 余談ではあるが、数戦毎にフィオーレが、マナグミキルシュを強請りに来るようになってしまった。いや、欠食児童がおやつを強請り来るのはいつもの事か。

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