第451話 鉄鎖なチェーンスネークは、鉄砲ではありません

 レスミアが見事〈スナイプアロー〉で、チェーンスネークを1匹倒した。しかし、攻撃したせいで〈潜伏迷彩〉の効果は切れている。残りの3匹がレスミアに気が付き、移動を始めるのだった。


「〈魔攻の増印〉! 〈アシッドレイン〉!」


 そこに、弱点である水属性魔法を発動させた。晴天だった空に黒い雲が現れる。すると、通路から小部屋まで、全ての範囲で強酸性の雨が降り始めた。無論、俺達の頭上のみに見えない結界が傘として広がり、雨の影響を受けない。


 その一方で、チェーンスネークは全身から煙を吹き出して、のたうち回る……程では無く、魔法が発動した直後の属性ダメージで怯んだだけであり、少しするとジャラジャラと金属音を引き摺りながら、こちらへ向かっていた。餓鬼共が、のたうち回る程の強酸な筈なのだが……金属ゆえに痛覚が無いのだろう。

 ついでに魔法耐性が高いというのも本当のようだ。〈魔攻の増印〉付きのランク7魔法は、大角餓鬼だって倒せるのになぁ。

 チェーンスネークとは、まだ距離がある。この隙に〈詳細鑑定〉を掛けた。



【魔物】【名称:チェーンスネーク】【Lv37】

・鎖で構成された蛇のような、無機物系魔法生物。胴体中央のコアを破壊しない限り動き続ける。黒魔鉄の強度と魔法耐性を持つ為、防御に秀でた魔物と言える。攻撃方法は、主に噛み付きと、刃状に尖った尻尾を投擲する。短くなると、同族同士で合体する他、飛ばした鎖部品を回収してくっ付ける事もある。

 他種族とパーティーを組んでいる場合、巻き付いて防具替わりになる。その場合、巻き付いた相手にチェーンスネークと同じ魔法耐性を加える。

・属性:火

・耐属性:風

・弱点属性:水

【ドロップ:黒鉄鎖てっさ】【レアドロップ:魔結晶】



 大体は事前情報の通りだが、同族と合体するとか部品回収は、初耳である。骸骨餓鬼のように、再生能力付きと考えておいた方が良いだろう。何はともあれ、赤いコア狙いな事に変わりはない。

 そして、魔法を使う魔物ではないので、こちらから近づく必要も無いな。〈アシッドレイン〉の雨に打たれて、強度が弱くなるので、向こうから近付いて来るのを待った方が良い。

 戻って来たレスミアに、弓で狙えるか聞いてみたところ、眉をひそめられてしまった。雨に打たれているチェーンスネークが移動しているのが問題らしい。


「腹這いで進んで来ているので、弱点のコアが下になって狙い難いです。曲射で上から狙うにしても、普通の階層は天井が低いですし、背中側からだと鎖を射抜いてコアが狙えるかは微妙ですね」


 普通に狙ってみると言ってから、弓を番える。そして、〈ツインアロー〉を撃ち放った。飛んで行く矢は、『餓鬼の盾割り矢』である。勢いよく飛んで行ったノミの形をした矢は、地面を這うチェーンスネークを捉えた。

 蛇の首が飛んだ。

 首とコアの真ん中辺りに当たり、鎖を砕いたのだ(並行して飛んでいた〈ツインアロー〉の魔力矢は外れたもよう)。転がった首は動かなくなり、強酸の雨で煙を上げている。

 しかし、コアがある胴体は、少し怯んだものの、依然としてこちらへ向かっていた。なかなかの執念&しぶとさである。ちょっと悔しそうなレスミアを援護するべく、充填していた魔法第二弾を発動させた。


「〈アクアジャベリン〉!」


 青いクリスタルのような投げ槍を撃ち放った。狙うは首無しのチェーンスネークである。首が無くなった分だけ、コアが狙い易いと思ったのだが、杞憂だったようだ。〈アクアジャベリン〉は残った首を貫通し、コア諸共に貫いたのである。

 魔法耐性が高いと言っても、弱点属性の魔法2発は耐えられなかったようだ。良いデータになった。


 残るは2匹。レスミアには、下がる様に指示を出す。


「後は俺とヴァルトで1匹ずつ相手をする。レスミアは後ろでフィオーレの護衛を頼む」

「はい!」

「おう、ぼちぼち雨も止みそうだな。どうれ、ぶっ叩いて壊すか」


 ベルンヴァルトが天井の雲を見ながら、そう言った。確かに、黒い雲が薄くなってきており、雨足も弱まっている。〈アシッドレイン〉の効果時間が終わるようだ。

 そんな小雨の中、2匹のチェーンスネークが近くへとやって来た。身体の各所から煙を上げ、鎖も痛んでいる様子が見受けられる。ただし、少し離れた所で停止する。目算で8m程離れた所なので、俺の槍でも間合いの外だ。スキルを使えば届くが……少し様子を見ていると、急にチェーンスネークが、その場で回転した。蛇身じゃしんを捻る様に回転させ、遠心力を使って尻尾を大きく振る。すると、尻尾の先端が千切れ飛んできた。


 ……尻尾の投擲!

 鑑定文を読んでいたお陰で、反応出来た。〈フェザーステップ〉で軽く横に移動して回避……したのだが、後ろから野次が飛んできた。


「あっぶな!! ちょっとザックス! 後ろにアタシ達が居るんだから避けないでよ!」

「いえ、それほど至近弾では無かったので大丈夫ですよ~。私達は壁に寄っておきますので、気にしないで下さい!」


 一応、〈敵影表示〉に映る、味方の光点の位置を把握していたので、避けても大丈夫だと思ったのだけどなぁ。まぁ、レスミアが大丈夫というのだから、大丈夫だろう。多分フィオーレは、ギリギリに回避するような戦闘経験が少ないので、怖く感じただけだろう。レスミアに任せておけば、フォローしてくれる。


 前を向いたまま、後ろに向かって手を振っておいた。

 それを油断と見たのか、チェーンスネークがもう一回転する。飛んで来る尻尾を、槍を立てるように構え、柄で弾く。弾いた尻尾は、やじりの真ん中をくり抜いた様な三角形な鎖である。なるほど、手裏剣みたいな物か。2回目ではあるが、観察する事で攻略法が見えて来た。

 ……その攻撃は身体を回転する分、隙が大きいな!

 回転した後の立て直しなのか、とぐろを巻いて蛇身を立てている。つまり、コアが丸見えだ。


「〈疾風突き〉!」

「〈ランスチャージ〉!」


 ベルンヴァルトの方が先に、スキルを使って突撃した。一拍遅れて発動した俺の方は、今朝〈遊び人の気まぐれスキル〉で当てた奴だな。

 8mという、間合いの外であっても、突撃系のスキルであれば、間合いであるのと同じである。風の早さで突撃したベルンヴァルトは、飢餓の重棍を突き出してチェーンスネークを弾き飛ばす。硬直時間の少ない〈疾風突き〉は、直ぐに追撃へ移る事が出来る。奥へ転がって行くチェーンスネークを追い、前に跳躍したベルンヴァルトは、大上段からの振り下ろしで蛇身全体を砕くのだった。


 豪快なあっちとは違い、俺の方はスマートに倒していた。〈ランスチャージ〉で加速してから、貫通効果持ちの黒豚槍、フェケテシュペーアでコアを貫くだけで終わったからな。コアもダメージを負った様に傷が入っていたためか、予想以上に簡単に砕く事が出来たのである。

 〈ランスチャージ〉はバイクに乗っていないと、硬直が長いからな。一撃で終わらせる必要があったんだ。



 終わってみれば、初戦闘にしては、楽な部類だったな。強さとしては小角餓鬼レベルか? いや、〈アシッドレイン〉で弱らせたせいもあるだろうから、小角餓鬼レベルは侮り過ぎだ。しかし、大角餓鬼よりは弱いのは間違いない。

 そんなチェーンスネークのドロップ品は、黒く細い鎖が3本と魔結晶が1個であった。



【素材】【名称:黒鉄鎖てっさ】【レア度:C】

・黒魔鉄とチタンの合金で作られた細身の鎖。アクセサリーに使うには少々無骨ではあるが、防具素材として人気がある。それは、黒魔鉄由来の魔法に対する耐性が少しあり、チタンの合金にする事で軽量化を図っているからである。束ねる事でチェーンメイル、服に縫い合わせて簡易防具になる。また、重厚な鎧の関節部分に使う事で、可動域を確保する事も出来る。

 なお、一定量以上の黒鉄鎖を使った防具には、毒耐性の付与スキルが発現する事がある。



 チェーンメイルの素材か……確か忍者が着る鎖帷子も、類似品だっけ? 詳しくは知らないけど。某忍者漫画で見たような……いや、アレは網タイツだったか。

 それは兎も角、2m程の長さの細い鎖が3本である。まとめて持っても、大した重さではない。この軽さなら、女性でも装備出来そうな気がする。そんな話を振ってみたのだが、微妙な反応が返って来た。


「アタシはパス! 踊るのに、余計な重りは要らないよ」

「う~ん。私も回避重視ですから、重くなるのはちょっと……。それにソフィアリーセ様が準備して下さったドレス装備もありますし」

「そう言う、リーダーの防具を強化したらどうだ?

 俺も新しい鎧になったんだ。自分の装備も見直す時期だろ」

「あー、考えていない訳でもないんだけどな。ウーツ鋼で追加装甲とかさ」


 ベルンヴァルトのジャケットアーマーに付いていた、硬革部品の応用だな。アレを参考にして、ウーツ鋼で作成してもらえば、部分的とはいえ防御力は上がる。

 ただ、それを黒魔鉄に置き換えると、軽くなる代わりに強度が落ちるんだよな。黒魔鉄合金なので、ウーツ鋼には敵わない。結局、ウチのパーティーでは使い道が無いかな?


 そんな反省会をしつつ、先へ進んだ。




 次に見かけたチェーンスネーク4匹は、魔法を使わずに戦ってみた。〈アシッドレイン〉の防御力低下が無いせいか、その鎖の蛇身は意外と固い。加えて、鎖状の構造からか、斬撃も突きも身体をくねらせて、威力が殺されてしまう。貫通持ちの黒豚槍でも、〈ランスチャージ〉の速度と威力が無いと、一撃で鎖を破壊するのは難しかった。

 色々と試してみたが、素直にコアに向かって〈ランスチャージ〉するか、最初にベルンヴァルトがやっていたように、地面に転がして、逃げられないようにしてから叩き潰すのが効果的。

 他にも、あまり一般的な方法ではないので、ネタにはし難い戦術が一つ。〈指弾術〉による甲殻弾の射撃である。あまり離れていると、身体をくねらせるコアに弾かれるだけだが、3mくらいの近距離ならば威力は十分だった。ただし、腹這いで移動している時とか、背中の鎖を貫く程の威力は無いので、尻尾を撃ち出した後の隙に、カウンターでコアを撃つくらいしかチャンスはなかったけどな。




 近くにあった鉱物系採取地で、採掘を楽しんだ。フェッツラーミナ工房に依頼をした際、手持ちの黒魔鉄鉱石とウーツ鉱石を渡してしまったので、補充できたのは助かる。目新しい鉱石は手に入らなかったのは残念だけどな。


 そうして進んだ先の大部屋に、牛面な大角餓鬼が一人ぽつんと佇んでいるのを発見した。〈敵影表示〉でも光点は一つしかないし、大部屋の中を軽く見回しても、他の魔物は見当たらない。レア種でもない限り、魔物もパーティーを組んでいる筈なのにな?

 取り敢えず、〈エクスプロージョン〉を充填しながら、相談する。罠じゃないかとか、またニンジャみたいのが隠れているんじゃないかとか、無視しよう!とか。


 ただ、そんな相談の声が聞こえたのか、魔法陣の光を見付けたのか、牛頭鬼がこちらへ気付いた。


「グガアアアアッッッーーーーーー!!!」


 耳を覆いたくなる程の咆哮を発して、〈ヘイトリアクション〉を掛けて来た。自分の中に殺意が芽生え、牛頭鬼から目が離せなくなる。


「チッ! 気付かれたか。時間稼ぎに前に出るぞ!」

「待った! 少し、落ち着けって。魔法を使う敵が居ないのだから、こっちから近付く必要は無いよ」

「むっ……それもそうだな。

 しっかし、何度喰らっても挑発の効果は慣れないぜ……」


 ベルンヴァルトが部屋の中央に居る牛頭鬼を睨み付けながら、ぼやく。性格的な物か、種族的な物かは分からないが、挑発系のスキルに抵抗できる程度にも、差があるのだよな。ベルンヴァルトやフィオーレは突っ込みたがるが、俺やレスミアは、少し目を晒すくらいは出来る。

 今も、周囲に目を配るが、追加の敵は居ないようだ。


「もう! 行くよ!〈魔道士のラプソディ〉!」

「〈魔攻の増印〉! 〈エクスプロージョン〉!」


 こちらへ走って来ている牛頭鬼に対し、必殺の魔法を叩きこんだ。巨大な火球が、大部屋を丸ごと包み込む。火属性が弱点な牛頭鬼は、バフ付きのランク7魔法には耐えられないのは、今まで散々使って来たので知っている。バフはどっちか一つで良かったなと、考えていると、炎の中で異変が起きていた。普段なら炎に炙られてうずくまる牛頭鬼が、歩みを止めないのだ。走るのは止めたようだが、タワーシールドを構えたまま、こちらへとゆっくり歩いてきている。

 火球が圧縮され、小さくなり、大爆発を起こす……しかし、爆炎の中から牛頭鬼が歩み出て来た。


 全身煤だらけではあるが、五体満足である。掲げていたタワーシールドを下げ、右手の金棒を構え、牛顔を歪ませて笑い声を上げた。

 その声に合わせて、3つの影が動き出す。牛頭鬼の首元、右の二の腕、腰辺りからチェーンスネークが鎌首をもたげて、こちらを威嚇し始めたのだ。


『他種族とパーティーを組んでいる場合、巻き付いて防具替わりになる。その場合、巻き付いた相手にチェーンスネークと同じ魔法耐性を加える』


 鑑定文に書かれていたのは、この事か!

 いや、てっきり1匹が巻き付くものだと、勝手に推測していたのだが、3匹全部が巻き付いているとは……

 〈敵影表示〉の光点も、4つが重なっていたため、一つに見えたようだ。加えて、チェーンスネークは火属性に耐性がある。牛頭鬼の火属性弱点を、火属性耐性に書き換えて〈エクスプロージョン〉を耐えきったのだろう。


 実質、弱点無しとか、面倒くさいなぁ。





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小ネタ

 唐突にクイズです。

 『一定量以上の黒鉄鎖を使った防具で、毒耐性が発現するのは何故でしょう?』

 ヒントは話タイトル。










 正解は、てっさ(河豚)を使っているから。

 関西では河豚刺しの事を、当たると死ぬから『てっぽう』、それが転じて『てっさ』と呼ばれています。

 そして、河豚は食料である貝などの微毒を蓄積して、河豚毒となるそうです。

 

 なので、沢山黒鉄鎖を使うと毒耐性が付くと。

 唯の言葉遊びですねw

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