第437話 目立ちたがり屋の手裏剣とレベル35の新スキル

 レスミアが刺さっていたサーベルを引き抜くと、ニンジャ餓鬼の上半身がガクンと倒れた。下半身は茨の枝で拘束されたままなので、180度のお辞儀をしているようで、可笑しな感じだ。忍者は挨拶が大事ってな。


 既に霧散化し始めていた。それを見届ける前にレスミアが駆け寄って来る。先程までの凛々しさはどこに行ったのか、俺の右腕の怪我を見て、あわあわしている。


「ザックス様! 血が溢れたままですよ!

 早く〈ヒール〉を! あ、ポーションの方が早いか! ポーション、ポーション!」

「うっわ、痛そう~。大丈夫? 骨までいってない?」

「レスミア、ポーションはいいから、落ち着けって。先に〈アンティセプス〉!」


 ワンドの先の魔法陣から紫色の光が出た。それを傷口に当てて、消毒とする。いつだったか、フノ―司祭に聞いた、傷の手当の順番である。ベルンヴァルトも呼び寄せて、同じく傷口に〈アンティセプス〉を掛けておく。こちらは先にポーションを飲んでいたのか、血は止まっている。ただし、右腕の中ほどに、穴が空く程の大怪我だ。


「いつつ……あの野郎、短剣を突き刺すと同時に、抉りやがってな。このざまだ」

「ああ、短剣術にあったな、そんな技。念の為、〈ディスポイズン〉も掛けておくよ」

「念入り過ぎないか? 毒より、早く〈ヒール〉くれよ」

「……そうだな。解毒は後にするか」


 視界に映る〈パーティー状態表示〉には、状態異常を示すアイコンは出ていない。ただ、相手が忍者だったので、少し心配だったのだ。〈ヒールサークル〉を充填しながら、ニンジャ餓鬼について少し話す。

 〈詳細鑑定〉の情報だけでなく、日本の忍者についてもだ。俺の記憶が確かなら、忍者は毒のスペシャリストでもある。短めの忍者刀や、手裏剣は攻撃力が低い分、毒物を塗って敵を倒すとか。

 火遁の術とか、水遁の術なんてのもあったが、アレは逃げるための遁術の一種と、某忍者漫画で読んだ。火蜥蜴の幻影は、なんかコレジャナイ感がする。アメリカンなニンジャだからだろうか?

 総じて、剣技主体の侍に対し、搦め手主体の忍者といった感じである。そんな話をすると、ベルンヴァルトは首を傾げた。


「さっきの奴が敏捷と搦め手が凄かったのは認めるが、侍は剣技か? 鬼侍は豪快に戦うもんだぜ?」

「ああ、サードクラスの鬼侍の事じゃなくて、剣客の方だな。剣客も侍の一種だから。俺はそっちのイメージで話してたよ。

 〈癒しの聖印〉!〈ヒールサークル〉!

 ……ふう、痛みは引いたな。念の為に造血の奇跡〈インクリースブラッド〉!

 ついでに、フィオーレは手裏剣を受けたみたいだから、念の為に〈ディスポイズン〉っと」

「えー、毒って感じはしなかったけどね。

 でも! せっかく作ってもらった衣装に穴が空いたんだよ! ホラ!」


 そう言って、肩口や腕を見せてくる。ダンス衣装のようなフェアリーチュチュの指差す辺りには、少しだけ血が滲んでいる。フィオーレが衣装を引っ張ると、数㎜くらいの穴が空いていた。

 いや、バッサリ斬られた俺の右腕に比べりゃ軽傷じゃないか。そう思って、俺も右腕……斬られたグローブから、ジャケットの腕を見せると、フィオーレは憤慨した。


「衣装だけじゃなくて、アタシの玉肌に傷がついたんだから、やり返したかったの!」

「アハハ! 花乙女の花弁の防御力のお陰で、先端がちょっと刺さっただけで済んだんですよ。ポーションで直る程度の傷でした。まあ、気持ちは分かるけどね」


 まぁ、女性だからしょうがないか。その程度の穴ならば、〈簡易手入れ〉で直ると教えると、フィオーレは胸をなでおろした。むしろ、ざっくり斬られた俺とベルンヴァルトの装備の方が心配だけどな。〈簡易手入れ〉で直ると良いんだが。



 ドロップ品は、ニンジャ餓鬼が投げていた手裏剣だった。レアドロップの『餓鬼ノ忍者刀』の方が良かったなぁ。多分、リプレリーアから聞いた武器だと思ったのに。(※320話)



【武器】【名称:曳光手裏剣】【レア度:C】

・魔力を込め、投擲するとピカピカ光る四方手裏剣。切れ味や攻撃力よりも、敵を威嚇する意味合いの方が強い。



 只、光るだけの武器のようだ。ニンジャ餓鬼は、カウントを稼ぐのに連射していたようにも見えた。このくらい階層だから、光る手裏剣でわざと盾で防御させてカウントを進め、防御貫通付きの短刀でバッサリやる戦法だったのだろう。

 強敵ではあったが、種は割れた。次に戦う時は、さっさと広範囲魔法で空蝉の術を剥がして、拘束コンボから倒すのが吉である。まぁ、『数多の同胞が戦う気配を感じ、祭りと勘違いして参戦する』なんて記述から、サクランボ狩りをしていると、また出て来そうなレア種だからな。


 今日の目的だったキルシュゼーレは、山ほど採取出来ている。強敵だったレア種との戦いを終えた事で、緊張の糸も切れた。対策を話し合いながら、今日は帰る事にした。




 本日のレベル変動は以下の通り。アンデッド共を無双ゲームかと思えるくらいに(経験値増5倍付きで)倒したので、レベルアップは多い。


・基礎レベル36→37     ・アビリティポイント47→48


・剣客レベル1→36      ・トレジャーハンターレベル36→37

・軽戦士レベル36→37    ・魔法戦士レベル36→37

・重戦士レベル33→37    ・賭博師レベル33→37

・遊び人レベル30→36    ・新興商人レベル33→36

・熟練職人レベル33→36   ・鍛冶師レベル30→35

・採掘師レベル31→35    ・罠術師レベル34→37



 剣客レベル30では、筋力値アップ大と、新スキルを覚えた。



【スキル】【名称:血吸いの妖刀】【パッシブ】

・抜刀術で敵にダメージを与えた際、自身のHPを少し回復する。



 先程の戦闘でも攻撃出来ていれば、このスキルで回復が出来たのかも知れない。右腕を負傷して刀が持てない状態だったのは、痛い。回復率とかのデータを得る良い機会だったのにな。

 因みに、類似スキルとして重戦士の〈ブラッドウェポン〉がある。あっちはアクティブスキルで、剣の色まで変わるが、こっちの〈血吸いの妖刀〉はパッシブスキルなせいか、武器に変化は無い。〈ブラッドウェポン〉の方が、見た目が妖刀っポイけどな。まぁ、パッシブスキルで色が変わると、武器を変えても新鮮味が無くなるので仕方がない。


 剣客レベル35では、新スキルを2つ覚えた。



【スキル】【名称:虎走り】【アクティブ】

・対象の足を狙い、動きを鈍らせる抜刀術。虎の如く、獲物を確実に狩るための事前準備である。

 攻撃対象の足、もしくは脚に分類する箇所に限り、攻撃力と切断力が上がる。終了後は、自動で納刀する。



 トラバサミといい、虎は足元を攻撃するものなのだろうか?

 それは置いておいて、〈一閃〉との違いは、移動しない点だ。あくまで、間合いの範囲内で踏み込み、抜刀居合切りをする。ニンジャ餓鬼との戦いで〈一閃〉を使った時も、もうちょい近ければ〈虎走り〉が使えたろうに……いや、俺の位置取りが悪かっただけだ。次は足を切り落として、自慢のスピードが出せないようにしてやる。



【スキル】【名称:二光焔にこうえん・燕返し】【アクティブ】

・対象の背後へ高速移動し、炎を纏った武器で高速2連斬りをする。終了後は納刀している。

 また〈一閃〉の直後に連続発動した場合のみ、4連斬りに変化する。



 待望の属性攻撃スキルだ。軽戦士の〈稲妻突き〉なんて、麻痺の追加効果だけで雷属性なんて備えていなかったが、こっちは刀身が燃え上がるので、正真正銘の属性付きである。試し斬りの相手がゾンビだったので反応が薄く、効果の程は分からないが、多分傷口が焼けてダメージは見た目以上に大きいと思う。

 〈一閃〉からのコンボは、ゾンビでは即死してしまうので、試せていない。要検証。



 そして、現時点での剣客のステータスは以下の通り。


【複合ジョブ】【名称:剣客】【ランク:2nd】解放条件:戦士Lv30、修行者Lv30。刀を所持し、抜刀居合切りで10体の魔物を倒す。

・刀という独自の曲刀で戦う、高速剣の使い手。武器を納刀状態から一息で攻撃、納刀まで行う居合抜刀術は、敵が斬られた事に気付かずに倒せる程の早さ。強力なジョブである反面、刀でなければ真価を発揮できない為、武器の保全や調達する術を確保しておこう。

 パーティーにおいては、攻撃役を担う。範囲攻撃こそ少ないものの、単体に関する攻撃力は魔法使い系を凌駕する。高速移動する〈一閃〉等で、戦場を撹乱し、確実に1匹ずつ仕留めて回るとよい。

 また、ジョブ特性として、スキル終了後に納刀していると、硬直が無くなる。


・ステータスアップ:HP小↑、MP小↑、筋力値大↑、耐久値中↑、精神力小↑、敏捷値大↑、器用値中↑

・初期スキル:戦士スキル、修行者スキル、マナ巡りの納刀術、抜刀術初伝、一閃

・習得スキル

 Lv 5:虎振、摺り足の歩法

 Lv 10:精神力小↑、毒耐性小アップ

 Lv 15:切落、幻刀・月天

 Lv 20:敏捷値大↑、麻痺耐性小アップ

 Lv 25:心眼入門、飛燕

 Lv 30:筋力値大↑、血吸いの妖刀

 Lv 35:虎走り、二光焔・燕返し


 複合ジョブなだけあって、ステータス補正が高い。筋力値と敏捷値に特化しているのは、その戦い方のせいだろう。武器さえ調達出来れば、有用なジョブである事は間違いない。




 重戦士レベル35では、新スキルを2つ覚えた。


【スキル】【名称:シールドバッシュ】【アクティブ】

・盾で殴って敵をノックバックする。頭に命中した場合、中確率で気絶させる。



 要は盾でぶん殴るだけである。よくベルンヴァルトが使っているな。わざわざスキルとして使う必要もないと思いきや、追加効果のノックバックと気絶効果は強い。いや、ベルンヴァルトの筋力値と大盾でぶちかませば、大抵の敵はノックバックするし、頭に当たったら死にそうだけどな。使うかどうかは、本人が覚えてから試させよう(最近は鬼徒士ばかり)。

 取り敢えず、俺が使う分には、有用である。特にノックバック効果は、俺よりもデカくて重い敵でさえ、吹き飛ばせるからな。



【スキル】【名称:ホークインパルス】【アクティブ】

・空から獲物を狙い急降下する大鷲のごとく、大上段からの高速振り下ろし攻撃。空を飛べない者に対して畏怖を与え、注目を集める。



 防御主体の重戦士にしては珍しい、攻撃系のアクティブスキルだ。簡単に言うと、只の大上段からの斬り下ろしである。しかし、技の出が、もの凄く速い。スキルを使った瞬間に、大上段で武器を構えているくらい……振り上げモーションをキャンセルしている気分である……兎も角、スキル発動から振り下ろすまで1秒程度、最速のアクティブスキルだ。

 武器の指定が書いていないので、多分重量武器の飢餓の重棍や、シュネル・ツヴァイハンダーでも同じように瞬間振り上げが出来る筈。これも、ベルンヴァルトに試させよう。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 長くなってしまったので、ここで一旦切ります。

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