第436話 強襲!ニンジャ餓鬼!

 頭に角を生やし、赤い頭巾で顔を隠し、赤い忍び装束に身を包んだニンジャが、石柱の上で高笑いを上げている。そして、足元から吹き出た炎は、赤い大きなトカゲ……所謂、サラマンダーを形作った。


 ……忍者と言えばガマガエル定番だろうに……赤いからか?

 まぁ、赤い光点が示す通り、魔物には間違いない。笑い声を上げている隙に、〈詳細鑑定〉を仕掛けた。



【魔物】【名称:ニンジャ餓鬼】【Lv36】

・小角餓鬼のレア種。忍者ではなくニンジャ。数多の同胞が戦う気配を感じ、祭りと勘違いして参戦する。基本的に目立つ事が好きで、注目を集める様な無駄行動が多い。ただし、多彩な忍術と、高速三次元移動で戦う実力は本物である。攻撃力は大角餓鬼に比べて、少し低めではあるが、連続攻撃を立て続けに受けると危険。

 なお、頭の上に出る数字は、HIT回数である。これが50に達すると、その次の攻撃に〈防御貫通〉を付与する。

・属性:火

・耐属性:風

・弱点属性:水

【ドロップ:曳光えいこう手裏剣】【レアドロップ:餓鬼ノ忍者刀】



 アメリカンなNinjaかよ!

 ツッコミたいが、後回し。重要な情報が最後に書かれていたので、そこに注目する。すると、頭の一本角に隠れて【7】の数字が浮かび上がっていた。思ったより、当てられている。あれが50になる前に倒せるか?

 ついでに、召喚獣らしきサラマンダーの方にも〈詳細鑑定〉を掛ける。



【スキル/幻影】【名称:火蜥蜴の術の幻影】【-】

・〈火蜥蜴の術〉に似たスキルから生み出された幻影。内包された魔力の分だけ、火の玉を撃つ。

 幻影である為、一切の物理攻撃は効かないが、その反面、魔力が籠った攻撃を受けると霧散してしまう。



 ……召喚獣じゃなく、幻影か! でも、〈ファイアーボール〉で攻撃してくるのなら、厄介なのは同じ!

 対抗策を考えながら、指示を出した。


「レスミアはフィオーレを連れて後退! 手当を優先しろ!

 ヴァルト、俺達で倒すぞ!」

「はい!」「痛たたたっ! 怪我してる方を引っ張らないで! 真っ暗で見えないけど!」


 怪我の具合は分からないが、声は元気そうなので、重傷ではあるまい。隣に並んだベルンヴァルトには、鑑定結果を掻い摘んで展開する。すると、呆れたように、ぼやくのだった。


「おいおい、飛んで来るアレを避けろって?! 無茶な事を言うじゃねぇか。こちとら、防御専門だぞ」

「何にせよ、出来るだけカウントを増やさない。51回目の攻撃は死ぬ気で避ける。

 後は、敏捷自慢の敵らしいから……」

「面で攻撃するか、拘束するかだな。来るぞ!」


 柱の上のサラマンダー……もとい、幻影の火蜥蜴が、火の玉を吐き出した。それを、左右に分かれて回避する。着弾の爆発からして、〈ファイアーボール〉の半分程度。それでも、直撃を受ける気にはならんけどな!

 火蜥蜴が俺の方を見下ろして、狙っているのが分かった。撃ち出される火の玉……それを斬り裂けと気合を入れて、刀を抜き放つ。刀身から放たれたのは半透明の剣閃だ。そして、振り切った刀を、今度は逆袈裟で振り〈エレメント・スラスト〉の剣閃を打ち放った。風魔法の魔剣術を付与していたので、飛んで行くのは緑色の剣閃である。

 先に半透明な剣閃が火の玉に衝突、爆発した。そして、その爆風を斬り裂いて進む、〈エレメント・スラスト〉が幻影の火蜥蜴を斬り裂いた。火蜥蜴は悲鳴を上げる事も無く、切られた箇所から、身体が崩れて霧散していった。


 ……新必殺技、エレメント・ダブル・スラスト!    なんちゃって。

 いや、一つ目の半透明な方は、剣客レベル25の新スキルだ。



【スキル】【名称:飛燕】【アクティブ】

・抜刀術で攻撃する際、任意で発動可能。剣を振るった際、無属性の剣閃を飛ばす。なお、発動は念じるだけで良い。



 要は、無属性の〈エレメント・スラスト〉である。事前準備が、手に魔力を貯めておくだけなので、手軽に使えるのが利点だ。ただし、魔剣術と違って属性が無いので、弱点を突く事は出来ず、威力は低め。今回は火の玉を爆破させるためだったので、問題無かったけどな。

 因みに、〈飛燕〉と〈エレメント・スラスト〉は、同時に使う事は出来ない。さっきの様に、連続で剣を振るえば、連射は出来る。ちょっと、チキン戦法だけど。


 一方、ニンジャ餓鬼はと言うと、既に地上に降り立ち、ベルンヴァルト相手に戦闘を始めていた。


「カカカカカカカッ!」

「うるせぇ! ちょこまか動くな!」


 ベルンヴァルトの周りを走り回り、墓石や幽魂桜を足場にして三次元に翻弄していた。その合間に光る手裏剣が投擲され、ベルンヴァルトは辛くも大盾で受けきっている。ただ、ニンジャ餓鬼の頭にあるカウントは【24】と、半分近く溜まってしまっていた。


 アレは、地形も良くない。ベルンヴァルトが反撃に飢餓の重棍を振り回しているが、周囲の墓石が邪魔をしている。もろともに破壊してはいるものの、一度に壊せるのは1枚が良いところだからだ。ニンジャ餓鬼は、墓石を上手く使い、隠れたり、足場にしたり、踏み台として決めポーズを決めたりとやりたい放題である。


 なので、盤面を破壊する事にした。ストレージから取り出した、落石ボムを時間差を付けて2個投擲する。〈投擲術〉で狙いを付けた爆弾は、ベルンヴァルトを巻き込まないギリギリに、狙い通りに落下した。1つ目は俺から見てベルンヴァルトの右側、丁度ニンジャ餓鬼が立っていた墓石の上辺りである。


 爆弾が起爆し、瓦礫を撒き散らす。しかし、ニンジャ餓鬼は目敏くも、爆発寸前に奥へと逃げた。しかし、2つ目の落石ボムがその奥で爆発した。この瓦礫すら避けられる……それでも、二つの爆発に挟まれて、逃げ場を塞いだ。


「ヴァルト! 今だ!」

「おお! 〈爆砕衝破〉!」


 飢餓の重棍が地面を強打した。落ちていた墓石を粉砕する破壊力が、扇状範囲を打撃する。

 流石にコレは逃げきれない……と、思いきや、ニンジャ餓鬼は猛然とベルンヴァルトへと飛び掛かっていた。〈爆砕衝破〉の効果範囲は、武器で叩いた位置から扇状範囲。その為、手前である程、効果範囲は狭い。敢えて近寄る事で、範囲攻撃から逃げおおせたのである。しかも、擦れ違いざまに、両手に持った2本の短刀が煌き、斬撃する。

 金属音が響き、結果として、右腕にカウンターを喰らったベルンヴァルトは、飢餓の重棍を取り落とすのだった。


「ぐおっ! くそ!」

「ハハハハハハハハ!」

「まだだ、〈一閃〉!」


 着地の瞬間を狙って、俺も攻撃に出た。視界が急加速し、その勢いを乗せた居合切りが、真一文字に敵を両断するべく振るわれる……しかし、これすらも避けられた。着地と同時に上体を逸らして、ブリッジ態勢で回避したのである。刀が素通りする瞬間、下でブリッジをするニンジャ餓鬼と目が合った。赤い目をギラギラと光らせたそいつは、口元を覆う頭巾を被っているにも関わらず、大口を開けて笑っているのが見えた。


 スキルの効果で自動納刀し、直ぐさま振り返るが、既にニンジャ餓鬼は距離を取っていた。

 ……くそ! 回避力高過ぎだろ! ニンジャ汚い!

 取り敢えず、ベルンヴァルトの背後に回り、背中合わせで警戒しつつ、相談する。


「怪我の具合は? 今、〈ヒール〉を……」

「いや、後でいい! それより、どうする? 〈爆砕衝破〉も避けられたぞ」

「アイツは爆弾が起爆する前に逃げていた。あの察しの良さ……多分、俺達も持っている〈心眼入門〉みたいな感知系スキルを持っているな。範囲攻撃よりも、足を止めた方が良い」


 時折飛んで来る手裏剣を〈斬落〉で防ぎ、手早く打ち合わせをする。その間に、カウントは【43】に増えていた。ベルンヴァルトが大盾で防いだ分だな。ランク7の広範囲魔法〈アシッドレイン〉なら、避けられる筈もないが、充填している間にカウントが溜まってしまう。これは最終手段だな。


 先ずは定番処の、〈挑発〉を仕掛ける。


「忍者が目立つ行動をするんじゃない! この似非忍者が!!

 〈幻刀・月天〉!」


 注意が俺に向いた所で、幻影スキルを発動させた。俺の1m程横に、三日月のような刀が出現する。敵からは、俺が分身したかのように、見えている筈。その証拠に、手裏剣の行く先が、幻刀にも向かっている。それらを〈斬落〉で撃ち落とし、回避し、遠距離攻撃では無駄だと分からせたうえで、〈挑発〉を重ねる。


「遠くからチクチクしたところで、効くか! チキンニンジャ!」


 言葉が通じたのか、〈挑発〉が与える殺意が閾値を超えたのか、手裏剣を投げる手を止め、後ろ腰から2本の短刀を引き抜いた。そして、残像を残すような勢いで、接近して来る。ただし、直線で来るほど馬鹿ではない。右の幻刀を警戒してか、途中で左へと鋭角に旋回する。

 一瞬、残像に気を取られて見失いかけたが、〈心眼入門〉と〈敵影感知〉のお陰で、直ぐさま左を警戒する。そこには、ニンジャ餓鬼が足元に土煙を上げながら、急制動を掛けていた。今にも、飛び掛かろうとする姿勢を見て……〈ボンナバン〉を使用した。


 急加速した視界は一瞬で停止する。目の前には飛び掛かって来ていた障害物……ニンジャ餓鬼と正面衝突した。


 完全に不意を突いた。向こうは武器を振るう間もなく、弾き返されて地面を転がる。

 〈ボンナバン〉は障害物があると急停止してしまうため、こちらも攻撃には移れなかったが、左腕を掲げて体当たりを慣行したのだ。

 ここで、攻撃を仕掛けても、先程の様に避けられる可能性は高い。既に受け身を取って、立ち上がろうとしているからだ。なので、もう一計仕掛ける。

 摺り足で大き目の一歩を踏み出し、足先に貯めた魔力でスキルを発動させた。


「〈トラバサミの罠〉!」


 ニンジャ餓鬼の足元に現れたスイッチが沈み込み、直後に地面の下からトラバサミが現れ、足に噛み付いた。これぞ、罠術師レベル35の新スキルだ!

 〈トリモチの罠〉と迷ったのだが、万が一逃げられたとしても、足を怪我させて動きを鈍らせる、コイツを使用した。



【スキル】【名称:トラバサミの罠】【アクティブ】

・接触箇所の前方にトラバサミを仕掛ける。ノコギリ状の歯は鋭く肉に喰い込み、閉じる強さは人族の足の骨を砕く程である。掛かった者は、抜け出す事すら困難だろう。



 罠術にしては珍しく、ダメージを与えるスキルである。

 片脚に喰い付いたトラバサミを破壊しようと、ニンジャ餓鬼が短刀を振るうが、金属音がして弾かれていた。そこに、更にベルンヴァルトが「〈茨ノ呪縛〉!」とスキルを使い、下半身を茨の枝で拘束する。これで二重拘束完了!

 今度こそ逃がさない。間髪を入れずに、〈一閃〉を発動させた。


 高速の居合切りが、ニンジャ餓鬼を腰の辺りで両断する。




 ……切った手応えが無い!

 納刀するや否や振り返る。すると、そこには両断されたが、閃光弾の様に弾けるところだった。

 ……空蝉の術?!

 光が瞬き、一瞬だけ目を奪われる。敵を見失い、混乱しかけたところに、救いの女神の声が俺を救った。


「ザックス様! 上です!」


 レスミアの声に従い、上へ顔を上げながら、右手も掲げる。

 すると、真上から短刀を構えたニンジャ餓鬼が、俺の首を狙い襲い掛かるところだった。短刀越しに頭に【50】のカウントがある事に気が付く。


 ……防御貫通! 回避するべきだったか!

 右手のグローブで短刀を受け流す……しかし、軌道は逸らしたものの、右手の甲から腕、肘に掛けて、焼ける様な痛みが走った。痛みを堪えながらも、着地したニンジャ餓鬼が追撃に来る前に、力任せに蹴りを放つ。

 今度は、蹴り応え有り。

 転がるニンジャ餓鬼は、途中で跳ね起きて、短刀を構えた。しかし、〈トラバサミの罠〉で負傷した足を庇うように、片脚立ちである。なるほど、先程の空蝉の術は、緊急回避用のスキルだったに違いない。俺の〈リアクション芸人〉もそうだが、強力な反面、発動条件とか使用回数が決められている。恐らく2度目は無い。

 ただ、俺も右手が痛すぎて、刀を握れそうにも無い為、仕方なく左手でワンドを抜く。


 ……もう、最終手段しかないが、充填まで時間が稼げるか?

 充填を開始し始めた時、横合いから声が響く。


「コイツが最後の集魂玉だ! 〈茨ノ呪縛〉! やれ、フィオーレ!」

「ええーい! 〈連撃のキトリ〉!!」


 再度、茨の枝がニンジャ餓鬼の足を拘束する。その隙に、横合いからフィオーレがカットインした。

 両手に持ったテンツァーバゼラードを舞い踊らせながら、〈幻影舞踏-アン〉の幻影と共に、攻撃を仕掛ける。ニンジャ餓鬼を中心に踊りながら、幻影と挟み撃ちにする形だ。

 しかし、下半身を拘束されながらも、ニンジャ餓鬼は2本の短刀で攻撃を受け流す。最初の内は幻影を含めた4本のテンツァーバゼラードで少なからず傷を与えていたのだが、徐々に幻影が見破られたようだ。フィオーレにだけ注目したニンジャ餓鬼が攻撃を完全に受け流し、カウンターで斬撃を放つ。それを、フィオーレも〈タクティカルパリィ〉の効果で受け流し、踊り続ける。

 スキルの効果で、自動で攻撃しているとはいえ、傍から見ていると冷や冷やする。


「フィオーレ! 時間を稼ぐだけで良いぞ! 無理をするな!」

「アハッ! さっきの仕返しをしないとね!

 それに、アタシだけじゃなくて、幻影ちゃんも居るよ! っと」


 大きく回転ジャンプをしながら、連続攻撃を仕掛けるが、正面からの攻撃など、易々と受け流されてしまう。ニンジャ餓鬼は、余裕を見せる様に高笑いを上げる。


 しかし、ニンジャ餓鬼を挟んだ反対側、背中から仕掛けた幻影の攻撃が、忍び装束を貫いた。

 否、ニンジャ餓鬼の胸を貫くサーベルは、実体である。フィオーレが踊りを止めると幻影も霧散して消えてき、その下から黒い暗幕が姿を現す。その暗幕も消えていくと、サーベルを突き立てた銀の猫耳が見えた。

 フィオーレを囮に、更に幻影に紛れて〈不意打ち〉……いや〈宵闇の狩り〉で急所を貫いて即死させたようだ。


【スキル】【名称:宵闇の狩り】【パッシブ】

・〈宵闇の帳〉を発動中、且つ〈不意打ち〉で、敵の急所を攻撃した場合にのみ自動発動する。

 高確率で敵を即死させる。


 ニンジャ餓鬼が霧散して消えていく。

 ネタ枠と思いきや、かなりの強敵だったな。

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