第435話 乱入者
霊園での戦いは、馬頭鬼を倒した事で増援が減り、程なくして殲滅した。都合、20分程度の戦闘時間である。前回は1時間も戦っていた事に比べれば、大分効率化されたように見えるが、敵が魔道士型だったのが大きいな。魔法を使わせる前に倒すので、それが良い区切りとなったようだ。〈ツナーミ〉の充填を邪魔していた〈語らいのブルーバード〉の効果も大きかったな。計ってはいないが、2倍から3倍くらい余計に時間が掛かっていると思う。馬頭鬼がかなり苛立っていたせいだと思うが、魔物の性格にもよるかも?
今回の戦闘では3本の幽魂桜が実らせていた。1本は赤紫色のキルシュゼーレが混じっていたので、余分に栄養を吸わせてしまったようだ。ベルンヴァルト時には嬉しいのだろうけど。
俺が〈自動収穫〉をしている間に、皆にはドロップ品を拾い集めてもらう。とは言っても、落ちているのは魔水晶ばかりだけどな。電池替わりの魔水晶は幾らあっても困るものではないが、少しくらいレアドロップの魔結晶も落ちていると良いのだけど。
収穫をしている途中に、フィオーレが俺の元へと駆けて来た。両手いっぱいに抱えた魔水晶を見るに、一仕事終えてキルシュゼーレを強請りに来たのだろう。大袋に入っているキルシュゼーレを、小皿に10粒ほど分けておく。そして、フィオーレから魔水晶をストレージで受け取る代わりに、御褒美としてあげるのだった。
「わーい! うん、美味しい……って、違う! もう一個、変なのを見つけたから持って来たんだよ! ホラ!」
キルシュゼーレを食べるのは止めずに、反対の手を俺に向かって突き出して来る。それは、フィオーレの手の中で揺らめく、青白い炎……人魂に見えた。
それを、受け取ると、固い感触が手に伝わった。どうやら、透明なガラスの中に青い炎が封入されているようだ。〈サンライト〉の光に当てると、輪郭が薄っすらと見える。
【素材】【名称:ポゼストーン】【レア度:B】
・特殊なマナを封じた石。無機物に溶け込み、マナを増幅させる力を秘めており、スキルや魔法と無機物を繋ぐ媒体として用いられる。
「あっ! レアドロップのポゼストーンじゃないか!」
「なになに? レア物なの?」
ゴーストこと、亡霊餓鬼のレアドロップである。その名前に見覚えがあったので、〈鑑定図鑑閲覧〉で確認をしてみると、この間使った付与の輝石の素材だった。
【魔道具】【名称:付与の輝石】【レア度:B】
・スキルや魔法を、武具へ永続付与するための触媒。使い捨て。
・錬金術で作成(レシピ:ミスリルインゴット+魔結晶+ポゼストーン)
……後、ミスリルインゴットが手に入れば、自作出来る!
ただし、ミスリルは51層以降でしか手に入らないし、付与の輝石のレシピもいるけどね。
まぁ、ストレージの肥やしになるとしても、売らずに確保しておくべきだな。これで、ゴーストを倒す意味も出て来た!
ドロップ品を拾い集めているレスミアとベルンヴァルトにも、ポゼストーンを見せて周辺を探索したが、魔結晶が一つ追加で見つかっただけである。残りは全部、普通の魔水晶だけ。やはりドロップ率は低い様だ。
その後、事前情報で手に入れていた『大きな墓には地下室がある』について、捜索もした。霊園内を見て回り、ゾンビが出て来た穴の中を照らしてみたが、見当たらず。苦し紛れに〈サーチ・ストックポット〉を使ってみたところ、霊園の中央の下の方から反応が返って来た。
そうなると、怪しいのは中央にある石柱である。手っ取り早く、聖剣クラウソラスを取り出して、石柱を切り倒してみると、中が空洞になっているのを発見、下へと続く石階段になっていた。ついでに、石柱の裏側が薄い石の板になっていたようで、パタリと倒れるのだった。
その板をひっくり返してみると、他の墓石と同じく錬金文字が沢山掘られている。どうやら、石柱ではなく、石碑みたいな墓石だったもよう。『大きな墓には地下室がある』、なるほど、大きな墓ってコイツの事だったようだ。霊園の事だと勘違いしていたよ。
「……うわ! 真っ暗! 何だっけ、地下墓地?だったりしないよね?」
「〈サーチ・ストックポット〉に反応があったから、採取地だと思うけどな。取り敢えず、罠も見える俺が行くよ」
「あ、私も行きます。〈猫耳探知術〉で索敵しますから」
レスミアが背中にくっ付いて来たので、そのまま下に降りる事にした。石柱の中にあった階段は、横は一人通るのがやっとの狭さだが、天井は3m程あるので〈サンライト〉の光球も付いて来る。斜め上から照らして来るので、前は少し暗いが、〈敵影表示〉には敵は映っていないし、レスミアも何も言ってこない。もちろん、罠も無い様だ。いつぞやの【ステップスライダー】があるかもと、警戒したが杞憂に終わる。
20段ほど降りると、階段の終わりが見えた。もう、10段くらいと思っていたら、不意に耳元で囁かれる。
「……ザックス様、奥の部屋から水音がします。ぬちゃぬちゃって」
「ああ、アレだな」
階段の先には、土をくり貫いただけの小部屋があった。5m四方程度の小さな部屋の中では、小さな蠢く物がびっしりと…………踊っていた。
うん、いつもの踊りなめこと、踊りえのきだな。室内栽培にしても暗すぎる、良く育つもんだ。ホワイトアスパラガスじゃあるまいに。
他にも、キノコ類の採取物がチラホラと見える。いないのは歩きマージキノコくらいか? いや、この狭い部屋に居ても渋滞するだけだが。
取り敢えず、カタコンベ(地下墓地)でも無く、只のキノコ栽培室だったので、〈自動収穫〉根こそぎ回収しておいた。踊りなめこは使い道が多いので、助かる。マナグミキルシュの量産にも使えるからな。
地上に戻り、探索を再開した。
目指すは大き目の霊園である。幽魂桜も多く、採取地にもなっているのだから、狙わない手は無いな。ただ、〈サンライト〉の光が目立つのか、道中でも大角餓鬼が絡んでくる事もある。そんな時は、近くの墓と幽魂桜がある場所まで誘き寄せて、ゾンビを出させて稼いだ。墓石が5個もあれば、幽魂桜1本くらい実らせるくらいの
そんな感じで戦っていると、剣客がレベル15になっていた。レベル5と15では、2つずつのスキルを覚えた。
【スキル】【名称:摺り足の歩法】【パッシブ】
・摺り足による行動を補正する。上体の重心をズラすことなく、地面を滑るように移動できる。多少の凹凸ならば、足を引っ掛ける事は無い
剣道でもならったので、俺も摺り足は使える。現在でも剣の間合いを調整する時は使っているのだが、地面の凹凸が激しいところだと、偶に足を引っ掛けてしまう。その為、〈フェザーステップ〉を覚えてからは、ステップ移動が増えたかな?
そんな、微妙だった摺り足を補正する心得系のスキルのようだ。
実際に試してみると、石畳の段差程度ならば、足が勝手に段差分浮いて、スムーズに移動できる。なるほど、板張りの剣道場を動くのと同じ気分で、外でも移動できるようになるみたいだ。ただ、15㎝くらいの段差になると、駄目みたい。まぁ、それがOKだと、階段も摺り足移動出来てしまうからな、限度があるようだ。
【スキル】【名称:
・納刀状態、もしくは脇構えの状態で敵の攻撃を躱した場合、中確率で自動発動、袈裟斬りで反撃する。攻撃後、自動で納刀する。
〈カウンター〉の亜種っぽい。納刀状態は兎も角、脇構えか……下段の構えってあまりやらないから、意識して覚えていないとカウンターは出来ない。普段は使い易い、正眼の構えだから。まぁ、剣客なので納刀状態が多い、その時に発動すればラッキーくらいに思っておこう。
【スキル】【名称:
・納刀中のみ、中確率で自動発動。知覚している敵の攻撃(遠近問わず)を、武器で切り捨て、軌道をズラす。成功した場合は、自動で納刀する。
ただし、敵の質量が大きすぎる場合には発動しない。
遠距離攻撃を叩き落とすのかな? 近距離は良く分からないけど、鑑定文の内容から、〈受け流し〉の亜種のような印象を受ける。例によって居合術が前提だけど、勝手に納刀までしてくれるのだから、自動任せでよい。まぁ、遠距離攻撃をしてくる敵は少ないので、〈受け流し〉と思って運用すれば良いだろう。
【スキル】【名称:幻刀・月天】【アクティブ】
・三日月の様な、幻の光の刃を生み出し囮とする。敵は光の刃に惑わされ、術者の姿と幻を見間違えるだろう。
なお、幻影は自動で行動する。
攻撃スキルではなく、囮を生み出す補助のようだ。丁度、フィオーレが覚えた〈幻影舞踏-アン〉と似たようなものだろう。
実戦で使ってみると……1m程横に、光る刀が現れた。なるほど、刀の曲線を三日月と表現していたのか。そして、惑わされたゾンビ達が優先して襲い掛かっていた。自動で光る刀は動くが、聖剣クラウソラスの〈プリズムソード〉とはだいぶ違う。あっちは、光剣自体が舞い踊る様に飛んでいたが、こっちは見えない人が刀を振るうような感じなのだ。幻刀なだけに、敵からは俺がもう一人居るように見えるようだ。〈幻刀・月天〉自体には攻撃力は無いが、敵が多いこの階層だと囮になるだけで十分である。
こんな感じで、新スキルを試しながら、サクランボ狩り(実態はゾンビ狩り)を続けた。ゾンビは脳味噌、スケルトンは心臓コア、ゴーストは物理無効と、面倒くさい敵ではあるが、〈ホーリーウェポン〉を掛けていると、アンデッドへのダメージアップ効果で、雑に薙ぎ払っても倒せるのが良い。スケルトンの固い胸骨も、ビスケットくらいに脆くなるからな。正に僧侶無双である。多分、魔法使いか僧侶が居ないパーティーは、この階層を抜けるのは無理だろう。
行動は一直線に襲いに来るだけなので、単純だが数が多い。逆に言うと、数さえ捌く方法があれば、どうとでもなる。もうちょっと、組織だって動いたら強敵なのだろうが、指揮官役の大角餓鬼がドラマーに夢中なのでしょうない。所詮、牛頭鬼と馬頭鬼は只の獄卒で、統率者では無い様だ。
お昼を過ぎた辺りからは、遠くの方で戦闘が起こるようになった。恐らく、他の探索者だろう。何故わかるかと言えば、大きな火の玉が現れ、小さくなったと思ったら、大爆発を起こすからだ。そう、ランク7の広範囲魔法〈エクスプロージョン〉だ。キノコ雲こそ発生しないが、核爆弾のような爆発は遠くから見ても良く目立つ。
俺も、牛頭鬼を倒すのによく使うので、向こうからも見えている事だろう。敵味方識別機能があるとはいえ、巻き込んだり巻き込まれたりするのは、少し怖い。爆発のあった方から離れるように、狩りを続けた。
霊園を潰し続けていると、傾向が見えてくる。大きな石柱だったり、石碑だったりする墓は、最低1つはある。霊園が大きくなるにつれ、その数も増えるが、大角餓鬼の生息している可能性も増えるので、ゾンビが段違いに増える。手に負えない数になったら、〈エクスプロージョン〉で焼き払うのが良い。
そして、地下室の大半は、採取地だった。狭い地下室なので、木々が生えてはいないが、竹は生えるらしい。竹素材の壁かと思ったら、全部水筒竹系(エール筒竹、サイダー筒竹、ワイン筒竹等)だったりな。ベルンヴァルトにとっては宝箱部屋だったようだ。
モンスターハウスのパターンもあった。文字通りカタコンベの様に、大角餓鬼のスケルトンが12体くらい詰まっていたのだ。まぁ、〈敵影感知〉でバレバレだったので、〈ホーリーウェポン〉付きのベルンヴァルトが、〈爆砕衝破〉を撃ち込むだけで勝てたけど……詰め込み過ぎだ。出て来た宝箱も、大角餓鬼の角だったからハズレも良いところである。
それとは別に、宝箱部屋で見つけたが、中身はウーツ鋼インゴット×10本。金額的には中々当たりの部類ではあるが、採取でもウーツ鉱石は取れるので、レアではない。砂漠の時のように、レア装備を期待したんだけどな。
休憩を挟みつつ、夕方まで狩りに勤しんだ。キルシュゼーレを収穫し、他の皆が集めたドロップ品を回収している時、〈敵影表示〉にいきなり赤点が、至近距離に現れた。
……敵?!
と、赤点の方を見るが、壊れた墓石のみ。〈敵影感知〉の圧力を頼りに敵を探る……斜め上から?!
上に顔を向けたその時、身体が勝手に動いて、刀を上に振るう…… 光る何かを叩き落した。
それを皮切りに、上から光弾が連続で降り注いだ。状況は把握できないが、〈切落〉が自動迎撃してくれる。しかし、周囲の仲間を守るには数が多すぎた。
「うおっ! 何だ! 敵か?!」
「きゃあ!」
「大きい墓の上! 何か居ます!」
ベルンヴァルトは光弾がジャケットアーマーの硬革部分に弾かれ、武器を構え直す。フィオーレは光弾の直撃を喰らって地面に転がる。レスミアは暗幕状態だったので、狙われなかったようだ。
倒れたフィオーレが心配だったので、守る様に移動して、何発か叩き落す。視界の範囲外だったけど、新スキルのお陰で、死角は無い!
【スキル】【名称:心眼入門】【パッシブ】
・視覚外の攻撃を察知出来るようになる。
剣客レベル25で覚えた奴だが、説明もシンプルで効果も分かり易い。
暫く光弾を迎撃し続けると、攻撃が止んだ。警戒しつつ、撃ち落とした光弾に目を向けると、それはピカピカ発光する十字の刃……手裏剣?
レスミスが警告したように、石柱の上に目を向けると、稲光に一瞬だけ照らされ、赤い頭巾の小柄な姿が見えた。
「ハハハハハハハハハハハ!」
いきなり笑い声を上げた。
そして、両手を合わせて印を切ると、足元から炎が噴き出て形作る。その炎のお陰で、敵の姿がハッキリと見えた。それは、頭に角を生やし、赤い頭巾で顔を隠し、赤い忍び装束に身を包んだニンジャであった。
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