第432話 剣客と迷惑客

【複合ジョブ】【名称:剣客】【ランク:2nd】解放条件:戦士Lv30、修行者Lv30。刀を所持し、抜刀居合切りで10体の魔物を倒す。

・刀という独自の曲刀で戦う、高速剣の使い手。武器を納刀状態から一息で攻撃、納刀まで行う居合抜刀術は、敵が斬られた事に気付かずに倒せる程の早さ。強力なジョブである反面、刀でなければ真価を発揮できない為、武器の保全や調達する術を確保しておこう。

 パーティーにおいては、攻撃役を担う。範囲攻撃こそ少ないものの、単体に関する攻撃力は魔法使い系を凌駕する。高速移動する〈一閃〉等で、戦場を撹乱し、確実に1匹ずつ仕留めて回るとよい。

 また、ジョブ特性として、スキル終了後に納刀していると、硬直が無くなる。


・ステータスアップ:HP小↑、MP小↑、筋力値中↑、耐久値中↑、敏捷値中↑、器用値中↑

・初期スキル:戦士スキル、修行者スキル、マナ巡りの納刀術、抜刀術初伝、一閃



 ……剣客浪漫譚の真似をしていたら、剣客が来たでござる!

 しかも、解放条件が抜刀居合切りをする事とか……いや、そりゃ刀を手に入れたら真似したくなるけどさ、前提として居合切りを知らないと達成出来ないのは非常に厳しい。ただでさえ、刀は知名度が低い武器だというのにさ。

 初期スキルも見た事が無い物ばかりなので、早速〈詳細鑑定〉を掛けた。



【スキル】【名称:マナ巡りの納刀術】【パッシブ】

・武器を納刀する際、自動で血糊や体液等の汚れをマナの煙へと還元する。また、武器を納刀する動作を補正する。



 刀に限った話ではないが、普段は戦闘が終わった後に、手入れ用の布で刀身を拭ってから納刀している。そうしないと、鞘の中が汚れ放題で、錆の原因にもなるからな。〈ライトクリーニング〉があるけれど、使うのは返り血等の汚れが酷い時と、帰る時のみである。毎戦ごとに使っていてはMPが勿体ないので、布で拭うだけでも十分なのだ。

 と、そんな手間を省いてくれるスキルらしい。刀に限定していないから、ロングソードを納刀しても効果がありそうだ。ついでに、納刀する動作まで補正してくれるとか、武器を変える度に納刀の練習が要らなくなる?



【スキル】【名称:抜刀術初伝】【パッシブ】

・刀を取り扱う行動全般を補正する。また、納刀と抜刀速度が速くなり、初太刀の威力が上がる。更に、少しだけ刀が破損し難くなる。



 内容的に心得系スキルの亜種っぽい。補正だけでなく、威力が上がり、破損し難くなるので、上位互換かな?

 心得系の補正の力には毎回お世話になっているので、俺のなんちゃって抜刀術よりは、信頼性が上がるだろう。



【スキル】【名称:一閃】【アクティブ】

・敵の間合いに一瞬で踏み込み、切り抜ける抜刀術。終了後は対象の背後で納刀している。踏み込む距離は、基礎レベルに準じて広くなる。ただし、納刀動作については、刀と名のつく武器でなければならない。



 移動しつつ攻撃するので〈疾風突き〉や〈稲妻突き〉の亜種かと思いきや、少し違う。重要なのは、刀でスキルを使えば、納刀までしてくれる点だ。これは、ジョブ特性として書かれていた『スキル終了後に納刀していると、硬直が無くなる』が、適用される部分だろう。

 攻撃系のアクティブスキルは強力な反面、終了後の硬直が厄介だからな。武僧のジョブ特性でも『軽装だと硬直が短くなる』があるが、複合ジョブの特典だろうか? いや、魔法戦士には無いけど。


 ……試し打ちがしたい。

 今日の試し斬りは、ここの採取地が終点の予定だった為、既にスティラちゃんの集中力は切れている。いや、採取が終わった時に焼き菓子とサイダー筒竹を渡したので、おやつタイムに入ってしまっただけとも言う。

 取り敢えず、〈自動収穫〉で残りのキャベツを回収してから、相談する事にした。〈自動収穫〉でキャベツの群れが飛んで来るのは、非常に受けた。「おお~、採取師も面白そうにゃ!」なんて言われる程である。

 ただし、採取師のジョブは簡単に取れても、〈自動収穫〉を使えるセカンドジョブの植物採取師に成れるのは成人後(15歳)だ。見習い期間である今は、色々なジョブを試してみるしかないなんて説いたところで、不満気な顔をするスティラちゃん。仕方がないので、こっそりと植物採取師の解放条件を教えてあげた。先に条件を満たして置けば、将来レベル上げをするだけで済むからである。


「ええ~、本当に採ったばかりのキャベツを食べるの???」

「ああ、植物採取師になるには、沢山採取するだけじゃなく、その場で採取物を食べる必要があるんだ。

 ただ、ここのダンジョンだと、果物系が21層以降にしかないからね。したがって、そのまま食べられそうなキャベツか、薬草、解毒大根か……葉っぱの解毒草は、死ぬほど苦いから食べない方が良いよ」

「解毒草は食べ物じゃないにゃ!」


 レスミアと同じ幼年学校に通っていたのなら、例の実習の経験者なのかな?(※第82話、良薬は口に苦過ぎる)

 自分のアイテムボックスからキャベツを取り出し、1枚だけ剥がしてパリパリと食べ始めるのだった。





「〈一閃〉!」


 スキルを発動すると、身体が勝手に急加速した。3m程の間合いを瞬く間に駆け抜ける……そして、ストロードールとすれ違いざまに抜刀居合切りすると、流れるように納刀。カチンッと鍔が音を鳴らすのと同時に急停止した。

 思わず振り返ると、斜めに両断されたストロードールがズレるところであった。


 ……俺がやりたかった抜刀斬り、そのものじゃねーか。

 〈ボンナバン〉を使った自前の抜刀居合切りよりも、〈一閃〉の方が、動作が途切れないので格好良いまである。しかも、納刀までしてくれる&スキル後の硬直が無いので、このまま追撃出来るのだ。

 ストロードールの身体が倒れる前に、振り向く勢いのまま自前の抜刀居合切りで両足の藁を斬り裂く。

 我ながら格好良く決まったと思ったのだが、納刀で少し手間取った。〈一閃〉を真似て、流れる様に鞘に入れようとしたところ、盛大にスカって左手を斬りかけてしまったのだ。〈マナ還りの納刀術〉のサポートがあっても、ハズレ過ぎると補正も効かないのな。手元を見ながら納刀すると、以前よりスムーズに入れる事が出来た。

 最後にちょっとだけ見苦しい点はあったものの、概ね満足する結果となったな。体感的に移動速度は〈ボンナバン〉が限界を超えて早く、〈一閃〉、〈ペネトレイト〉、〈稲妻突き〉の順に速い。これは、スキルの使い分けも難しくなるな。


 待ってくれていたスティラちゃんにサムズアップをしてみせると、首を傾げながら拍手をくれる。


「おお~!? ……でも、一撃で倒すのは前と変わらないよね?」

「いやいや、すれ違いざまに切り伏せるとか、納刀しているとか大分違うよ」

「そんなの、早すぎて分かんないにゃ!」


 どうやら、戦闘慣れしていないスティラちゃんには、どっちも凄い!で終わっていたようだ。レスミアなら、分かってくれるだろになぁ。


 その後、2回ほど試し斬りを続けたのだが、スティラちゃんが慣れない戦闘に疲れた様子を見せたので、おんぶして帰路についた。




 スティラちゃんは疲れてはいたものの、喋る元気が十分に残っていたようで、帰路の間もずっとお喋りをしていた。採取したキャベツで何を作ってもらおうとか、貴族街の同い年の友達がダンジョンに行き始めたので私も行きたくなったとか、ジョブの相談とか、マナグミキルシュが食べたいなとか、様々である。


 二人でグミの食べ歩きをして、家の近くにまで帰って来たところで、背中のスティラちゃんが俺の肩を叩いた。


「このサクランボのお菓子、ピーネに差し入れちゃ駄目かにゃ?

 今日の店番を代わってもらったから、お礼がしたいの」

「ああ、構わないけど、お昼に試食で出した時に、値段を聞いてびっくりしてたよね。普通のキルシュゼーレを、お土産に渡した方が良いんじゃないか?」


 そんな話をしていると、突き当り……白銀にゃんこへのT字路に人だかりが出来ているのが見えた。朝一番なら珍しくもないが、夕方に混んでいるのは珍しい。少し気になったので、家の門を素通りして様子を見に行く事にした。


 T字路の少し入ったところには、みすぼらしい箱馬車が停車している。それを少し遠巻きにして、近所の奥様方や、朝に見かけた使用人のお客さん達、20人程が囲っていたのだ。

 スティラちゃんは、顔見知りが居るから恥ずかしいと、背中から降りると、外周部に居た奥さんへ話しかけた。


「ねぇねぇ、何があったのにゃ?」

「あら? スティラちゃん? 今日はお休みだったのね。

 いえね、ついさっき私達がお喋りしているところに、あの馬車がやって来てね。浄化のカードを売れって五月蠅いのよ。

 どこの貴族か、商人か分からないけど、迷惑よねぇ。今、店長さんが相手をしているわ」


 人だかりの外から店の方を見ると、護衛に囲まれた、身なりの良い男がフォルコ君と対峙していた。そのフォルコ君は、後ろにピーネちゃんを庇いつつ、何かの説明をしている。その後ろの白銀にゃんこのカウンターでは、フロヴィナちゃんが厳しい表情で睨んでいた。


 口論で済むのなら良いが、相手の護衛は武装しているのが怖いな。探索者風の男が5名、万が一暴れられると厄介だ。スティラちゃんには、人だかりを大回りして勝手口の門番さんに助けを求めるよう頼む。もっと大騒ぎになれば動いてくれるだろうが、先に救援を求めた方が早い。

 小回りの利くスティラちゃんを送り出し、俺も人だかりに声を掛けつつ中に通してもらった。




「……何度も申し上げましたが、伯爵様の許可がない方には販売出来ません」

「何を言っているのですか? 景品で配っているのでしょう?

 平民にも売っている事は調べが付いています。つまり、許可など持っていません。なら、貴族である私に売っても問題無いと思います。

 このような小さな店ではなく、私が広く売り捌いてやろうと言っているのですよ。光栄に思いなさい」

「だから、それも伯爵様の許可を貰って景品にしているんだよ!

 ……あ、ザックス君、良いところに帰って来た!」


 フロヴィナちゃんが、俺を見付けて手を振ってくれたので、周囲の目がこちらを向いた。その隙に、〈ボンナバン〉で急加速して、カウンターの前へと辿り着く。驚くフォルコ君の肩を叩いてバトンタッチ。代わりに商人のような身なりの男と対峙した。

 見た感じ、30代前半の痩せ型長身のである。少し長めの茶髪を撫でつけており、やり手のエリート商社マンを連想させる。みすぼらしい馬車に乗って来たにしては、身なりは貴族の様。ずっと笑顔を浮かべているのは〈営業スマイルのペルソナ〉だろうか? ただ、先程聞こえた言動からは、横暴な貴族な印象を受けた。


「初めまして、この店のオーナーです。お話は私が伺いましょう。先程の言動から貴族とお見受けしますが、家名をお伺いしてもよろしいですか?」

「はっはっはっ、このような平民街で名乗っても、知る者は居ないでしょう。マークリュグナー領で魔道具の販売をしている御用商人と言えば十分です。

 どうですか、オーナー殿? 私の販路があれば、もっと幅広く売れるでしょう。もし、レシピを独占で売って頂けるのならば、高値を付ける準備もしていますよ。ずばり、1億でどうでしょう?」


 そう言った男は、懐から家紋らしきメダルを見せて来るが、俺にはどこの貴族かなど分からない。ただ、マークリュグナー領と聞いただけで、警戒心を上げた。それは、アホボンの居る領地じゃないか!

 ただ、貴族相手に敵意をむき出しにする訳にもいかない。こちらも、こっそり新興商人のジョブをセットして、〈営業スマイルのペルソナ〉の笑顔で対応した。


「お断り致します。

 販路ならば、伯爵家と王族から配慮を頂いて商いをしております。そちらの許可が無い限り、販売は出来ません。むしろ、マークリュグナー領という、他領が絡むのであれば、猶更ですね。

 もし、欲しいのでしたら、当店のケーキを購入してください。30個で1枚の販売権が得られますよ。

 ただ、貴族様であっても、朝一に並んで下さいね」


 毅然として断りの姿勢を返すと、向こうも笑顔のまま目で睨み返してくる。朝一並ぶのも嫌なのならば、売る気も無くなるぞ。そんな思いを込めて、笑顔で応酬を続けていると、相手の男が動いた。ポケットから何かを取り出して、こちらへ見えるように広げる。それは、2個のサイコロだった。意図が読めない俺に対して、男は不敵に笑う。


「では、大人らしくギャンブルで決めようじゃないか。私が勝てば、店に有る在庫を全て売ってもらおう。負ければ、この店に二度と顔を出さない。どうだ?」

「いや、意味が分からん。こっちに利点が無いどころか、そっちの都合を押し付けているだけじゃないか。断る」


 あまりにも馬鹿げた話だったので、素で返してしまった。そんな「デュエルで勝負だ!」みたいなノリで来られてもな。

 暫し、沈黙が流れるが、断られたと気付いた男はサイコロを握りしめポケットへと手を突っ込む。そして、こちらに背を向けてから、横顔でこちらを睨みながら捨て台詞を吐く。


「……ふむ、そうも頑なに機密保持をするならば、仕方がない。上に掛け合うようにしようじゃないか。

 邪魔したな。赤毛のオーナー殿」


 そう捨て台詞を残すと、男は馬車へと戻って行く。

 ……二度と来るな!

 と、言いたいが、周りのお客さんもいるので、TPOを考えて笑顔で見送る。ただ、要注意人物として、ウチのメンバーに話すのに、名前ぐらいは見させてもらうか。〈詳細鑑定〉を、馬車に乗り込む奴に掛ける。


 鑑定結果を見た瞬間、左腰に手を回して、盛大にスカる。しまった! 刀は街中じゃ物騒なので、しまってしまったのだ!

 いや、どの道〈一閃〉が使えたとしても、ギャラリーが邪魔だ。

 そのギャラリーから、悲鳴が上がる。馬車の通り道を作ろうと、護衛の男達が観客を押しのけて、転倒した人が出たみたいだ。それに対し、周りからは非難の声が上がるが、それも気に留めた様子もない。それ以前に、先に馬へ騎乗した護衛が、観客を「邪魔だ、退け!」と追いやる。

 そこに、門番の女性騎士が駆けつけて来て、注意した。


「ちょっと、そこの馬車の連中! 周りに注意なさい!」

「皆さん、危ないから脇にどいて!」


 狭い道の中で、馬車が旋回するのだから、観客が巻き込まれそうになったのだ。ただ、この注意も無視したのか、そのまま北の道へと走り去っていくのだった。



 この後、転倒したお客さんには、焼き菓子とポーション1本を、お詫びとして差し上げておく。そして、門番の騎士とも相談すると、要注意人物として上に報告してもらう事になった。可能なら、ここの警備体制を強化して欲しいと要望も付けておく。

 何故ならば、さっきの奴は只の迷惑客ではなく、赤字ネーム……殺人犯であるからだ。


【妖人族】【名称:ビガイル、95歳】【基礎Lv60、シュピーラーLv55】 (赤字ネームのため攻撃可)


 いったいどうやって街に入ったのかと、騎士達も半信半疑であったが、領主様の後ろ盾がある俺からの情報と言う事で信用してもらった。

 俺がバイクに乗って街を出る際にも、検問に引っ掛かったように、怪しい奴や見慣れない者は門番が簡易ステータスをチェックしている筈なのだ。それなのに、街中に赤字ネームが居るとは……


 その他にも、妖人族の種族名には覚えがあった。フィオーレと出会った時に、山賊を魔法で焼き殺したフェアズーフと同じ種族だ。年齢詐欺なところも同じ。アラサーな見た目で95歳とか……

 初めて見るジョブ『シュピーラー』にも驚くが、気になる点が一つあった。フェアズーフは尖った耳をしていたのに、ビガイルは普通の人族に見えたのだ。思い返しても、耳が尖っていた覚えはない。

 いや、猫族と、猫人族の様に、容姿が変わる種族かも知れないが……赤字ネームと言うだけで、何もかも怪しく見えてしまった。





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 業務連絡です。

 以前、お約束したジョブデータの一覧ですが、本編の進行状況(レベル35が出揃う)的に、来年なってしまいそうです。12月中旬とか予告してしまいましたが、見通しが甘かったと言わざるを得ません。





 なので、年内に更新できる様、25日(月)から連続更新を開始致します。

 所謂、年末年始キャンペーンって奴ですね。

 25日~30日は本編更新、

 31日~3日はジョブ&スキル一覧(+小ネタ)、

 4日は木曜だけど本編更新、

 5日はお休み、

 6日(土)から通常更新に戻ります。


 計11日連続更新です。頑張って書き溜め&データ整理をしましたので、良ければ読んで下さいませ。



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