第426話 ホラーパニックとクリスマスツリー

 ドラマーと化した牛頭鬼が、墓石を叩くごとにゾンビとスケルトンが這い出てくる。まだ距離はあるので、先ずは情報集巣からっと。



【魔物】【名称:腐肉餓鬼】【Lv36】

・墓の下から呼び起こされた小角餓鬼のゾンビ。身体が腐っている為、動きは鈍重だが、痛みを感じず恐れを感じず獲物に襲い掛かる。生前のジョブ毎に異なる武器を持っているが、こちらも腐ってボロボロで耐久性はない。代わりに毒が仕込まれているので、注意が必要。

 弱点は頭。流石に脳を破壊されると、動きを停止する。ただし、その後、骸骨餓鬼として復活し、近くに幽魂桜が生えていれば、亡霊餓鬼も召喚する。

 フィールドギミックとして、墓石に触れると同種の腐肉餓鬼を呼び起こす。

・属性:土

・耐属性:土

・弱点属性:火

【ドロップ:魔水晶】【レアドロップ:魔結晶】



【魔物】【名称:骸骨餓鬼】【Lv36】

・墓の下から呼び起こされた小角餓鬼のスケルトン。身体は既に腐り落ち、骨だけになってしまったが、飢餓感を満たす為に生者へと襲い掛かる。しかし、たとえ食べたとしても満たされる筈もない。

 肉体が無い分だけ動きは俊敏であるが、耐久性は殆どない。代わりに骨の再生機能を持っており、骨を砕かれようが、復活してしまう。

 弱点は心臓部にあるコア。これが破壊されると、動きを停止する。また、近くに幽魂桜が生えていても、亡霊として復活しない。

 フィールドギミックとして、墓石に触れると同種の骸骨餓鬼を呼び起こす。

・属性:土

・耐属性:土

・弱点属性:風

【ドロップ:無し】【レアドロップ:低級ゴーレムコア】



 ふむ、面倒な点は、墓石に触れると増えるのと、ゾンビを倒すとスケルトンとゴーストに分裂するところか。スケルトンの弱点は心臓部のコア、ドロップ品は低級ゴーレムコア……スケルトンと言いつつ、ゴーレムじゃねーか!

 多分、ゾンビの魂はゴーストにして、残った骨をゴーレムとして動かしているのか。なんか、スケルトンは遊園地のアトラクションに思えて来た。

  兎も角、この情報も周りに展開してから、指示を出す。


「先ずは、情報収集から、奥の大角餓鬼は放置。

 ヴァルト、近付く奴からなぎ倒せ。ゾンビは頭で、スケルトンは心臓部が弱点だぞ!

 レスミアは、後方から回り込もうとする奴を撃て。

 フィオーレは、レスミアの直衛しつつ、〈スローアダージオ〉。前に出るなよ、数が多いから取り囲まれるぞ。

 俺は頃合いを見てから全員に〈ホーリーウェポン〉を掛ける」


「「了解!」」「りょーかい。〈スローアダージオ〉!」



 俺とベルンヴァルトを両翼として、配置に付いた。フィオーレの呪いの踊りが効果を発揮したのか、向こうの進軍速度が少し落ちる。既に30匹以上いるように見える。ただ、効果範囲に入った奴から足が遅くなるので、渋滞していた。

 その集団から、白い骨骨野郎が擦り抜けて前に出た。数は4匹と少ない。牛頭鬼が墓石を叩いて召喚するのにも、偏りがあるようだ。


「骨ばかりで、歯応えが無さそうな奴! こっちに来い!」


 対象を決めて〈ヘイトリアクション〉を発動し、只の〈挑発〉として、2匹を引き寄せた。軽快な足音を立てて走る骨格標本が、こちらへと方向転換をする。

 迎え撃つ俺の装備は、雷のロングソードとカイトシールドだ。武僧の〈聖光錬気〉でも良いが、敵の数が多いと分かっていたので、リーチの有る武器があった方が良い。

 対するスケルトンは、錆が浮いた鉄剣で斬り掛かって来る。その一撃をカイトシールドで、受けるが軽い。骨だけに筋力値は無い様だ。カウンターとして、太腿の大腿骨を斬り裂いてやった。こっちも思いのほか軽い手応え。返す刀で、崩れ落ちるスケルトンの右腕も斬り裂き、錆鉄剣を下に落とす。そして、そのまま肋骨を蹴り上げて、後続のスケルトンへとぶつけてやった。


 2体のスケルトンはぶつかり合って、骨を散乱させる。しかし、肋骨がある胸部は飛び散らずに形を保っている。恐らく、中にあるゴーレムコアを守っている為だろう。衝突現場へと駆け寄り、落ちている胸部を踏み砕く。肋骨の中心にあるのは3㎝程の金属球……低級ゴーレムコアだ。それに、剣を突き立てると、意図が切れたマリオネットの様に、骨がバラバラになり、霧散していった。


 ……うん、骨になっても所詮は小角餓鬼だな。弱い。弱点が胸骨の奥にあるから、少し面倒なだけか。

 もう1匹は、散らばった骨が集まり、自己修復をしている最中だ。先程切った、大腿骨が繋がっているだけに、回復は早い。何処までやっても再生するのか気になった為、頭蓋骨を蹴り飛ばし、胸骨を袈裟斬りして開く。そして、中のゴーレムコア周辺の骨を蹴り砕き、背骨にくっ付いたコアを明後日の方向へと放り投げてみた。

 すると、足元の骨たちは、飛んで行ったゴーレムコアを追っかけて、転がって行く。どうやら、コアから骨が生えてくる再生ではなく、元々の骨でないと駄目っぽい。


 そうこうしているうちに、ゾンビの群れも近付いて来ていた。取り敢えず、ずっと充填していた魔法陣を使って魔剣術を使おうとした時、右側から裂帛の気合と共に、首が飛んできた。ベルンヴァルトがツヴァイハンダーを真一文字に一閃して、ゾンビの群れの首をまとめて斬り飛ばしたようだ。


「おい! 首を切ったのに、まだ体が動きやがるぞ! 化け物共がぁ!」


 ベルンヴァルトの珍しく慌てた声が聞こえる。首無しの身体が迫って来ていたのを、今度も真一文字に一閃して胴体を輪切りにしていた。しかし、それでも地面に散乱した胴体と下半身がうごめいているのだ。

 こっちに転がって来た首も、まだ動いている。その頭蓋に、剣を突き立てて、止めを刺してから、ベルンヴァルトに見える様に掲げて見せる。


「ヴァルト! 頭って言っても、その中の脳を破壊するんだ! 首を落としても倒せないぞ!」


 俺の声が届いたのか、ハッとして足元を見回し始める。しかし、首だけでなく胴体と下半身も散乱していて、間違い探しの様相を呈している。面倒くさくなったのか、ベルンヴァルトは軽くバックステップで距離を取ると、大上段にツヴァイハンダーを掲げた。


「まとめて潰れろ! 〈爆砕衝破〉!!」


 右手の甲にセットされている集魂玉が輝き、ツヴァイハンダーが地面に叩き付けられた。次の瞬間、ゾンビの残骸と、その後ろの団体さん達が、まとめて打撃される。地面を叩いた衝撃を、効果範囲内全てに与える集魂玉スキルだ。転がっていた首も爆ぜ割れ、立っていたゾンビの頭も破裂した。

 ……頭が弱点なので、上から全面に打撃する〈爆砕衝破〉は相性が良いのかも知れないな。


 こちらも負けては居られないので、魔剣術からの〈エレメント・ブラスト〉を打ち放つ。火属性の小爆発の連打で、ゾンビの群れを吹き飛ばした。

 こちらのスキルは発動時に剣を振るった辺りから爆発し、扇状範囲に連鎖する。なので、ある程度は狙いが付けられる。棒立ちに歩いて来るゾンビの頭辺りの高さを狙ってしまえば良いのだ。



 周囲の倒れたゾンビの肉が霧散していき、骨だけが残る。スケルトンとして復活したのだ。そして、霧散して行ったマナの煙は、近くに咲いていた幽魂桜へと吸い込まれる。一拍置いた後、幽魂桜全体の半分程の花が淡く点滅すると、光がふっと消え数輪の花びらが舞い散り始めた。それは、桜吹雪として周囲を幻想的な雰囲気を醸し出していた。ただし、光源が減って薄暗くなり、その闇から現れるのは白いスケルトンと、半透明のゴースト。ホラーでしかない。


「〈ホーリーウェポン〉! ……〈ホーリーウェポン〉! ……〈ホーリーウェポン〉! ……〈ホーリーウェポン〉!」


 対アンデッド用のスキルは充填が少なくて良いのが特徴だな。ベルンヴァルトから優先して、バフを掛けておいた。これで、ゴーストは怖くない。どうやら、弓矢にも効果があるようで、レスミアの援護射撃で飛来してくる矢が白く光る様になっていた。これが、ゴーストの群れに当たると、まとめて風穴を開けるのが面白い。


 こちらも光を纏ったロングソードでスケルトンを、まとめて切り伏せる。胸骨を物ともせず、ゴーレムコアまで斬れるのは、〈ホーリーウェポン〉の効果のせいだろう。対アンデッドには攻撃力がアップするからな。ゴーレムのようでいて、一応アンデッド族でもあるようだ。

 群がるスケルトンを雑草の様に切り伏せていくと、今度は新たなゾンビの群れが現れる。後方では、牛頭鬼が墓石を破壊する勢いで叩き、召喚を繰り返している。


「ワラワラと群がるな! 〈爆砕衝破〉!」


 ベルンヴァルトも面倒になったのか、〈爆砕衝破〉を連打している。集魂玉スキルにも〈ホーリーウェポン〉の効果が上乗せされているようで、上からの衝撃波が白くなって、威力が増していた。ついでに言うなら、雑魚を沢山倒すので、集魂玉を使った端から、補充されるらしい。MP消費も無い為、実質使いたい放題で羨ましい。魔剣術の〈エレメント・ブラスト〉も強いのだが、MPが要るので、限りがあるのだよな。聖剣 天之尾羽張を使えば、俺も似たような真似は出来るが、レベル上げ効率が落ちるので、使いたくない。

 地道に魔剣術と〈フレイムスロワー〉でも使って倒していくか。




 ゾンビの群れを3回ほど撃退したところで、漸く増援が途切れた。それというのも、奥でドラマーをやっていた牛頭鬼が、墓石を叩き過ぎて、全て破壊してしまったせいだ。戦闘の合間に観察していたのだが、墓石を叩けばゾンビかスケルトンが出てくる。そして、完全に這い出た後に、同じ墓石をもう一度叩けば再度召喚が出来る。ただし、墓の下から叩き起こすには、ある程度の力で墓石を殴らないと駄目なようだ……多分。毎回、石片が飛び散るような叩き方をしていたからな。つまり、破壊されるまでという、回数制限がある。


 一人きりになった牛頭鬼は、こちらへ歩みを進めていた。総大将が見せる「決着を付けよう」みたいな気迫を感じるが、所詮は1匹だけだ。〈茨ノ呪縛〉と〈影縫い〉コンボで拘束して殴殺し、晩節を汚すように出て来た亡霊餓鬼(大)も、皆で囲みタコ殴りにして終わりにした。



 軽く一息ついていると、後方に居た2人も合流した。レスミアは矢を拾い集めながら、フィオーレは分かり易く疲れたアピールをしてくる。


「ようやく終わった~。数多過ぎでしょ!」

「そっちもお疲れさん。数だけで厄介な攻撃が無い分、ルイヒ村の蛙とオタマジャクシの群れよりマシだろ。弱点を叩かないと倒せないだけで、魔物自体は弱いからな。

 まぁ、骸骨餓鬼や亡霊餓鬼として復活するせいで、〈エクスプロージョン〉で薙ぎ払って終わりにならないのは、面倒ではあるけど」

 

 初戦は情報収集の意味合いもあったので、牛頭鬼ごと焼き払う事はしなかった。ランク7魔法を2回使えば一掃出来るとしても、少しMPが勿体ない。やるならば、大角餓鬼(両方)とゾンビが火属性弱点なので、〈エクスプロージョン〉で焼き払い。復活したスケルトンとゴーストを〈ホーリーウェポン〉で倒すのが効率的かな?


「後、ヴァルトは武器を飢餓の重棍に替えよう。そのツヴァイハンダーも頑丈だとはいえ、あんまり地面に叩き付けると、曲がるか折れるぞ」

「……あー、まだ大丈夫だぞ。先が少し欠けただけだ」

「……これくらいなら、〈簡易手入れ〉で直ると思う。ほい、交換な」

「私の方は、新しい弓でも倒せました。でも、骸骨餓鬼の方は、心臓のコアが小さいので、狙い難いですね。動きも軽快ですし……。今日のところはジョブを闇猫に替えて下さい。暗闇に落ちたドロップ品を探すのに、〈猫目の暗視術〉が欲しいです」


 周囲には、ゾンビのドロップ品である魔水晶が転がっている。頭上に浮かぶ〈サンライト〉の光が反射するので、見つけられない事はないのだが、明かりの外は真っ暗なので、探すのが大変だ。近くに生えていた2本の幽魂桜は全て散ってしまったので、光源は時折光る雷しかないからだ。


 取り敢えず、レスミアを闇猫に変更。暗い場所の捜索は任せて、主戦場だった付近に落ちている魔水晶を拾い集め始めた。範囲攻撃を連打したせいか、結構広範囲に落ちている。普通の探索者は、ランプの光で探すしかないとか、大変だな。

 そんな感想を抱きながら回収していると、不意に別の方向から光が差した。一瞬で過ぎ去る雷の光ではない。思わず光の方を見ると……2本の幽魂桜の幹が光を発していた。普段の幽魂桜は、花が淡く光っているだけで、幹は光っていなかった筈。何事かと驚いたが、直ぐに思い出した。『桜の花を全て散らせると、サクランボが実る』


 幹の光は次第に枝へと移って行き、枝分かれしてから小さな光の粒へと変わる。小さく丸まった光は赤く色を変えると、最後にはサクランボへと姿を変えた。そのサクランボは中から発光しており、クリスマスのオーナメントの様である。

 2本の幽魂桜は、枝に鈴なりのサクランボの実を付けた、クリスマスツリーへと様変わりするのだった。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

メリークリスマス!(2週間フライング)

いえ、クリスマスに見る映画と言ったらゾンビ映画『アナと世界の終わり』か、『サンタジョーズ』か、ガンダム『ポケットの中の戦争』、なんてネタを見たので……

本編には微塵も関係ありませんw

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