第424話 矛盾スキルとフィオーレの初陣

 大角餓鬼を含む魔物パーティーを、〈魔攻の増印〉で威力を強化したランク7魔法で殲滅しながら、35層を進んだ。なかなか、フィオーレの腕試し用の小角餓鬼だけパーティーが出てこない。斥候役は直ぐに逃げてしまうので、不向きなのだ。レスミアが弓の勘を取り戻すべくバンバン撃っているので、任せた方が良い。

 斥候役は軽装なので、急所に矢が当たれば致命であり、他でも数発当たれば倒せる程度だ。一方的に撃てる七面鳥撃ちなので、試し打ちには持って来いであった。



 そうこうしているうちに、先にソードダンサーのレベルが30に上がってしまった。経験値増5倍のお陰だろう。俺のジョブもいくつか35になったので、順次入れ替えをしていく。直ぐには使わないので、非戦闘系ジョブの新スキルの確認は後回し。


 ソードダンサーレベル30では、筋力値中アップと新スキルを覚えた。



【スキル】【名称:タクティカルパリィ】【パッシブ】

・呪いの踊りを使用している時のみ、且つ、敵の攻撃を受ける直前に自動発動。踊りの邪魔となるものを、自動で受け流す。



 戦士が覚える〈受け流し〉の上位版かな? あっちは、受け流し易くなるだけだから、あくまで技量の上乗せでしかない。

 それに対して、こちらは自動だ。剣技初心者には、こちらの方が良いだろう。流石に実戦で試すのは怖いので、このスキルも身内で試す事にした。


「それじゃ、いくよ~〈脱力を誘うキューピッド〉!」


 フィオーレが踊り始めた。クルクルと舞い踊る進行上に、鞘に入れたままのロングソードを差し出して邪魔をしてみる。すると、ロングソードの下にテンツァーバゼラードが差し入れられ、そのまま押しのけて掻い潜られた。踊りは止まっていないし、あくまで踊りの振り付けの様に見えた。

 そのまま、2度3度とロングソードで邪魔をするが、両手の2本のテンツァーバゼラードが舞い踊ると、同様に擦り抜けられる。そして、今度は軽い斬撃のつもりで斬り掛かってみると、それすらも受け流されてしまう。予想以上に高性能だ。

 俺が驚いていると、フィオーレが笑い声を上げた。


「アハハハッ! 凄い! 今の凄くない!?」

「フィオーレが、やったんじゃないんだよな?」

「うん、攻撃が来ると身体が勝手に動く感じ~。アハハッ!

 もしかして、アタシってばザックスよりも強くなったんじゃない?! 模擬戦をしたら、勝っちゃうかも~」


 分かり易いくらいに調子に乗っているな。

 ……リーダーとして、侮られたままなのは良くない。うん、決して対抗心が芽生えた訳じゃ無いぞ。


 鞘は付けたままだが、実戦のつもりで斬り掛かった。そして、受け流しに来るテンツァーバゼラードと接触する直前に、剣を引く……フェイントである……引き絞った右手で渾身の突きを放つ。間隙を縫うような鋭い突きは、フィオーレの喉元を突く手前で止める。「ひぅ!」一拍遅れて、フィオーレがしゃっくりのような息を吐いた。流石に驚いたらしい。

 しかし、踊りは止まっていない。左のテンツァーバゼラードが跳ね上げるようにして、俺のロングソードを押しのけて、その隙にステップで離れて行った。


 ……ふむ、呪いの踊りはセミオートなので、そっちかな? フィオーレは驚いたままだし。

 まだ踊っているのを良い事に、もう少し性能試験をする事にした。


 〈タクティカルパリィ〉は、なかなか高性能なのは認めよう。回転ジャンプしている最中とか、背中から攻撃しても受け流しに来るのは凄い。しかし、術者のフィオーレの問題も反映されるようだ。フィオーレに見えるように、フェイントを掛けると面白いように引っ掛かるが、背中にフェイントを掛けても引っ掛からない。そして、渾身の力を込めて攻撃すると、受け流しきれなかったのか、武器を大きく弾かれて体勢を崩す。踊りが止まってしまえば、〈タクティカルパリィ〉発動はしない。剣を突き付けるだけで、チェックメイトである。

 地面に座り込んでしまったフィオーレに、以上の所感を述べる。


「…………そんなところだな。

 多分〈タクティカルパリィ〉は、ある程度の技量で受け流してくれる。ただし、フィオーレの認識している状況においては、その情報をプラスして行動してくれる。フェイントに引っ掛かったのは、それが裏目に出たんだろう。フィオーレがフェイントと見抜けなかったせいだな。後は、フィオーレの膂力以上の事は出来ないから、強い攻撃は受け流しきれない。

 つまり、剣術も覚えた方が良いし、筋肉も付けようぜ」


 そんな総評をしつつ、自分でもメモを取っておく。

 すると、フィオーレは、涙ぐんでレスミアの元に逃げて行って抱き着いた。


「ミーア! ザックスが新人いびりする!!」

「はいはい、ちょっと厳しめだったけど、魔物相手に試すよりは良かったでしょ。

 ザックス様も、女の子にはもうちょっと加減してあげて下さいね。途中からデータ取りを優先する気分だったでしょう?」

「あー、そうだな。すまん。剣術を教える時は、ウベルト教官よりは優しくするよ」

「お断り! クヴァンツコーチに教えてもらうからいいよ!!」


 うーむ、拗ねてしまったようだ。子供の相手は難しい……って、見た目だけで、中身は二十歳だろ! と、言いたかったが、飲み込んでおいた。まぁ、俺も剣術初心者にムキになったのは不味かったな。




 しょうがないので、騎士と魔法戦士で覚えた新スキルはベルンヴァルト相手に試させて貰った。


「行くぜぇ! 〈城壁の守り〉!」

「それじゃ、こっちも〈ペネトレイト〉!」


 大盾を構えたベルンヴァルトが新スキル〈城壁の守り〉を使用すると、その周囲を囲む様に一瞬だけ半透明なブロック塀が現れ消えていく。

 その一方俺の方は、構えていたフェケテシュペーア(黒豚槍)の先端に、螺旋状の風を纏う。要は円錐状の小さな竜巻みたいな物だ。そして、槍を構えたまま自動で走り出す。そう、〈ランスチャージ〉の亜種なのだ。狙うはベルンヴァルトが構えた大盾である。全力疾走した突撃に合わせて、竜巻を纏った槍を叩きこんだ。


 しかし、貫通効果持ちの槍は大盾を穿つ事も出来ずに受け止められてしまう。先端に纏った竜巻が唸りを上げて回転するが、大盾に阻まれて進まないのだ。肝心の本体が当たらないと、貫通効果も発揮できないか。

 しばし、風を吹き荒らしながらも膠着状態になっていたが、次第に竜巻が弱まっていき効果が消える。その途端に、スキル後の硬直が来た。


「チッ、完全に抑え込まれたか……守りが固すぎるだろ。〈ペネトレイト〉の負けか?」

「いいや、キッチリ属性ダメージが来たぜ。結構痛いじゃねぇか」


 ベルンヴァルトは大盾を降ろし、持っていた左腕を摩った。言われて気が付いたが、ベルンヴァルトのHPバーが2割程減っている。なるほど、一矢報いたというか、痛み分けか? 矛盾なだけに。

 先程使ったのは、騎士レベル35の新スキルである。



【スキル】【名称:城壁の守り】【アクティブ】

・一定時間の間、耐久値を2段階上げて、盾の強度をアップさせる。盾を構えている限り、ノックバック効果を無効化する。

 城壁の如き堅牢さを得るが、代償として敏捷値が1段階下がる。


【スキル】【名称:ペネトレイト】【アクティブ】

・長柄武器でのみ使用可能。武器の先端に旋風を纏い、自身の敏捷値を2段上昇させた後、武器を構えて対象に全力突撃を行う。そして、槍の旋風に触れた者に、槍の攻撃力分の風属性ダメージを与え、左右に吹き飛ばす。

 また、騎乗時には旋風の範囲が広がり、スキル後の硬直が無くなる。



 どうやら、〈ペネトレイト〉の『槍の旋風に触れた者に、槍の攻撃力分の風属性ダメージ』は、盾越しでも有効らしい。代わりに、『左右に吹き飛ばす』のは、〈城壁の守り〉のノックバック無効化で効かなかったようだ。

 いや、騎士ジョブが同時に槍スキルと盾スキルを覚えたので、矛盾したらどうなるのか興味が湧いたんだ。


「ただでさえ衝撃を半減する〈アブソーブシールド〉があるのに、〈城壁の守り〉まで使ったら、正に城壁の固さだな。〈ヒール〉」

「おう、あんがとよ。まぁ、硬くなるのは良いんだが、魔法の属性ダメージはちっとも軽減出来んのがな。スキル一発で、2割も削られるとか、範囲魔法と変わらんだろ」

「あー、それなら、魔法戦士の新スキル〈エレメント・ブラスト〉は止めとくか?」

「初めっから、受ける気はねぇよ!」


 こっちも属性ダメージが入るから仕方ないか。適当な空き地にでも試し打ちをしておこう。



【スキル】【名称:エレメント・ブラスト】【アクティブ】

・魔剣術を発動中にのみ発動可能。剣に込められた全魔力を消費し、前方扇状範囲を連続爆破して属性ダメージを与える。

 消費する魔力量により、攻撃範囲が変化する。



 〈エレメント・スラスト〉では剣閃を飛ばしたのだが、新しいスキルは爆弾のようだ。実際に試し打ちをしてみたところ、剣を振るった先で小爆発が起こり、続けざまに2発3発と扇状に爆破が広がっていくスキルだった。爆発自体は〈ファイアーボール〉の半分程度だが、俺から離れるごとに爆発が増えていくので、身体の大きい敵や、群れに使うのが良いだろう。

 難点としては、一度使うと魔剣術が解除されてしまう。そして、剣に込めた魔力が少ないと、爆破範囲が狭くなるのだ。良く使う手である、ランク0魔法のお手軽魔剣術発動をした状態では、しょぼい爆発1回で終わってしまった。ランク1魔法を込めておくと、3列、6回の小爆発が起こる。

 剣の魔力量を把握しつつ、敵との距離を見極めないと、有効打は見込めないだろう。ついでに、魔剣術が切れた時に自動発動する〈エレメント・リロード〉用に、魔法陣を用意しておかないといけない。

 アレコレと手札が増えて来たけど、魔力管理と状況判断が難易度が上がった気がする。


 そして、魔法戦士レベル35ではもう一つ新スキルを覚えていた。



【スキル】【名称:エレメント・ブースト】【パッシブ】

・魔剣術を発動中、その属性に対応したステータスを小アップする。



 火属性なら筋力値、風は敏捷値、水は器用値、土は耐久値といった具合だ。魔剣術を使うだけで、勝手にバフとなる為、取得しているだけでお得なパッシブスキルと言える。基本的に敵の弱点属性を使うから、バフ目当てにする事は無いだろうけどな。




 それからしばらく進んで、漸く小角餓鬼4匹の魔物パーティーと出会う事が出来た。囮のキノコに飛び付いた斥候役が、その場で食べ始めたので、間違いない。大角餓鬼が居れば、持って帰ろうとするからだ。


 斥候役はレスミアが弓で仕留め、残りの3匹を探したところ、直ぐ先の中部屋に居るのを発見した。〈潜伏迷彩〉で様子を伺うと、部屋の中央でだらけている。キノコを放り投げると隙だらけになって、一方的な虐殺になるからなぁ。こいつらは、フィオーレの腕試しに使いたいので、真面目に戦うべく、軽く打ち合わせをした。


「俺が〈ペネトレイト〉で蹴散らして、奥の魔法使い餓鬼を倒そう。残りの戦士餓鬼2匹はヴァルトとフィオーレで1匹ずつ。

 ああ、ヴァルトは倒さずに残しておいてくれ。フィオーレが連戦出来そうなら、任せるから」

「了解」

「任せて! 特訓の成果を見せてあげるんだから!」


 気合は十分な用だ。万が一の時には、レスミアの援護射撃と、2枚の〈カバーシールド〉がある。お手並み拝見と行こう。


 バイクに跨り、通路で加速してから中部屋へ突入した。そして、〈ペネトレイト〉でさらに加速する。しかし、変化はそれだけではない。槍の先端に出現した円錐状の竜巻が広がり、バイクをすっぽりと覆う程のサイズになったのだ。

 内側からは半透明に見えているので、風の風防のよう。竜巻を全身に纏ったまま、敵陣の真っただ中へ突っ込んだ。


 竜巻に触れるや否や、3匹の小角餓鬼は吹き飛ばされて行ってしまった。槍で刺すどころの話ではない。なるほど、敵を貫くスキルではなく、敵陣を崩すスキルなのか。

 別々の方向へ吹き飛んだので、俺は魔法使い餓鬼の後を追い、Uターンをしてから、槍で突き刺した。これで良し。後は、観戦と行こうじゃないか。


 入り口の方へ目を向けると、フィオーレとベルンヴァルトも接敵をしたところであった。ただし、竜巻で吹き飛ばされた小角餓鬼は、大分ふら付いている。属性ダメージが効いているのだろう。弱れば良いと思って〈ペネトレイト〉を使ったが、少し弱らせ過ぎたか?


「行くよ! 〈注目のペザント〉!」


 フィオーレはスキルを使用して、接近しながら踊り始める。すると、華麗なステップに見惚れたのか、構えていた盾を降ろして、棒立ちになる。〈注目のペザント〉の効果だ。短時間の間、見惚れさせて無防備にするが、その後に狙われるデメリットがある。まぁ、タイマンならば、特にデメリットでもないな。


 ステップで擦れ違いざまに、右手のテンツァーバゼラードが煌き、戦士餓鬼の二の腕を斬り裂く。そして、その勢いで回転を入れながら、左手のテンツァーバゼラードが追撃、肩を斬り裂いた。


 ……ちょっと、浅いな。

 短剣のリーチ的に、もう一歩踏み込まないと、深手を負わせられないと思う。踊りながらで、良く攻撃出来るなとは思うけど。


 その後も、戦士餓鬼の周りを踊りながら攻撃を加えるが、革鎧を斬り裂いたり、太腿を浅く斬ったりするのみ。もどかしい。思わず、声援を送ってしまった。


「フィオーレ! 攻撃が浅い! 勇気を持って、もう一歩踏み込め!」

「分かってる!!」


 その時、戦士餓鬼が動き出した。盾を構え直し、半身を取って鉄剣を振りかぶる。その剣は、踊っているフィオーレに向かって振り下ろされた。

 それに対し、フィオーレは踊りの振り付けなのか、深く沈みこむ。そして、テンツァーバゼラードを掲げるようにして、鉄剣を受け流す。そのまま、剣を滑らせるようにして、懐へと潜り込んだ。

 擦れ違いざまに、フィオーレがコマのように回転する。それと共にテンツァーバゼラードも回転し、戦士餓鬼の喉元を斬り裂いた。喉から黒い血を吹き出した戦士餓鬼は、鉄剣と盾を取り落とし、声なき悲鳴を上げながら倒れ伏す。


 少し離れた所で決めポーズを取っていたフィオーレは、戦士餓鬼が倒れたところで、青い顔でガッツポーズを決めた。


「やった! 倒せたよ! 楽勝、楽勝~

 ヨシ、次の相手は?!」

「フィオーレ、無理するなよ。行けるのか?」

「行ける、行けるって。ザックスのアドバイスなんて、なくても行けたよ!」


 今まで後衛の援護役だったのに、初めて動物を殺して動揺しない訳がないだろう。若干顔が青いのは、その為だろう。まぁ、慣れるしかないか。

 フィオーレに、疲労回復のための〈ファーストエイド〉と、勇気が沸き上がる〈赤き宝珠の激励〉を掛けてから、ベルンヴァルトに交代を指示した。適当に相手をしながら〈挑発〉を掛けたのだろう。ベルンヴァルトはフィオーレの近くに戻り、追って来る戦士餓鬼に対して、大盾を構えた。


「おらよ。俺が引き付けている間に、攻撃する練習だ。背中から切ってやれ」

「任せて! 〈囚われのメドゥーラ〉!」


 呪いの踊りで、戦士餓鬼の足が止まる。しかし、上半身は動くのか、執拗にベルンヴァルトへ敵意を向けていた。その隙にフィオーレは、華麗なステップで背後へと回る。

 そして、今度は回転の勢いを乗せたまま、首にテンツァーバゼラードを突き立てるのだった。


 2戦目は吹っ切れたかのように、圧勝だったな。〈赤き宝珠の激励〉の後押しが効いたのかも知れないが、十分な戦果である。

 取り敢えず、フィオーレを褒める意味合いも込めて、小休止にしてお菓子を振舞う事にした。

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