第423話 新しいコンポジットボウと幻惑の踊り

 観劇したり、レシピを大人買いしたりと、充実した休日を過ごした次の日は、ダンジョン攻略の日である。

 朝から35層へと降りた。ヒカリゴケが増えた気もするが、通路が大きい遺跡階層なのは変わりがない。

 本日の目標は、35層の攻略。各ジョブのレベル35で覚える新スキルを確認する事。そして、余った時間で36層墓地フィールドの下見である。


 俺のジョブは、地味にスカウト餓鬼の罠が多いので、スカウトレベル35の1枠は外せない。残りの4枠として、戦闘ジョブを2つに、非戦闘ジョブ2つを切り替えて行こうと思う。最初は魔法戦士レベル34、騎士レベル34、錬金術師レベル33、付与術師レベル33にしておいた。レベル35になったら切り替える予定だ。

  アビリティポイントが増えて来たお陰で、ジョブ5つと経験値増5倍の両方を付けられるのはありがたい。


 そして、ベルンヴァルトは保険として〈カバーシールド〉が欲しいので騎士レベル33。その護衛対象であるフィオーレは、昨日のレッスンの成果を試す為に、ソードダンサーレベル23にした。

 おっと、一昨日の時点でレベル20になったので、それも記載しておこう。ソードダンサーレベル20ではMP中アップと、新スキルを覚えた。



【スキル】【名称:回剣舞踏】【パッシブ】

・踊り系スキルを使いながら攻撃する場合、スキルの効果が途切れ難くなる。



 どうやら、攻撃するために踊りを崩しても良くなるようだ。ただ、どれくらい崩してもOKなのかは、フィオーレ自身に体感してもらうしかないな。



 そして、迷ったのがレスミアのジョブだ。ベルンヴァルトを囮にして背後を取るのは、フィオーレと戦闘位置が被ってしまうからだ。踊りながら短剣を振り回すスタイルなので、最悪を考えると巻き添えになりそうで怖いのだ。レッスンを受けたと言っても、どれだけ戦えるのか分からないからなぁ。更に、〈挑発〉や〈ヘイトリアクション〉を喰らった場合、殺意や視野が固定される事に、フィオーレがどれだけ対処できるか分からない。

 そんな訳で、安全策としてレスミアのジョブは、トレジャーハンターレベル30に決定した。「ぶ~、大丈夫って言ってるのに!」最近は〈猫耳探知術〉での索敵を期待して闇猫だったから、トレジャーハンターのレベルは低いままである。まぁ、索敵はキノコで釣り出せるから、無くても大丈夫だろう。


 そんなレスミアは、階段部屋に生えている幽魂桜を的にして、新しい弓の調整をしていた。風切り音を鳴らして放たれた矢は、かなりの速度で飛び幹へと突き刺さる。うん、今まで使っていたプラスショートボウよりも、威力がある様に見える。矢は以前から手作りしている鉄の鏃の矢なので、純粋に弓の力だろう。



【武具】【名称:パイロキルシュ・コンポジットボウ】【レア度:C】

・幽魂桜の木材と黒魔鉄の合板を張り合わせて作り出された複合弓。弦には魔力で収縮するパイロシルクが使われている。その為、弦を引いた状態で魔力を流す事により、張力が強くなり威力がアップする。魔力を流し易い素材で作られているのでスキルも使い易く、魔弓術を多用する中級者以上に人気がある。

・付与スキル〈筋力増加 小〉〈火属性耐性 小〉



 いや、フィオーレを前に出す編成を考えていたら、レスミアはトレジャーハンターで弓を使ってもらった方が安定するのだよな。ただ、最近は弓の威力が弱く感じるようになって来た為、急遽昨日の帰り道に、ツヴェルグ工房に寄って購入したのだった。

 そして、レスミア(トレジャーハンター)の筋力値もCに上がっている為、以前購入を見送ったコンポジットボウの中から選んだのだ。複数の素材を張り合わせて威力と破壊力を強化したゆえに、複合弓と呼ばれるのである。一応、レスミアには試してもらったところ、引けたので購入に踏み切ったのだが、一つ失敗をした。レスミアがドレス姿だったので、試射まではしなかったのだ。

 家に帰ってから弓用防具に着替えて、改めて試射をしてもらったところ、弦が重く引き難いがなんとか扱えるレベルであった。ただし、この弓の売りである、『弦を引いた状態で魔力を流す事により、張力が強くなり威力がアップする』を試そうとすると、弦の張りが強くなり、指の力が耐えきれずに暴発してしまうのだった。


 何が不味いかと言えば、スキルを使おうと魔力を手に集めるだけでも暴発してしまうのだ。

 スキルを使うには、発動に足りる魔力を手に集める必要がある。ただし、魔力の扱いに不慣れだと、武器に流れてしまう事がある。魔力を流し易い素材の武器だと猶更だ。

 そんな訳で実質、〈ツインアロー〉が封じられた。いや、〈ツインアロー〉だけなら別に良いのだが、レベル35で覚える〈影縫い〉を期待していただけに、使えないのは痛い。

 惜しむらくは、もうちょっと安いコンポジットボウ(パイロシルクを使われていない奴)にしておけば良かった。後の祭りであるが。


 仕方がないので、一計を案じる事にした。

 〈スキルエンチャント初級〉を使い、〈筋力増加 小〉を追加付与したのである。

 うん、まぁなんだ。あれほど良い訳しながら温存していた『付与の輝石』を使ってしまったのだ。


 言い訳をすると、折角買ったのに使わないのは勿体ない。それに、魔法に弱いベルンヴァルトの装備に〈精神増加 小〉を付ける案もあったのだが、既にシュネル・ツヴァイハンダーにも〈精神増加 小〉が付いているので、

「魔法を使ってきそうな相手は、コイツを使えば良い。そいつ付与の輝石は、手に入れたお前等の装備に使えよ」とベルンヴァルトが言ってくれたからである。


【武具】【名称:シュネル・ツヴァイハンダー】【レア度:C】

・チタンだけでなく、芯材として黒魔鉄が使われた大剣。2mもの大きさを誇り、幅広な刃も相まって、かなりの重量物ではあるが、チタン製と付与スキルのお陰で素早く振るう事が出来る。特徴として、刀身の根本付近は刃が無く、ここを握る事でコンパクトに振る事も可能。黒魔鉄が使われているので、魔力の通りも良く、スキルも使いやすい逸品。

・付与スキル〈精神増加 小〉〈敏捷増加 小〉


 そして、昨晩初めて〈スキルエンチャント初級〉を使ってみたのだが、意外と地味であった。手に持っていた付与の輝石が、マナの粒子に溶けていき、付与するパイロキルシュ・コンポジットボウへ吸い込まれて行っただけである。もうちょい、派手なエフェクトでも出るかと思ったのだがね。



「〈ツインアロー〉!」


 放たれた矢と並行して、半透明な矢が飛んで行く。問題無くスキルを使えたようだ。使い勝手をレスミアに尋ねると、破顔して答えた。


「はいっ! 昨日より格段に使い易いですよ! 威力も幹に深く刺さって、抜けなくなる程ですからね。援護は任せて下さい!」

「ああ、頼んだよ。まぁ、最初の内はランク7の広範囲魔法を使うから、止めを刺すだけになるけど。小角餓鬼だけの群れは、フィオーレの練習に使うから援護してやってくれ。

 それと、餓鬼の角から新しい矢も何本か作っておいた。使って試すといい」


 ツヴェルグ工房で弓を選ぶついでに、矢も何種類か購入してサンプルにしておいた。素材の小角餓鬼の角や、大角餓鬼の角は貯め込んだままなので、鏃として作ってみたのだ。



【武具】【名称:餓鬼の小角矢】【レア度:D】

・鏃として、小角餓鬼の角をそのまま取り付けた、簡素な矢。鉄と同程度の強度があり威力はあるが、形状が円錐なので、飛距離は出難い。


【武具】【名称:餓鬼の盾割り矢】【レア度:C】

・大角餓鬼の角を加工し、ノミの様に平たくした鏃を取り付けた矢。先端が尖っている訳ではないので貫通力は低いが、代わりに破壊力が高い。ウーツ鋼並みの硬度がある為、木の盾など軽く破壊し、鉄板が貼られた盾でも、割り砕くだろう。



 盾割り矢と言う形状は知らなかったので、店売りの物を参考にして作成した物である。内職フェイクエンチャントじゃない工作も久しぶりにやると面白いよな。

 イメージとしては、鑿を矢として飛ばし、大角餓鬼の角にぶち当てて、折れないかな?といった感じだ。


 準備を整え、地図でルート確認をしてから出発した。




 大角餓鬼を含む群れと数回交戦した。どれも牛頭鬼(重戦士な方)だったので〈エクスプロージョン〉で焼き払い、弱ったところで止めを刺すだけだ。レスミアの弓は、斥候役の小角餓鬼を倒すのには最適であるが、流石に大角餓鬼には効き目は低い。重装備なので、鎧無しの部分を狙わないといけないし、後方から目や首などの急所を狙うのも難しい。

 〈エクスプロージョン〉直後に、盾割り矢で角を狙うよう指示したが、兜に弾かれてしまったしなぁ。いや、それでも盾割り矢が当たった衝撃で頭がふら付いていたので、十分であるが。

 ん?フィオーレは、後方で〈空虚のドルシネア〉を躍らせて、魔物の耐久値を下げてもらっていたよ。前に出すのは、小角餓鬼と戦って慣れてからにしたい。


 そんな折、ソードダンサーのレベルが25になった。新スキルを2つ覚えたのだが、どちらも面白い。



【スキル】【名称:囚われのメドゥーラ】【アクティブ】

・中確率で短時間の間、敵全体の足を動けなくする呪いの踊り。自身の基礎レベルに比例して確率が高く、効果時間は長くなる。

 また、注目を浴びる様な回転や、ジャンプを決める度に効果判定が入る。

 ただし、対象のレベルが自身よりも高い場合、確率は大幅に下がる。


「昨日、練習してきた踊りだよ! 脚を開脚して飛ぶグランパデシャが連続して入っていたりして難しい踊りなんだけど、踊れれば何度も敵の足を止められるらしいよ。動きを止めたところに一方的に攻撃ってね」

「確率依存の効果なのか……ステータスダウンの踊りは100%効いていた事を考えうると、確実性はない。けど、効果は強いな。相手のレベルが高いと駄目だから、同格以下の雑魚敵を楽に倒すための補助スキルってところか」



【スキル】【名称:幻惑のオディール】【アクティブ】

・踊っている間、敵からは自身が仲間に見えるようになる。その間、攻撃対象やスキルの対象からは外れるが、自身が攻撃を当てると正気に返ってしまう。


「これはまだ習ってないから、スキル任せで踊ってみるしかないねー?

 でも、この効果は面白そう。ミーアみたいにさ、魔物群れの中に潜り込んで、油断した後ろからズパッと首を刎ねる……みないな?」

「それはどうだろう? 闇猫は〈不意打ち〉があるから楽に首を刎ねているけど、フィオーレの膂力で斬るのは難しいと思うぞ。骨って結構固いし。

 それは兎も角として、注目すべきはここ『攻撃対象やスキルの対象からは外れる』だな。

 都合良く解釈するなら、〈ヘイトリアクション〉とか、敵味方識別機能付きの魔法〈ツナーミ〉の影響を受けないかも?」

「おおっ! それって凄くない!

 みんなが流されている中で、アタシだけ濁流の中を平然と踊って魅せる……格好良い!

 では、早速〈幻惑のオディール〉!」


 いや、みんな流されたら、観客は魔物しか残らないんだが……ついでに敵陣に取り残されるぞ。俺の指摘も、踊り始めたフィオーレには届かなかった。踊りの振り付けを覚えようと、真剣な眼差しで踊っているからだ。

 取り敢えず、1曲分踊り終えるまで小休止にした。

 フィオーレはやる気になっているが、大角餓鬼相手よりも先に小角餓鬼だけの群れで試す事にしよう。

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