第421話 簡易属性動力コアとカスタムレシピ
目当てのレシピは購入する事が出来た。マナポーション以外にもフリッシュドリンクとヴァルムドリンク、ムスケルナート精力剤といったレシピも買ってしまったが、後々必要なので無駄遣いではない。後は、何か必要な物があったかな?
カタログは女性二人に任せて、考えを巡らせる。暫し考えに耽っていると、レスミアの隣から姦しい声が聞こえて来た。
「ただいま~。上の魔道具も凄かったにゃ~。私が入れちゃうくらいの大きな釜とか、冷凍の魔道具とか有ったの。でも、値段も凄かったから、地元に持って行っても売れないよね。リース姉ちゃんにも教えたげよ」
「あはは、お帰り。ここは街一番の魔道具店でもあるからねぇ。ザックス様が買ったレシピも高かったよ。リスレス姉さんは、もっとお手軽な値段の魔道具を受注販売しているって言っていたから、別のお店だろうね」
スティラちゃんが2階の魔道具売り場から戻って来たようだ。そこで、ふと思い出した。そう言えば、年末の祭りで、綿菓子を作るって約束をしていたな。一応は構想を考えてある。ザラメを溶かす為の発熱する機構と、遠心力で溶けたザラメを放出、糸状にする為の回転機構が必要である。
この二つについては心当たりがあった。下町の魔道具店で見かけた、発熱するステーキプレスと、バイクのタイヤを回すゴーレムコアだ。つまり、この二つの原理を組み合わせれば、綿菓子機も作れるはず。
【魔道具】【名称:ステーキファイアプレス】【レア度:D】
ステーキを焼く際に、反り返りを防止する鉄板。それに簡易属性動力コアを取り付け、過熱出来るようにした。フライパンと合わせて、上下から一気に焼き上げ、肉汁を閉じ込める。
そんな相談をフィナフィクスさんにしてみると、カタログを捲って、とあるレシピを紹介してくれた。
「発熱と回転する魔道具の部品ですか……一緒になった物なら、温風の魔道具がありますが、お肉が焼ける程の温度となると、こちらの『簡易属性動力コア』の火属性のリストにあります。用途によって火が出る物、発熱する温度、コアの形状など、様々な種類がありますよ」
『No347 簡易属性動力コア(火属性) 円盤状のコア、調理に使える程に発熱する。鉄のインゴット+銀配線+火晶石+魔絶木の樹脂+マナインク』
『No348 簡易属性動力コア(火属性) 魔道コンロ用の円柱コア、四方から火が出る。鉄のインゴット+銀配線+火晶石+魔絶木の樹脂+マナインク』
カタログには簡単な図も入っているので、形状もなんとなく分かる。レシピの材料は同じでも、形状も効果も違うのは面白い。No347の方は、鉄板に仕込めばホットプレートになるし、No348はコンロの真ん中部分だな。
綿菓子機に使うのなら、No347の方だが、サイズ的に小さいのが欲しいな。
「そして、回転する部品に、ゴーレムコアは低級でも勿体ないですね。アレは大型魔道具の稼働する部分に使う物ですから、回転するだけなら、簡易属性動力コアの風属性で大丈夫ですよ」
なるほど、冷静になって考えると、バイクのエンジンを使って綿菓子機を作るのは過剰だな。
ほうほうと聞いていると、隣のソフィアリーセ様が得意げに指を立てて、補足してくれた。
「ゴーレム馬車には中級コアが使われているのは、知っているわよね?
あれより動かす力が弱いと言っても、結構強力なのよ。低級コアが使われている身近な例を挙げると、大型の自動開閉扉や、時計塔の昇降機、業務用の大型洗濯機、鍛冶工房の相槌……」
「鍛冶の相槌?」
「ええ、わたくしも見た事はありませんが、熱した金属を叩いて鍛えるのに、腕だけのゴーレムに金槌を持たせて打たせるそうよ。もちろん、ちゃんとした鍛冶師ジョブの職人が叩いた方が良い物が出来るけれど、量産する場合や人手が足りない工房で使われているらしいわ」
腕だけのゴーレムとか、武器を持ったマドハ○ドみたいな物で、面白そうである。低級だから、単純動作しか仕込めないらしい。
鍛冶師のジョブを取る為に、少しだけ刃物店フェッツラーミナ工房で仕事をしたが、そんな面白い代物は無かったな。あそこは職人気質な工房だったから、自動化なんてしなさそうだ。
ソフィアリーセ様の蘊蓄を楽しんでいると、カタログを見ていたレスミアが、声を上げた。
「あ、これって、私も使っているブレンダーの事ですか?」
「どれどれ、ああ、ブレンダーの回転部分の部品だろうね」
『No362 簡易属性動力コア(風属性) ブレンダー用の回転コア、真ん中に器具を取り付けられる。鉄のインゴット+銀配線+風晶石+魔絶木の樹脂+マナインク』
『No363 簡易属性動力コア(風属性) コアから一方向に向かって風が吹き出す。鉄のインゴット+銀配線+風晶石+魔絶木の樹脂+マナインク』
村時代に納屋で見つけて修理に出した、ブレンダー(ミキサー)の事だな。確か、フルナさんに怒られた覚えが……
【魔道具】【名称:ブレンダー】【レア度:D】
・内部に入れた物を刃で破砕する道具。複数の素材を混ぜ合わせる事にも使われる。
風晶石が動力に使われているが、魔水晶も使えるように補助動力箱が増設されている。
※動力炉が断線している。補助動力箱が紛失している。
懐かしくて、〈鑑定図鑑閲覧〉のスキルで、当時の鑑定結果を見ていたら、思い出した。補助動力箱も付けないと、魔水晶で動かせないな。上位の風晶石は高いし、取り換えが面倒になると聞いている。
そこら辺もフィナフィクスさんに相談すると、直ぐにカタログを捲って教えてくれた。ただし、ちょっと怪訝な顔をされる。
「補助動力箱のレシピも、こちらに記載されていますが、その前に少し宜しいでしょうか?
ザックス様は、白銀にゃんこで調理器具の魔道具でも販売するつもりなのですか? 対面販売のお店ですよね?」
「……いえ、年末の祭り用に1台作ってみようかと、構想中で」
「量産どころか、試作もまだではありませんか……差し出がましいとは存じますが、忠告させて頂きます。
これらの簡易属性動力コアは、素材販売カウンターでも取り扱っております。先ずは、レシピではなく、部品単価を購入して、試作を作っては如何ですか?
カタログで選んだ物でも、『実際に組み込んで魔道具にしたら、温度が足りなかった』なんて話は良く聞きます。高額なレシピを買うのは、量産する場合のみで良いのですよ」
ぐうの音も出なかった。その通りじゃないか。
今日はレシピを買う事ばかり考えていたので、突発に思い出した綿菓子機の部品まで、レシピを購入する気になってしまっていたのだ。迂闊である。
忠告をくれたフィナフィクスさんには、お礼を言っておいた。本来なら、レシピが売れた方が良いだろうに、態々止めてくれたのだからな。商人ならば、売れそうなものはセールスを掛けてくるものだとばかり思っていたが、良心的な人も居たものだな。
結局、簡易属性動力コアは、完成品を購入する事にして後回し。折角なので、あと一つくらいはレシピを買って行こうとカタログを捲っていく。口には出さないが、助言をくれたフィナフィクスさんのお礼(売り上げで)も兼ねている。
すると、リストの中に懐かしい物を発見した。
「フルナさんが対レア種用に、大量生産してくれた奴だな。マジックダイスの実は単体用で、数も少ないから、範囲攻撃用に買うのも良いか」
「あ~、懐かしいですね」「私も知ってる! フィオの詩にも爆弾を投げるシーンがあったにゃ!」
『No459 爆炎ボム×10 一定範囲を焼き払う火属性の爆弾。火晶石+爆裂玉+ピュアオイル』
「あら? ザックスの銀カードがあれば、範囲魔法も使えるのではなくて?
使い捨て魔道具のレシピを買う必要は、あるのかしら?」
「ああ、それはですね、俺達魔道士からすると、ランク3魔法を充填するのは訳ない事ですが、魔法を使えない人からすると、結構大変なのですよ」
「あはは、私も苦手なんですよ。〈ライトクリーニング〉くらいなら、楽に使えるのですけど」
レスミアは検証で銀カードを使ってもらった時も、充填に苦戦していたからなぁ。ランク0の〈ライトクリーニング〉は充填するMPは少なく誰でも使い易いが、ランク3の範囲魔法は、その10倍ほどMPがいる。その為、慣れない前衛職が使うなら、爆弾の方が楽なのだ。起爆用にちょっと魔力を込めてから、投げるだけだからな。お手軽である。
36層の墓地フィールドは亡霊餓鬼が沢山出るとも聞いているし、範囲攻撃が出来る爆弾はありだな。流石に4属性全部は要らないけど。そう考えて、手持ちの素材で作れそうな爆弾を見繕う。すると、リストの中に変わった物が混じっている事に気が付いた。素材が『○○系』と濁して記載されている物がある。ついでに、周囲より値段が1.5倍くらいに高い。その違いをフィナフィクスさんに質問した。
『No460 爆炎ボム×10 一定範囲を焼き払う火属性の爆弾。火晶石+爆裂玉+油系』
『No489 落石ボム×10 一定範囲に石塊をバラ撒く土属性の爆弾。土晶石+爆裂玉+鉱石系』
「はい、○○系と書かれたものは、同じ系統ならば何を入れても構いません。自由度のある特別なレシピなのですよ。
サードクラスの錬金導師が覚えるスキル〈カスタムレシピ〉で作れるそうです」
……サードクラスのスキルか!
改めて、フルナさんが作っていた爆炎ボム改の鑑定結果を見直すと、油系に2種類の油が使われていた。確か、火精樹の油で火力が上がって、ラードで延焼しやすくなるんだったか?
【魔道具】【名称:爆炎ボム改】【レア度:C】
・爆裂玉を火晶石で強化し、火力を上げた爆弾。爆発した地点から一定範囲を焼き尽くす。その威力は初級属性ランク3魔法に匹敵する。火精樹の油が使われており、範囲と威力が広がっている。更に、内包したラードを巻き散らすことで、周囲を延焼させる。
・錬金術で作成(レシピ:火晶石+爆裂玉+油系(火精樹の油+ラード))
フルナさん自身はセカンドクラスの錬金術師なので、〈カスタムレシピ〉は使えないはず。しかし、レシピが販売されている事を踏まえると、錬金釜に登録すればサードクラスでなくとも調合が可能になるようだ。確か、師匠から弟子に錬金釜を譲り渡す制度があると聞いた覚えがある。恐らく、レシピを購入したか、その師匠がサードクラスだったに違いない。
「こちらの爆炎ボムであれば油系なので、ピュアオイル、火精樹の油、レッサーコカトリスの
ただし、入れる素材によって爆炎ボムの効果が少し変化します。具体的申しますと、火属性の火精樹の油ならば火力が上がり、風属性のお喋りタイムのオイルであれば効果範囲が少し広がるそうです」
「ん? 素材に属性?!」
初めて聞く話だったので、驚いて聞き返してしまう。そんな事、〈詳細鑑定〉には書いてないが?
すると、隣のソフィアリーセ様が助け舟を出してくれた。
「わたくしも錬金術の講義で習ったのだけど、
『万物はマナで構成されている。しかし、全属性な物質は魔水晶と魔結晶以外に存在せず、何かしら属性が偏る。それが物質の属性である』と、教科書に載っていたわ。
属性の相関が調合にも影響を及ぼすらしいの。創造調合で、失敗続きだった時は、素材を見直してみると言いそうよ。
素材の属性を知るには、錬金導師のパッシブスキル〈素材の見極め〉を覚えれば、分かるようになる……そうよね?」
「はい、その通りでございます。お嬢様も良くご存じでいらっしゃいますね」
「ふふん。偶々テスト範囲だから覚えていたのよ」
「おお、流石は学年主席ですね」
胸を張り、得意気な様子を見せたので、称賛した。テスト範囲とか学生っぽくて懐かしい。
それは兎も角、その素材の属性に関して教科書に載っているのか聞いてみたところ、学生向けのダンジョンで採れる素材について書かれているだけで、それほど詳しくはないそうだ。
そんな話をしていると、フィナフィクスさんがカウンターの下から何かを取り出した。それは、薄い小冊子である。
「錬金導師になるまで、待てないという方に、こちらは如何ですか?
錬金術師協会が作成した、この街で採れる素材の属性を網羅した本でございます。1冊10万円でお買い得ですよ」
……おお! アイテム図鑑的な奴か!!
と、喜んだのだが、名前とレア度、素材の属性しか載っていないそうだ。糠喜びさせやがって。
〈カスタムレシピ〉を一足先に体感するには、小冊子は必要だ。ただし、レベル50に至れば自力で調べられるのも事実。今のペースなら年末年始を挟んでも、1月末くらいまでには到達出来るよな?
俺の反応が鈍いのを見たフィナフィクスさんは矛先を変えて、レスミアにセールスを掛けて来た。
「そうそう、白銀にゃんこのお菓子にはバフ効果が付いていますが、そちらの役にも立ちますよ。
素材の属性は、バフ料理にも影響があるそうです。心当たりはございませんか?」
「……あっ! 効果が消えたり、強くなったりした原因!?」
「はい、詳しくは存じませんが、貴族の料理人は食材を組み合わせるのに、味だけでなく属性も考えて料理するそうです。その多くが秘伝として表に出ない程の重要な要素……料理研究をするのに、この小冊子は如何です?」
レスミアの方を見ると、目が合った。その目は如実に欲しいと訴えかけてくる。こうなると、選択肢なんて『買います』しか選ぶ他なかった。
結局、爆弾のレシピはNo489 落石ボムを購入する事にした。折角なのでカスタムレシピの奴だ。何故土属性にしたかと言うと、土晶石の在庫が多いからである。属性晶石は、魔水晶の1割くらいしか採掘出来ないが、土晶石はアリンコ鉱山から良く採れるのだ。ロックアントが土属性だからだろう。
『No489 落石ボム×10 一定範囲に石塊をバラ撒く土属性の爆弾。土晶石+爆裂玉+鉱石系』
ただし、その素材となる『爆裂玉』のレシピも無いので、そちらも買う羽目に……と思ったら、更にその素材の『錬金炭』も必要ときたもんだ。芋づる式に3つ追加で買う羽目になってしまったとさ。
『No142 爆裂玉×10 爆発により周囲に火属性ダメージを与える爆弾。ピュアオイル+破裂の実+錬金炭』
『No121 錬金炭×20 燃石炭を火属性で強化し、更に高温で燃える。燃石炭+火晶石』
この2つはレア度Dだったので、値段が安かったのは救いか。
結局、今日購入したレシピだけで、1100万円も散財してしまった。大型錬金釜を購入するための貯金が吹き飛んだよ。また、内職を頑張らないと……
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