第416話 強力なのに使えない特殊武具達

あらすじ:手持ちで最強の聖剣は、只の棍棒だった?!


【武具】【名称:聖剣 天之尾羽張】【レア度:EX】

・異世界の神が所持していたとされる剣。逸話の通り火属性に特攻のスキルが付与されている。

 その他にも、ダンジョン内の魔素を吸収し、所持者のMPを回復するスキル〈MP自然回復量極大アップ〉や、魔法を切り払い吸収する〈魔法切り払い〉、魔法ダメージをMPに変換して吸収する〈ダメージMP変換〉、聖剣で傷付けた敵のMPを奪う〈MPドレイン〉など、MPを回復する手段が多数ある。

【破壊不可】【盗難防止】【自動回収】

・固有スキル〈火属性即死〉、〈MP自然回復量極大アップ〉、〈魔法切り払い〉、〈ダメージMP変換〉、〈MPドレイン〉



「鞘から抜けないのですが、【破壊不可】の特性があるので、粗雑に扱っても壊れない棍棒として使えるのですよ。そして、このまま殴った敵からMPを吸収できるって寸法です!」


 一番近くにいたロックアントの頭目掛けて、天之尾羽張を振り下ろす。その透明な魔水晶製のヘルメットを砕き、大きなヒビを入れた。しかし、少しだけ動きを止めていたロックアントは、よろよろと立ち上がる。打撃攻撃だから〈衝撃浸透〉でダメージは増えているのだろうけど、質量が足りないな。飢餓の重棍なら粉砕できるのだから、その半分以下の金属棒では威力が足りない。2撃目を首筋に入れる事で何とか倒すことが出来た。

 1匹倒して、MPバーがちょっぴり回復した。2%~3%程度かな?

 ただ、回復するのは良いが、普段は聖剣クラウソラスかミスリルソードを使って楽々両断しているので、地味に面倒だ。


「〈付与術・筋力〉!

 首狙いで撲殺していくから、ヴァルトは〈ヘイトリアクション〉で引き寄せてくれ」

「では、私は脚を切り落として、動きを鈍らせよう。

 ヴァルト、お前は引き寄せた後、ハルバードを上手く使って、魔物を転がせて見せなさい。ハルバードは力任せに突きや斬る、叩くだけでなく、引っ掛ける事も出来るのだ。低階層の魔物ならば、練習には良い相手でしょう? 練習あるのみ!」

「了解! ……やってみます!」


 ルティルトさんが男言葉な辺り、まだ体育会系のしごきは続いていたようだ。その指導している教官の武器は、細身の剣……特徴のある紋様が入っているのでウーツ鋼製のショートソードだろう。固い甲殻部分を避け、関節を狙ってスパスパと簡単に切り落としている辺り強い。いや、技量が高いと言うべきか。流石は騎士団長の娘である。

 一方、ベルンヴァルトはハルバードの斧の反対側に付いたカギ爪を使って、ロックアントの脚を引っ掛けようとしている。ただ、蟻なだけあって脚が多い為、1本引っ掛けただけでは簡単に引っくり返らない。中々に苦戦しているようだ。

 おっと、俺も止めを刺しに回らないと……2人がお膳立てをしてくれたお陰で、楽に倒していった。




 30匹倒したところで、MPがほぼマックスになった。特殊アビリティの〈MP自然回復量極大アップ〉や、魔道士の〈マナの循環〉等で、自然回復する分を差し引いて考えると、1匹2%程度の回復量である。マナポーションを2本飲むよりは経費的にも、時間的にも優しいと言える。3人分の工数が掛かるけど、時間的に短いので許容範囲内だろう。


 後始末……残敵掃討は2人に任せて、俺はその場で調合を始めた。



「こちらは終わりましたよ。魔水晶や鉱石も拾い集めて来ました」

「……おっと、ありがとうございます。調合は30分程掛かるので、それまでは小休止しましょう。今、休憩用の椅子を出しますね」

「いや、気遣いはありがたいが、ダンジョン内で椅子とテーブルを出すのか……普段は敷物に座るだけなのだがな」


 流石のお嬢様一行でも、ダンジョン内では地べたに座るらしい。ストレージから、いつもの休憩セットを出したら複雑な表情をされてしまった。俺達も、下草が生えた採取地とか、大休憩で寝転がりたい場合は敷物も使うけどね。お茶をする時はテーブルがあった方が良い。


「では、小休止の間、先程の聖剣を見せてくれないか?」

「良いですよ。クラウソラスと同じく、天之尾羽張にも【盗難防止】が掛かっているので、触るとピリピリしますよ」


 そんな注意をしてからテーブルの上に乗せたのに、早速触ってパチパチと弾かれている。そればかりか、柄を握りしめ、引き抜こうとする……が、やはり抜けない。すると、一際強く光ったと思えば、天之尾羽張をテーブルへ落とした。


「痛っ……触り過ぎたか。

 変わった作りであるが、見事な柄と鞘だ。刀身が見えないのは残念であるな。

 ザックス、抜く方法はないのか?」


 武具類が好きなルティルトさんは、興味津々と言った様子で眺めている。しかし、その問いに対しても、俺は推測程度しか答えられない。


「〈詳細鑑定〉には何も書いて無いですからね。定番なのはレベルが足りないとか、特定のジョブ……英雄系の上位ジョブだけとか。

 他には可能性は低いですけど、剣自体に意思があって主として認められないと駄目とか、強敵を前にしないと抜けないとか?

 現状では、このくらいの推測が精々ですね。

 付与術師のレベル40で覚える〈スキル鑑定〉なら、もう少し情報が出ると思いますけど」

「そんな条件が要る武器など聞いた事も無いが……レア度EXともなれば、有り得なくもないのか?」


 多分、固有スキルのどれかが制限を掛けているに違いない。聖剣クラウソラスにだって、精霊の祝福を得たら光剣がパワーアップする隠し機能が付いていたのだから。あっちも〈プリズムソード〉を〈スキル鑑定〉すれば、何か出てくる……と良いな。


 こうして話している間も、熱心に観察するルティルトさんだった。その姿を見て、ハタと思い出した。これは、勧誘のチャンスじゃない?


「そう言えば、ルティルト様は絵画を嗜むのでしたよね?

 以前、デザインして頂いた白銀にゃんこのロゴマークも、お客さんからは『可愛い』と非常に好評を得ました。

 もし、良ければ、その聖剣も描いて貰えませんか?」

「……休憩中の間であれば、構いません。私としても、スケッチしたいと思っていましたから。それにしても、何に使うのですか? 白銀にゃんこに武器は似合いませんよ?」

「いえ、〈詳細鑑定〉の結果なども報告書にまとめて報告しているのですが、絵があった方が分かり易いと思いまして……将来的には、図鑑に出来たら良いですね」

「それって、伯爵経由で王族に出しているという資料なのでは???

 ボールペンでささっとスケッチをするつもりでしたが、半端な物ではいけませんね。ザックス、絵筆も出しなさい」


 急に真剣な表情に変わるルティルトさんだったが、やはり王族案件というのは大変な事のようだ。いや、俺の書いた村時代の報告書なんて、思うがままに書いて出しちゃったんだけどね。リプレリーアに校正をお願いする様になって、マシになったと思うけど……


 取り敢えず、手持ちの画材を提供して書いてもらう事になった。ただし、白銀にゃんこのポスターを書いた際の絵の具だったので、色合いが足りないと苦情が入る。


「このような安っぽい絵の具では、聖剣の煌きを表現出来ないではありませんか!

 ……仕方がありません。今日のところは下書きに留めて、帰ってから私の絵の具で仕上げをする事にします。ザックス、次の機会までに、錬金術師協会で売っている高級油絵の具セットを買っておくのですよ」

「了解しました。絵の具も錬金術師の範疇なんですね」


 そんな訳で、黒のみで下書きが始まった。絵が得意というのは確かなようで、ダイヤモンドの調合が終わるまでに、天之尾羽張だけでなくクラウソラスまで書き終わってしまった。宝石と装飾が沢山付いているクラウソラスは、線画になっても格好良い。村に居たフルナさんの息子、ムトルフ君が形を似せた木剣を作っていたが、雲泥の差である。いや、子供の作った物だし、絵と立体を比べるのも酷な話か。



 2つ目のダイヤモンドを作り、MPが2割に減ってしまったので、別の部屋に移動して、再度ロックアントを増殖させた。2度目ともなると、徐々に効率化されてくる。ベルンヴァルトも休憩時間の間も、引っ掛ける練習をしていたお陰か、ロックアントを転がせる頻度も上がっていた。まぁ、俺は天之尾羽張を振り下ろすだけなので、作業感が強まったが早く回復出来たので良し!


 そして、2度目の休憩時間も特殊武器の下書きを続ける事になった。


「手持ちの特殊武器はこんな感じです。どれにします?」


●特殊アビリティ設定一覧   ポイント0/47   ※武具のみ抜粋

・特殊武器(〇ミスリルソード5p、〇紅蓮剣10p、〇プラズマランス15p、〇聖剣クラウソラス20p、〇聖剣 天之尾羽張25p)

・特殊防具(〇癒しの盾5p、〇ミスリルフルプレート10p、〇ブラストナックル15p、〇聖盾20p、〇アキレウスの鎧25p)


「ポイントが高いのから描いたのよね? このアキレウスの鎧にしましょう」

「あー、すみません。そいつは選択しても出てこないので、次の聖盾ディヴァインシールドにしてください」


 天之尾羽張も意味不明な武器であるが、同じ25pのアキレウスの鎧も酷い。なにせポイントを割り振っても出てこないのだ。なので、〈詳細鑑定〉どころか姿形すら分からない。

 仕方が無いので、次の20p特殊防具、聖盾を取り出した。

 それは、金色に輝く大型のカイトシールドであり、光を当てると7色に反射する豪奢な盾である。表面には4対8枚の翼を広げる天使?が施されており、目を奪われずにはいられない。


「これはまた……以前借りた癒しの盾も見事な盾であったが、軽く上回ったな。

 表面の女神様も美しい……羽が多いような気もするが?」

「そう言えば、女神像は2対4枚でしたっけ? 癒しの盾の天使は2枚だったし……更に上位の神様的存在とか?」

「創造神である昼の女神フィーア様と夜の神トーヤ様が、最上位であるに決まっているだろう! 不敬が過ぎるぞ!」


 怒られてしまった。他には、ダンジョンを作った邪神が居る筈だが、流石に神々しい聖盾に描かれる訳は無い。結局、女神像の顔と似ている気がするので、女神様(8枚Ver)と思う事になった。

 因みに天使様の方は、教会の方に神の使いとして、石像と言い伝えが残っているそうだ。ダンジョンが人類の手に負えなくなった時、降臨して救いをもたらすとか。ただし、『天使様が降臨した時点で、神の教え(ダンジョン討伐をしろ)が守れなかった事の証左である為、人の手でダンジョン討伐をしよう』と言う教会の教えらしい。


「こんな事は、貴族の子弟なら常識ですよ。覚えておきなさい。

 それにしても、これほどの盾ならば、騎士だけでなく貴族の誰もが欲しがるでしょうね……『バチッ!』また、弾かれた!?」

「ああ、それにも【盗難防止】が付いていますから、これが〈詳細鑑定〉の結果です」



【武具】【名称:聖盾ディヴァイン・シールド】【レア度:EX】

 神の金属と呼ばれるオリハルコン製の盾。どのような攻撃であっても、傷付く事は無い。

 単独でも強力な付与スキルで追随を許さないが、コストも重いので相応のレベルがなければ扱う事すら出来ない。また、聖剣と名の付く武器を同時に装備する事により真価を発揮する。

【破壊不可】【盗難防止】【自動回収】

・固有スキル〈聖剣共鳴〉、〈ファイナリティ・キュアレシア〉、〈ディヴァイン・テリトリー〉、〈全状態異常耐性極大アップ〉



「神の金属?! 初めて聞く金属だが……通りで金にしては、煌びやかに光る筈だ。

 それで、この固有スキルはどんな効果なのか分かったのか?」

「いいえ、サッパリです。名前から分かるのは、そのまんまな〈全状態異常耐性極大アップ〉と、【破壊不可】なので滅茶苦茶固い盾って事くらいですね。

 辛うじて〈ディヴァイン・テリトリー〉は結界を張るスキルと推測出来ますけど、魔法陣がデカすぎて俺のMPじゃ足りないんです」


 そう、アビリティポイントが45になった時、〈聖剣共鳴〉を期待して聖剣クラウソラスと共に装備してみたのだが、何も起こらなかったのだ。試しに〈プリズムソード〉も使ってみても、光剣が出るだけで変らず。

 そして、解説文に書いてある『強力な付与スキル』な筈の〈ディヴァイン・テリトリー〉と〈ファイナリティ・キュアレシア〉は、魔法陣を出す事は出来てもMPが足りず、充填しても半分ほどまでしか貯められなかった。

 『相応のレベルがなければ扱う事すら出来ない』のは確かなようだ。レベル35で半分なので、単純計算で倍のレベルがいるのかも?


「先程のMP吸収の聖剣と似たような物であるな。状態異常の全てに耐性を持つだけでも、十分国宝として扱われると思うが……ザックスしか使えないのでは仕方がないか。

 取り敢えず、この美しい意匠は絵に写させてもらおう。これを真似て、新しい盾を発注するのも良いな」


 そう言って、筆を走らせるルティルトさんであった。

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