第415話 MP回復手段

「……ソフィアリーセ様は、私達の後援者でもあるのですから、敬語で接しなさい。スティラだって、そうしているでしょ?」

「私も実家の店で、看板娘をしていたからね。フィオも白銀にゃんこで、接客してみると良いニャ!」

「え~、それは練習時間が減るからちょっと……敬語を使えるよう頑張る……頑張ります」


 猫姉妹にステレオで叱られたフィオーレは、しょんぼりしてから、言い直した。

 当のソフィアリーセ様が、微笑ましい物でも見たようにクスクス笑っているので、多分セーフだろう。レスミアも、着替えていたために遅れた事を謝罪すると、それも笑って許してくれた。

 レスミアが俺の隣に座る際、調合中な事に驚いていたが、緊急依頼を受けたと話すと納得する。


「最近はリビングでも銀カードを作っていたりしますからね。慣れていますよ。

 それで、今はフィオーレの件の相談ですか?」

「ああ、事情を話したところだよ」

「可愛らしい衣装のダンサーで驚きましたわ。ビルイーヌ族は体格のせいか、ダンジョンを好まない人が多いので……専用ジョブは強いと聞きます。パーティーメンバーとして、貴女の働きに期待します」

「は、はい! 頑張りますです!」


 無事?フィオーレの面接も終わったようだ。因みにフィオーレはソファーの脇に立たされたままである。妹枠のスティラちゃんと違って、使用人枠のようだ。まぁ、座っているのは身内予定(+友人のルティルトさん)だけだからな。


「それで、フィオーレは実戦的なソードダンサーを紹介して欲しいとの事でしたね?」

「はい! 祝福の楽曲は母に教わったのと、形見の楽譜があるので、大体は弾けるんだけど……弾けます。

 でも、呪いの踊りは、ファーストクラスのOPアクトの分しか習ってないです。〈連撃のキトリ〉みたいに踊りながら戦うのも面白かったから、教えてくれる人は居ないかな~って……居ませんでしょうか?」


 ちょいちょい、怪しい敬語になっているが、頑張っている感が出ているのでセーフだろう。若干、マルガネーテさんの目が怖くなっているけど。


「ヴィントシャフト家では劇場を経営しており、いくつかの劇団と契約をしているわ。もちろん、ビルイーヌ族のソードダンサーも居たはずよ。ただし、劇団に入らず、教えを乞うとなると……

 貴族の子女に、教養としてのダンスを教える教室があるけれど、あくまで社交用なの。

 劇団員を目指す子供向けの教室も同じね。あくまで舞台用のダンスや音楽だもの。後は…………」


 ソフィアリーセ様は直ぐには思いつかないようで、頬に手を当てて考え込んでします。その様子を見て、マルガネーテさんがスッと歩み出て、発言許可を求めた。


「お嬢様、差出口で申し訳ありませんが、個人レッスンを予約するのは如何でしょうか?

 レッスン内容は自由に決められますので、ソードダンサーの劇団員を指名すれば戦闘用の踊りも教えてもらえるかと存じます。

 ただし、値段は高く付きますが……」


 マルガネーテさんが教えてくれたのは、『有名なスターに教えてもらいたい』貴族向けの特別レッスンらしい。プロ野球とかJリーガーが教えるスポーツ教室は日本でもあった覚えがあるが、その個人レッスン版だな。


「ええと、お待ち下さい。確かメモが……劇の主役を演じるプリマドンナであれば、半日の4時間レッスンで50万円ですね。人気な方ほど高く、端役の団員ほど安くなります。現役を引退したコーチ陣であれば、5万円ほどになります」


 なるほど、休日にレッスンに行かせるとなると、午前午後で最低でも10万円かぁ。流石は貴族向けなだけはある。

 改めて稼いでおいて良かった。最近は出費も多くて、銀カードの売り上げがないと、お金稼ぎに奔走していたところだろう。

 ふと視線を感じて横を見ると、ソファーのひじ掛けまでやって来たフィオーレが、顔の前で祈る様に手を合わせ、目を潤ませていた。涙で訴えてまで、お願いして来るとは、意外に演技派である。


「まぁ、ダンジョン攻略の必要経費ではあるな。ダンスだけでなく、武器の扱い方も習って来いよ。

 ソフィアリーセ様、その個人レッスンを受けさせますので、紹介をお願い致します」

「わーい! ザックス太っ腹!! ……お嬢様、お願いします!」


 万歳をしたフィオーレの頭を掴んで、無理矢理下げさせた。ソフィアリーセ様はくすくすと笑っているので良いが、「礼儀作法も一緒に教えた方が良いですね」と呟くマルガネーテさんは、ボールペンで何かをメモしていた。


「ザックスの頼みですもの。わたくしの紹介として劇団へ掛け合ってみましょう……ただし、その前に貴女の踊りを見せて頂けるかしら? あまりにも才能が無い者や素人を紹介したのであっては、ヴィントシャフト家の名まで傷が付くのよ」


 確かに、スポンサーであるヴィントシャフト家の面目もある。フィオーレの腕前は悪くないと思うが、以前見た劇のミューストラ姫よりは確実に下である。素人目だけどな。

 急にテストとなってしまったが、フィオーレは臆することなく立ち上がりポーズを決める。やる気満々のようだ。


「ふっふっふっ、伊達に子供の頃から練習してないよ! 得意のローズアダージオを踊って魅せてあげる!」

「いや、応接間で踊ると絨毯が痛む。板張りの所か外にしてくれ。

 っと、ちょっと待った。調合が完成しそうだ」


 錬金釜の水面が青く光り始める。そして、青い閃光が走り、もくもくと青い煙を吹き出した。その煙は天井に上がり、行き場を求めて部屋中に広がり始める。錬金工房ではないので、煙突の無い。早く作る事を意識して、煙の事を忘れていたな。早く、煙を外に逃がさないと……


「窓に近い人は、開けて下さい! 〈ブリーズ〉!」

「わたくしも……〈ブリーズ〉!」


 開け放たれた2枚の窓に向けて、煙を吹き流す。ソフィアリーセ様も協力してくれたお陰で、応接間に充満しかけた煙は直ぐに薄くなっていった。人体に影響がある煙ではないけれど、長時間充満し続けるとヒカリゴケが生えるらしいから、早めに吹き散らす方が良い。


 風が弱まり、煙も薄くなる。それにホッとしていると、急に窓から侵入してくる人影があった。金髪ポニーを風で揺らしながらソファーへと駆け寄る。


「何事ですか! お嬢様は無事?!」


 ルティルトさんはソフィアリーセ様を見た後、直ぐに周囲を警戒する。腰の剣の柄を握り、いつでも抜刀できる様にしている。

 流石は護衛騎士と言ったところか、異常があれば直ぐに駆けつけて来るようだ。

 ウチの騎士はルティルトさんを追ってきたようだけど、窓の外から覗き込んでいるだけだからな。目が合ったので、猫尻尾の混ぜ棒を見せると、直ぐに苦笑した。直ぐに察してくれるのも信頼と思いたい。


「ルティ、ダイヤモンドの調合の煙が出ただけですから、危険はありませんよ」

「……ああ、例の件、受けて貰えたのですね。驚かせないで下さい」

「それよりも、残りの調合を行うために、第2支部のダンジョンへ行くそうです。貴女は立会人として同行しなさい……」


 ソフィアリーセ様がルティルトさんに指示を出し始めたので、俺もベルンヴァルトへダンジョンへの同行をお願いする。一応、今日は休みの日だからね。窓へ近付いて簡単に説明した。


「ああ、構わんぜ。ハルバードを使うコツは教えてもらったから、後は実践するだけだ」

「バイクが使える大部屋にしてもいいけど、相手はロックアントだから、練習になるか分からないぞ?」

「いや、そっちのお嬢様もバイクに乗りたがっていたから、丁度良いかもな」


 そう言えば、ルティルトさんもバイクを気にしていたか。まぁ、同行中に貸すくらいなら良いだろう。向こうも説明が終わったようなので、完成したイミテーション・ダイヤモンドを納品しておく。


「ソフィアリーセ様、名残惜しいですが残りの調合の為、御前を失礼します。

 レスミア、後は頼んだよ。フィオーレのフォローとか……昼前には戻るからさ」

「あはは、分かりました。時間が無いですけど、そちらも気を付けて下さいね」

「マルガネーテを11時頃から、第2支部の受付に待たせておきます。完成品はわたくしに見せず、そのまま持たせなさいね」


 あまり時間が無いので、挨拶もそこそこに応接間を出た。外に行きながら、ルティルトさんに簡易ステータスを見せて、パーティーメンバーとして勧誘する。


【人族】【名称:ルティルト・セアリアス子爵、17歳】【基礎Lv30、騎士Lv30】


 ふむ、普通だな。最近は年齢詐欺の人が多かったので、少し肩透かしである。セアリアス子爵という、貴族名が知れたくらいか?

 庭先でベルンヴァルトと合流する。ルティルトさんがヴァイスクリガー……厩に預けた白馬を連れて来ようとしたので、それを引き留め、代わりにバイクを貸し出した。家から第2支部までは、そこまで遠くは無い。馬を出して、向こうでも預ける時間を考えたら、走った方が早いからだ。


「身分の有る騎士が自分の足で走っていては、緊急事態と勘違いされる事もあるが……まぁ、バイクならば結構でしょう。

 では、二人とも駆足! 急ぎますよ!」


 先程までの訓練気分が続いているようで、走らされる羽目になってしまったのだ。そこまで遠くないから、構わないけど、やっぱり騎士団は体育会系なんだなぁ。小声でぼやくベルンヴァルトを嗜めて、バイクの後を追うのだった。




 第2ダンジョンの13層へと降りて来た。この階層で登場する魔物はロックアントと、盆栽ことナデルキーファーである。一つ前の12層ならクイックワラビーが出るので、レア種のクゥオッカワラビーからウォッカが手に入る。しかし、クイックワラビーは移動するワンダリングモンスターな部分が面倒なのだ。アリンコ鉱山をやっていると、偶に乱入して来る事がある。その点、ナデルキーファーは動かないので安全ってね。


 取り敢えず、一番近い大部屋に移動して、ロックアント1匹の脚を全部切り落として行動不能にする。そして、魔水晶を餌として与えるのだった。


「そろそろ、何をしているのか話なさい。MPを回復するのではなかったのか?」

「騎士団にも教えた内容ですが、ロックアントの仲間呼びを使った稼ぎ方法です」


 テオ達にも教えたのだが、最近は銀カードで稼げるようになったので、エディング伯爵にはアリンコ鉱山の方法を公開してある。まだ、騎士団には展開されていなかったのかな?

 ロックアントの習性を説明しつつ餌付けをし、身体の8割が半透明な魔水晶に覆われるまで育てる。関節まで硬くなると面倒なので、程々にするのがベターなのだ。後は、ちょっと脅かしてやれば、仲間呼びを始める。召喚された奴らの脚も破壊して行動不能にして、数をどんどんと増やしていく。


「無理をせず、自分達で処理できる数にするのが良いですね。

 ここまでが魔水晶、チタン、銀鉱石の無限稼ぎ方法で、ここからは俺にしかできないMP回復方法です」


 増えていくロックアントの管理をベルンヴァルトに任せて、俺は特殊アビリティ設定を変更した。取り出すのは、アビリティポイント25pの『聖剣 天之尾羽張』である。

 設定画面を消すと、左手に豪奢な鞘のロングソードが現れた。洋風で沢山の宝石が付いた聖剣クラウソラスと比べると、地味な柄をしている。出典が日本だからだろうか?



【武具】【名称:聖剣 天之尾羽張】【レア度:EX】

・異世界の神が所持していたとされる剣。逸話の通り火属性に特攻のスキルが付与されている。

 その他にも、ダンジョン内の魔素を吸収し、所持者のMPを回復するスキル〈MP自然回復量極大アップ〉や、魔法を切り払い吸収する〈魔法切り払い〉、魔法ダメージをMPに変換して吸収する〈ダメージMP変換〉、聖剣で傷付けた敵のMPを奪う〈MPドレイン〉など、MPを回復する手段が多数ある。

【破壊不可】【盗難防止】【自動回収】

・固有スキル〈火属性即死〉、〈MP自然回復量極大アップ〉、〈魔法切り払い〉、〈ダメージMP変換〉、〈MPドレイン〉



 ただし、日本刀ではなく直剣である。両手持ちが出来る程の長めの柄は、装飾も少ないので地味に見えるのだな。鞘の方も、稲妻のような模様が縦に入っているだけなので、そこまで煌びやかではない。


 ん? 刀身はどうなのかって?

 いや、見た事が無いので、表現のしようがないのだ。

 そう、MPが回復できるという強い固有スキルを持ちながら、使う事が無かったのは抜刀出来ないからである。

 現状では、只の頑丈な棒なんだ……

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