第407話 対大角餓鬼の戦術と奇策

 亡霊餓鬼は3匹も居たのに、全てドロップ無し。経験値は得ている筈だけど、目に見える物が何もないので、倒し甲斐が無いなぁ。代わりと言っては何だが、大角餓鬼が大物をドロップしてくれた。アイツが振り回していた金棒だけどね。



【武具】【名称:チタン金棒】【レア度:D】

・チタン製の金棒。打撃に特化した武器であり、打ち付けた衝撃で敵を殺傷する。全面にトゲが有る為、打点の威力が高く、鎧や甲殻などの硬い表面を破壊するのに向いている。仮に破壊できずとも、衝撃で内部を攻撃するのには十分。

 ただし、チタン製にも関わらず、太く長いせいで重量が重く、使い手を選ぶ。



 既に赤黒いオーラは消えていたので、呪いなどは無い様だ。ただ、鬼に金棒的な見た目のくせに、チタン製とは驚きである。ダンボールで作った演劇用みたいな物かと思ったが、実際に持つとハルバードくらいには重い。うん、これは中が中空だとか、軽めの心材が入っている訳でなく、総金属製っぽい。そりゃ、チタンでもこれだけ使えば重いよな。

 鬼人族のベルンヴァルトにはよく似合うので、使うかどうか聞いてみたが、既に飢餓の重棍があるから要らないそうだ。確かに飢餓の重棍はウーツ鋼と同等なので、下位互換は要らないか。再加工してチタンインゴットにすれば10個以上作れそうなので、在庫にしておこう。



 後始末を終えた後、幽魂桜の下で小休止する事にした。桜といえば、『綺麗な桜の下には死体が埋まっている』なんて噂を耳にした事がある。こっちだと、リアルに死体(のマナ)を吸っているから、綺麗なのかも知れない。いや、魔物のマナを吸うと花が散るから逆か。美味しいサクランボには、魔物の魂が詰まっているとか、怪談になりそうだ。


 俺の変な妄想は横に置いておいて、予想以上に手強かったので、反省会である。


「反省会の前に、レスミアはどうやって小角餓鬼達を倒したんだ? 大角餓鬼に掛かりっきりで見られなかったけど、〈ヘイトリアクション〉の影響下でも他の敵を倒せる良い方法ってのが気になる」

「あはは、そんなに大した戦法じゃないですよ。目線が大角餓鬼に取られてしまうなら、その間に入れてしまえば良いんですよ!」


 レスミアは少し照れたように笑い、解説してくれた。要は、大角餓鬼の後方にいる小角餓鬼共の更に後ろに回り込み、直線状に捕らえる事で視界に入れる方法であった。流石に視界に入っていない敵を斬るような達人技は使えないが、視界の端にでも見えていれば攻撃は出来る。しかも、魔法使い餓鬼なので、近接戦は出来ず装備もボロのローブ、前衛職ならば倒すのは容易である。


「なるほど、盲点だったな。遠距離から魔法で倒す事ばかり考えていた……今後も同じ状況になったら、頼むよ」

「私の猫耳なら、少しでも動けば位置関係は把握しやすいですからね。お任せください!」

「レベルが35になれば、魔道士がランク7の広範囲魔法を覚えるから、小角餓鬼は一掃できる筈。ただ、それを覚えるまで、どうやって戦うかだよな」


 さて、保険が出来た事は喜ばしいけど、問題点は山ほどある。斥候を倒しておいた筈なのに待ち構えていたとか、キノコで釣れないとか、〈ヘイトリアクション〉が部屋の外にまで届いたとか……奇襲が出来る前提で作戦を立てていたので、ガチンコ勝負になってしまった。戦術面では大失敗である。


「俺は後衛の魔法使い餓鬼に固執し過ぎたな。先に魔剣術の火属性で大角餓鬼を攻めていれば、もう少し楽だったと思う」

「それなら俺は騎士ジョブに拘り過ぎたな。防御は高いから負ける気はせんが、逆に決め手も少ない。〈ランスチャージ〉と戦士のスキルだけじゃなぁ。リーダー、鬼徒士のジョブに替えてくれ。あっちの方が、攻撃力がある」


 ベルンヴァルトは正攻法に殴り勝ちに行きたいようだ。騎士の筋力値補正は中に対し、鬼徒士は大。更に〈集魂玉解放〉を使えば、筋力値はさらに上がる。


【スキル】【名称:集魂玉解放】【アクティブ】

・集魂玉を1個消費して発動する。筋力値のステータス補正を一段上昇させ、更に集魂玉の元となった魔物の一番高いステータスと同じ能力値を上昇させる(戦闘終了まで)。


 その代わり、耐久値補正が無くなるが、大盾で防御する事は出来る。〈シールドガード〉や〈アブソーブシールド〉などの軽減スキルが無くなるけど、高い筋力値で衝撃を抑える事は可能だ。それに合わせて、武器もハルバードから飢餓の重棍に変更する。益々もって真正面から殴り合うつもりらしい。

 まぁ、正攻法で叩き潰せるなら、それも正解だろう。正攻法は搦め手に弱いが、相手の大角餓鬼も脳筋なので、その心配はいらない。むしろ、俺が搦め手を使った方が楽だろう。


「ヴァルトが正攻法なら、俺が足止めだな。パッと思い付くのは、罠術の〈トリモチの罠〉や〈くくり罠〉、足元に〈ファイアマイン〉や〈フレイムウォール〉を設置するとかな?……〈丁半博打〉は偶々上手くいったけど、〈いかさまの拙技〉のやり直しを含めても25%で失敗するから、確実性はない。まだ、ヴァルトが戦っている隙に〈ダーツスロー〉を使った方がマシだ。

 後は、甲殻弾を撃ち出して角を折るのは良かったな。金棒の間合いの外から攻撃出来るし……ただ、的が小さいから足止めは必須だけど。

 中距離からの攻撃なら、火属性の魔剣術で〈エレメント・スラスト〉を連射するのも良い。角を破壊出来る威力かどうかは試す価値がある。

 ああ、ヴァルトが鬼徒士にするなら〈爆砕衝破〉も良いな。敵の後衛を巻き込む様に打てば、一石三鳥になる可能性もある」

「多い多い、よくそんだけ出てくるね~」

「ザックス様は、昔から効率よく魔物を倒す方法を考えるのが好きですからね。偶に変な戦い方を思いついたりしますけど」


 レスミアは褒めてくれているのか、変なのは止めてねと、釘を刺しに来ているのか。

 思い付くがままに対策を話していたが、レスミアについても考える。トレジャーハンターでは〈ツインアロー〉くらいしか、攻撃系アクティブスキルがない。全身金属鎧な大角餓鬼には相性が良くない。かと言って、闇猫も〈不意打ち〉くらいしかないが……角が切れたのは見ていたので、同じように首を落とせないか聞いてみたところ、首を振られた。


「あの大角餓鬼は、首元まで鎧がありましたから、一回じゃ無理です。先程も背中を斬りましたけど、鎧に切れ込みを入れて、背中をちょっと斬っただけに終わりましたから。それで、警戒されたんですよ」

「うーん、それなら装甲の薄い、膝裏の関節部分を狙うとかかな? 無理そうだったり、警戒されたりした場合は、小角餓鬼に回ってくれれば良い」


「はいはい! アタシは?」

「フィオーレは、対処法が確立するまでは、属性耐性を上げるプレリュードを頼む。向こうも充填には時間が掛かるから、それまでは筋力値アップか、敏捷値アップの曲かな? 魔法が撃ち込まれる前に切り替える感じで、後方から戦況を見て判断してくれ。さっきの回復の曲は助かったからね」

「アハハ、ミーアが助言してくれたお陰だけどね。でも、自分で戦況を見ろとか難しい事言う……まぁ、魔法陣の色の違いで切り替えれば良いか」


 そんな感じで話し合いは続いた。運悪く1戦目は苦戦してしまったが、ウチのメンバーに心が折れたり、連戦を怖がったりする者は居ないようである。レスミアとベルンヴァルトは何度も激戦を戦ってきたので心配はしていないが、加入したばかりのフィオーレはちょっとだけ心配だったんだよな。


 そして、新しい戦術を試す順番を決めてから、出発する事になった。おっと、その前に、小部屋に生えていた幽魂桜も伐採して頂いておく。張り出した枝が〈ストームカッタ―〉で斬られているのを見て、頭に閃きが走った


 ……先に大半の枝を伐採して、小ぶりな枝1本だけ残して置いたらどうなるんだろう?

 魔物3匹分の花だけ残しておいて、マナを吸わせて散らせればサクランボが実ったりしないか?

 当然、サクランボの数は減るだろうけど、味見くらいにはなりそうだ。


 面白いアイディアだけれど、先ずは大角餓鬼の倒し方を確立する方が先だな。現状で魔物をそっちのけにして伐採している時間は無い。さっさと34層を抜けて、35層でレベル上げからの新スキルを覚える方が優先順位は高い。採取地に寄るのも我慢して、先に進もうって話なのだから……なんて考えていたら、更なる閃きが光る。


 ……そう言えば、試していない薬品があったな。

 これは、対大角餓鬼の戦術なのでセーフ。出発するぎりぎりに皆に話してみたのだが、レスミアには呆れた顔をされてしまった。


「あの~、それって売店のお姉さんが注意してきた物ですよね? 逃走用って言ってませんでした?」

「大丈夫、危険なのは閉鎖空間で使う事だから、通路や小部屋を避けて、大部屋で使えば良いのさ。万が一の時でも〈ライトクリーニング〉で消せば良いし……一度使ってみて効果をみない事には、緊急時にも危なくて使えないだろ?」


 「また、変な事を言い出した」みたいな顔をしていたレスミアを説得し、なんとか許可が出た。ベルンヴァルトとフィオーレは面白そうだからと笑っていたので、元よりこちら側。地図で大部屋の検討を付けつつ、先に進んだ。




 次に出会った小角餓鬼の斥候は、キノコに引っ掛かった。今まで通り、喰い付いたのでサクッと倒して、残りの3匹を倒しに向かうと、小角餓鬼3匹の群れであった。大角餓鬼が居ないパターンもあるらしい。

 コイツ等もキノコで釣り、ベルンヴァルトが飢餓の重棍でまとめて地面の染みに変える。ここ数日、騎士ジョブだったので、手持ちの集魂玉が無かったのだ。どうやって手に入れるか危惧していたが、労せずして3個手に入った。


 ついでに、斥候がキノコに喰い付くか持ち去るかで、大角餓鬼の有無が分かると推測を立てる。大角餓鬼がリーダーとして存在する場合にのみ、小角餓鬼が統率を取れた動きをするのだろう。

 この予測は、直ぐに立証された。大部屋の手前に居た斥候が、キノコを持ち逃げしようとしたのである。そして、予想通り、大部屋の中には大角餓鬼が居た。部屋の中央に咲いている幽魂桜の下に固まって居るので、大分離れた入口から覗き込んでもバレていない。

 部屋に入る前に準備を整える。砂漠フィールドで使ったゴーグルとマスクを装着してっと。ベルンヴァルトを騎士ジョブに戻してバイクを渡しておく。


「それじゃ、俺だけで突入するから、皆はなるべく遠巻きにしていてくれ」

「おう、駄目な時は早めに合図を送れよ。コイツで突撃してやっからよ」

「本当に気を付けて下さいね」

「プレリュードの準備だけはしとくから、頑張れ~」


 左手にロングソードを持ち、魔剣術を使ってから大部屋に突入した。

 中央の幽魂桜までは特に罠も無い。真っ直ぐ走っていると、剣の先に充填している魔法陣の光もあって気付かれる。しかし、投擲するには十分な距離までは近づけた。俺の姿を認めた大角餓鬼が、右手の金棒で地面を打ち付け、大きく息を吸い込んだ。


 ……〈ヘイトリアクション〉の咆哮が来る!


 それこそ狙っていたアクションだ。走りながらもタイミングを合わせて、大きく左足を上げて踏み込む。そして、右手に握っていた硬球……もとい獣避け玉をオバースローで投擲した。〈投擲術〉がサポートしてくれたので、野球選手の投球の如く飛んで行く。

 そして、咆哮を上げようと大口を開けた顔に、ストライクを決めた。牛面の歯に命中した獣避け玉は粉々に砕けて、中の赤い液体を撒き散らす。大きく開いた口はもとより、顔や目に降りかかるのだった。


 最初は硬球をぶつけられて、咆哮を上げるタイミングを逃していた大角餓鬼だったが、一拍置いてから苦しみ始めた。武器と盾を取り落とし、目を抑えて頭を振り回す。口からは絶叫が放たれるが、長くは続かず咳き込むようになった。終いには吐しゃ物を撒き散らし、暴れ回る。ただそれも、目が見えていないのか、適当に手足を振り回すだけであった。

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