第401話 買い取り所にて毒物談義
昼食後、探索を再開した。採取地前に、歩きマージキノコ(成体)から誘き出し用のキノコを得ているのだが、これは斥候を釣り出す為にのみ使用している。
うん、改めて使うと、楽過ぎるのだ。戦闘よりも食欲を優先する小角餓鬼共には呆れかえる程である。流石のフィオーレでも、あそこまで酷くないよな。「当たり前じゃん!」
その為、午前中と同じく、斥候をキノコで誘って倒し、残りの3匹は普通に戦って倒している。これは、新しいジョブやスキルに鳴らす為だけでなく、フィオーレを含めた連携を確かめる為でもあった。
祝福の楽曲の効果は強力であるが、欠点もある。楽曲が聞こえる範囲までしか効果が及ばないので、遠く離れたり、通路の角を曲がったりすると届かない。更に楽器を弾くと言う動作がある為、走りながら演奏できない。歩きながらの演奏が精々である。
うん、何が言いたいのかというと、バイクで突撃するには不向きなバフだったな。
現在、通路の先に屯している3匹の小角餓鬼目掛けてバイクで疾走中である。距離があったため、向こうの魔法が充填完了する前に、バイクの速度で突っ込んで殲滅するのが目的だ。
難点なのは、ベルンヴァルトから借りたハルバードである。その重さ故に、両手で振り回すのが精々であり、左手のみでは厳しかったので、〈付与術・筋力〉と、〈猛き戦いのマーチ〉でなんとか片手でも取り廻せるようにしたのだ。
それで、意気揚々とバイクで走り出したのだが、距離が開いた為に途中で〈猛き戦いのマーチ〉が切れたようである。左手がグンッと重くなってしまったのだ。
さて、どうしようか? 某無双のように、ハルバードを左手で振り回して、まとめて薙ぎ払うつもりだったが、バフが切れた状態では無理だ。左手で保持しているのが、やっとなのである。
仕方がない、ハルバードは最初の一撃だけにしておくか。
「〈ランスチャージ〉!」
ハルバードを腰だめに構えると、バイクが加速した。
小角餓鬼共が俺の接近に気が付いて立ち上がるが、もう遅い。先頭に出て来た戦士餓鬼、その構えた四角い鉄の盾に、ハルバードの穂先を叩きこんだ。
金属を打ち鳴らす音と共に穂先が貫通し、更に小角餓鬼の腹に突き刺さる。先ずは1匹。〈ランスチャージ〉は騎乗中に使ってもスキル後の硬直が無いのが良い。デッドウエイトとなったハルバードを捨て、残りの2匹へと注意を向けた。と言っても、考える時間も無い程、直ぐ近くである。思い付きのぶっつけ本番であるが……ストレージにバイクを格納すると同時に、両足で地面を蹴って前に飛んだ。
以前、減速して止まると同時に格納するのは、街中でやっていたが、その減速しないバージョンである。〈フェザーステップ〉のサポートもあって体勢を崩すことなく、バイクの速度をそのままに、両足を揃えて前に突き出した。
速度の乗ったドロップキックが、魔法使い餓鬼の頭にぶち当たる。その威力は凄まじく、衝突速度と俺との体重差も相まって、冗談のように吹き飛んで行った。
ちゃんと倒したか確認したいが、まだ1匹残っている。スライディング気味に着地しつつ、直ぐさま起き上がって取って返す。すると、最後の1匹は突然の出来事に混乱しているのか、倒された2匹を交互に見てきょろきょろしていた。他の餓鬼よりも、良い服を着ているので商人餓鬼かな? 護衛が倒されて混乱しているようだ。
ぼろ布でない、ちゃんとした服を着ているのは助かる。投げやすいからな……スッと懐へ潜り込み、胸元の服を掴んで背負い投げ!
ポイントはちゃんと頭から落として、受け身を取らせない事だ。いや、今まで受け身を取った小角餓鬼はいないけど。固い地面に、勢い良く頭から落とせば、大概は首が折れて終了である。
終わってみれば、バイクからの奇襲と言う意味では成功か? 思い付きで使ったドロップキックが、偶々上手くいっただけであるが……思ったより悪くない。もうちょい速度を落としていれば、〈フェザーステップ〉からの制御もし易いと思う。まぁ、戦術として使うなら、もうちょっと練習が要るな。
残りのメンバーも追い付いて来たので、手を振って無事を知らせてから、ドロップ品の回収をした。
その後も、色々試しながら先に進んだ。
そうそう、約束通り大部屋ではベルンヴァルトにバイクを貸して、小角餓鬼共を鎧袖一触にするところも見られた。あの重いハルバードを振り回して、敵を雑草の如く刈り取るのは見ものである。ただ、大部屋だと小角餓鬼達がバラけている事もあり、まとめて3匹狩れたのは1度切り。それも、俺が〈ヘイトリアクション〉で注意を引き付けて、3匹まとめたお陰である。やはり、1騎では攻撃範囲に難があるので、追い込みが出来るように、もう1台欲しいな。
俺も通路では何度か使ってみた。距離が開いた状態で敵に気付かれた場合は走るよりも、バイクで突撃した方が魔法の発動を阻止できるので良い。ただし、突撃した場合は一人で3匹相手にしなければならないので、パーティーメンバーを増やした意味が無いな。痛し痒しである。
〈ランスチャージ〉で1匹倒し、バイクから飛び降りて、近い方の敵を甲殻弾で撃ち殺す。残った1匹に格闘術を仕掛ける。このパターンがやり易かった。ドロップキックは威力が大きいけど、隙も大きいからね。
うん、魔剣術を使った方が楽なのは言うまでもないが、折角のジョブなので色々使えるようになっておきたいのだ。甲殻弾を握り込んでおいて格闘しつつ、いざとなれば射撃出来るのが面白かったが、投げ技は掴み難くなる。いっその事、直ぐに取り出せるようベルトを改造して、甲殻弾を入れておけるカートリッジベルトにしても良いかなぁ
33層へ降り、1/3程進んだ先にあった鉱物系採取地でウーツ鉱石等を採取してから、本日の探索を終了した。
今日のレベルアップは以下の通り。
・基礎レベル32→33 ・アビリティポイント45→46
・騎士レベル1→32 ・トレジャーハンターレベル32→33
・司祭レベル30→33 ・魔道士レベル31→33
・武僧レベル31→33 ・戦技指導者30→33
・付与術師レベル31→33 ・罠術師レベル30→32
・錬金術師レベル31→33
騎士がレベル30を超え、HPの補正が大にアップ。そして、新しいスキルも1つ覚えた。
【スキル】【名称:中隊指揮】【パッシブ】
・パーティーメンバーへの指示が通り易くなり、聞き入れて貰い易くなる。ただし、極端な命令には効果が無い。ある程度、個々のメンバー自身が納得しなければならない。
また、周辺にいる自身の基礎レベル以下の他パーティーにも効果がある。
なるほど、騎士の叙勲式で、『騎士には中核として、他のパーティーを率いてもらう』なんて話があったが、このスキルのせいか。緊急時のみとは言え、他パーティーに指示をしても、従ってもらえるか疑問だったんだ。気になるのは、『基礎レベル以下の他パーティー』と言う条件付けだが、まぁその辺はギルドが良い具合に采配してくれるのだろう。
そして、フィオーレの楽師もレベル30で、新しいスキルを覚えた。一つは〈MP自然回復小アップ〉、祝福の楽曲の発動にもMPがいるので、あって困るものでもない。もう一つは、最後のステータスアップの楽曲だ。
【スキル】【名称:魔道士のラプソディ】【アクティブ】
・味方全体の知力値を上げる祝福の楽曲。演奏している間、永続して効果が続く。
「知力値を上げても、有効なのが俺だけだから、ちょっとイマイチかもな。全体効果の意味無い」
「ん~、でも、貴族の魔道士の活躍を歌った曲だから、貴族に受けが良いらしいよ。アタシは貴族の前で披露する機会なんて無かったから、お母さんから聞いただけの話だけどね」
「いや、ダンジョンで使えるかどうかであって、楽曲の出来は関係ないなぁ。
まぁ、貴族受けが良いってのは気になるから、今度聞かせてくれ」
「良いよ~。家で弾く時のローテーションに入れとくね」
〈ゲート〉のスキルでダンジョンを脱出した後、買い取り所へ向かった。17時を過ぎているので、丁度帰宅ラッシュならぬ、買い取りラッシュの時間である。第1支部でも、夕方に混むのは変わらないな。まぁ、俺は勲章持ちなので、専用カウンターから、優先的に対応してもらえるけどね。役得、役得。
今日の採取で得た植物系で、毒物疑惑のあるものを優先してカウンターに置くと、職員のオジさんが査定をしてくれた。
「デリンジャーレモンを大袋で採って来てくれるとは、助かるな。取るのに危険がある物は、業者以外は余り持ち込んでくれないのだよ……この量なら一袋分で20万円ってところだ。次からは、もっと取って来てくれよ」
「ああ、いえ、手持ちにあるので、もう少し出しましょうか?
レスミア、一袋分もあれば良いよな?」
現状、各種カードの
それに、デリンジャーレモンなんて、100倍に薄めて使う物なのだ。大袋一つでも、十分すぎるだろう。むしろ、使い切れない。レスミアも、俺の意見に同意して、笑顔を見せた。
「ええ、良いですよ。レモン尽くしの料理やお菓子を作っても、多分1個あれば十分なくらいですからね。一袋あれば、毎日作っても半年以上持ちますよ」
「助かるよ。コイツは加工してから、他領にも輸出をしているらしくてな。幾らでも買い取るぞ。
ああ、そうだ思い出した。あんた達、昨日の白銀にゃんこのパーティーだろ?
自分達で食べる分には構わないが、店で売るなら錬金術師協会か商業ギルドに毒物取り扱い登録をしてくれよ」
「あ、その辺を詳しく教えてください。他に需要に足りない素材があれば、出しますから」
デリンジャーレモンの大袋を追加で2袋だしつつ、先程出した新素材について聞いてみたところ、職員さんは快く教えてくれた。
毒物に判定されるのは、デリンジャーレモン、ゴーストペッパー、激昂草身の3つ。ペパーミントのような加速草智は、対象外らしい。
その毒物に関しても、自分達で使う分には特にお咎めなし。ただし、他者に販売したり、調合したりする場合は届け出が必要だそうだ。
「探索者だから、自己責任で……と、言いたいところではあるが、本当で気を付けてくれよ。このデリンジャーレモンも、年に数人は怪我人が出ているんだ。土産として家に持ち帰った後、嫁さんとか子供が普通のレモンと間違えて使っちまったりな」
おおう、見た目が只のレモンだから、間違える可能性は高いのか。素手で触るのも危ないが、切って果汁が手に掛かれば、皮膚が薬品やけどを起こしかねない。
「こっちの激昂草身は、ハーブとして料理に少量使うとか、ハーブティーとして飲む程度なら良いんだ。強壮効果もあるから、気付けにも使われる。ただ、普通の野菜のように量を食べたり、一緒に酒を飲んだりすると、気が強くなり狂暴になって暴れ回る。探索者が家庭内暴力を振るう事件があると、半分はコイツのせいだな。用法用量が分からん奴は、全部売りなさい。
筋力アップの効果が目当てなら、薬品に加工した物を使った方が良いだろう。激昂薬なら副作用も無いからな」
こっちも酷い。酒と一緒に摂取したら駄目なんて、ベルンヴァルトには喰わせちゃいかんな。今回は全部売り払う事にした。調合で使えるレシピがあれば、別途採取すればいいからな。
「ゴーストペッパーは言うまでも無く危険だから、全部売りなさい。ただ、錬金術で加工すれば、虫除けや獣避けになる。まぁ、今は冬だから、それほど需要は無いがな。コイツはあんまり取って来ないでいいぞ。
ダンジョンの魔物にも効く魔道具『獣避け玉』なんて物もあるが、扱いが難しくてな。他にも雪山フィールド用の身体を温めるヴァルムドリンクにも使われているらしいが、そこまで需要は無い。詳しくは売店か、錬金術協会で聞くと良いだろう」
やっぱり、食用としては認識されていないようだ。まぁ、家でも獄炎スパイスによるカレーは十分辛く、満足している。これ以上の辛さを求めるには時期尚早なので、無理に使う必要は無い。でも、魔物にも効く魔道具は気になるな。これだけの劇物ならば、小角餓鬼は元より、鼻の利きそうな獣系には特に効くだろう。後で売店の方も覗いてみるか。
色々と教えてくれた職員さんには、お礼がてら色々と買い取ってもらった。デリンジャーレモン以外で喜ばれたのは魔絶木の木材である。マナを通さない特殊な性質から、各種薬品が劣化しない入れ物を作るらしい。これも業者くらいしか採取してこない素材なので、有るだけ欲しいそうだ。
「いやはや、これだけ持ち込んでくれるとはね。……いや、これだけ採取に熱心なら、踊りなめこや、歩きマージキノコも採取しているだろう? そっちは売ってくれないのかい?」
「あはは、確かに採取してありますけど、それは調合や料理に使い道があるので……
そうそう、こっちの加速草智は毒物じゃないみたいですけど、普通のペパーミントと同じように使っても良いのですか?」
お昼に食べたエリンギ料理も美味しかったからな。食材としてレスミアにロックオンされているので、出来るだけ確保しておきたい。ついでに、マナポーションの原材料でもあるので、沢山あるのに越したことはないのだ。
「ああ、コイツは食べ過ぎても、効果が長く続くだけだからな。ま、あまり長時間使うと、切れた時に二日酔いレベルで頭痛がするが……普通のハーブとして使う分には、頭がスッキリする程度だよ。
特に書類仕事が多い貴族や、王都の学園の生徒に人気でな。このハーブティーを飲むと、仕事や勉強は捗るそうだ。
ダンジョン向けなら、コイツも薬に加工した物があるから、そっちを使うと良い。魔法使い系だけでなく、前衛の戦士にとっても切り札となる『加速剤』は人気だぞ」
なるほど、『頭へのマナの巡りを良くすることで、一時的に思考が早くなり、一時的に知力値を上げる』ので、仕事や勉強にも役立つのか。
そう言えば、ソフィアリーセ様達は、12月に入ってから試験があると言っていたな。加速草智を差し入れするのも良いかも知れない。
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