第397話 絞め技とバイク突撃その2
回収出来そうな甲殻弾だけ、弾痕箇所を軽く掘ってみたのだが、2つの内1つは弾頭が割れていた。弾痕の位置的に、肩の骨を貫いた奴である。先端を尖らせたうえ、硬い物に当たればこうなるか。消耗品と割り切ろう。猟師蠍の甲殻の在庫は沢山あるからな。調合時間さえあれば、かなりの数は作れる。
「うぇぇ、グロい……てか、ザックスは何したの? 魔法じゃないよね? 手品?」
「いや、どっから手品が出て来たんだ……戦技指導者のパッシブスキルだよ。分かり易く言うと、小石を弾いてぶつけただけ。
ちょっと待ってな……〈赤き宝珠の激励〉!」
小角餓鬼の死骸を見て、嫌そうな顔をしていたフィオーレだったが、目を背けた先に俺が居たので話題を振って来た。急な話題逸らしだったうえ、微妙に顔色が悪い。直ぐにピンッと来たので、対処療法を掛けておいた。人型の魔物を殺すのに、嫌な気分になるのはしょうがない。魔物だと自分に言い聞かせるしかないからな。
フィオーレと出会った時に盗賊の死体も見た筈だけど、アレは炭になって粉々になってしまったから、実感が湧かなかっただけと思う。
フィオーレの様子を見てから、ゆっくり先に進む。先程の斥候は、通路の岩に隠れていただけなので、残りの3匹がまだ居る筈なのである。そいつらは、直ぐに見つかった。殆ど隠れる場所の無い通路の先で、
幸いにも、こちらには気が付いていないが、このまま進んでは距離的に魔法を撃ち込まれるのは避けようもない。通路の脇に集まり、レスミアの〈宵闇の帳〉の暗闇を盾にして隠れた。
小声で戦術を話す。
「歩きマージキノコの断片は後1つしかないから、斥候用に温存したい。かと言って、無策で突っ込んで魔法を喰らうのも馬鹿らしいから、安全策で行こう。レスミアの暗闇に隠れて出来るだけ近寄って、奇襲する。これだな。フィオーレは戦闘が始まったら、〈猛き戦いのマーチ〉で筋力値のバフを。ベルンヴァルトは、その護衛な」
「しゃーない。俺じゃ、レスミアの陰には隠れられんからな。この次は、俺も戦える作戦で頼むぞ」
俺の分の〈サンライト〉を消し、念のため〈潜伏迷彩〉を使ってから、ゆっくりと歩みを進めた。前が暗闇で見えないので、レスミアの両肩に手を置かせて貰っている。所謂、電車ごっこ……ムカデ競争みたいな?
敵側に罠を設置するスカウト餓鬼が居ないのか、通路に罠は無い。なので、暗闇でも前に進むだけなら問題ない。罠が有れば、アレを試す事が出来たのに……いや、直線しかないなら、バイクで駆け抜けて奇襲するのも有りか?
「(後、20mくらいです。そろそろ、行けますよ)
……んんっ! あっ!!」
レスミアが小声で教えてくれたので、返事代わりに肩を揉んだら、結構大きな声で喘がれた。いや、ガチガチという程ではないけど、コリがあったのでつい。
「もうっ! バレたじゃないですか! 回り込みます!」
「すまん! 続きは帰ってからな!」
肩を掴んでいた手を強めに叩かれ、暗闇が横壁へ駆け上って行った。
キョロキョロと周囲を見回し警戒していた小角餓鬼3匹が、俺の姿を見て戦闘態勢に入った。盾を構える戦士餓鬼、杖を掲げて魔法陣を灯した魔法使い餓鬼、それと色違いの青いローブを着た餓鬼は、棍棒の先に魔法陣を出した。最後のは僧侶餓鬼かな?
今から充填したところで、この距離なら充填が完了する前に接敵できる。俺は右手の先にランク1魔法陣が充填されているのをチラ見で確認してから前に出た。そう、武僧スキルを試してみたかったので、素手(グローブのみ)なのだ。
当然、盾持ちの戦士餓鬼が前に立ちはだかる。それも想定内、念のために挑発しておく。
「ビビりの盾持ちが! 盾の裏で縮こまってな!」
「ギャギャ?! キシャー!」
向こうも〈挑発〉して来たのか、目が離せなくなる。ここで、コイツに手間取ると、充填する時間を与えてしまうので、魔法なり、スキルなりで瞬殺するのが鉄板だ。ただし、武僧なら違う選択肢も取れる。
間合いに入った戦士餓鬼に、右の掌底を叩き込む。むろん盾に阻まれるが、問題無い。右腕は戻さず盾を押さえ、そのまま右肩から体当たりを仕掛けた。それと同時に、空いている左手を盾の裏に伸ばし……餓鬼の腕を掴んだ。そして、盾ごと下から掬い上げるように持ち上げ肩に担ぎ、そのままの勢いで、通路の奥へと投げ飛ばした。
〈柔術の心得〉のサポートしてもらって、投げたのだ。盾役を突破するのが面倒なら、後衛の居る方に投げちゃえば良いのさ。多分、柔道の肩車っぽいけど、盾ごと持ち上げたので、大分変則的な投げ技になった。試合じゃないので、気にする必要のないが〈柔術の心得〉がOKと言っていたので、投げ技の範疇なのだろう。
投げ飛ばした戦士餓鬼は、後方で魔法を充填していた2匹を巻き込んで倒れた。そして、3匹共々ギャーギャーと騒いで険悪な模様。「早く退け!」とか言って良そうだ。役割分担はしているけど、仲は悪そうだな。
俺はタイミングを見計らってから、前に出た。丁度、押し倒された2匹に押されて、戦士餓鬼が膝立ちになる。その無防備な背中が振り返る前にスキルを放つ。
「〈三日月蹴り〉!」
正確には側頭部狙いだ。三日月のように鋭い軌跡で放たれた左足が、戦士餓鬼の頭に減り込んだ。骨が砕ける感触とともに、横合いへ吹き飛んで行く。結果など見る必要も無い。〈挑発〉の効果が切れたのか、殺意が消えたからだ。これでようやく、他の小角餓鬼に目を向けられる。
倒れた2匹は、左右に分かれて後退りながら、俺に向かって魔法陣を向けている。あの状況で、魔法陣を消さなかった集中力は褒めるべきだろうか? 大きさ的にランク1で、半分も充填出来ていないので、無意味であるけど。
おっと、そうこうしている間に、右側から
【スキル】【名称:魔光相殺】【パッシブ】
・拳の先に魔法陣を出し、そのまま格闘攻撃する場合、充填された魔力の分だけ攻撃力を上げる。
また、その状態で敵の魔法陣を攻撃すると、MPの分だけ相殺し発動を遅らせる。こちらが上回った場合は、敵の魔法陣を破壊して、短時間スタンさせる。
……一度、やってみたかったんだよな。練習相手には、程よく弱い小角餓鬼が最適だと思ったんだ。
それに、この距離なら短時間のスタン(行動不能)でも十分である。棒立ちになった魔法使い餓鬼の背後を取り、その首に腕を回す。〈柔術の心得〉が締め方を教えてくれているので、腕を回す最適な位置が分かる。後は締め上げるだけで、チョークスリーパーの完成だ。
硬直が解けた魔法使い餓鬼が、ジタバタと暴れるが、数秒もしない内に大人しくなった。そのまま締め続けていると、〈敵影感知〉の反応も消えていく。倒したようだ。
腕を解いて亡骸を放り捨てると、地面の血溜まりに落ちる。近くには咽が切られた僧侶餓鬼が倒れて、血を流している。レスミアが擦れ違いざまに、〈不意打ち〉で切ったのだろう。
当の本人は、少し離れた所で手を振っていた。返り血を避ける為だな。コイツ等の黒い血は、臭いので仕方がない。
その点、俺は〈三日月蹴り〉で爪先が汚れた程度である。投げ技、絞め技は、血が噴き出さないから良いな。折角、人型の魔物が出る事であるし、武僧のスキルの練習台になってもらおう。
皆と合流し、先へ進む。
小部屋を占拠している小角餓鬼は、奇襲が掛け易くて良い。一人一殺で行けるので、俺も格闘技を色々と試させてもらった。好みとしては、投げ技で地面に頭から叩き付けるのが早くて良い。絞め技は、落ちるまで少し時間が掛かるので、複数を相手する時は使い難い。いや、締めたまま肉盾として使う事も出来るけど、餓鬼達の仲間意識が薄そうだから意味が無いかも?
進んでいる途中で、斥候釣り出し用のキノコが切れた。汚れた所を切り取ったり、齧られたりして、どんどん短くなって行き、最後には丸のみされてしまったのだ。おかわりの歩きマージキノコは遭遇できていない。
ただ、その代わりと言っては何だが、採取地が近くにある。〈サーチ・ストックポット〉の反応と地図を照らし合わせ、2つ先の大部屋だと推測している。そこに歩きマージキノコが生えていれば良いのだが……
その途中の通路に、罠が沢山仕掛けられているのを発見した。通路を塞ぐように密集して罠が設置されるのは、自然ではありえない。スカウト餓鬼の仕業だ。通路の奥にある岩陰に、赤点が光っているので斥候が隠れているのは間違いない。
さて、普段なら釣り出す所であるが、餌が無い。いや、食べられる食料はあるけどね。良いシチュエーションなので、ベルンヴァルトに提案してみると、二つ返事で快諾を得た。
「……つまり、バイクで走り、〈強行突破〉の力で罠を無視。逃げるスカウト餓鬼を、〈ランスチャージ〉で仕留めるって訳だ。速歩以上の速度でないと〈強行突破〉が発動しないから、少し後ろに下がって、助走距離を取ってから走ると良いよ」
「面白そうじゃねぇか! 任せとけ!」
ベルンヴァルトには罠看破スキルが無いので、罠の位置が分からない。通路の先の方には罠の位置を示すポップアップが無いので、その辺まで行ってから止まる様に教えておく。
そして、ハルバードを左手に構えたベルンヴァルトが、バイクで走り出した。〈サンライト〉の光が追随しているので、十分に加速しているのが見て取れる。そのまま、罠地帯に突っ込んでいくと、何事も無かったように通り過ぎた。通った箇所付近の、罠を示す赤いポップアップが消えていくのみである。地味だけど凄く楽そう。密集していると、一つ一つ〈罠解除初級〉で消していくのは手間であるし、〈罠看破中級〉でしか見えない31層以降に登場した罠は消せないからね。
その【槍落とし穴】を踏む時は、こっちも緊張したけど、問題無く踏み潰して消して行った。
「〈ランスチャージ〉!」
ベルンヴァルトの声が響く。こちらに背を向けて逃げ出した小角餓鬼を、補足したのだ。バイクが一層加速した。
あっという間も無く追い付き、その背中にハルバードの先端の槍が突き刺さり、勢いのまま走り去っていく。穂先には小角餓鬼がくっ付いたままであるが、重さ的に持てる範疇だったのだろう。ベルンヴァルトがハルバードを横に振るうと、小角餓鬼の死骸が吹き飛び、壁に叩き付けられるのだった。
瞬殺である。俺達も罠が消えた辺りを歩いて、合流すべく先に進む……のだが、ベルンヴァルトの姿がどんどん遠くなっていく。先程、止まる箇所を教えた筈なのに、そこも超えて走って行ってしまったのだ。
「奥の方から、餓鬼が騒ぐ声が聞こえます。多分、それに向かって行ったんじゃ……」
「ああ、残りの3匹に気付かれたか、気付いたから始末しに行ったのか……どちらにせよ、俺達も急ごう」
「待って、待ってっ! アタシは走れなっ……いった~い!」
走り出して早々に、フィオーレが転んだ。リハビリ中だったのを忘れていた。前と後ろ、両方とも心配であるが……レスミアと目配せして、互いに頷き合う。
「すまん、手を貸してやってくれ」「ええ、直ぐに追い付きますから、先に行って」
俺だけ先を急ぐことにした。
走りながらも、後続の為に、目についた罠は〈罠解除初級〉で消しておく。通路の中央は〈強行突破〉で消されているので、端の方だけだが、念の為な。
しばらく走ると、小角餓鬼のバラバラ死体が散乱しているのを発見する。ベルンヴァルトは……と、目を奥に向けると、もう少し先にバイクごと倒れているようだ。動いていないのが心配である。
慌てて駆け寄ってみると、そこにはバイクごとネットでぐるぐる巻きにされたベルンヴァルトが横倒しに倒れていた。それに重なる様に赤いポップアップが表示されていた。【麻痺かすみ網】……名前に嫌な感じがして、〈詳細鑑定〉を先に掛ける。
【罠】【名称:麻痺かすみ綱】【パッシブ】
・通路一面に張られた、視認し難い細い糸の網。粘着性のある透明な麻痺毒が塗られており、顔や体に巻き付いて行動不能にする。慌てて救助しようものなら、粘着性の糸が手に絡み、二重被害を巻き起こす。
壁との接合部は緩く、少し引っ張れば外れる程度。
……状態異常付きの罠とか、危ねぇな!
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