第394話 シールドガードとアブソープシールド

 朝食後、ダンジョン攻略メンバーで第1支部へと向かう。フォルコ君がアドラシャフト行きに馬車を使って行った為、歩きである。別段、歩きまわる事は苦でもない。ダンジョンでは1日歩き通しな事は多々あるし、魔物や罠に注意を払わなくても良いだけ、楽なのだ。治安の良い貴族街で良かった。


「歩くくらいなら大丈夫だって。走ったり踊ったりは、まだだけど、もう歩けるよ」

「昨日もそう言って、転び掛けましたよね? ダンジョン内は警戒して進むから面倒は見られないけど、ギルドに行くまでは手を貸しますよ」

「ただでさえ、手を繋いで歩くと妹に間違われるのに……」


 フィオーレのリハビリも兼ねて歩いている側面もあるのだが、本人は不服のようだ。まぁ、諸々のサイズ差からいって、どっちが年下かなんて一目瞭然だからな。ビルイーヌ族以外は見抜けないだろう。

 なんだかんだ言いつつも、手を繋いで歩く姿は姉妹のように仲が良さげに見える。ただし、話題の殆どが、レスミアへの取材だ。ヴィントシャフトに来てからの事を根掘り葉掘り聞いて、新作のネタにするらしい。ほんと、芸事に関しては熱心なんだよな。


 因みにフィオーレの装備は、昨日普段着として購入したチュニックと、ぴっちりしたズボンである。ダンジョン向けの装備品を買いに行ったのだが、フィオーレが気に入るものが無かったそうだ。この街では、革製品が少なく、金属装備が充実している。その為、後衛の軽量装備となると、先ず選択肢に上がるのが花乙女の花弁装備なのだ。ただし、現在フロヴィナちゃんが作成中なので、被りは避けたい。かと言って、金属装備の鎖帷子や、胸当て等は重くて踊りの邪魔。

 結局、カラフル羊毛製のチュニックならば、多少の防御力があると妥協したそうだ。

 まぁ、花乙女装備が出来るまでの数日間の話であるし、俺とベルンヴァルトの盾役2枚体制で守れば大丈夫だろう。




 第1ダンジョンの30層へ降りて来た。先ずは騎士ジョブと、楽師のレベルを上げつつ、精肉店(ボス)に寄る予定である。もちろん、道中の土手道を歩いて羊狩りも行う。そこで早速、新武器を使いたいと言うので、預かっていた物をストレージから取り出してベルンヴァルトへと渡す。それは、騎士の〈装備重量軽減〉があっても、重いと感じる長物……槍に斧がくっ付いたハルバードであった。



【武具】【名称:ウーツハルバード】【レア度:C】

・ウーツ鋼で作られたハルバード。槍の先端で突く、斧部分で斬る、鉤爪部分で引っ掛ける、鉤爪や石突で叩く等の多彩な攻撃が出来るマルチウェポン。その重量ゆえに、適当に振り回すだけでも驚異の威力を発揮するが、4種類の攻撃部位を使い分けるには習熟が必要となる。



「突撃用のランスも捨てがたかったが、振り回すにはこっちの方が良いからな。

 それに、何より小さい頃、騎士の訓練を見て憧れたもんだ……まぁ、それがシュミカの親父さんで、仲良くなる切っ掛けにもなったんだがな。

 ま、それはいいとして、先端の形状が色々あってな。コイツも中々格好良いだろ。ゴテゴテ装飾を入れるより、ウーツ鋼の模様が大きく見えて良いぜ!」


 ベルンヴァルトが迷ったと言うランスは、騎士と聞いてイメージする円錐状の槍の事である。騎乗した状態での突撃は、馬の速度と騎士を含めた総重量を、穂先の一点に込めるので貫通力が凄まじいそうだ。ただし、尖った先端で突くか、棒として叩くしか攻撃出来ないので、囲まれると弱い。部隊として隊列を組み、前だけに突撃出来る状況があってこその武器だな。探索者のパーティーじゃ何人も騎士は入らないので、殲滅力は弱い。


 その一方、ベルンヴァルトが購入したハルバードは、斧が付いているので斬撃も可能。その分重いけれど、〈装備重量軽減〉が存在するこの世界ならば、取り扱うハードルは下がる。

 そして、斧の平たい部分に装飾が施せる事や、独特な形状を持たせることが出来るので、目立ちたい貴族出身の騎士に人気があるそうだ。ツヴェルグ工房の長物コーナーでも、様々なハルバードが飾ってあった事が思い出せる。彫金で煌びやかな装飾は当たり前で、貴族家の紋章を入れるとか、宝石が付いたのや、三日月形状とか、鳥が翼を広げたような形状だとか様々である。

 ベルンヴァルトのウーツハルバードは、それらからすると地味なくらいだ。いや、これでも90万円したらしいけど……デカくて重い分、ウーツ鋼の使用量が多い為らしい。ここから更に、上記のような加工を施すとなると、いったい幾らするのやら。まぁ、ウーツ鋼の波型の文様も格好良いから問題な……白銀にゃんこのロゴマークでも彫金してもらうべきだったか?


「いや、勘弁してくれ。これ以上、宣伝は要らんと今朝言っていたろうに……」





「〈一刀唐竹割り〉!」「〈ウインドジャベリン〉!」


 土手道を駆け下り、小部屋の中で着地。羊魔物のカラフールの頭(正確には角と角の間)から尻尾までの直線状に捕らえ、ワンドから風の投げ槍を打ち放つ。貫通力の高い、緑色のクリスタルな投げ槍が、カラフールを串刺しにして絶命させた。

 上からだと斜めに撃ち下ろすせいもあって、狙い難い。どの道、ドロップ品回収もあるので、射線を確保する為に飛び降りて戦うのだった。


 もう一方のベルンヴァルトは、飛び降り+スキルの力でハルバードを振り下ろし、カラフールを8割切断していた。分厚い羊毛には斬撃耐性がある筈なのだが、重さとパワーでゴリ押ししたようだ。いや、羊毛のお陰で2割は耐えているのか? どっちにしろ、それだけ斬られれば、程なくして死ぬし、斧の刃を地面に叩き付けるよりは良い。


 ドロップしたカラフル羊毛に熟練職人の〈オートスピニング〉……糸紡ぎスキルで、糸玉へと加工しておく。防具の素材としては、花乙女の花弁に比べると弱いのだが、それでも地上の羊毛よりは強度があるらしい。その為、縫い糸として使ったり、刺繡用の糸として使ったりするそうだ。フロヴィナちゃんから、色んな色が欲しいと集めている次第である。お肉狩りのついでだしね。


 残念ながらラムラックは手に入らなかったので、糸玉を作りつつ上に戻ると、留守番していたフィオーレが聞きなれない曲を弾いていた。


「あ! レベルが上がって、新しい祝福の楽曲が増えたんだよ!」


 試しに自動演奏を掛けているそうだ。しゃべりながらも、真剣に指の動きを見て、集中している。ステータスを見せてもらうと、楽師レベル5で2つの曲が増えていた。



【スキル】【名称:火精霊のプレリュード】【アクティブ】

・味方全体の火属性耐性を上げる祝福の楽曲。演奏している間、永続して効果が続く。


「プレリュードは前奏曲なだけあって、短い曲なんだ。火精霊っぽく、燃えてくるようなアップテンポの曲で、次に弾く曲を盛り上げてくれるんだ」

「……いや、この曲を弾くときは、火属性魔法を使う敵と戦う時だから、実際に〈フレイムスロワー〉とかで、物理的に燃えるかもな」



【スキル】【名称:とある職人のシャンソン】【アクティブ】

・味方全体の器用値を上げる祝福の楽曲。演奏している間、永続して効果が続く。


「シャンソン? すまん、全然聞き覚えのない言葉だ」

「えーっと、確か平民向けな曲だったかな? この曲には、とある職人の面白おかしい日常を笑った……歌った歌詞が付いているんだ。戦闘中に聞き入って、笑わないようにね」



 移動中の雑談で色々と聞いていると、自分のセットしていた騎士ジョブもレベル5に上がっている事に気が付いた。

 覚えたスキルは2つ。そのうちの1つは気になっていたアレだ。



【スキル】【名称:騎乗術の心得】【パッシブ】

・騎乗した場合の行動全般を補正する。また、騎乗可能な動物と、ある程度心を通わせる事が出来る。



 ふむ、ここの一文か『騎乗した場合の行動全般を補正』、動物とは書いていないので、バイクにも補正が入ったのだろう。

 ついでに言うと、後ろの文には『騎乗可能な動物』と明言されているので、バイクとは意思疎通が出来ないと……いや、バイクと意思疎通は意味不明か。精霊でも宿ればワンチャン? バイクの精霊って何属性だろうね?

 そもそも、動物じゃないから考察する意味もないか……



【スキル】【名称:アブソーブシールド】【パッシブ】

・攻撃を盾で受けた場合、その威力、衝撃を大幅に減らす。



 防御系のパッシブスキルであるが、似たような物は重戦士でも覚えている。


【スキル】【名称:シールドガード】【パッシブ】

・攻撃を盾で受けた場合、その威力、衝撃を半減する。


 『大幅』と『半減』の文言が違うだけだけど、どっちの効果が高いのやら。『半減』は定量的だけど、 『大幅』は大分大雑把な表現だよな?

 仕方がないので、衝撃耐久試験をしてみる事にした。



「お前等肉のドロップ率が低いんだよ! 増毛で誤魔化してんじゃねぇ! 毛刈りして、その貧相な身体を晒してやろうか!」

「……ブモオオォォォォ!!」


 軽く羊さんを罵倒〈挑発〉して、攻撃を受け止めるつもりだったのだが、予想以上に効果があって、毛の奥にある赤い目が光ってような? 自分が小角餓鬼に〈挑発〉された時の事を思うと、殺したくて仕方がないと言った様子だな、多分。毛ばかりで中身が普通サイズなのを気にしていたのだろうか?


 カラフールは前脚で地面を前掻きしてから(足元も毛だらけで、蹄が見えないので多分だけど)、急に走り出した。

 角を前に、猛然と走って来る様子は、もふもふな毛のせいでワゴンタイプの車が突っ込んでくるようだ。それに対し、バフ無しのままジョブは重戦士のみ、〈シールドガード〉の効果を信じてカイトシールドを構えた。


 衝突の瞬間、金属が悲鳴を上げる音が響き、後ろに吹き飛ばされ掛ける。両手でカイトシールドを押さえていたので、なんとか持ちこたえるも、1m程後ずさりしてしまった。危ない危ない、踏ん張っていたものの、勢いを殺しきれなかった。

 取り敢えず、止まったところで、カイトシールドを持ち上げ、そのまま振り下ろす。盾を打撃武器として使い、角を殴打した。重戦士は〈衝撃浸透〉があるので、打撃ダメージを増やす事が出来る。角……つまり繋がった頭を強打したのと同じだ。カラフールがふら付いている間にバックステップで距離を取る。先程と同じぐらいの距離を離れてから、ジョブを騎士に切り替える。


 念のため罵倒して〈挑発〉を重ね掛けしておく。こんな短時間で効果は切れたりしないが、条件を同じにする為である。

 そして、ふら付きから復帰したカラフールが、再度前搔きをして走り出す。


 迎え撃つは騎士ジョブの〈アブソーブシールド〉である。両手でカイトシールドを構えて、衝撃に備える……またしても盾が金属音を鳴らしたが、衝撃は人とぶつかった程度だった。押されて1歩、後ろに下がったが、それだけである。なるほど、体感して比べてみると『半減』よりも『大幅』に軽減していた。8割か9割は衝撃が減衰しているようだ。流石は騎士である。


 検証は終了だ。しかし、盾で殴った程度では倒せないのは、先程で良く分かった。


「発動するか分からんけど……〈脳天割り〉!」


 騎士はまだ攻撃スキルを覚えていないので、戦士で覚えているスキルを使用した。すると、大上段に振り上げた盾のかどつのを強打した。


【スキル】【名称:脳天割り】【アクティブ】

・対象の頭部を強打し、低確率で気絶、中確率でスタンさせる。頭部を持たない者に気絶は効かないが、低確率でスタンさせる事は可能。


 ふむ、武器の指定も無いし、盾でも殴打出来るのでOKと見なされたのかな? 最初に殴った時よりも、スキルの方が効いているようで、ふら付いていた。

 では、スキル後の硬直が解けたところで「〈骨砕き〉!」


【スキル】【名称:骨砕き】【アクティブ】

・体内に浸透する打撃ダメージを与える。その際、骨及び外骨格へのダメージが増える。


 バキッと音がして、角がへし折れた。それと同時に、横倒しに倒れるカラフールさん。でも、死んではいないようで、実にタフである。流石にカイトシールドでは質量が足りなかったのだろう。打撃武器=質量が攻撃力みたいなところがあるからな。

 仕方がないので、ストレージから飢餓の重棍を取り出して、再度〈骨砕き〉を使用すると……骨どころか、頭が破裂するのだった。




 その後も他のパーティーと、カラフールの取り合いをしながら進み、30層の精肉店レッサーコカトリスから、ジューシーもも肉を頂いた。唐揚げには胸肉よりも、ジューシーなもも肉が美味しいので、店長さんは良く分かっている。もうちょい、レベリングをしたいから、もう2周ほどしよう。

 ここまでの道中と、ボス戦も〈経験値増5倍〉と〈獲得経験値大アップ〉を付けていたので、大幅レベルアップ。騎士と楽師がレベル15へと上がった。



【スキル】【名称:ランスチャージ】【アクティブ】

・長柄武器でのみ使用可能。自身の敏捷値を2段上昇させた後、武器を構えて対象に全力突撃を行う。走る速度と体重を攻撃力に載せて体当たりし、敵を串刺しにする。この時、貫通出来なかった場合は、対象をノックバックさせる。

 また、騎乗時にはダメージがアップし、スキル後の硬直が無くなる。



【スキル】【名称:強行突破】【パッシブ】

・騎乗時、速歩以上の速度で走っている場合にのみ自動発動する。ダンジョン内の罠の発動を無効化して解除する。



「おお、面白そうなスキルじゃねぇか! 今度は俺にも検証させろよ!」


 ハルバードを肩に担いだベルンヴァルトは、楽しそうに笑いながら、そう言うのだった。騎士っぽいスキル〈ランスチャージ〉の登場で、新しい武器を試したくなったようだ。

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