第386話 フィオーレの遊び人格付けスキルチェック
第2ダンジョンの10層と20層のボス戦を経て、30層へ降りて来た。今日の主目的は、フィオーレをレベリングして、遊び人ジョブをゲットするのと、OPアクトのセカンドジョブを出す事である。本当なら、第1ダンジョンの30層の方が、羊肉とコカ肉が手に入るので良いのだが、向こうまで行くのは面倒だ。それに、第2支部で用事(パーティー登録)だけして、第1に行くのもちょっと忍びない。花乙女の花弁の在庫はまだあるが、フィオーレ用の装備を仕立てる事になっているので、在庫を増やす意味合いもあった。
当のフィオーレだが、ギター以外に碌な装備品は持っていない。武器は護身用のナイフのみで、後は赤く染色された革のドレスだけだったのだ。その革も、ダンジョン産でなく地上の牛革である。流石に防御力が低いので、他のメンバーから装備を借り受けていた。それは、スティラちゃんのメイド服である。
「メイド服は好きじゃないけど、フリルが多いのは可愛いね。アタシのは、踊りやすい服にして欲しいな。スカートが長いと、足を上げ難いよ。回転すると広がるのは楽しいけど」
「そう言う注文なら、フロヴィナに言ってくれ。ある程度のデザインとか方向性を伝えれば、作ってくれると思うぞ」
「うん、昨日話したよ。ただね、セカンドクラスになれば、アタシもグッと大きく成って、大人の女になるから採寸も出来ないんだ。ふふふ、この子供みたいな体格とも今日でおさらばだよ!」
九十九折の土手道を歩きながら、フィオーレは上機嫌にくるくると踊り、スカートを広がらせる。好きじゃないと言いながら、メイド服も楽しんでいる様子に見えた。小声で「ミーアやヴィナみたいなバインバインに……少なくとも、トリクシーよりは大きい筈!」なんて言っているが、捕らぬ狸のなんとやら。
土手の下の小部屋に、3本のリーリゲンが見えたので、〈ロックフォール〉で押し花にした。その1戦だけで、フィオーレの戦士ジョブが5までレベルアップする。あまりにもレベル差があると、獲得経験値が減衰するらしいが、こちらも経験値増5倍と遊び人のスキル〈獲得経験値大アップ〉のお陰で楽になっている。
「はい、戦士終了。スカウトに替えるぞ」
「うわっ! 本当にジョブが替わってる。教会に行かなくても良いのは楽だけど、なんかズルしてる気分だよね~」
「ハハッ、違いねぇ! まぁ、教会に払うのは手間賃だからな、気にする事もねぇさ。
俺もジョブをコロコロするのには慣れて来たが、偶に重戦士か鬼徒士のどっちだったか迷う時がある。そんな時は、武器を持ち替えると良いぞ」
「へ~、それならアタシは楽師の時はギターで、ソードダンサーの時はナイフかな?」
小部屋にドロップした片栗粉を拾ってくると、2人が談笑していた。フィオーレは吟遊詩人だけあって話が上手く、誰とでも仲良くなっている。女性陣とも歌と本で直ぐに輪に入っていたし、中々得難い能力だ。
そして、小部屋の魔物を俺とベルンヴァルトで殲滅して進んだ。遊び人の解放条件は、『2ndジョブに就いたことがなく、1stジョブ8種類のうち戦闘系ジョブをLv5以上、非戦闘系ジョブをLv10以上にする』である。レベル10までならば、わざわざボスだけの周回をするよりも、道中の雑魚敵を倒した方が効率的である。
ついでに、年末のお祭り用に、唐揚げの材料である片栗粉も手に入るしな。いや、大量に使う物でもないので、在庫は沢山あるけどね。
「じゃ、フィオーレは後ろで待機な」
「はーい、気分が上がる音楽でも引いてるよ」
……ボス戦のBGMかな?
OPアクトではないので、音楽を弾く意味は無い。ただ、BGMと考えるならアリだと思う。ゲームでもボス戦のテンションが上がる曲は盛り上がるからな。覚えているBGMを口笛か鼻歌で歌って、再現してもらうのも良いかも知れない。戦闘後はレベルアップの効果音とかな。
そして、花乙女ポージーは、賭博師のスキル〈ダーツスロー〉で動きを止めている間に、ベルンヴァルトが紅蓮剣で伐採して瞬殺した。ダーツの数が増える〈ワンスロー〉の効果で3本に増やしても、花乙女ポージーの大きさなら外す気はしない。全弾命中で6秒も停止するから、ボーナスステージである。お供のリーリゲンも、俺の魔剣術で根っこの結界毎、斬り裂いて終わり。
終わってみれば、ボス登場から10秒程で倒せた。フィオーレの音楽も弾き始めたばかりである。手を振ると、弾くのを止めて駆け寄って来た。
「早い、早いって。下の階層もだったけど、そんなに簡単にボスを倒せるもんなの?!」
「倒し方を確立した後だと、こんなもんだよ」
「いや、普通じゃねぇからな。動きを止めるダーツとか、このやたら重い剣のお陰だな」
「カボチャの大剣!」
「この間買った、新しいツヴァイハンダーでも十分な気もするけど、アビリティポイントに余裕がある時くらいはね。
ああ、そうだ。フィオーレも遊び人ジョブを手に入れたから、変更しておいたぞ」
フィオーレは「20層であれだけ苦労したのは何だったの?」とか混乱しかけていたが、遊び人と聞いて真剣な目になった。ステータス画面を確認しているのだろう。そうそう、魔法使いも上げたのだけど、フィオーレの適性は火属性のみ。まぁ、そう言う事なのだろう。本人は、元から芸事が好きそうだから、関係無いかも知れないが……触れずにおいた。
「あれ? 踊りが上手くなるスキルは?」
「それなら、レベル5からだな。次の周回で、リーリゲンを倒せば覚えるさ」
ドロップ品と宝箱を回収して、〈ゲート〉で脱出した。
周回の途中で、フィオーレから「なんで宝箱ごと回収するの?」と聞かれたのだが、これも奇行に見えるらしい。まぁ、普通は地面から張り付いて取れないからな。俺達は引っ越しの荷物入れとか、インテリアとかに使用しているが、最近になって新しい利用方法が生まれた。
それは、ダイヤモンドとか各種カードを納品するのに使っているのである。王族がゴールドカードを送って来る際、宝石箱の様な箱に入れてくるので、対抗して宝箱に入れて送り返したところ、予想外に評判が良かったらしい。その為、各伯爵に送り返すブラックカードも同じように宝箱に入れて送っているのである。
ダンジョン経験者なら、宝箱を開けるドキドキは知っている筈だからな。送った宝箱はサービスとして、好きに使ってもらっている。宝物庫とか倉庫の荷物整理に使えばいいさ。
……お城の中に宝箱が置いてあるのは、RPGみたいだな!
意図せずしてゲームを再現してしまったが、面白いのでいつか現場を見てみたいものだ。いや、勝手に開けて持って行ったりはしないぞ。
「おおっ! ……これは、……確かに……踊りやすい!」
適当にリーリゲンをしばいてレベル5になった後、フィオーレが土手道の真ん中で回りだした。その場で、くるくる回るのだが5回、10回と器用に回っている。よく目が回らないものだ。
「具体的にどう違う?」
「……えーっと……これだけ……回っても……身体がブレない! あはははは! 楽しいっ!」
回りながらだと、話し難い。取り敢えず、気が済むまで踊るようなので、俺達は雑魚戦をしながら先に進んだ。
その途中から、音楽が流れ始める。聞き覚えがあると思えば〈癒しのエチュード〉だ。ただし、今度はスキル〈歌う〉を試し始めたようで、歌声が付いていた。明るく優しい雰囲気のメロディの曲に合う、子守唄の様な歌である。
暫し、戦闘を中断して、聞き入るくらいには良い歌声だった。曲が終わりに合わせて拍手すると、フィオーレはにんまりとドヤ顔を返して来る。
「ふっふ~ん、良いでしょ~。今のは、我ながら会心の歌だったよ! これなら劇団の歌手にも成れそう!」
「上手かったのは確かだけど、それは増長し過ぎだろ。前に見た劇の歌手も凄かったからな」
調子のいい事を言い始めたので、釘を刺しておく。そのついでにスキルの使用感を聞いたところ、曲を奏でながら答えた。
「弾き語りって、結構難しいんだよ? 歌に集中するとギターを弾き間違えたり、ギターに集中すると歌詞を間違えたりね。さっきのは、ギターに集中していたのに、スキルのお陰か歌に集中したくらい気持ち良く歌えたんだ!」
ふむふむ、スキルの鑑定文には『少し上手くなる』と簡素なものであるが、随分と効果が大きく聞こえる。いや、プロだからこそ、細かい上昇効果でも詳しく分析出来たのかも知れない。まぁ、本人は嬉しそうだから、良いか。
パーティーに誘うための餌として、遊び人ジョブを紹介した為、効果がしょぼいとがっかりされる懸念はあったからな。
そして、2回目のボス部屋に着く頃には、遊び人がレベル15になり〈タップダンス〉を覚えた。足元で金属音が鳴るやつな。
早速スキルを使ったフィオーレは踊り始める……のだが、案外普通だった。ステップを踏んだ時に金属音が追加されただけだからだ。フィオーレ自身もそう思ったのか、早々に踊りを止めると、足先を見つめて考え込む。そして、顔を上げた時は全く別の踊りを始めた。足だけをせわしなく動かし、カチャカチャと音を奏でる。
「アハハッ! このスキル、踊りじゃなくて音楽を奏でる物だよ! 靴底とつま先、
だから、足だけで踊るのに、ピッタリ! ホラ、スカートを摘まんで、リズミカルに……」
フィオーレは、カーテシーの様にスカートの裾を摘まんで広げると、上半身を動かさずに足だけで踊り始めた。その音は徐々にリズミカルになっていき、音楽となる。こんな踊りもあるのかと感心してみていると、1分も経たずに終了してしまった。
「即興で踊ったから、この辺で終わり!
でも、遊び人のジョブ、思った以上に楽しいね! 次はどんなスキルを覚えるの?」
「次? フィオーレが興味ありそうなのは……〈口笛〉? 音楽と言えば音楽だけど、魔物も呼ぶしなぁ。
まだ占いの〈ダイスに祈りを〉か、物語を語るのが上手くなる〈噺家〉かな?
昨日、聞かせてくれた小説の朗読みたいな詩、アレに効果があるかも?」
「〈噺家〉が面白そう!
よーし、この調子で魔物を倒してね。ザックス、ヴァルト頼んだよ!」
意気揚々とボス部屋へと入って行くフィオーレ出会った。本当は、ここのボス戦からOPアクトに切り替えようかと思っていたのだが、予想以上に遊び人が気に入った様子である。取り敢えず、ベルンヴァルトには周回が増えるかもと頼むと、笑って許してくれた。
「ハハッ! 後輩のちみっこが楽しそうにしてんだ。それくらいは構わんぜ。踊りだの歌だの、俺は興味も無かったが、実際に見ると悪くないからな。昨日の話も面白かったしよ!」
「クッ……面白がっているのも今のうちかも知れないぞ。あの調子でヴィントシャフト編まで作られたら、ヴァルトも登場するんだからな」
「はっはっはっ、そんときゃ、別人にしてもらうさ!」
二人でお互いの脇腹を肘打ちしつつ、ボス部屋へと入った。
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