第387話 楽師とソードダンサーと急成長

 3周目以降は、雑魚敵は無視してショートカットを走り、ボスのみと戦った。フィオーレも小柄な身体で頑張って付いて着ていたのだが、途中でダウンし籠入り娘と化した。飛び降りる時は4回転ジャンプとかして楽しそうであったが、連続坂道ダッシュがキツかったらしい。

 遊び人をレベル30まで上げた後は、OPアクトのレベル上げに入る。この時、籠の中から〈癒しのエチュード〉を引いてくれたお陰で、大分楽になった。自然回復力が上がるので、スタミナも多少回復するからだ。ボス戦が瞬殺なので、休憩にならないからな。突き詰めると、ほぼ坂道ランニングになってしまう。



「そんな訳で完成したのが、こちらのフィオーレ(OPアクトレベル30)です」

「誰に言ってるの?」

「いや、只のお約束だ」



【ジョブ】【名称:OPアクト】【ランク:1st】解放条件:基礎Lv5以上、ビルイーヌ族専用

・所謂、前座である。音楽も踊りも発展途上だが、光るものが見いだされて舞台へ挑む。ダンジョンでは味方を強化する祝福の楽曲と、魔物の能力を下げ妨害する呪いの踊りでサポートする。あくまでサポート役なので直接的な戦闘スキルは無い。楽器を弾いている間、踊っている間しか効果を発揮しないので、戦士や騎士に守ってもらおう。

 なお、未熟な為、祝福の楽曲の効果はパーティーメンバー以外には効果が半減する。

 また、自身の楽曲、もしくは踊りを披露して称賛を得た場合、少しだけ経験値を得る。


・ステータスアップ:MP小↑、知力値小↑、敏捷値中↑、器用値中↑

・初期スキル:癒しのエチュード、注目のペザント

・習得スキル

 Lv 5:スローアダージオ、小道具倉庫

 Lv 10:敏捷値中↑

 Lv 15:猛き戦いのマーチ、脱力を誘うキューピッド

 Lv 20:器用値中↑、麻痺耐性小↑

 Lv 25:守護騎士のバラード【NEW】

 Lv 30:魔封耐性中↑【NEW】、緘黙耐性中↑【NEW】

END



 折角、カンストであるレベル30まで上げたのに、覚えたのは耐性スキルで残念……と、思いきや、中アップなのは良い。魔封の状態異常は魔力が扱えなくなるので、OPアクト系が掛かると只の置物になってしまう。緘黙の方は、話せなくなるだけなので、OPアクト系には意味が無い? 声が出なくても楽器は弾けるし、踊れるよな?


「あ~、声が出なくなる……もしかしたらだけど、セカンドクラスの楽師になると、歌を歌う事で祝福の楽曲の効果を高める事が出来るんだって。その予防だったり?」

「なるほど、音楽だけじゃなくて、弾き語りになるのか」



【スキル】【名称:守護騎士のバラード】【アクティブ】

・味方全体の耐久値を上げる祝福の楽曲。演奏している間、永続して効果が続く。


「大昔の騎士物語を詩う曲だよ。歌詞も覚えているけど、大分古臭いからね~。ザックスの詩の方が、受けが良いと思うよ? ただ、スキルだと曲が決められているから、ザックスのとは合わないかな」

「……助かった。戦闘中にまでアレを聞きたくないって」


 自分を題材にした詩とか恥ずかしいだけなので、せめて俺が居ない所でやって欲しい。そんな愚痴を言いつつ、スキルの情報をメモしておいた。

 現在、ボス部屋の後の休憩所、その中の宿泊用の仮眠室で小休止中である。休憩所には騎士団の立哨が居るので、込み入った話を聞かれたくない時は、ここを使うのだ。石のベッドが6つ有るだけの簡素な部屋だけど、テーブルを広げるスペースくらいはある。


 さえ、本日のお楽しみ、OPアクト系のセカンドクラスの確認させてもらった。フィオーレのジョブ一覧に増えていたので、〈詳細鑑定〉を掛ける。



【ジョブ】【名称:楽師】【ランク:2nd】解放条件:OPアクトLv25以上、祝福の楽曲を30回以上使用する。

・楽曲をメインにして、ビルイーヌ族が好む歌を取り入れたジョブ。

 祝福の楽曲でパーティー全体を強化する。敵に応じて適切な楽曲スキルを使用しなければならないので、判断力が問われるジョブでもある。また、楽曲スキルのみならず、歌まで追加すれば効果は上がるが、その分魔物にも狙われ易くなるため、戦士や騎士に守ってもらおう。

 実力が身に付き、祝福の楽曲の効果が上がっている。パーティーメンバー以外でも味方と認識した者には効果を与える。

  また、音楽会などで称賛を得た場合、その分だけ経験値を得る。


・ステータスアップ:MP小↑、知力値小↑、敏捷値中↑、器用値中↑

・初期スキル:OPアクトスキル、心を歌声に乗せて、狩人のフーガ



【スキル】【名称:心を歌声に乗せて】【パッシブ】

・祝福の楽曲を演奏中、歌詞を歌う事で効果を上げる。曲調に合っていれば、どのような歌詞でも良い。また、スキルの名前に由来する歌詞であれば、効果は更に上がる。


「へ~。スキル名に合わせると効果が上がるってのは初耳だよ。確かに、アタシが教わったのも、合わせてある」

「なるほど、さっき話した古臭い〈守護騎士のバラード〉も、今風の歌詞に変えてもOKなのか」

「作詞ってのも、大変なんだけどね~」



【スキル】【名称:狩人のフーガ】【アクティブ】

・味方全体の敏捷値を上げる祝福の楽曲。演奏している間、永続して効果が続く。

「うわっ! フーガだぁ。これ、ギターじゃ難しいんだよ。指がめちゃくちゃ忙しいから、歌詞を歌うどころじゃないだ。誰かと合唱するのが良いんだけどね」

「ウチのパーティーには音楽の心得がある人は居ないから無理……貴族のお嬢様達は知らんけど。まぁ、仮に弾けたとしても、ダンジョンで戦闘中には戦力が減るから無理だろ」




【ジョブ】【名称:ソードダンサー】【ランク:2nd】解放条件:OPアクトLv25以上、呪いの踊りを30回以上使用する。

・呪いの踊りをメインにして、ビルイーヌ族が好む剣舞を取り入れたジョブ。呪いの踊りで敵を妨害しながら、自身も攻撃するが、踊りが崩れると効果も無くなるので注意が必要。また、呪いの踊りは敵の注目を浴びやすく、ソードダンサーも回避や受け流しが得意なため、戦士や騎士のようにパーティーの盾代わりになる事も可能。ただし、耐久値補正は無く、踊りのため重い防具も装備できないため、一撃で窮地に陥る事もありえる。

 また、ダンスの公演などで称賛を得た場合、その分だけ経験値を得る。


・ステータスアップ:MP小↑、筋力値小↑、知力値小↑、敏捷値中↑、器用値中↑

・初期スキル:OPアクトスキル、二刀流の心得、フェザーステップ



「やった! ステータス補正に筋力値が付いたよ!  これでナイフも卒業だね!」

「ああ、筋力値が足りなくて、他の武器が持てなかったのか……そんな細い腕なんだから、筋トレでもした方が良いんじゃないか? 多少は筋肉があった方が、筋力値補正も強くなるぞ。ダンベルとか貸すよ?」

「いーや! ムキムキな筋肉なんて要らないよ! ダンスに必要な筋肉だけにしとかないと、みっともないんだから!」


 踊りの練習で身に付く筋力だけで良いらしい。まぁ、女の子なので筋骨隆々になるのは嫌なのだろう。レスミアも筋トレとかしていないし……料理で大きな鍋とか持つから、筋トレ代わりになっていそうだけど。



【スキル】【名称:二刀流の心得】【パッシブ】

・利き腕でない方の手も、利き腕と同様に動かせるように補正する。ただし、両手に持つ武器が同系統の場合のみ。


「ソードダンスは基本的に回転しながら武器を振るうから、両手に同じ重さの物を持った方が踊りやすいんだよ」

「剣道の二刀流だと、攻撃用と防御用に使い分けるって聞いた覚えはあるけど、踊りだと違うんだな。クルクル回って切り刻むのはちょっと恰好良い……小部屋に飛び降りる時に4回転ジャンプとかやってたけど、アレなら両手で8回切りとかになるのか?」

「えぇ……それはもう曲芸じゃない?」



【スキル】【名称:フェザーステップ】【パッシブ】

・羽の様な軽やかな足取りで、足運び全般に補正が付く。体幹が強化され、バランスを崩し難くなり、思い通りに身体を動かす事が出来るようになる。



「軽戦士でも覚えるから、俺も持っているスキルだけど、かなり有用だよ。普通に走り回るよりも、ステップ踏んだ方が戦闘がし易い」

「へ~、ちょっと楽しみ。ソードダンスだと、敵の近くで踊らないといけないから、バランスを崩し難くなるのは良いね」



 これにて新ジョブの確認は終了。そして、どっちに替えるのか聞いたのだが、予想外の答えが返って来た。


「その前にあんた達、部屋の外に一旦出てよ」

「ん? どうしてだ? ジョブを変えるだけだぞ?」

「だから! 体形が大人になるから、このままだと服が破れちゃうの! 着替えるから出てって!」


 頬を膨らませたフィオーレに背中を押されて、俺達は仮眠室の外へと追い出された。

 「子供の様ななりだが、やっぱ女だな」と、ベルンヴァルト笑っていたので、同意して苦笑してしまう。すると、少しだけ扉が開いて、フィオーレが顔だけを覗かせた。


「あ、えっと、今朝預かって貰ったリュックをちょーだい。ミーアに借りた着替えが入ってるんだ」

「ホイホイッと、着替え終わったら声を掛けてくれ、ジョブを変えるからな」


 少しだけ気まずそうにしているのは、追い出した仕業のせいか。こっちは微笑ましいと笑っていたところだけどな。リュックを受け取ったフィオーレは、餌を貰った野良ネコの様に、ぴゃっと逃げていった。

 取り敢えず、扉を背にして待つことになった。着替え終わったと言う合図を聞きやすいように、近くにしたのだが、中の独り言まで聞こえてくる。


「うわっ! でっか! これ、アタシの頭に被れそうじゃない……ぶかぶかだし、後で着ればいっか。

 こっちも……穴あきとかミーアって大人ね。これは紐で縛るから、なんとか履けるかな?

 メイド服も大きい……ワンピース部分だけでいっか」


 扉に防音性が無いのか、独り言が大きいのか知らんけど、耳を澄ませば所々聞こえた。何が被れそうなのか、気になるところではある。そんな妄想に駆られていると、中から「いーよ~」と合図があった。

 そう言えば、結局どちらにするのか聞いていないが、楽師の方が気になっていると言っていたのを思い出し、ジョブを変更した。すると、部屋の中から、苦しげな声が聞こえてくる。


「んんん、くぅっ、痛たたたた……」

「おい! 大丈夫か?!」

「クッ……大丈夫だから、入って来ないでよ! あ、ヤバッ、ブーツ脱がないと!」


 ブーツ?と思ったが、足のサイズが大きくなって、キツくなったのだろう。そこから、中の声に関して、色々と察する事は出来る。恐らく急成長による、成長痛が一気に来たのだろう。中学生の頃、背が伸びる時期に関節が痛むとか、音がするとかあった記憶がある。そりゃ、時間を掛けて成長するのを、先取りして一気に大きくなったら、痛いに違いない。

 とは言え、俺に何かしてあげる事も出来ない。〈ヒール〉も視界に対象が居ないとターゲティング出来ないからな。暫し、見守る事にした。


 それから10分後、ようやく「入っていーよ~」と、疲れた声がした。

 どんな成長を遂げたのか、少しワクワクして中に入ると、フィオーレが石のベッドにもたれ掛かっているのが見えた。子供の様にふっくらとした頬がスッキリして、女らしい顔つきになっていた。


「大丈夫か? 成長痛で痛むなら〈ヒール〉するぞ?」

「成長痛? なにそれ?」


 成長期の前だったのか知らない様子なので、簡単に解説しながら〈ヒール〉を掛ける。すると、身体が楽になったのか、上半身を起こす。慣れない身体に立つのも大変そうなので、俺は手を差し出しサポートした。最近はエスコートをする習慣を付けているので、これくらいは楽勝である。

 立ちあがったフィオーレは、頭一つ分くらいは背が伸びていた。


「おおっ! 目線が高い! ザックスとか見上げていると首が痛くなるくらいだったけど、目線が近くなったんじゃない?

 あ、ヴァルトは大き過ぎでしょ! まだ見上げないといけないんだけど!」

「はっはっはっ! 鬼人族の背の高さに勝てる奴は早々おらんぜ……いや、それよりお前さん大きく成ったか? あんま変わらなくね?」

「大きく成ったよ! ミーアくらいだよね?!」

「ああ、いや……レスミアよりは一回り小さいかな?」


 そう、レスミアのメイド服のワンピース部分を着ているのだが、大分ダボついている。手足も伸びて、すらっとした印象にはなっているのだが、大人の女性と言うよりは、未だ少女の方が似合う容姿であった。具体的に言うと、小学校の4年生くらいから、中学1年くらいになった感じかな?


 ついでに、フィオーレは自分の胸に手を当てて、ショックを受けている様子であった。

 うん、レスミアサイズは高望みし過ぎたようだ。

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