第384話 サプライズ帰宅と暗躍する者達
後半の※※※から3人称に変わります。そして、改行を多めに入れた部分以降は、少し残酷なシーンがありますので、ご注意下さい。苦手な人はスルーした方が良いでしょう。話の展開的に読まなくても、察せられる事ですから。
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「あーー、揺れ過ぎて寝てらんないよ~。ザックス~、お腹空いた~」
「お早うと言うより、遅ようだぞ。寝たいのか、食べたいのかどっちだよ」
「どっちも!」
「もうすぐ街道に出るから、もう少し揺れは我慢してくれ」
帰りの山道を降っている間に、ようやく寝坊助が起きた。本当に5時間くらい二度寝していて呆れるやら、感心するやら。
行き掛けの上りの山道では、派手に揺れても起きなかったのにな。
街道に出て少し進んでから(昨日の事故現場から離れて)、座れそうな所で昼食にした。
食べながら午前中の出来事を話してやると、2度驚きの声を上げた。一つは既に依頼の現場確認と、水入れまで終わった事。そして、もう一つは精霊が出現したことだ。
「精霊が出たとか、そんな物語に出てきそうな面白い事があったのに、なんで起こしてくれなかったの!」
「いや、出て来たのも、いきなりだったからな。籠の中で熟睡している方が悪い」
「そーだけどさ~。折角、昨日の戦いも詩にしてたのに……実際に見てないと臨場感が表現し難いじゃん。
『村を脅かす軍隊ガエル対、旅の聖剣使い。泥に塗れながらも激闘を制して、精霊を開放する』って感じの英雄譚なら、ウケそうだよね!」
……ウケるか? そもそも、蛙戦では聖剣を使っていないのに。
そんな、指摘をすると「盗賊には使っていたし、派手さは要るからいいの。なんなら、アイツ等が魔物を連れてきた犯人にすれば良いし」と、脚色が入った。
うん、この調子で指摘していけば、別物になってくれそうだ。
午後からの移動は、フィオーレが籠の中で膝立ちになり、おしゃべりしながら走った。話題は、ランドマイス村以降の話である。特にソフィアリーセ様も含めた婚約事情に関して根掘り葉掘りと聞かれた。色恋沙汰に食いつく辺りは女の子だな。
その後もヴィントシャフトでの生活の話をする。時系列に話していくのだが、一月しか経っていないのに、充実した濃さだ。ついでに、ダイヤモンドや複合ジョブ、銀カードの説明もして釘を刺しておいた。この辺は、王族も絡んで面倒だから、拡散されては堪らない。
取材を受けている内に、ヴィントシャフトの街へと帰ってきた。北門の所で、怪しいからと門番の騎士に止められて、女の子を拐ってきたと勘違いされかけたが、フィオーレが笑って否定してくれて、事なきを得る。
いや、立つのが疲れたからと、籠に中に座っていたせいでもあるが。二人共、簡易ステータスをチェックされ、「紛らわしい事はするな」と注意を受けただけで、開放された。
危なかった。人目がある所では、籠入り娘の運搬は止めたほうが良いな。
「もうすぐ、家に着くぞ」
「ねー、面白い事思い付いちゃった。やっぱり最初の挨拶が肝心だよね!」
フィオーレの提案は、サプライズにはなる物であった。ウケるかどうかは、フィオーレに掛かっているが。取り敢えず、許可しておいて、バイクを走らせた。
既に18時を回っている。夕飯には間に合いそうだ。
「ただいま~」
「あ、お帰り~。みんな~、ザックス君が帰ってきたよ~」
玄関から声を掛けると、リビングからフロヴィナちゃんが顔を出し、声を張り上げた。すると、奥のキッチンからパタパタと足音を立てて、レスミアがやってくる。俺と目が合い、ただいま笑い掛けると、破顔して喜んでくれた。
「ザックス様、ご無事で良かったです。お帰りが遅いので心配しましたよ」
「意外にルイヒ村までが遠くてね。何とか依頼も片付けて、帰ってこられたよ。夕飯はこれからだよね?」
「はいっ! 腕によりを掛けて、ご馳走を作ってありますよ」
「ねぇねぇ、ザックスお兄ちゃん。背中の籠は何? もしかしてお土産かにゃ?」
ご馳走の言葉に背負籠が、ガサリと揺れる。それを見ていたのか、スティラちゃんが籠に興味を示した。
……そろそろ、頃合いかな?
リビングの隅っこではベルンヴァルトが酒盛りしているし、フォルコ君も2階から降りてきた。恐らく料理中のベアトリスちゃん以外は、全員揃った。
「ああ、うん。お土産と言えば、お土産かな?」
皆の注目を集まっているのを感じ、籠をゆっくりと前に降ろす。
すると、籠の中に座って隠れていたフィオーレが、勢い良く飛び出しポーズを決めた。
「みんな、初めまして! 新メンバーのフィオーレだよ! 宜しく~!!
挨拶代わりに一曲歌います。第1幕は『断罪する聖剣の輝き』だよ!!」
〈小道具倉庫〉からギターを取り出したフィオーレは、楽器を掻き鳴らしコンサートを始めるのだった。
※※※
時間を少し巻き戻す。ザックスとフィオーレが街道脇で昼食を取っている頃である。その街道が見えなくなる程の距離を離した隣山、その麓には隠れるようにして山小屋が建てられていた。
そして、山小屋には不釣り合いな程、豪華な馬車が1台停められている。それは、先日ザックスが遭遇した妖人族のフェアズーフが乗っていた馬車である。
そこに、今度はみすぼらしい馬車がやって来た。馬車から降りてきたのは、耳の尖った妖人族の男である。見た目は壮年くらいか、商人のような服を着ている男は、山小屋の隣に手にしたボストンバッグを地面に置いた。そして、ボストンバッグの中から山小屋を取り出して、隣に設置する。2つの山小屋は瓜二つな程に似通っていた。そう、これは持ち運びできるプレハブ小屋の様な物なのである。商人風の男は、御者に宿泊の準備をするよう指示すると、馴染みの店に商取引でもしに来たかのような気安さで、最初の山小屋に入って行った。
「はいはーい、毎度どうも。定時連絡に来たぜぇ」
「……良く来たビガイル。だが、少し待っていろ。今、部下の報告を聞いている途中だ」
「ああ、その様子だと、例の精霊確保は上手く行かなかったみたいだな。ご愁傷さま。
風の精霊石を紛失したのは痛かったからねぇ。
まぁ、失点続きのフェアズーフが焦るのは無理ないけど、元々レアな連中なんだから、気落ちするなよ」
「黙ってろ!!」
フェアズーフは苛立ちを隠さぬまま、テーブルを殴り付けた。ビガイルと呼ばれた商人風の男は、肩を竦めてから空いている椅子に座る。ニヤニヤと笑っているので、フェアズーフの反応を楽しんでいるかのように見える。
それに対して、正面に立っていた部下は、主人の怒りに頬を強ばらせていた。しかし、フェアズーフの鋭い目つきに、先を促されて話し始める。
「騎士団が撤退した後も、沼になった池を隣の山頂から監視していました。4日程前から、卵から蛙の魔物が増える事を確認。しかし、昨日の夕刻前に来た2人組に殲滅されてしまいました。ミスリル装備で身を固めた赤毛の剣士に、黒髪のポニーテールの少女です。
あの、ところで、俺の部下が帰って来ないのですが、知りませんか?
昨日から交代も出来ずに、1人で監視する羽目になったんです」
「馬鹿者っ! お前の部下なら街道で騎士に捕まりそうになっていたから、私が処分……いや、ちょっと待て。赤毛の剣士と黒髪の少女だと?」
「ええ、遠目ですが、しかと見ました。魔法と剣で戦う赤毛の男と、後ろでくるくると踊っていた黒髪の少女です」
フェアズーフは困惑して顎を撫でつけた。先日出合った2人組に似ているが、魔法を使ったと言う証言が邪魔をして断定出来ないでいたのだ。
確認の為、御者をしていた部下に声を掛けた。
「おい、昨日の赤毛は軽戦士と言ったが、魔法戦士の間違いではないのか?」
「いえ、軽戦士でしたよ。少女の方はOPアクト。踊っていたなら、間違いないでしょう。どちらも魔法が使えるジョブではありません」
「いや、待ってくれ。あれは〈ストームカッター〉と〈ウインドウォール〉だったから、遠くても見間違えないですよ。後は、泥を消し去るスキルか魔法を使っていました」
部下達の証言が食い違う。フェアズーフが考え込んでいると、パンッパンッと、手を叩く音がした。ビガイルが胡散臭い笑顔で挙手をしていた。それを見たフェアズーフは、舌打ちをしてから「何だ?」と発言の許可を出す。
「魔法を使えない奴が、魔法を使う。その矛盾をどうにかする良い情報があるよ。丁度、次の指令絡みでね」
「……勿体ぶるな。早く話せ」
「クッ、焦るなよ。マークリュグナー公爵からの情報だ。この国の王都で、魔法を使える魔道具が量産されたと噂になっているらしい。王族が地盤固めに使っていて、宣誓のメダルの取引終了を言い渡された公爵は劣勢なのだとか。こちらとしても、宣誓のメダルの売り上げが無くなるのは痛い。
そして、その魔道具はここヴィントシャフトから、供給されているところまで突き止めた」
周囲の注目が集まっている事に気を良くしたのか、ビガイルは芝居がかったように話した。どうやら、情報を得た事を自慢しているようだ。しかし、フェアズーフはそれを無視して、怒りを別の方へと向ける。
「……人間共が、そんな魔道具を作り出したのか?! 目障りな!」
「ああ、それが本当なら、その赤毛はヴィントシャフトの騎士。その魔道具を支給されていた可能性がある。いや、実に不味い。高々レベル30程度の雑魚にまで、魔法が使える魔道具が行き渡っているのだから。いや、ミスリルの装備品を身に着けていたのなら、有力貴族の者かも知れないがね。
どちらにせよ、戦力が増強されるのは、私達にとっては痛いな。東は成功したのだが、北と西の実験は失敗。もしかしたら、その魔道具が投入された可能性も考慮しなくてはならないな」
ビガイルが語ったのは、妖人族による
ここラントフェルガー王国の東の領地では、魔物の氾濫を起こす事に成功し、村を一つ全滅させた。ただし、魔物の領域となりかけたところを、領地の騎士団が総力を挙げて結集し、討伐された。
王都の北の地では、魔物を氾濫させたものの即座に討伐された。王国最強と謳われる第0騎士団の強さは厄介である。
そして、西の領地アドラシャフトでは、氾濫させる前に細工を施した魔物が討伐されてしまった。妊娠した女を生贄に、精霊石を2つも使ったので、強個体が生まれた筈であるのに。
「騎士団が出張って来ていたので、アイツらにやられたのだろう。手駒も全部殺られるか捕らえられてしまって、情報が得られなかったのが痛い。まぁ、南担当なのに、精霊石を紛失したお前よりマシだけどな!」
「五月蠅い! 勝手に消え失せたのだ、俺の責任ではない!」
フェアズーフがヴィントシャフトへ向かっている最中に、実験の要となる精霊石を紛失してしまったのだ。上司には『アドラシャフト領内で野営をしている間に、忽然と消え失せた』と主張したのだが、取り合ってもらえず厳しい処分が下された。(フェアズーフの基準で)下っ端が行うような仕事、精霊の捕獲に回されてしまったのだ。
先日の池の泥汚染についても、その仕事の一環である。
益々不機嫌になるフェアズーフに対し、ビガイルはニヤリと笑う。アイテムボックスから1枚の紙と、2個の精霊石……精霊が囚われた封結界石を取り出しテーブルに広げた。
「まぁ、落ち着け、魔物で汚染したにも関わらず、精霊が出てこないのであれば、元より居なかったのだろう。そこは諦めろ。
ただ、そんなフェアズーフに名誉挽回のチャンスが巡って来たぞ。ほら、本国からの新たな指令書だ」
『魔法が使える魔道具の生産拠点を破壊すべし。可能ならヴィントシャフトの街を滅ぼせ』
他にも細々と書かれているが、大目標としては街を滅ぼせと言う物であった。それを読んだフェアズーフは溜息をつく。明らかな無茶振りであったからだ。
「精霊石2個で、街中のダンジョン2つを氾濫させたとしても、無理だろう。あそこは領都だぞ。村とは違い、騎士団の本部がある。ベースにする魔物も、余程高レベル出ないと討伐されて終わりだろ」
「クックックッ、私も同じ指令を受けていてな。今回は協力してやるさ……ただし、準備と情報収集を念入りにしてからな。
私の手持ちの魔物、レベル60のファイアドレイクをやろう。この火の精霊石と、お前の所のルビー髪の女を生贄にすれば、強力なレア種になるだろう」
「おお、良い心掛けだな。ありがたく頂こう」
「代わりと言っては何だが、こちらの雷の精霊石を貰うぞ。
マークリュグナー公爵のところのアホ息子が居ただろう。親子共々こちらに泣きついて来ていてな。アメジストの女も毟り取る予定だ。レベル程度、魔道具で何とでもなるからな」
ビガイルが話題にしたのは、フオルペルクの事である。彼はザックスと、どちらが先にレベル40へ到達するか競争をしていたのだが、真面目にダンジョン攻略する気概も無く、早々に他力本願に切り替えていた。もっとも、学園のルール内では、他者によるレベリングも出来ない事に気が付き、魔道具で何とか出来ないかと相談していたのである。
「ああ、サファイアの女にご執心とか言っていた奴か。チッ、水の精霊が手に入っていれば、そいつを生贄に出来たのだがな」
「それは難しいと思うぞ。土地持ちの伯爵令嬢だからな。学園でも護衛が守りに付いていて、攫う事も出来なかったそうだ。
そっちのルビーの女の仕上がりはどうだ? 絶望したか?」
「いや、中々強情な女だ。廻しても拷問しても、耐えやがる。
頼んでいた物は手に入ったか?」
「ああ、生身は手間だったから、バラしたがな」
それは良いと笑うフェアズーフは、ビガイルを山小屋の一室へと案内した。
※※※※※※※※※
作者より再度の警告をします。ここから少し残酷なシーンがありますので、苦手な人は読まないで下さい。具体的には女性への拷問です(直接描写はありませんのでR12程度だと思いますが)。
読まない人は、暗躍する者達が救いようの無い悪だと認識して頂ければ結構です。
冒頭の警告文があったにも関わらず、読んだ読者から苦情が来たため、追記しました。
※※※※※※※※※
狭い部屋には家具など無く、マットレスがあるのみだった。そこに裸で横たわるのは、手枷足枷を着けられた女性である。ルビーの様な髪を持つ『精霊に祝福された宝石髪の乙女』なのだが、丁重に扱われた様子はない。全身の汚れや痣からは、娼婦や囚人以下の扱いである事は容易に想像できる。
「おい、起きろ!」
護衛の男が、女の腹を蹴り転がす。壁にぶつかった女は咳き込みながら、よろよろと顔を上げる。しかし、その目はキツく睨んでいた。
「コホッ! 朝方まで犯しておいて、休ませなさいよ……」
「汚い女だ。〈ウォーター〉!」
魔法の放水が女に浴びせ掛けられた。身体を洗い流すだけでなく、爪が剥がされた指先や打撲痕、顔を必要に狙い、水攻めをする。5分程、たっぷりと悲鳴を上げてから、ようやく水が収まった。女は咳をするのが精いっぱいの様子である。
「なかなか、絶望しないお前に、良い手土産を持ってきた。喜びなさい。感動の再開ですよ」
ビガイルがアイテムボックスから取り出した物を床に置く。それは、人間の首であった。
「……嘘……いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! お母さん! お父さん!
なんでよ! 私は貴方達の慰み者になったでしょう! 家族に手を出さないって契約なのに!!」
絶望に泣き叫ぶ女であったが、周りの男たちは薄ら笑いを浮かべるだけである。望んでいた反応に笑い、股間を膨らませる者まで居た。
「はっはっはっ、それはフオルペルクとの契約でしょう? 私達とは何の関係も無い。貴女がいけないのですよ。早く絶望しないから、仕方なく殺したのです」
「……私のせい…………ふざけるな! お前ら全員殺してやる!!!」
女は目を血走らせながら、飛び掛かった。手枷足枷を着けられていても、戦士としての訓練を積んだおかげである。ただ、起死回生……いや、自暴自棄の一撃も届きはしない。護衛の男に叩き落されるのだった。
「手足の骨は折っておけ。五月蠅いなら、歯も折って構わん。
さあ、今度は両親の前で廻されるんだ。恨め、もっと恨め。世界を滅ぼしたくなるほどにな!」
「神様ぁぁ、コイツらに天罰を!」
「ハハハッ! この世界に神など居ない! 居るとしたら、世界を動かす我々が神だ!」
その晩も、女の悲鳴が響き渡った。ただ、人里離れ、街道から外れた山小屋に近寄る者などいない。助けなど見込めないまま、女は絶望へと落ちていった。
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書いている方も、SAN値が減るぅ……
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