第382話 勧誘とOPアクトのスキル
あらすじ:フィオーレ「アタシが座長の劇団を結成! 初公演の演目は『侵略かぼちゃと村の聖剣使い』!」
「いやいや、何の話だ?! 俺が言っているのはダンジョン攻略のパーティーメンバーに入らないかって誘いだぞ!」
「あー、そっち?
だって、ザックスが音楽とか踊りに興味が有りそうだったから、自分の偉業を劇で広めたいのかなって?」
「ジョブの話を聞いていただけじゃないか……まぁ、俺も踊りが上手くなるスキルはあるけど、使った事は無いぞ」
「踊りが上手くなる?! なにそれ!」
何故か、別の方へと話が飛んで行ってしまった。遊び人が覚えたスキルであるが、効果のほどは知らない。何故なら、歌も踊りも得意ではないからだ。せめてカラオケのように、伴奏と歌詞が付いていないと歌える気がしない。
【スキル】【名称:歌う】【パッシブ】
・歌が少し上手くなる
【スキル】【名称:踊る】【パッシブ】
・踊りが少し上手くなる
【スキル】【名称:タップダンス】【アクティブ】
・一定時間、足音が金属音に代わる。この音は軽快に鳴らすほど、周囲の人や魔物の注目を集める。
「遊び人のジョブ? へ~、初めて聞いたよ。歌と踊りが上手くなるジョブかぁ……」
「遊び人自体が特殊だから、知っている人は俺の報告書を読んだ人だけだろうな。それに、解放条件に魔法使いが要るから、好き好んでなろうとする人も居ないと思うよ」
「あ、アタシも魔法使い持っているよ……お母さんが貴族の愛人だったから」
言い難そうに、ポツリと呟いた事で、何となく察せた。深くは聞かない方が良いだろう。ただ、勧誘のネタにはなる。
ウチのパーティーメンバーになれば、複数のジョブを育てる事も出来ると説明した。
「10層毎のボスを楽に倒せるようになれば、好きなジョブを育てる事も出来るからね。俺は手持ちのジョブ全てを育てているし、レスミアも6個程育てているよ。フィオーレも、OPアクト系と遊び人両方育ててはどうだ?」
「ん~、OPアクトのセカンドクラスって、2つに分かれるんだけど、それでも良い?
祝福の楽曲をメインの『楽師』か、呪いの踊りがメインの『ソードダンサー』に分かれるんだ。アタシはどっちにしようか迷っていたんだけど……両方出来るなら、両方やりたい!」
「ああ、俺達も魔物との相性や、パーティーメンバーの前衛後衛の配分でジョブを変えるから、フィオーレもジョブはコロコロ変える事になると思ってくれ」
「うん、良いよ。ザックスとミーアの取材も出来るし、アタシにとっても願ったり叶ったりだよ。パーティーに入れて!」
「いや、まだ交渉の途中だぞ。気が早い」
それから、他のメンバーと同じような雇用形態になる事を説明した。フィオーレは給料制と言う事に難色を示したが、衣食住付きで、先程の食事が食べ放題と聞くと、二つ返事で了承した。
「あんな、高級宿でしか食べられないような料理とお菓子が食べ放題とか、流石お貴族様~」
「正確には、貴族を目指しているだ。まぁ、貴族の料理人見習いが作っているからな。そりゃ美味しいさ。それと、お菓子は経営しているお菓子屋の売れ残りとか試作品とかだな。フィオーレも、早朝と休みの日に店員として手伝ってくれるなら、給料に上乗せがあるよ」
「う~ん、休みの日は吟遊詩人として活動するか、練習がしたいなぁ。ね、そのお店で音楽弾いたり、歌ったりして良い?」
……対面販売な店なので、早朝に歌うとか近所迷惑になりそうだ。いや、店内から音楽だけ流す程度ならセーフか? 有線放送みたいなBGMとして考えればアリな気もする。
「それは、他のメンバーの意見も聞いてから判断しよう。駄目だったら、知り合いの宿屋とか酒場を紹介するよ」
「あ、それならついでに、『ソードダンサー』のビルイーヌ族を紹介してくれない?
アタシ、お母さんから大体の祝福の楽曲は教わったけどさ、呪いの踊りは途中なんだ。ほら、この小さい身体でしょ。特に剣とかウルミを持った踊りは、もうちょっと身体が成長してからじゃないと教えてもらえなかったの。
セカンドクラスになれば、成長を先取りして大きく成れるからね! それから、誰かに師事したいなって」
成長の先取りと言う言葉に驚いたが、思い返すとレスミアの猫人族も似たようなものだった。種族専用ジョブだと、よくある事なのかも知れない。鬼人族はジョブ一つで選択肢も、変化も無かったけど。
それはさておき、ビルイーヌ族の知り合いはムッツさんと、アメリーさんしかいない。どちらも新興商人と聞いているので、対象外である……いや、知り合いじゃないけどビルイーヌ族を見かけた覚えがあった。
「ああ、ソードダンサーか分からないけど、劇場で見た演劇にビルイーヌ族らしき、子役が出演していたな。後は……年始の公演に、ソードダンスが得意な劇団がやって来るらしい」
「そう! それそれっ!
劇団があるなら、音楽と踊りが好きなビルイーヌ族は絶対に居るよ! そこを紹介して貰えない? レッスンだけでもいいからさ~」
「それなら、ソフィアリーセ様にお願いするしかないな。ヴィントシャフト伯爵家が招致している劇団らしいから、その御令嬢なら多分伝手は有ると思う」
「ああ、ミーアの恋敵だっけ? むぅ、それはちょっとお願いし難いね」
「いや、恋敵と言うより、義理の姉妹になろうと仲良くしている最中かな?
年下には優しい方だから、大丈夫だよ」
正確には妹キャラに駄々甘なお姉さんだけど、余計な事は言わない。フィオーレの容姿なら十二分に妹扱いされる……いや、セカンドクラスになって成長した後は知らんけど。
念のために、雇用条件を書き出していた紙に、劇団への紹介も記載しておいた。
「それじゃ、こんなところかな。最後に、守秘義務も発生するから、それだけは守ってくれ。確認したら、下に署名してな」
「守秘義務?」
「ああ、英雄系のジョブ以外にも色々あるし、錬金術で作っている商品を領主様に納品している。商売のタネだから、関係者以外には吹聴しないようにしてくれ」
「ああ、貴族がらみだと、そう言うの多いよね。りょーかい」
複合ジョブだけでなく、銀カードやダイヤモンドなど、面倒な案件が増えている。フィオーレを信用したいところではあるけど、今日であったばかりなので全面的に信用するのは不安だ。その為、〈契約遵守〉のスキルで縛らせて貰った。まぁ、破った時が分かる程度ではあるけど、見えない鎖にはなる。
雇用条件書を契約書とした後、簡易ステータスを開いて、パーティーへの【追加】ボタンを押してもらった。これで、パーティー欄にフィオーレが追加される。ついでに、ステータスを覗く事も出来た。
【ビルイーヌ族】【名称:フィオーレ、20歳】【基礎Lv20、OPアクトLv20】
HP F □□□□□
MP E □□□□□
筋力値F
耐久値F
知力値D
精神力E
敏捷値C
器用値B
幸運値C
所持スキル
・癒しのエチュード
・注目のペザント
・スローアダージオ
・小道具倉庫
・猛き戦いのマーチ
・脱力を誘うキューピッド
・麻痺耐性小アップ
器用値と敏捷値が高いのは、楽曲と踊りを行うためだろう。HP、筋力値、耐久値が軒並み最低値のFなので、確かに後衛に置いておくのが鉄板だ。そして、気になるジョブは、OPアクト以外に僧侶以外の基本ジョブが揃っていた。(戦士、スカウト、魔法使い、僧侶、商人、職人、採取師、見習い修行者)
何はともあれ、OPアクトを拝見っと。
【ジョブ】【名称:OPアクト】【ランク:1st】解放条件:基礎Lv5以上、ビルイーヌ族専用
・所謂、前座である。音楽も踊りも発展途上だが、光るものが見いだされて舞台へ挑む。ダンジョンでは味方を強化する祝福の楽曲と、魔物の能力を下げ妨害する呪いの踊りでサポートする。あくまでサポート役なので直接的な戦闘スキルは無い。楽器を弾いている間、踊っている間しか効果を発揮しないので、戦士や騎士に守ってもらおう。
なお、未熟な為、祝福の楽曲の効果はパーティーメンバー以外には効果が半減する。
また、自身の楽曲、もしくは踊りを披露して称賛を得た場合、少しだけ経験値を得る。
・ステータスアップ:MP小↑、知力値小↑、敏捷値中↑、器用値中↑
・初期スキル:癒しのエチュード、注目のペザント
・習得スキル
Lv 5:スローアダージオ、小道具倉庫
Lv 10:敏捷値中↑
Lv 15:猛き戦いのマーチ、脱力を誘うキューピッド
Lv 20:器用値中↑、麻痺耐性小↑
【スキル】【名称:癒しのエチュード】【アクティブ】
・聞いている者の自然回復力を高め、徐々に癒す祝福の楽曲。回復効果はそれほど高くないが、小さな切り傷や打ち身程度なら十分に治る。
「本格的な音楽を習う前の練習曲だよ。基本的なギターの運指や音使いが詰まっているから、初心者を抜けるにはコレを弾いて慣れるのが一番だね。スキルを使えば、指が勝手に動いて弾いてくれるけど、下手くそなんだよ。自分で弾いた方が効果も高くなるから、意識しなくても弾けるくらい練習するよ。
後は、子守りにも最適。ホラ、子供たちが庭で転げ回って遊んで傷だらけになるでしょ? そんな時に、弾いてあげると良いんだ……お小遣い稼ぎにはなるし」
「音楽は詳しくないから、助かるよ。ネタになりそうな事は話してくれ」
【スキル】【名称:注目のペザント】【アクティブ】
・踊りとスポットライトで、周囲の注目を引き付ける呪いの踊り。見た者を短時間だけ魅了して動きを止める。ただし、術者と相手のレベル差によって、効果時間が変わる。効果が切れると、敵に狙われる。
「収穫祭の時にソロで踊るやつだね。農村でも踊るくらい簡単な踊りだから、子供でも踊れるよ。こっちも、スキルで勝手に身体が踊るけど、初心者レベルだから、自分で踊った方がマシ。可愛らしく軽やかに踊ると楽しいよ。
ただ、魔物の注目を集めている間に倒せないと、その後に狙われちゃうのが難点だよ。戦士が居ないと怖くて使えないね。
そうそう、スポットライトが何処から出てくるのか子供心に不思議だったなぁ。ザックスの〈ライトクリーニング〉?あれもスポットライトを光らす魔法と勘違いしちゃったよ」
「いや、俺からしたら、スキルも魔法も不思議だらけだぞ。取り敢えず、踊りもセミオートなのか」
【スキル】【名称:スローアダージオ】【アクティブ】
・敵全体の敏捷値を下げる呪いの踊り。踊っている間、永続して効果が続く。
「全体的にゆっくりとした踊りだね。スローテンポな踊りで、魔物も遅くするんだよ。ザックスがオタマジャクシの大群と戦っている時にも、踊ったやつだよ」
「ああ、泥と水分が無くなって動きが遅くなったと思っていたけど、呪いの踊りの効果も合わさっていたのか。確かに、魔物全体を遅くするのは強いな」
「うん、アタシも使うスキルに迷ったら、取り敢えずコレを踊っているよ。結構、難しい踊りだから大変だけどね」
【スキル】【名称:小道具倉庫】【アクティブ/パッシブ】
・アイテムボックスの亜種。楽器や踊りの道具など、芸事に関わる物のみ収納できる。
「亜種か……容量はどれくらいなんだ?」
「さあ? アタシはギターが2つに、お手入れ道具とか交換用の弦、踊りの衣装、楽譜くらいだから、そんなに容量は使ってないよ。
そうだ、聞いた話だけど、ピアノを入れて持ち運ぶ人も居たらしいから、それくらいの容量はあるんじゃない?」
「ピアノ??? いや、それは置いといて、ギター以外でも祝福の楽曲スキルは使えるのか?」
「うん、楽曲が決まっているだけで、楽器は何でも良いよ」
【スキル】【名称:猛き戦いのマーチ】【アクティブ】
・味方全体の筋力値を上げる祝福の楽曲。演奏している間、永続して効果が続く。
「行進曲だから、騎士団の式典とかにも使われる曲だね。リズムが良いからヤル気が出る!みたいな感じ」
「ああ、運動会の曲」
【スキル】【名称:脱力を誘うキューピッド】【アクティブ】
・敵全体の筋力値を下げる呪いの踊り。踊っている間、永続して効果が続く。
「コミカルで可愛らしい踊りだから、子供に人気の踊りだね。ダンジョンで踊る時は誰も見てくれないけど」
「いや、戦闘中はしょうがないんじゃないか。
ウチの女性陣なら喜んで見そうだぞ。ヴィントシャフトに戻ったら、挨拶代わりに披露するのも良いんじゃないか?
そうそう、ソフィアリーセ様に劇団の伝手をお願いするなら、実力を見せる機会も要るな」
「……まぁ、試験みたいなものかぁ。あっ!気に入られたら、パトロンになって貰って、フィオーレ劇団設立とか?!」
「いや、先ずはダンジョン攻略が優先だからな。その劇団だって、ダンジョン討伐して貴族になってからの方が良いんじゃないか?」
「え~、貴族とか面倒だからパス。それなら、貴族になったザックスがパトロンになってよね」
そんな雑談交じりでOPアクトのジョブデータを書き終えると、時刻は22時になっていた。流石に夜更かしをし過ぎたな。今日はこれでお開きにして、テーブルと椅子をストレージに片付け、ベッドを再設置した。そして、フィオーレを自分の部屋に行くように促すのだが、
「まだ眠たく無いんだよねぇ。まぁ、ストレッチでもしていれば眠くなるかな?」
「明日は7時には村を出たいから、早めに起きてくれよ」
「りょーかい。おやすみ~」
俺もなかなか寝付けなかったが、いつもと違うベッドのせいか? グレードの低い部屋で、ベッドも硬いせいかもな。今日の出来事を思い返している内に、ようやくウトウトして眠れたのだった。
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小ネタ
【食品】【名称:ラムラックの香草焼き】【レア度:D】
・子羊のあばら肉に各種香草とオリーブオイルを練り込み、フライパンで表面に焼き色を付けた後、オーブンで焼き上げた肉料理。外側はカリカリで香ばしく、中は赤い薔薇色のレアが楽しめる。骨付きなので豪快に齧り付き、骨周りの美味しい肉まで頂こう。
・バフ効果:睡眠耐性小アップ、麻痺自然回復小アップ
・効果時間:25分
つまり、沢山お代わりしたフィオーレは……
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