第378話 フィオーレと泥に汚染された池
フェアズーフ(仮名フロヴァルト)と言う貴族の様な、そうでないような怪しい一団を見送った。山賊達は殺された上に、粉々の炭になってしまったので、騎士団に報告するにしても何と言うべきか悩む。鑑定しても名前も出ないので、遺体とも証明出来ないからなぁ
すると、後ろから緊張感の無い声が聞こえて来た。
「なんか、物語に成りそうなくらい、怒涛の展開だったね。メモしとこっ!」
「訳が分からない事ばかりだったけど、まだ君が居たな。フィオーレだったか? 少し座って話そう」
見た目はスティラちゃんと同じくらいの身長の子供に見えるが、20歳のビルイーヌ族。ポニーな黒髪や、彫りの浅い顔立ちから、日本人っぽくもみえて、親近感が湧く子ではある。
「あれ? アタシ名乗ったっけ?」
「いや、赤字ネームかどうかの確認に、勝手ながら鑑定させてもらったよ」
「おおっ! 流石は英雄のジョブ!」
「いや本当に、どこまで知っているんだ?!」
さっきの連中とは違った意味で怖い。
そして、フィオーレの経緯を掻い摘んで聞いている内に、頭を抱えたくなった。
「村の出来事が本になって広められているって? なんで??」
「本の挿絵とかザックスそっくりだったから、直ぐに分かったよ。後はムッツから手紙も預かって……アレ? 何処やったっけ? あ、ロバの積荷!」
フィオーレは急に立ち上がると、街道の奥へと駆けていく。俺もその後を追うと、少し先の街道脇に矢が刺さったロバが倒れていた。
それに縋りついて悲しむフィオーレ……と思いきや、鞍を取り外して、下敷きになった荷物を引っ張り出していた。
「良かった、ちょっと潰れたけど、荷物は無事だ~。ん? どうしたの?」
「あーいや、なんだ。そのロバを埋葬した方がいいよな?」
先程の事を引きずっているのは自覚しているが、死者への弔いはした方が良い。ロバだって、この子の家族だったんだから。そう思い提案したのだが、あっけらかんと返された。
「まぁ、短い付き合いだったけど、ここまで一緒に来たからね。お願い」
「街道脇の木の側で良いよな? 〈ディグ〉!」
便利魔法で手早く墓穴を掘る。後ろから「元は取れたかなぁ?」なんて声が聞こえたので、家族とかペットでなくビジネスライクな付き合いだったらしい。一見、薄情にも見えるが、ドライなのではなく興味の有る無しがハッキリしているのかね?
ロバの遺体を穴に入れ、魔法で盛り上がった土山を崩して埋葬する。途中から作業はフィオーレに任せて、俺はムッツさんからの手紙に目を通した。
そこには、出版に至るまでの経緯(村興し)と、現状の問題(俺とレスミアの描写がそのまま)、対策(名前と挿絵の変更)までが、つらつらと書かれていた。
……お詫びに利益の5%をあげるから、了承して欲しいと言われてもなぁ。手書きだから初版の数も少ないらしいが、本当に大丈夫かね?
取り敢えず、俺達と特定出来ないくらいには変えるよう返事を出しておかないと。
フィオーレに関しては、『ザックスのファンだから、アドラシャフトに帰った以降の話を聞かせてやると良い。吟遊詩人としての歌は、中々良かったよ』なんて書かれていた。
……吟遊詩人に俺の話を広められるとか、恥ずかしいんだが!
お墓の上に墓標代わりの石を置き、完成した所で話を聞く。
「フィオーレはランドマイス村以降の話を聞きたいって事でいいか?」
「うん、貴族の婚約者と三角関係になったんだよね?
続きが気になるじゃん」
「そんな大した話じゃないんだけどなぁ……話を聞かせるのは良いけど、吟遊詩人として広めるのは止めて欲しい」
「え~それじゃあ、アタシの稼ぎが無くなるじゃん!
折角面白い英雄譚なんだから広めようよ!」
「……ハァ。それなら百歩譲って、俺達と分からないくらいに改編させるからな」
「ああ、そう云うのはよくあるから良いよ。普通は逆だけどね」
なんでも、図書室にあるような自己顕示欲まみれの自伝を執筆する貴族は、吟遊詩人を雇って自作の歌を歌わせる事もあるそうだ。俺からすると物好きにしか見えないが、貴族なら自分の功績を広める事は必要なのかもしれない。TVやラジオも無い、この世界では情報伝達手段が限られているからな。
「それじゃ、今日の所は俺に付いて来てくれ。この森にある池で作業をした後、ルイヒ村に行かないといけないから、ここでのんびりと話している時間は無い。良いね?」
「はい!
あ、森の池なら、もう少し先に分かれ道があったよ。池の畔で野営をするなら、その時に話を聞かせて!」
「あー、いや、新型のゴーレム馬があるから、それに乗って日が暮れる前には村に行きたいな。
おっと、ご焼香代わりに〈ライトクリーニング〉!」
ロバの墓を浄化しておいた。土葬なので念の為、それに浄化の光なら魂を天に返してくれそうだ。ついでに、山賊が居た辺りの炭で黒くなった石畳も浄化しておく。亡くなったら、犯罪者でも仏だからな。お焼香代わりにサービスしておこう。来世があるならば、山賊なんかやらずに真っ当に生きろよ。
「わぁぁぁぁっ! 早い!早い! 本当の馬より早くない!? もしかして、ヴィントシャフトで開発されたの? 全然馬っぽさが無くて笑えるね!」
「耳元で怒鳴るな。山道に入ると揺れるから、舌嚙むぞ!」
二人乗りすると言っても座る場所が無いので、フィオーレをおんぶしてバイクを走らせた。街道の横道に『森の貯水池』の看板があったので、それに従って山道に入る。川沿いの道であり、舗装がされていないので、凸凹道だ。俺の背中でペチャクチャと話通しだったフィオーレは、舌を噛んでからは大人しくなった。
山道の近くには、川も流れているが、川底は茶色に染まっている。その泥は先に進むほど、山道や周囲の木々まで汚していた。もっとも、大部分は乾いて砂になっているが……恐らく、魔物討伐の際の痕跡だろう。
そして、目的の池に辿り着いた。木々に囲まれた池は、想像以上に大きく、長い所はプール2個分くらいありそうだ。
ただ汚染されているので、池じゃなく泥沼とか、
「うわぁ、ルイヒ村に居た時、噂には聞いてたけど、酷い泥塗れ。
アレは何? 大きな壁があるね?」
「ああ、騎士団が泥の流出防止に、簡易的な工事をしていったらしいよ」
その石壁は、池から下流の川へと繋がる部分に建てられた〈ストーンウォール〉だった。対岸を見れば、同じ様に石壁が立っている。あっちは上流の水を堰き止めて、迂回路を掘って下流へと繋げたそうだ。
その為、川の水は流れていて、下流への影響は少ない。ただ、農繁期までに池の水が溜まっていないと、水不足になって作付けに影響が出るらしい。
次の農繁期は3月らしいので、こんなにも急ぐ必要なかったかも知れないが、農村としては貯水池が使えない状態で年越しするのは不安だろう。これも人助けだな……まぁ、只の建前で、俺が騎士ジョブを欲しいだけなのは内緒だ。俺を英雄のように見ているフィオーレの夢を壊す必要も無いからな。
「フィオーレはその辺に座って待っていてくれ……って、乾いた泥で座るところも無いか。取り敢えず、そこの岩にでも〈ライトクリーニング〉!」
「……土埃が消えた?! ただ、光るだけじゃなかったの?!」
驚くフィオーレは置いておいて、〈ライトクリーニング〉を連打し始めた。発動にスキル名を連呼するのも面倒なので、〈無充填無詠唱〉をセットして、念じるだけで浄化していく。
〈ライトクリーニング〉に汚れとして認識されたのか、泥はマナの煙となって消えていく。後に残るのは少量の水のみ。この泥は粘性が高いのか、効果範囲で切り取っても崩れてこないのは助かる。
直径3mの効果範囲を上手く使い、池の底から丸ごと浄化するのだった。
3割ほど浄化した時だった。効果範囲から泥が消え失せたのだが、その中から黒くて丸い物が『ぽちゃんっ!』と水音を立てて落下した。〈ライトクリーニング〉を連打しながらも、気になったので少し目を向けると、そこには黒くて丸く尻尾の生えたオタマジャクシが浅い水の中を泳いでいた。
……なんだ、オタマジャクシか。そりゃ池なんだから、居るよな……あれ? 今、12月だけど、冬眠する時期じゃないのか?
そんな疑問が頭を過る。思わず2度見すると、オタマジャクシがぴょんぴょんと飛び跳ね、岸へ上がっているところだった。
……オタマジャクシって飛び跳ねる生き物だったか?
いや、そもそも、縮尺が大きすぎる。このパターンは魔物か!?
冷静になってみると〈敵影感知〉の圧力を感じるし、〈敵影表示〉の赤点も表示され……続々と赤点が増え始める。このオタマジャクシだけではない!
惰性で掛けていた〈ライトクリーニング〉で消された泥の中から、次々と姿を表す。尻尾のオタマジャクシだけでなく、手脚の生えたオタマジャクシに、尻尾のある蛙、そして既に成長して蛙になっているものも。
ワラワラと出てきた方に気を取られている間に、最初のオタマジャクシが岸へと上がって来ていた。バスケットボール大の大きさは流石に驚く。そして、更に驚く様相を見せてきた。オタマジャクシが口を上下左右に割って開いたのだ。4つに割れた口内には牙がびっしり見える。
……オタマジャクシに見せかけた、エイリアンかよ!?
飛び掛かってきたオタマジャクシの噛み付きを躱し、サッカーボールキックで、沼へと蹴り返した。この隙に後ろへ指示を出す。
「フィオーレ! 魔物が隠れていたから、離れていろ!」
「ちょっと、1人で大丈夫?!」
「なんとかするさ! あんまり強そうではないし、10匹程度!」
「「「ヴぁーご、ぶぁーご、ヴぁーご!」」」
汚い蛙の大合唱が沼地に響く。すると、奥に見える沼地の全域から、蛙やオタマジャクシが這い出てきた。〈敵影表示〉に映るマップには無数の赤点が増えていく。
……ちょっと、やばいか? こんな事ならパーティー全員で来るべきだったよ!
いや、まだ魔物とは距離がある。まずは情報収集だ!
【魔物】【名称:シュラムロッシュ】【Lv28】
・ダンジョンから外に出て、地上に適応した蛙型魔物。クイーンが産む大量の卵から産まれ、手足となって働く。水場よりも泥の中を好み、成体になると水を吸って泥へと変換し、環境を作り変える。この泥は粘性が高く、獲物を捉える時にも使用されるほか、身に纏う事で全ステータスがアップする。
・属性:土
・耐属性:水
・弱点属性:風
【ドロップ:無し】【レアドロップ:無し】
……卵からって、そういう事か!
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近況ノート(サポーター用)を更新しました。
また、ギフトを頂いたので、その返礼ですね。2500文字程度。
今回は、『犬族、犬人族専用ジョブ、猟犬編』について解説します。テオのパーティーのお目付け役、兼護衛のヴォラートさんのジョブ系統ですね。ボラ爺はサードクラスの『神使狼』ですが、今回紹介するのはその前段階ファーストクラスの『猟犬』です。口ではなく、両手で噛み付き攻撃をする変わったジョブですよ。
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