第377話 邂逅
赤い光点は赤字ネーム、殺人犯を示すものであった。
俺は聖剣クラウソラスのスキルで光剣を召喚すると、バイクで走りながらロックオンカーソルを操作する。生かさず殺さず無効化する為にも、足を狙う。
「行けっ!!」
攻撃指示をだすと、光剣はバイクの速度以上の速さで飛んで行く。距離もあった上に、敵の認識外からの攻撃は、見事足を撃ち抜いた(切り裂いた?)。
追撃をするつもりだったけど、過剰かな?
足を攻撃されて倒れる連中は、慌てふためいた様子で危険度は大きく下がったように見えた。おっと、光剣を放っておくとオートモードに移行して止めを刺してしまうので、待機指示を出す。
「がぁっぁぁあ、足がぁ! 俺の足がぁ」
「何だってんだぁ、クソ野郎が!」
「ポーション! ポーションよこせぇぇぇ!」
野太い悲鳴や怒号が聞こえてくる。足をやられて転がったので、無力化出来たと考えていいだろう。レベル25前後だったので、光剣が効くか少しだけ心配したが、杞憂だったようだ。
手前に倒れている女の子も、ロープでぐるぐる巻にされているが、怪我は無さそうだ。何故か、こっちを見ているが。
バイクを横滑りさせて停止し、それと同時にストレージにしまって、歩み進める。最近、気に入って練習した止まり方だ。
いや、貴族街をバイクで移動すると注目される事が多いので、サッと止まってサッと降りる方法だな。偶に拍手を貰えるので、ちょっと嬉しい。
それはさておき、降伏勧告だな。刑事ドラマだと確か……まぁ、思いつきでいいか。
赤字ネーム共に、剣を突き付け、威圧するように声を張り上げる。
「赤字ネーム共! お前等は光剣に包囲されている!
無駄な抵抗は止めて、武器を捨てろ!
お前らには黙秘権も無いし、弁護士を呼ぶ権利も無い! 殺さないだけ、ありがたく「ザクセス! 本当に居たのね!!」」
俺の降伏勧告を途中で遮ったのは、被害者らしき女の子。ロープでミノムシになったまま、顔をこちらへ向けている。何故か、目がキラキラしているんだけど? ザクセス?
「え?! 俺の事? いえ、人違いですよ?」
「いいえ、その赤毛に、綺麗な剣! どこをどう見ても、挿絵にあった通りよ!
あっ、違う、えーっと、えーっと、確か本名はザックス! ミーアは一緒じゃないの?!」
「えぇ……怖っ、面識ないよな? 何で名前を知っているんだ?」
思わず引いてしまった。こっちの少女も怪しいので、コッソリと詳細鑑定する。
【ビルイーヌ族】【名称:フィオーレ、20歳】【基礎Lv20、OPアクトLv20】
子供と思いきや歳上、ビルイーヌ族か。相変わらず年齢詐欺と言うか、何というか。OPアクトと言うのは種族専用ジョブだろうか?
気になるが後回し、赤字や灰色ネーム(犯罪者)ではないので、ロープを切って解放してあげた。
「色々聞きたいことはあるけど、先ず、君は何で襲われていたんだ? あいつ等は知り合いか?」
「知らない、知らない! 街道をロバで移動していたら、いきなり矢で撃たれたの!
アタシの事、売り飛ばすって!」
……ふむ、また山賊かな? 前回は碌な証言が得られなかったようだし、生け捕りにして騎士団に突きだすのが正解だろう。背後関係を洗えると良いけど。
フィオーレが街道の先を指差すので、そちらに目を向けると、確かに動物っぽい物が倒れている。
そして、その奥から馬車と、騎馬が何騎か走って来ている。更に、馬車の窓から杖を掲げ、赤い魔法陣を充填している人が……赤い閃光が走った。
その直後、目の前に赤く半透明な立方体……結界のような物が出現する。それは、山賊の3人を内部に包み込む程に大きい。
……魔法を撃たれた!?
嫌な予感しかしない。直ぐさまフィオーレを小脇に抱えて、バックステップで、離脱する。
離れると同時に、山賊を閉じ込めた赤い立方体の上から、追加で赤い結界が覆い被さる。今度はゆっくり回転する赤い立方体だ。
回転が早くなる度に、中の立方体が炎で赤く染まっていく。既に山賊の姿は見えない。それはまるで、加熱して内圧を高めていく圧力鍋?……いや、爆弾だ!
10m程下がった所で光剣呼び戻し、縦に並べて壁にした。俺はその裏にしゃがみ込んで隠れつつ、フィオーレを背中に隠す。
……他に防御は?! 〈ストーンウォール〉とか〈ホーリーシールド〉、充填している時間は無い!
〈無充填無詠唱〉をセットすれば!
しかし、特殊アビリティ設定画面を開いたが間に合わない。二重結界の内、内側の立方体が赤い閃光を放ち爆発した…………のだが、爆発の音は聞こえない。外側の結界が大きく膨れ上がり、爆発を受け止めたからである。
ちょっとだけ拍子抜けしつつ、様子を伺っていると、外側の結界も消えて行った。中からは煙と、嫌な肉の焼ける臭いが溢れ出てくる。
「ねえ、何がどうなったの?」
「分からんが、向こうから来た馬車から、魔法を撃たれたみたいだ。山賊だけを狙っていたから、敵ではない……と、思いたいな」
背中の方から聞こえたフィオーレの声に答えながら、考えを巡らせる。敵の敵は味方なら良いが……一応、〈敵影表示〉には緑の光点が6つなので、赤字ネーム側では無い。
表示したままの特殊アビリティ設定を変更しておいた。聖剣は消して、念の為〈緊急換装〉もセットして……
煙が風に流され薄くなってくると、山賊の居た所には大きめの炭が転がっていた。腕や足はボロボロに崩れ去り、胴体と頭で辛うじて人だったと分かる程度である。正直、直視したくないが、その向こうからは馬車が近付いて来ているので、視界を逸らすわけにもいかない。
3騎居る騎馬の内、先導していた1騎が先行して、こちらへやって来た。アラサーくらいの男性だが、装備品からヴィントシャフト騎士団では無い。革鎧にウーツ鋼っぽい部分装甲、そして緑翠の槍を携えている。
……ミスリル装備とか、どこかの貴族か?
そんな当たりを付けつつ、意識して笑顔を作る。向こうと目が合うと、護衛の人も警戒を緩め、槍を肩に担ぎ直す。
「君達、無事なようだな。赤字ネームは我々が排除した。安心すると良い」
「はい、ありがとうございま……って、遺体を轢くなよ!」
元山賊の炭が、馬車に轢かれて粉々に散乱していた。あれじゃ、身元とかの情報も探れない!
しかし、護衛の人は要領を得ないようで、首を傾げる。
「ん? ああ、街道を汚したが、雨で流れるさ」
「いや、そうでなくて。そもそも、何で無力化した山賊を殺したんですか?!
背後関係とか、洗わないといけないでしょう」
「お前は、騎士団関係者か?
どの道、赤字ネームは殺すものだ。背後関係など我々には関係が無いな。そっちで勝手に調べろ」
……あまりにも、人の尊厳を踏み躙り過ぎやしないか?!
確かに殺人犯の赤字ネームは殺せって、習ったけどさ。
日本での常識と、この国の常識がせめぎ合い、上手く言葉にできない。でも、文句の1つでも言わなければ気がすまなかった。
何か言葉を言い返そうと考えを巡らせていると、馬の嘶きがした。馬車が直ぐ近くに到着して停止したようだ。
「何をしている。我々は急いでいるのだぞ。そいつ等を退かせ!」
「すみません、フロヴァルト様。コイツ、騎士団の関係者らしくて、先程の赤字ネームを生け捕りにしたかったようです」
貴族が使うような箱馬車の窓から顔を出しているのは、相応に身なりの良い青年だった。黒の長髪に端正な顔立ち、仕立ての良さそうな服と、どう見ても貴族っぽい。ただ、気になるのは、吊り上がったような目……だけではなく、尖った耳だ。ファンタジーの定番のエルフのような横に尖ったものではなく、上に尖っている。吊り上がった目と合わせると、宇宙人っぽい?
「おい、コイツも赤字ネームの仲間と言う事はないか?」
フロヴァルトと呼ばれた青年は、不機嫌そうな顔を隠しもせず、手にしていた杖を前に伸ばす。
「いえ、レベル32の軽戦士ですな。赤字警告もありません」
そして、杖で小突かれた御者が俺のレベルを答えていた。いつの間にか、鑑定されていたようだ。
……杖持ちと言う事は、コイツが魔法を撃った張本人か!?
気分的には糾弾したいが、貴族なうえレベルも格上っぽい。冷静になれと自分に言い聞かせ、穏便に質問をする。
「山賊を無力化したのに、魔法で攻撃したのは何故ですか?
近くに居た私達も巻き込まれるところだったでしょう?」
しかし、返ってきたのは、鼻で笑う声だった。
「ハッ! 雑魚戦士は魔法を知らんのか? 極大威力魔法〈アグニズ・ジーゲル〉は結界の中を焼き尽くす魔法だ。外には影響は無い。
……やはり、時間の無駄だな。騎士団の下っ端の点数稼ぎには付き合って居られん、退かせ!」
「「ハッ!」」
フロヴァルトの号令で、護衛の人が動き出した。騎乗したまま、槍の柄で俺達を押し出そうとする。流石に抵抗する気はないので、大人しくフィオーレを連れて街道の石畳の外へと出た。
知らない魔法だったので、的外れだったかも知れないが、あんまりな対応だよなぁ。お返しとばかりに、コッソリ〈詳細鑑定〉を掛けてみる。
【妖人族】【名称:フェアズーフ、72歳】【基礎Lv61、魔導士Lv61】
……突っ込みどころが満載過ぎる!
妖人族ってのは初めて聞く種族である。見た目と年齢が合っていないので、ビルイーヌ族と似たような見た目詐欺の種族なのだろう。
そして、護衛の人が呼んでいた名前、フロヴァルトと違うんだが、偽名か? ついでに、家名も爵位も無いから平民?
ジョブは当然の如くサードクラスなので喧嘩は売らずにセーフ。
馬車とすれ違う時、フェアズーフの奥に、他の人が居たのが目に付いた。何故なら、彼女の髪の毛がルビーのように輝いていて、一瞬でも目に止まったからだ。しかも、顔も見覚えがあるような?
……ルビーの宝石髪って、あのアホボン、フオルペルグの護衛騎士だったよな?
他人の空似か? 鎧ではなくドレス着ていたし?
もう一度見ようと馬車へ目を向けるが、馬車の後方には窓が無い。そのまま、走り去っていくのだった。
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