第374話 新しい鉱石と鍛冶師

 先に進み、再度〈サーチ・ストックポット〉を使ったところ、少し離れた場所に採取地の反応を発見した。少々遠回りになるが、肩透かしに終わった採取欲を満たすために、寄り道する。



「おー、ツルハシを振るうのも久し振りだな。フンッ!」

「土山は全部崩して良いから、手早く行こう」

「私は選り分けますね。宝石が入っていると良いなぁ」


 辿り着いたのは鉱石の採取地であった。しかも、小部屋ながらに20山以上ある。半分ルールも無いので、これだけの数を採取するのは初めてだ。

 特に最近はアリンコ鉱山ばかりで、普通の鉱石系採取地はスルーしていたからな。久し振りでちょっとワクワクする。


 ベルンヴァルトが高い筋力値を活かして、土山をツルハシで一撃粉砕し、俺がスコップで鉱石玉を取り出す。最後にレスミアが軽くブラッシングして、種類ごとに選り分ける。

 3人いると、作業も早いな。掘り出された鉱石玉の中には、目当てだった新しい金属がお目見えした。



【素材】【名称:黒魔鉄鉱石】【レア度:C】

・魔力で強化された鉄鉱石。魔力伝達率が高く、魔道具や、魔力動力を伝える導線、武器素材として使われる。黒魔鉄製の武器はスキル発動が早くなり、威力が上がる。ただ、強度的には鉄と大差が無い為、芯材や合金の材料となる事が多い。



【素材】【名称:ウーツ鉱石】【レア度:C】

・ウーツ鋼を含んだ鉱石だが、含有量は少ない。高温で精錬する事により、鉄よりも強靭で錆び難い金属になる。

 魔力伝導率は黒魔鉄に及ばず、チタンよりも重量があるが、合金にすることで両者の特性を得る事は可能。

 ただし、ウーツ鋼100%の場合にのみ、金属表面に浮かぶ優美な波紋が有る為、見た目で選ぶ人も多い。

 別名ダマスカスとも言われる。



 既に武具の素材としてお馴染みになっている金属であるが、鉱石として手に入れるのは初めてだ。ただし、手に入る最低階層だからか、含有量は少なそうだ。鉱石玉の殆どは只の石であり、黒魔鉄やウーツ鉱は薄い層でしかない。

 銀鉱石もそうだったけど、下に行けば行くほど含有量が増える。採掘師のスキル〈鉱脈の見極め〉の効果も合わせて、銀鉱石の含有量は全体の三分の一程に増えているからな。素材がもっと欲しいなら、下に潜らないと。



【スキル】【名称:鉱脈の見極め】【パッシブ】

・採掘をして鉱物を掘り当てた際、鉱物の含有量が増える。



 そして、30分ほど雑談をしながら作業を続け、200個近くの鉱石玉を種類別に回収した。


「よし、これで全部かな?

 皆お疲れ様、ちょっと小休止にしよう。あ、レスミアはさっき見付けた宝石を、ちょっと貸して」

「え? 石を割って取り出すくらいは手伝いますよ?」


 レスミアが手にする石玉には、3cm程の緑色の宝石……翡翠が埋まっている。所謂、庶民の宝石であるが、白銀にゃんこの接客メンバー用に欲しいそうだ。花乙女の花弁を使ったメイド服に替えたので、次は庶民の宝石を使ったブローチなどで、お洒落するらしい。


「折角手に入れた新しいジョブだけど、なかなか披露する機会が無かったからね。〈リファインオーア〉!」


 レスミアから受け取った宝石入りの石玉を手に、スキルを発動する。すると、石玉の表面が脈打ち、押し出される様にして翡翠が出て来た。完全に押し出されると、翡翠はポトリと手の平に落ちる。


「こんな感じに、石玉と含有物を分けるスキルなんだ」

「わぁ! あっと言う間ですね!」



【スキル】【名称:リファインオーア】【アクティブ】

・効果範囲内の鉱石に含まれる金属、及び宝石を抽出する。ただし、ダンジョン産の鉱石にしか効果はない。土魔法の亜種。


 ついでに、黒魔鉄鉱石の山にも使って見せる。すると、範囲内にあった鉱石玉から、黒い円板やブレスレットのような金属が押し出されてくる。そして、残された石玉は排出した分だけ小さくなっていた。

 取り敢えず、黒魔鉄のみを集めて、一纏めに手に持った。


「銀鉱石はレシピ調合で、そのままインゴットにしていたけど、鍛冶師のスキルなら、調合する手間も省けるって寸法だ。〈インゴットキャスト〉!」


黒魔鉄が赤い光に包まれると、その中で溶け始めた。そして、勝手に姿を変えていき、光が消える頃には見覚えのあるインゴットへと姿を変えていた。



【スキル】【名称:インゴットキャスト】【アクティブ】

・効果範囲内の金属を融解、成型して規格通りのインゴットを作成する。ただし、事前に不純物を除去しておかなければ、混ざってしまう。火土魔法の亜種。



 そう、新しく手に入れた職人系のセカンドクラス、鍛冶師のジョブの力だ。


 イミテーション・ダイヤモンドの返礼として王族から頂いた刀は、刃物店のフェッツラーミナ工房へと納品した。かねてより依頼として受注していた構造解析用の刀だな。

 そして、その報酬として鍛冶仕事を体験させてもらった訳である。冬場なのに真夏よりも暑い鍛冶場で、包丁の相槌打たせてもらったところ、ジョブをゲットした。ついでに、午前中の周回でレベル30へと急成長させたので、下記に鑑定情報を載せておく。



【ジョブ】【名称:鍛冶師】【ランク:2nd】解放条件:職人Lv15、鍛冶仕事を一通り経験する。

・鉱物から金属を精錬、加工し武具を作る事でダンジョン探索をサポートするジョブ。金属だけでなく、角や爪等の魔物素材を加工することも出来、レア度の高い魔物素材を使えば、その魔物のスキルを継承する。基本的に鍛冶場が必要なので、弟子入りするか自身の鍛冶場を設けよう。

 一応、ステータスは上がるが、力仕事用。攻撃スキルはないのでダンジョンには向かない。


・ステータスアップ:HP中↑、MP中↑、筋力値中↑、耐久値中↑、器用値中↑

・初期スキル:職人スキル、アイテムボックス小、リファインオーア

・習得スキル

 Lv 5:初級鑑定、ポリッシング

 Lv 10:筋力値中↑、遮光サイト

 Lv 15:温度の見極め、メタモトーン

 Lv 20:耐久値中↑、溶鉱炉強化

 Lv 25:簡易手入れ、インゴットキャスト

 Lv 30:HP中↑、熱耐性中アップ


【スキル】【名称:ポリッシング】【アクティブ】

・指に魔力を込めることで、対象の表面を研磨することが出来る。発動時に込める魔力が多いほど、細かい研磨が可能。ただし、研磨する対象の硬度やレア度が高いほど、効果時間が短くなる。


 熟練職人で覚えたものと同じで、鍛冶で作成した武具の細かいところを研磨するのに使うらしい。



【スキル】【名称:遮光サイト】【パッシブ】

・火や光を直視する場合、光量を自動調整し、目へのダメージを軽減する。


 鍛冶師は炉内の様子を見るため、火を直視し続けて目を悪くする。なんて聞いたと事があるが、こっちの世界ではスキルが遮光グラスの役目をしてくれるらしい。



【スキル】【名称:温度の見極め】【アクティブ】

・スキル使用後一定時間、注視した物の表面温度を表示する。また、注視し続けると、内部の温度も表示できる。


 料理人で覚えたスキルと同じだ。炉内の温度調整に使うらしい。



【スキル】【名称:メタモトーン】【アクティブ】

・効果対象を粘土のように柔らかくする。ただし、生物には使用出来ない。

 対象のレア度が高いほど魔力が必要になる。土魔法の亜種。


 こちらも熟練職人で覚えたスキルと同じ。武具に装飾を施すのに使うらしい。



【スキル】【名称:溶鉱炉強化】【アクティブ】

・溶鉱炉へ魔力を注ぎ、一定時間の間、耐火性能を上げる。また、強化中の炉でスキルが付与された素材を溶かした場合、特性を引き継ぎ易くなる。


 フェッツラーミナ工房のリウスさんが教えてくれたが、金属のレア度が高くなるにつれ、融点も上がるそうだ。その為、普通の鉄を溶かす溶鉱炉でも、黒魔鉄は溶かせない。そんな時は炉を耐火性の高い物に替えるか、このスキルで一時的に強化するらしい。



【スキル】【名称:簡易手入れ】【アクティブ】

・武具の手入れを瞬時に行い、最適な状態にする(別途、消耗品は必要)。ただし、破損がある場合は、破損部分と同じ系統の素材を消費しないと強度が落ちる。


 剣の場合、消耗品の手入れ用油だとか砥石は必要になるが、このスキルを使うだけで汚れを落として、砥ぎから油引きまで瞬時に行ってくれる便利なスキルだ。〈自動収穫〉レベルで時短になるので非常に助かる。以前、ベルンヴァルトの大盾がボコボコにされて修理に出したけど、素材も一緒に提供した覚えがある。恐らく、このスキルで治したのかも?



【スキル】【名称:熱耐性中アップ】【パッシブ】

・魔法的な火属性ではなく、物理的な火や熱に強くなる。夏場の炎天下でもへっちゃら。


 今は冬場なので実感できないけれど、ブラストナックルに付いている〈熱無効〉の下位互換的なスキルだと思う。砂漠フィールドの攻略の際に、これがあれば多少は楽になったかも? いや、レベル30で覚えている時点で、どの道間に合っていない。

 あのフィールドは過酷なので、あまり行きたくないんだよね。もちろん、有用な素材もあるけれど……ジャガイモみたいな桃、カルトネクタルは美味しいけれど、数が準備できないので白銀にゃんこのメニューにはしていないくらいだ。ブラストナックルがあるだろ、と思うかもしれないが、一人で砂漠を走り回ってジャガイモ掘りをして来いって意味になる訳だ。うん、〈自動収穫〉でジャガイモも簡単に収穫出来るようにならない限り、行く気になれんな。





 ここまで、スキルを見てもらえば分かると思うが、鍛冶師のジョブは鍛冶仕事を楽にするパッシブスキルが多い。そして、鍛冶仕事をするには個人用の鍛冶場……特に炉が必要だ。スキル1つで、ポンッと剣が作れる訳では無い。


 まぁ、俺も鍛冶仕事にまで手を出すつもりはないけどな。銀カードの内職を頑張れば、鍛冶場の増築くらいは出来そうだけど、自分のセンスの無さを考えると、本職に任せた方が良いに決まっている。

 探索者としては〈簡易手入れ〉が使えるだけでも十分なのだ。探索を終えた後の武具のお手入れ作業が、〈ライトクリーニング〉と〈簡易手入れ〉の2つを掛けるだけで終了するのだから。



 その後、探索を続けて32層へと降りた所で、本日の探索は終わりにした。

 今日のレベルアップは以下の通り。


・基礎レベル31→32

・軽戦士レベル31→32    ・トレジャーハンターレベル31→32

・魔法戦士レベル30→31   ・武僧レベル30→31

・付与術師レベル30→31   ・錬金術師レベル30→31

・採掘師レベル30→31    ・鍛冶師レベル1→30

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