第370話 30層の精肉店

 30層のボス部屋に入った。お花畑だった第2ダンジョンとは違い、こちらは只の土の地面である。中央の地面に描かれた魔法陣に近付くと、光始めた。


「それじゃ、私は後ろに回って、尻尾の蛇を切りますね。〈宵闇の帳〉!」

「俺は麻痺煙玉をボスに当てたあとは、カラフールを相手にする。ボスはヴァルトに任せるよ。〈魔剣術・初級〉!」

「おう。麻痺したのを見届けた後、煙を拭き散らしてから攻撃だったな」


「それじゃ、後ろもつかえている事だし、速攻で終わらせよう」


 打ち合わせ通りに配置に付いた。そして、魔法陣の光が収まり、黄色く丸いボスが出て来る。



【魔物】【名称:レッサーコカトリス】【Lv30】

・コカトリスの幼体。大きな雄鶏型魔物で尻尾には大蛇が生えている。状態異常の攻撃を得意としており、大蛇の視線には麻痺の力、鶏の口から吐く甘い香りのブレスは眠りの状態異常を引き起こす。また、鶏部分は好戦的であり、嘴による突っつきや、連続蹴りによる攻撃を行う。

 その一方で、仲間には優しい。自身のブレスで仲間が寝てしまった場合、覚醒効果のある鳴き声を上げ、起こしてあげるのだ。

・属性:風

・耐属性:土

・弱点属性:火

【ドロップ:コカ胸肉】【レアドロップ:ジューシー腿肉】



 尻尾に蛇を生やした、ずんぐりむっくりなデカいヒヨコである。ついでに、尻尾の方からはアナコンダのように太く長い蛇が鎌首をもたげていた。

 まぁ、デカいと言っても、全高が2m程度なので、普通サイズと比べたらって程度だ。もっと大きな魔物と戦って来たので、それほど驚きはない。寧ろ、ヒヨコで可愛いくらい……訂正、顔が厳ついので可愛くは無い。


 それは兎も角、睡眠ブレスを喰らえば眠気で頭がふらつくらしく、十分に脅威である。さっさと無力化する事にした。


 〈指弾術〉で麻痺煙玉を弾き、レッサーコカトリスの横顔に命中させる。すると、顔を中心にフクロトビタケの麻痺粉が広がった。嘴をパクパクしていたレッサーコカトリスだったが、次第に動きを止める。ビクンビクン、身体が震えているので麻痺したようだ。

 ただし、尻尾までは麻痺粉は届いていない為、蛇は健在である。身体が繋がっているのに、何故かにょろにょろと動いたまま。正面に居るベルンヴァルトを睨み付けているようだが、忍び寄る黒い影には気付いていない。


 それらを横目で見ながら、自分の担当のカラフールへと近付いた。


「〈ウインドジャベリン〉!」


 〈エレメント・チャージ〉のお陰で、急速充填した魔法を撃ち放つ。狙うはモフモフの中から唯一見えている、巻き角の間である。(多分)眉間から胴体にまで一直線に貫通し、崩れ落ちた。


 しかし、喜ぶ暇も無く、もう一匹が突進して来る。ワゴン車が突っ込んで来たようなものだが、注意しなければならないのは巻き角だけ。車体の殆どは羊毛なので、多少は擦っても大丈夫なのだ。

 ギリギリまで引き付けてから、斜めにステップで回避した。その途端、2つのスキルが自動発動する。1つは〈エレメント・カウンター〉、刀身に纏う緑の光が、〈エアカッター〉として飛び、羊毛を刈り込む。

 次いで、自動発動するのは、物理の方の〈カウンター〉、ステップを踏んだ勢いも乗せて、ロングソードを横一文字に振り切る。先に羊毛が刈り込まれたおかげで、大きく踏み込み、背中の肉を切り裂く。


 ここで、更にスキルが発動する。〈エレメント・スラスト〉だ。振るった剣先から、風属性の剣閃が飛び、ロングソードでも届かなかった部分の肉を切り裂いた。


 これが魔剣術の楽しいところである。1つアクションを起こせば連鎖的にスキルが発動してくれる。今回は〈カウンター〉も組み合わせたので、回避しただけなのに三連撃となった。一石三鳥だな。


 一方、屋根を切り取られたワゴン車……もとい、ロース肉を切り取られたカラフールは、たたらを踏んで倒れ込んだ。

そのチャンスに、振り切った剣を引き戻し、大上段へ振りかぶる。


「〈一刀唐竹割り〉!」


 振りかぶった勢いでジャンプし、ロングソードの重みを活かして一気に振り降ろす。背骨を断った感触と共に、内臓から腹下の羊毛まで両断した。


 ……疑似、十文字斬り! ってね。


 終わってみれば、30秒も掛かっていない。さて、ボスの方はと、目を向ける。すると、そっちでもベルンヴァルトが飛び上がったところであった。〈二天・流星落とし〉だ。


 ベルンヴァルトが手にしたツヴァイハンダーを、斜め下へと投擲する。長大で重く、暴力を体現したような武器は、流星の如く一直線に進み、麻痺したままのデカひよこを貫いた。


 因みに、あの投げた武器は新装備である。



【武具】【名称:シュネル・ツヴァイハンダー】【レア度:C】

・チタンだけでなく、芯材として黒魔鉄が使われた大剣。2mもの大きさを誇り、幅広な刃も相まって、かなりの重量物ではあるが、チタン製と付与スキルのお陰で素早く振るう事が出来る。特徴として、刀身の根本付近は刃が無く、ここを握る事でコンパクトに振る事も可能。黒魔鉄が使われているので、魔力の通りも良く、スキルも使いやすい逸品。

・付与スキル〈精神増加 小〉〈敏捷増加 小〉



 第2支部のレアショップで売っていた、付与スキル2つの奴である。ベルンヴァルト用のツヴァイハンダーで、ウーツ鋼製でスキル付きが無かった為、まだ残っていたコレを購入したのだった。

 ツヴェルグ工房でスキル無しのウーツ鋼製にするか迷ったけど、やはり付与スキル付きが良い。丁度、敏捷値と精神力と言う、低めのステータスを補ってくれるのも嬉しい。



 ……頭から胴体まで串打ちされて、丸焼きに出来そうだな。焚き火の上でぐるぐる回して焼くやつ。

 おっと、レスミアの影響だな。美味しそうと感じると、ついつい料理出来ないか考えてしまう。


 そのレスミアはと言うと、少し離れた所に退避していた。〈二天・流星落とし〉に巻き込まれない様に離れたのだろうけど、何故か足元に転がっている大蛇にサーベルを向けている。既に頭と尻尾が落とされ、胴体だけなので死んでいる様だが……

 取り敢えず、近づいてみると、笑顔で縦に裂いていた。


「楽勝でしたね~。私の担当の蛇は、〈宵闇の帳〉の暗闇越しなら、気付かれる事もなく倒せましたよ!

 新しいサーベルも斬れ味が良いです。ウチの包丁より切れるかも?」



【武具】【名称:耐麻のウーツサーベル】【レア度:C】

・ウーツ鋼で作られた片刃の曲刀。強度に優れた素材ではあるが、斬撃に特化させる為に薄刃に加工されている。同じ強度同士では打ち負けて、刃が欠けやすいので取り扱いには注意が必要。

 ウーツ鋼自体は魔力が通しやすいので、スキルが使い易くなる。

・付与スキル〈麻痺耐性 小〉



 レスミア用にと、第1支部のレアショップで購入した武器である。ウーツ鋼製なうえ、耐性スキルが付与されているので300万円程したが、役に立っているようだ。


「ああ、お疲れ。それは良いんだけど、何で解体しているんだ?」

「いえ、蛇も食べられると、噂で聞いたのを思い出しまして……でも小骨が多いし、ちょっと臭そうですよね」

「あー、サバイバルの定番って聞いたことがあるな。カレー粉で臭みを消して焼くとか、揚げるとか」

「へ~、何の香草を使おうかと考えてましたけど、カレー粉ですか!」


 ……あ、ヤベ! この流れだと、蛇肉を食べさせられる?!

 何時ぞやに、ネズミ料理を食べる嵌めになった事を思い出す。

 ここのドロップは鶏肉なので平気であるが、後々ダンジョン食料で蛇肉があったら、高確率で食卓に上がりそう。


 なんと言って誤魔化そうと迷っていると、蛇の開きが霧散し始めた。コカトリスが消えて現れたのは、ビニールに包まれた大きな腿肉だった。



 【素材】【名称:ジューシーコカもも肉】【レア度:C】

・レッサーコカトリスの腿から足に掛けての肉。程よく脂肪が乗っており、料理すればジューシーな味を楽しめる。ふんだんに含まれた魔力により、味に深みがでる。また、若鳥なので、柔らかく食べやすい。



 わざわざ、ジューシーと謡う程とは、期待させてくれる! 肉の大きさ自体も、あのデカひよこの脚と同じなので、片脚でも5kgはありそうだ。

 ついでに宝箱からは胸肉、お供のカラフールは、ラムラックとカラフル羊毛をドロップした。



 【素材】【名称:コカ胸肉】【レア度:D】

・レッサーコカトリスの胸肉。脂肪が殆ど無く、あっさりした味なので、どのような調理法でも合う。ふんだんに含まれる魔力のお陰で、火を通しすぎてもパサつく事は無い。また、若鳥なので、柔らかく食べやすい。



 【素材】【名称:ラムラック】【レア度:D】

・若い羊の骨付きロース肉。骨周りについた肉や骨膜まで美味しい部位である。骨を外さずに切り分けて焼くと、肉が柔らかいまま、一層濃厚な味になる。



 【素材】【名称:カラフル羊毛】【レア度:D】

・カラフールから採取された色とりどりの羊毛。ただし、羊毛に含まれていた対属性効果は失われており、少し丈夫な羊毛でしかない。柔軟で保温性や吸湿性に富んでいる為、衣服などの布類に幅広く使われている。



 一挙に全種類ゲットとは珍しい。どれもこれも、大きな塊肉なので、テンションが上がる。特にレスミアは大喜びだ。


「3種類のお肉が同時に手に入るとは、ついていますよね。よーし、今夜は全部唐揚げにして、食べ比べにしましょう!」

「お、良いな! 今日はエールが美味くなりそうだ!」


「それなら、次の周回に行こうか。後ろも待っている事だしね」



 戦闘自体は数分で終わったのに、ダラダラとしていては勿体ない(テオ達も驚かせられないし)。

 肉刈りに意欲を燃やしたところで、先に促した。唐揚げも、スパイスと小麦粉でフライドチキンになるし、片栗粉で竜田揚げになる。ザンギは良く知らない。

 周回の途中で、そんな話をすると献立を考える顔になっていた。

 これで、興味を逸らせたと思う。ヘビ肉は回避せり!

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