第368話 お祭りの予定

「最後は年末の予定だ。

 帰省したいと言う意見と、屋台に参加したいと言う意見、両方があったので、折衷案にした。

 祭りは8日間、真ん中の年末の2日と年始の2日は、アドラシャフトへ帰省する。みんなも休暇にするから、実家で休むと良いよ。

 おっと、そうだ。大晦日の夜には花火が上がるから、楽しみにしてくれ」


「やった! 家族にも会いたいけど、向こうの友達にも会いに行こっかな~。

 あ、ミーアはどうすんの? 実家は遠いよね?」

「うん、片道1週間はちょっとね。

 ザックス様と一緒に、アドラシャフトの離れでのんびりするつもりなの」

「ハイハイ! 私も花火ってのが見たい! 連れてって!」


 そう言って、元気よく挙手をしたのはスティラちゃん。まだ、故郷に帰る気は無さそうだ。それは兎も角、花火のことを知っているとは……レスミアが教えたのかと思ったが、首を振って否定する。苦笑しながら答えたのは、その隣のフロヴィナちゃんだった。


「あ~ごめん。店番している時の雑談でね。街のお祭りは凄いって話題から、話しちゃった。

(ミーア、折角二人っきりになれる所だったのに、ごめん)」

「アハハ、大丈夫だよ」


 2人が何やら耳打ちしていたが、レスミアの様子から許可しても問題なさそうである。


「それじゃ、スティラちゃんも一緒に行こう。ただし、実家へ手紙を出して、年末年始は帰らない事を連絡しておく事、いいね?」

「はーい。商会の定期便で送っておくよ。

 お義兄ちゃん、ありがとうにゃ」


 ……うむ、可愛い。お義兄ちゃんと呼ばれるのも悪くないな。

 撫でたくなるのを我慢して、話を続けた。



「祭りの最初と最後の2日ずつ、屋台を出店する。

 確か、12月に入ってから商業ギルドで、屋台の貸し出し申し込みが出来る。フォルコ、頼んだよ」

「了解しました。ところで、屋台では何を売り出すのですか?

 商業ギルドで小耳に挟んだところ、普通の屋台だけでなく、魔道具のコンロが設置された物や、魔道具の小型かまどが設置された物があるそうです。

 売るものによっては、火が使えたほうが良いですよね?」


 確かに、白銀にゃんこの屋台なので、お菓子を売ると考えていたが、温かい物の方が売れそうだ。ついでに言うと、ケーキ類は食べ歩きに適さないので、お菓子は袋売りの焼き菓子で十分かもしれない。

 それプラス、出来立てを調理して出すのも良い。それらを踏まえて話を進める。


「祭りでは、騎士団の騎馬によるレースや、探索者も参加する闘技大会が行われるらしい。他にも劇団のショー、錬金術師による、新作発表とかな。

 やっぱり、食べ歩きが出来る物が良いと思う。あ、幸運の尻尾亭は串焼きとエールで出店するらしいから、避けたほうが無難だな」


 ベアトリスちゃんの渾名、トリクシーから焼き鳥を連想したが、老舗とかち合うのは避けたほうが良いだろう。酒と一緒に販売されたら、勝てる訳がない。


「え~、屋台なら定番のソーセージ焼きだけど、多分多いよね?」

「パンで挟むような料理もね」

「あ、竈付きなら、貴族街で食べたみたいなピザが焼けるかも!」

「竈付きは人気で抽選らしいです。焼き立てのパンや、肉を焼いただけのローストビーフや、ラムラックも人気ですから」

「お菓子なら、冬に定番のシュネーバルなんかどう?」


 みんなでワイワイと案を出し合うが、なかなか決まらない。ヴィントシャフトに来て、初めての祭りなので、どのような屋台が出るのか情報が不足しているのだ。情報通のフォルコ君も、届け出がこれからなので、大店が出店すると言う噂程度である。

 そんな中、レスミアが手をポンッと叩き、良いアイディアと言わんばかり声を上げた。


「珍しい料理なら、ザックス様の故郷の料理はどうですか?

 屋台料理もきっとありますよね?」


 そう言えば、アドラシャフトで花火をした時にも、似たような話をしたな。あの時は当日だったから、普段の料理になったけど。後々、プリメルちゃんからの指名依頼で焼きりんご飴とか作っていた。

 今回は1ヶ月間も準備期間があるから、再現可能かも?


「幸運の尻尾亭に泊まっていた頃に教えたリンゴ飴も、屋台の定番だったよ。他にも色々あったけど、調味料が無いのもあるから、種類は限られるかなぁ」


 取り敢えず、思い付く限りあげて、意見を聞いてみる。


・焼きそばは、中華麺が無い。スパゲッティで代用……は無いな。

・お好み焼きは、ソースがウスターソースに似た薄味の物しかない。濃いのが欲しい。オーロラソースならイケるか? ダンジョンでキャベツも小麦粉も肉も沢山取れるので、原価はかなり安い。ただ、食べ歩きには不向き。

・たこ焼きやイカ焼きは、メインの海産物が無い。

・トウモロコシは、夏が旬なので冬場に無い。

・人形焼とクレープは、似たようなお菓子が既にあるそうだ。

・チョコバナナ、チョコは王都に有るらしいが、バナナの情報は無い。

・綿飴……作り方は知っているけど、設備を自作しなきゃならない。

・鶏の唐揚げ……大正義。


「うん、揚げたての鶏の唐揚げを、竹のコップに入れて売るのが一番じゃないか?

 揚げ物なら一口コロッケとか、ポテトフライ、アメリカンドッグとかも一緒に売れるよ」

「揚げ物、好きですよねぇ。まぁ、珍しい調理方法ですし、寒い野外なので揚げたては魅力的ですね」


「はいはい、私は綿飴ってのが気になるにゃ!

 綿……綿花の飴?」

「ハハッ、流石に綿花食べられないよ。砂糖を糸よりも細くして、雲とか綿状にした、ふわふわなお菓子だよ」


 やはり、子供には受けが良いのか、興味津々といった様子で聞いていた。

 空き缶に穴を開けて作る方法なら、小学生の夏休みの工作レベルだ。この世界にローカライズするならば、回転する機構はゴーレムコア、それに加熱する魔道具も組み合わせれば、作れなくもない。錬金術師協会に行けば、レシピは売っているかな?


「作れるかどうかは、色々試してみないとな。

 唐揚げだって、スパイスを変えて数種類用意するとか、材料を……明日行く予定の30層のボス、レッサーコカトリスの肉にするって手もある」


 俺の言葉にいち早く反応したのは、料理人コンビである。


「カフェテリアで食べたコカトリスは美味しかったですから、周回してお肉を集めましょう! お肉刈り、再びです!」

「貴族街でも売っている食材ですが、鶏肉にしては高いのですよね。取って来られるなら、多目にお願いします。

 ええ、試作の為には沢山いりますから」


「おお、唐揚げなら酒に合うからなぁ。試作の余りはこっちに回せよ。幾らでも喰ってやるぜ!」


 ついでに、1人晩酌を続けていたベルンヴァルトまでもが、話に乗った。ウチのメンバーは食欲に忠実なのでしょうがない。


「それじゃ、明日の午前中は周回にするか。午後は31層の攻略な。他のメンバーは年末の準備を始めてくれ」

「「「はい!」」」


 こうして、年末への準備が始まった。





 翌日、早速第1ダンジョンに潜ろうと、賑わうギルド内を通過する際、アメリーさん……ではなく、外見がそっくりな娘のメリッサさんに呼ばれた。

 笑顔で手招きされているのだが、何か怪しい。美人な受付嬢に呼ばれたら、大抵の男はホイホイ付いていきそうなものであるが、俺には通用しないのだ。

 可愛い恋人がいるだけでなく、貴族や商人の営業スマイルを見ているせいか、なんとなく笑顔に隠れる感情が見えるからである。


 ……もっとも、只の感かも知れないけど。厄介事な気がしたんだよ。第1支部の受付嬢って、婚活を兼ねているせいか、目が怖い時があるし。獲物を狙うかのような?


 少し躊躇して足を止めていたのだが、レスミアに腕を引かれる。


「どうしたんです? 呼ばれてますよ。メリッサさんおはようございます」


 何度も通っているレスミアは、既に仲が良く、気軽に挨拶している。いや、ギルド内だと、俺と腕を組む事が多いのは、周りに対する牽制かもしれないが。


「おはようございます、レスミアさん。少しだけお時間良いかしら?

 『夜空に咲く極光』パーティー宛に、指名依頼が来ているの」


 そう言うと、カウンターの上に依頼書が5枚、並べられた。

 依頼書を斜め読みして、嫌な予感が当たったと思いながらも突き返す。


「全部、『白銀にゃんこの銀カード』の納品依頼じゃないですか。受けられません。ダンジョンギルドに納品している分で賄って下さい」

「ギルドの分は、サードクラスの探索者を優先して販売しているから、残っていないのよ。誰でも魔法が使える魔道具なんて、みんな飛び付くようにして買って行きましたから。

 私だって、あの浄化のカードが余っているのなら、1枚欲しいくらいなのに……同僚の子がね、白銀にゃんこに朝一で並んで買ってきたって自慢していたのよ。『掃除をする暇も無くて汚かった部屋が新築になった!』ってね。大げさとは思うけど、気になるわぁ」


 メリッサさんは腕を組んで、カウンターへと肘を付く。すると、腕に乗った胸が強調される。受付嬢の制服は胸元が開いているので、俺もついつい目が吸い寄せられ……不意に左腕を引っ張られる。目がそっちへ向くと、レスミアがニッコリ笑っていた。

 ……あ、はい。駄目ですよね。でも、男の習性なんですよ。

 言い訳をしても無駄と分かっているので、取り敢えず、依頼書を手に取り、メリッサさんを見ないようした。



 ダンジョンギルドには、俺が調合した銀カードを納品している。

 伯爵家が作成しているブラックカードは、俺が〈フェイクエンチャント〉を施した後、騎士団とジゲングラーフ砦に分配されたそうだ。そして貴族や、そのお抱えの探索者にまで、噂となり瞬く間に広がった。

 そして、噂を聞きつけたギルドマスターに頼まれて、枚数を限定して納品する事になったのだ。銀カードなのは、騎士団と違い伯爵家の配下ではなく、格も下だからだな。

 貴族的に区別するのは重要である。ついでに、プレミア感も出せているようだ。


 その為、依頼書に提示してある報酬も、1枚10万円とか、20万円。少し前だったら、破格の報酬に見えただろう。


「この依頼を受けたら、何の為に枚数制限しているのか、分からなくなりますからね。

 今後、銀カードの納品依頼は、発注自体を受けないようお願いします」

「……仕方ありませんね。この依頼は、引き受けてしまったギルマスに突き返して、キャンセルしておきます。次回の入荷を心待ちにしております。

 では、お引き止めして申し訳ありませんでした。行ってらっしゃいませ」


 ……いや、依頼を受けたのギルマスかよ!

 文句の一つでも言いたくなったが、メリッサさんに言ってもしょうがない。若干モヤモヤしたものの、レスミアに腕を引かれて、ダンジョンへ向かった。

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