第367話 過ぎ去った2週間と今後の予定

 エディング伯爵の館にて、王族専用ジョブの報告や、〈フェイクエンチャント〉の取り扱いを話し合った日から、2週間が経過した。取り決められた納品物を調合したり、付与したり、第1ダンジョンの攻略に勤しんでいると、あっという間に時間は過ぎていった。


 今日も休日であり、ソフィアリーセ様達が遊びに来て、帰って行った後である。そして、夕飯後にはミーティングの為に、ウチのメンバー全員に集まってもらった。おっと、泊まっていくスティラちゃんも追加で。


 まぁ、いつものように皆で食後のお茶をしているだけとも言うが、今日はちょっと違う。フォルコ君に指示を出し、各々の前に、貨幣袋を配ってもらう。今日は特別な日なので、珍しくオーナーらしく、言葉を飾る。


「では、始めよう。

 『夜空に咲く極光』及び『白銀にゃんこ』の諸君。この街に移ってから1ヶ月が経ちました。

 この1ヶ月は色んな事があったけれど、みんな良く頑張ってくれた! その頑張りに応えて、待ちに待った、お給料だ!」

「中に明細が入っているから、金額が合っているか確認してください。

 それと、使いやすいようにと、銀貨で用意しました。嵩張るから、大銀貨に交換して欲しい人は言ってください」


「「「おお~!」」」


俺の宣言は、拍手を持って受け入れらた。そして、みんな嬉しそうに貨幣袋を開けていく。


 ……最初は大銀貨で用意したのだけど、思ったより袋の中身が少なくて寂しかったんだよね。俺から払う初任給なのだから、ずっしりと重く感じられる方が、嬉しいと思う。

 まぁ、金額が変わるわけじゃないけどね。


「あのー、私のお給料、多くないですか? 倍くらいあるような」

「あっ、ミーアも? 良かった~私のも多いんだけど……言うべきか葛藤しちゃったよ~」


「うん、当初の基本給より、多目に入っているよ。

 先ずは明細を見てくれ」


 みんなが貨幣袋から、紙を取り出すのを待ってから、話し始める。


「先ず『白銀にゃんこ』のメンバーには、基本業務以外の仕事として、店の営業を頑張ってもらったからね。店の利益分から反映して、基本給に5万円プラスしてある」

「成る程、手伝っていない俺には無いって事か。でもよ、別の項目があるぜ? 『特別賞与』?」


「そっちは、基本給じゃなくて、俺からのボーナス……感謝の気持ちみたいなものだな。レスミアとヴァルトには、第1ダンジョンの攻略を任せきりにしてしまったし、白銀にゃんこのメンバーにも、銀カードの件で世話を掛けたからね。

 〈フェイクエンチャント〉で儲かっているから、今回は入れたけど、来月からは無いかもしれない。そこは覚えといてくれ」


 レスミアの例で行くと、衣食住と装備品を俺が負担する契約で、基本給は20万円。そこに、白銀にゃんこ業務で+5万円、特別賞与で+10万円。計35万円となった訳である。


 平民街なら、豪遊出来るくらいであるが、貴族街は物価が高いので、そこそこ遊べる程度だと思う。下級貴族向けの店なら兎も角、上を見ると切りがないからね。


「わーい、こんなにお小遣い貰えたのは初めてだよ! お兄ちゃん、ありがとうにゃ~」

「いや、スティラちゃんが働いた時間給分だから、お小遣いじゃなく、ちゃんとしたお給料だよ。ただ、働き始めたのは、ここ2週間だから、特別賞与は他の皆より少な目だけどね」


 その貴族街で暮らしているスティラちゃんも、多少はお金が必要だろう。特別賞与も付けておいた。義理の妹にゃんこだから、甘やかしたくなるのはしょうがない。


 みんなの盛り上がりが一段落したところで、話を続ける。


「今年も残すところ一月。色々と予定が立て込んでいるから、協力を頼む。

 先ず4日後の店の休みには、大型冷蔵魔道具が搬入されるので、フォルコとベアトリスは立ち会うように。

 そして、それ以降は店の商品に、ケーキ等の生菓子を追加する。商品の選定と値段設定は任せるよ」


「はい、既にギルドのお菓子納品依頼で、評判の良かった物を選定してあります」

「値段については、ダンジョン産の果物や、アドラシャフトの生クリームをふんだんに使っているので、焼き菓子の数倍以上、高くなる予定です。利益分も多くして良いのですよね?」


 フォルコ君の質問に頷き返す。第1支部のカフェテリアのデザートは、1個3千円だったので、そこを上限とした。

以前、リスレスさんが言っていた評判、『貴族街よりは安く、同程度の美味しさ』をケーキにも適用するのだ。


 ただ、焼き菓子が一袋千円以下、安いのは5百円程度の所に、ケーキは千五百円から2千円前後になる。平民でもちょっとした贅沢レベルらしいが、毎日買う値段ではない。

 フォルコ君の心配は、平民街で売れるのかと言う不安が有るのだろう。貴族街に通う使用人がメインターゲットの店であるが、使用人は平民なのだ。


 そこについては、俺もオーナーらしく、打開策を準備した。ストレージから、厚紙で作ったカードの束を取り出し、みんなへ見せる。


「ケーキを買ったお客さんには、このポイントカードを配ってくれ。ケーキ1個に付き、肉球判子も1つ押す。判子が10個溜まったカードと交換で、お好きな焼き菓子1袋と交換。

 カード2枚なら、お好きなケーキ1つと交換、って感じでどうだろう?

 ついつい集めたくなる事、請け合いだ!」


 女性ならポイントカードが好きなのは、日本でもお馴染みだからな。真似させて貰ったのだ。もちろん、女性受けしやすそうなカードのデザインにしてある(作画:ルティルト)。肉球判子(改案:ソフィアリーセ)共々、今日の昼間に創造調合したばかりである。


 ケーキ箱を調合するのに、厚紙も沢山使うので、他の使い道を考えてみたんだ。中々良いアイディアだと胸を張って見せると、「タダでケーキが貰えるのは嬉しいよね」と感心していた女性陣に対し、フォルコ君はこめかみをトントンと叩いて考え込んでいる。


「面白い試みですが、交換できるのが販売しているケーキでは、少し弱いのではないでしょうか?

 何か特別な物…………すみません、良いアイディアは思い浮かばないのですが」

「ああ、それなら定番なのは、店のマスコットグッズとかだな。白銀にゃんこだから猫グッズ……ロゴが入ったハンカチとか、買い物籠とか。あとは最近、看板娘が板についてきた、スティラちゃん型のぬいぐるみとか?」


 そんな提案にいち早く反応したのは、猫姉妹だ。2人して猫耳を横に向けて、嫌そうな顔をする。


「えぇ~、流石にちょっと恥ずかしいにゃ~」

「スティラだと茶トラですから、ロゴと大分違いますよ。いえ、だからと言って、私を連想する白銀猫も恥ずかしいですけど」


 ……あっぶね。等身大とか、抱きまくらとか言わないで良かった。


「まぁ、グッズを作るのは大変だから、機会があったらにしとこう。(リスレスさんに投げるとも言う)

 そうだな、ポイントカード3枚で、〈ライトクリーニング〉の銀カード購入権。4枚で〈ライトクリーニング〉の銀カード1枚進呈でどうだ?」


 そう、実は1週間程前から、白銀にゃんこでも銀カードの販売を始めたのだ。ただし、売るのは〈ライトクリーニング〉だけであり、1枚5万円の高額商品となっている。

 ただ、貴族の間では話題になっているのか、発売から数日で、ウチの在庫を買い占めようとした客が居た。その為、現在では1日10枚限定発売、且つ1人1枚までと制限を掛けている。

 ここ数日、開店前から行列が出来ており、最初の10人で売り切れてしまうので、幻の商品と化しているのが悩みどころだ。お客にはプレミア感を印象付けているので、ポイント交換の目玉にするにはもってこいだけどな。


「ふむ、それは良い考えかと。いえ、ちょっと待って下さい…………計算してみたところ、ポイントカード4枚、ケーキ40個分の利益だとギリギリのラインですね。そのポイントカード5枚で、半額販売では如何ですか?」

「う~ん、目玉とするなら、タダで貰えるってのが強いからな。4枚で半額、5枚で交換ならどうだ?」


 なんて話し合い、ついでに宣伝用のポスターの原案についても相談する。フロヴィナちゃんが手書きするので、『ケーキ販売始めました!』だけではなく、ポイントカードの説明も追加してもらう。


 そして、話をしている内に、ふと思い付いた。


「フロヴィナ、『幸運の尻尾亭』のポスターを張り替えに行く時に、この〈ライトクリーニング〉の銀カードを、女将さんに差し上げて来てくれないか」

「うん、いーけど、良いの? 結構、高いのに」


「ああ、宣伝費、ポスターの掲示料金みたいなものだよ。ウチの店を宿泊客に紹介したり、買ったお菓子を提供したりしてくれているからね。

 ついでに、銀カードの使い方も実演して見せてあげてくれ。あっちの幸運のぬいぐるみは、年季が入っていただろ?」

「あ〜、確かにと比べると、くすんだ色だったような? よく覚えてんね~」


 フロヴィナちゃんが、リビングの入口付近に飾られたぬいぐるみを指差して言った。先週、宣誓のメダル作りで、〈フェイクエンチャント〉をひたすら連続使用する仕事にうんざりし、ストレス解消にクゥオッカワラビーをシバキに行った成果である。みんなが撫でられる様に、リビングに設置されたのだった。特に女性陣は、別にダンジョンに行く時だけでなく、通りがかった際にも、ついつい撫でている。何度撫でても、幸運は半日に1回なのであるが、触り心地が良いのでしょうがないそうだ。



「続いて、白銀にゃんこ関連で、増築してカフェにする計画の続報だ。

 俺達のスタンスは、ナールング商会が増築費に、人員の貸し出しまでしてくれるなら、挑戦してみたいと賛成していた。

 で、ソフィアリーセ様経由で、大家の伯爵家に申し入れしたんだが……結果は、一時保留となった」

「「ええ~」」


 声を上げたのは、ワクワク顔だったスティラちゃんとフロヴィナちゃんである。給仕用にと服作りを頑張っていたからね。最近は店番を一緒にしているので、息が合っている。


「理由としては2つ。ナールング商会とは、取引を始めたばかりなので、事業を任せるだけの信用が足りない。それと、ウチの店も開店してひと月、しかも、メインのケーキ類の販売実績が無い。

 取り敢えず、俺達はケーキ販売の方を頑張ろう。レスミアとベアトリスは美味しいのを頼むよ」

「はい! 任せて下さい!」「えぇ、明日から量産を始めます」


 料理人コンビの気合は十分のようだ。

 12月いっぱいの売り上げデータを資料にまとめておけば、リスレスさんが年始の挨拶に行く際にプレゼンをしてくるらしい。その為にも、売れたという実績が欲しいところである。



「次に行くよ。

 12月中旬辺りにエヴァルト司教が、王都の学園……貴族になるための学校な……そこの学園長を連れて来る予定だ。

 主に俺の光属性魔法とか、ジョブについて話したいそうだ。取り敢えず、歓待の準備をしておいてくれ」

「王都の方ですか……ソフィアリーセ様にお出しする料理と同じで良いでしょうか?」


 ベアトリスちゃんの料理の腕前は、貴族の料理人としては見習いレベルらしい(レスミアは更に一段下)。俺としては十分美味しいのだけどね。

 ただ、既存の料理でなく、新機軸に料理なら問題はない。


「エヴァルトさんは変わったものが好きだし、俺の故郷、異世界に興味津々だったからね。揚げ物とかカレーみたいな、新しい料理なら喜んでもらえると思うよ。

 おっと、学園長はかなりのお年寄りらしいから、脂っこい物以外もいるな。サッパリ系とか口直しが出来るものもお願い」

「分かりました。メニューを考えてみます」


 王族と教会のゴタゴタも、『宣誓のメダル』を王族経由で納品することで、合意が得られたそうだ。教会で修行を積んだ司祭と、野良の司祭ジョブでは扱いを変えるとか、細かいところを詰めているらしく、それが終わってから、ここに来るので、詳しい日程は後で手紙か先触れがくるだろう。



 そうそう、魔法戦士と銀カードの件についても、ノートヘルム伯爵とエディング伯爵が交渉を頑張ってくれた。

 魔法戦士は現状、非公開。未だに王族で独占する気であるらしい。ただ、武僧に関してだけは、各領地で極秘に検証しても良い事になった。

 これを王族の寛容と考えて良いのか、判断に困るところではある。


 そして、銀カードの方にも、物言いが入った。教会との摩擦を解消する潤滑油として提案したのが功を奏し、運用方法に関しては大部分が通ったのだが、王族に相応しい素材を変えるそうだ。


 その素材とは『金』である。

 流石に、ミスリルは戦略物資であるので、使い捨てとなる〈フェイクエンチャント〉に使うのは躊躇われたが、主に貨幣や宝飾品に使う金ならば余裕があり、且つ王族に相応しいそうだ。

 これに便乗したのか、伯爵達は黒魔鉄を使った黒……ブラックカードにしていた。王族はゴールドカードだし、まるでクレジットカードのような感じになって来た。

 まぁ、素材の準備や調合は向こうの仕事なので、俺は〈フェイクエンチャント〉をするだけである。好きにしてくれ。


 そう高を括って居たのだが、実際に量産品を見たら震えたね。小さめの箱に満載された薄いゴールドカードは、傷が付かないよう1枚1枚が布に包まれ、宝飾品のようであった。

 片面にはラントフェルガー王国の紋章が大きく刻印され、端の方には小さく白銀にゃんこのロゴまである。


 まさかの白銀にゃんこ、全国デビューだ!

 いや、伯爵達に「ウチのロゴも入れて」って頼んだけどさ。よもや、王族の方にも入れさせるとは……

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