第362話 宣誓のメダルと銀カード、そして新しいドレス装備

前回のあらすじ:『宣誓のメダル』は王族にも、教会にも有益な手札。と言うが、そもそも、宣誓のメダルって何だ?



 喜ぶ伯爵達に水を差すようで悪いが、そこら辺を聞いてみる。すると、ノートヘルム伯爵が考えるように顎を撫でつけながらも、解説してくれた。


「ザックスは知らないのか。

 その名の通り、教会に置いて一人前と認められる際に授与される魔道具だ。授かったメダルで、癒しの奇跡が使えれば、僧侶のジョブを得られると言う……確かに、その銀カードと似ているな」

「うむ、少し待っておれ。退室させた者たちの中に司教が居たから、借りて来よう」


 エディング伯爵が防音結界を出て、部屋の外へと出ていく。程なくして戻って来た手には、大銀貨より少し大き目サイズのメダルが握られていた。その表面には、女神らしき刻印があり、裏面には癒しの奇跡の魔法陣が書かれている。



【魔道具】【名称:宣誓のメダル】【レア度:D】

・光の女神様が刻印された銀製のメダル。女神像が無い場所でも、このメダルがあれば、どこでも祈りを捧げる事が出来る。魔法が付与されており、回数制限があるものの簡易的な魔道具として使える。

・錬金術で作成(レシピ:銀のインゴット)

・付与スキル〈ヒール〉【2回】



「〈詳細鑑定〉したのが、これです。確かに、俺の銀カードと文言も似ていますね。銀カードより小さいのと、マナインクを使っていないから、使用回数が少ないのかな?」

「なるほど、そちらの銀カードとやらでも、僧侶のジョブが得られるなら、同じと見て良いか。

 ……この宣誓のメダルは、外国からの輸入に頼っている。今前は輸入分の殆どを教会が持って行ったのだが、最近事情が変わり、取り分で揉めているのだ。なぜか分かるか?」


 ノートヘルム伯爵の問いかけに、聞いたような覚えがあり、記憶を探る。そう、確か僧侶の解放条件を、王族に報告した後だった。僧侶を増やしたい王族とダンジョンギルドに対し、利権を守りたい教会で揉めている筈だ。ただし、詳細は知らない。


「うむ、その折衝役をエヴァルトが担当していてな。王都の図書館で調べものをしに行ったのに、交渉にばかり時間を取られて本が読めないと嘆いていたぞ」

「ああ、それで助手が欲しいとか、手紙にあったんですね」

「新しい手紙も預かって来た、後で渡そう。

 話を戻す。

 教会と揉めている内容は様々だが、一番大きいのが宣誓のメダルの取り分についてだ」


 僧侶の解放条件は『基礎Lv5以上、他者を無償で治療する(薬品はレア度B以上、身内は除く)』である。

 〈ヒール〉が付与された魔道具でなくとも、薬品でも条件を満たす事は可能なのであるが、レア度B以上なので高い。そして、素材も51層以上でしか取れないうえ、逃げ回る面倒な素材があるので、錬金術で量産するのにも限度がある。

 そんな中、注目されたのが、安定して輸入されている宣誓のメダルだ。ただし、輸入量を増やそうとすれば、相手国が値段を吊り上げるのが目に見える。その為、王族とギルドは教会と揉めるのだった。


「なるほど、そこに銀カードが流通すれば王族とギルドに、宣誓のメダルを作れば教会に恩が売れる。

 俺の作業が増える以外は利点ばかりですね……個人的に考えると輸入を増やした方が楽そうですけど、そんなに値段を吊り上げてくるんですか?」

「ああ、宣誓のメダルは現神族から輸入していて、非常に厄介なのだ。そして、現神族の国と接していて、取り引きしているのがマークリュグナー公爵領である。

 あやつは時折、現神族の代弁者と化す。本当にこの国の貴族か疑わしくなるほどにな。

 様々な魔道具を作れるがゆえに、輸入せざるを得ないと言うのが現状だ」


「ハハッ! あの豚公爵の力を削げるのは良いな!

 家のソフィをアクセサリー呼ばわりした、アイツは親子共々気に入らんからな

 いっその事、宣誓のメダルを全てザックスが作れば、輸入自体も大幅に減らせるぞ!」

「お父様、お気持ちは嬉しいのですけど、ザックスばかりに負担を掛けるのは止めて下さいませ」

「うむ、負担軽減に関しては、私にも案がある。少し、詰めてみようじゃないか」



 そして、側近を排した状態で会議は続いた。

 最終的に、領地毎に銀カードを錬金調合してもらう事になった。出来た銀カードを俺に送れば、発注書通りに魔法を込めて、送り返す。実質、俺の手間は〈フェイクエンチャント〉で魔法を込めるだけだな。ただ、無制限に作れる訳ではないので、発注数も一週間に何百枚までと区切りを入れる予定。でないとダンジョンに行く時間が無くなってしまう。

 そして、領地毎に作るカードは、材料とロゴも替える予定だ。どの道、王族も欲しがるだろうから、それを含めてデザイン案を複数出すそうだ。ここでは、少し口出しをさせて貰った。デザインには、白銀にゃんこのロゴを小さくてもいいから、載せるよう提案したのだ。折角の宣伝の機会なのだから、これくらいは構わないよな?

 手土産として持ってきた銀カードの殆どは、伯爵達に献上したのだから、返礼をおねだりしても良いのだ!


 他にも、値段の話だとか、量産する魔法の話などをしていたら、あっという間に時間は過ぎていく。会議を終えて、側近を再び部屋に入れたのは、夕方近くになってからだった。

 複合ジョブに関しては極秘として側近にも非公開。その代わりに、銀カードを俺が開発した新魔道具として、王族へ売り込むとして、話がなされた。魔法が使える魔道具を量産出来るなんて話に、側近の皆さんも大いに沸いた。

 年配の文官さんが、俺に詰め寄って来て「これは独占せず、大いに広めるべきレシピだ!」なんて、褒められているのか、強請られているのか、困る状況にもなったが、エディング伯爵が取りなしてくれて収まった。



 ……後は皆さんにお任せして良いかな? そろそろ帰りたい。

 なんて考えていたら、マルガネーテさんとルティルトさんが部屋に入って来た。ソフィアリーセ様の部屋に行っていたから、戻って来るのに時間が掛かったのだろう。

 そして、その後ろからは、お姫様がやって来た。



 いや、お姫様のようなドレスを着たレスミアである。

 ルティルトさんのような姫騎士ドレス(鎧無し)に似ているが、それを更にドレス寄りにした感じで、そのまま舞踏会にでも出られそう。青と白のアネモネの花が各所に描かれていて、女性らしい華やかさを演出している。そして、胸元が濃い紺色で、下に行くほど青から白へとグラデーションしていくのは、見覚えがあった。侵略型レア種『氷花雪女アネモネ』がドロップした巨大氷花の花弁だ。つまり、ずっと作成中だった新装備である。


 ただ、少し残念なのは肌の露出が0な事だな。ダンジョンに行く装備ならば仕方のないことではあるが……スカートが少し変わっており、前は膝上のミニスカで、後ろはふくらはぎまである長さで変っている(ロングテールスカートと言うらしい)。もちろん、可愛らしいミニスカでも、白いタイツを履いているようで隙は無い。

 ロングブーツと肘まであるロンググローブは少しだけゴツイが、レース等の装飾があしらってあるので、十分に優美に見える。


 つまり、総括すると可愛く、綺麗だ!


 なのだが……レスミアが近づいて来るにつれ、目が胸元に吸い寄せられた。


「ザックス様、この新装備! どうですか? 似合っています?」

「どこのお姫様かと思うくらい、綺麗で、物凄く似合っている……んだけど、あれ? 胸元とか二の腕、いつの間に露出した???」


 そう、歩いて来る間に、胸や二の腕、太腿を覆っていた白い布が薄くなって消えていき、目の前に来た時には豊かな谷間が見えていたのだ。キツネに化かされたような気分である。猫だけど。


「フフッ、大丈夫ですよ。見えているのはザックス様だけですから」




 レスミアは褒められたと花が咲くように笑顔になり、後ろにいたマルガネーテさんとルティルトさんは、してやったりと言いたげに笑っていた。

 一緒にクスクス笑っていたソフィアリーセ様が、レスミアの二の腕を摘まんで引っ張る。すると、その箇所だけが色が白くなり、布が見えた。


「うふふ、驚いたでしょ。最近、新開発された布の折り方なの。肌を見せた方が綺麗な服でも、好きでもない男にジロジロ見られるのは嫌よね?

 この布は、エスコートするくらい近くにいる人だけに、透けて見えるのよ」


 なんてセキュリティの高い服なんだ。壁を走ったり、木を登ったりする闇猫にミニスカは危ないラッキーと思ったが、接触する距離でないと見えないなら逆に安全残念か?

 おっと、〈詳細鑑定〉もしておこう。



【武具】【名称:氷華花咲くロングテールドレス】【レア度:B】

・アルラウネのレア種の花弁から作られたドレス。見た目が華やかなドレスであるが、レア種の魔力で強化されており、軽く丈夫で衝撃も吸収するため、ダンジョン攻略の装備品として十分な防御力を誇る。更に、氷の魔力で耐熱性にも優れ、ある程度の温度調節を行ってくれる。

・付与スキル〈火属性耐性 大〉〈凍結耐性 大〉



 ……強い! 耐性とは言え、付与スキル2個か!

 巨大氷花の花弁がレア度Bだったので、良い防具になると思っていたが、ここまでとは。例によって〈相場チェック〉をしても値段が出ない。付与スキル2個なので、少なくとも500万円以上……いや、レア度B だから4桁万円はするに違いない。素材を提供しただけで、手数料とか加工代を払っていない事に気が付き、ぞっと背筋が冷えた。

 俺が恐れおののいていると、不意に頭をポカンとはたかれた。顔を上げると、ソフィアリーセ様が扇子を構えて、ジト目で見ている。


「ザックス、ジロジロ見過ぎではなくて?

 レスミアが恥ずかしがっているわ。このような場ではなく、婚約者なのだから、帰ってから見せてもらいなさい」

「あはは、私は大丈夫ですよ。むしろ、喜んでもらえたのなら嬉しいです」

「ああ、見惚れていたんだ、ゴメン。

 それと、ソフィアリーセ様に相談なのですが、加工代はダイヤモンドの代金が入るまで待ってもらえませんか?

 これほどのドレスだと、高いですよね? 今は手持ちが……」


 流石に一千万円あれば、足りる筈だと提案する。すると、ソフィアリーセ様は俺に身体を寄せると、扇子を広げて内緒話を始めた。


「加工費なら、要らないわよ。これは支援の一環でもあるの。

 それと、このドレスに使った製法やデザインは、元々わたくし用に開発された物だったのよ。丁度、試作に入ろうかと言う段階で、別の良い素材(巨大氷花の花弁)が舞い込んだものだから、試験的に作らせて貰ったって訳ね。

 それに、余った素材……1/3くらいは、わたくし用のドレスに使わせてもらうわ。

 これら全部を含めて、加工費は要らないって事ね!」


 レア度の高い素材で試作品を作るのにもお金が掛かるし、技術の研鑽をするには丁度タイミングが良かったそうだ。ホッと胸をなでおろしていると、周囲がざわざわと動き始めた。会議の結果と銀カードについて、仕事の割り振りが終わり、皆が動き始めたのだ。慌ただしく部屋を出ていく文官達。そして、中心に居たノートヘルム伯爵とエディング伯爵が戻って来た。そして、レスミアの新装備を見て、褒めてくれた。


「うむ、貴族の子女にも劣らぬ、良いドレス装備だ。最初に着ていたドレスは、服に着られている感じがしたが、こちらは年相応の花のような可憐さがある」

「うむ、ソフィを引き立てる第2婦人に相応しい装いだ」


 ……褒めているのか?

 それに対し、レスミアは微笑んだまま、優雅にカーテシーで礼を返した。


「お褒め頂き、大変光栄です。この衣装も、ソフィアリーセ様のお力添えがあっての物です。第2婦人として、支えて……支え合って行きたいです」


 会議前の挨拶では、緊張しっぱなしであったが、今度は堂に入った挨拶だ。それに感心していると、ススッとマルガネーテさんが寄って来て、小声で教えてくれる。


「着替えの後、時間がありましたので、礼儀作法と挨拶を仕込んでおきました」

「助かりました。ありがとう」


 商人の〈礼儀作法の心得〉がある俺とは違い、レスミアは自前で覚えないといけないので大変だからな。マナー本を読んで、偶に練習はしているけれど、実践で使えるか微妙だったのだ。


「うむ、宜しい。其の方は、次は第1ダンジョンの攻略に取り掛かると聞いている。

 その衣装ならば、ギルドで注目を集める事、間違いなしであろう。貴族のつもりで堂々としていなさい」


 そう、エディング伯爵がアドバイスをしたところ、徐々にレスミアの顔に朱が差していく。


「あ、あの、この装備って、珍しいのですか?

 ですよね?! だって、ドレスそのままですよ!

 この姿で街中とか、ギルドを歩くと考えると……恥ずかしいです~」


 顔を赤らめたまま周囲を見回すと、目が合った。フォローしておかないと。


「あー、一度、第1支部に行ったけど、ドレスアーマーとか、可愛らしいローブの人も居たから、そこまで恥ずかしがらなくても大丈夫だよ。ねぇ、ルティルト様?」

「ん? いや、私の鎧でも偶に注目を集めるからな。レスミアの装備は、もっと注目を浴びるだろう」

「大丈夫よ。わたくしの装備も、色違いの同型で作成中だもの。二人で最先端の可愛らしい装備だと広めるのも良いわね」

「待って下さい! ソフィアリーセ様の衣装が出来るまで……いえ、一緒にダンジョンに入れるようになるのは、まだまだ先ですよね?

 その間は、私一人で……あっ、そうだ!

 第2婦人が、正妻を出し抜くわけには行きません! だから、ソフィアリーセ様と一緒に行けるまで、この装備は封印です!」


 真っ赤な顔を手で覆い、封印を宣言するレスミア。その様子が、微笑ましく見え、皆で苦笑するのだった。









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業務連絡

 と、言う訳で、第2章街編の前半が終了です。

 街に移動して、生活基盤を整えるまでの話を描いてみました。日数的には、1章と同じくらい。長いような、短いような?

 そして、この後の展開ですが、作中時間を2週間飛ばします。キングク〇ムゾン!


 何故かと言うと、第1ダンジョンを1層から攻略するのを描写していては、話が進みませんのでw

 ついでに、ダイヤモンドや銀カードの作製もあり、地味な展開が続くのも理由の一つです。

 既に攻略済みの探索者(ヴォラートさん)辺りに、お金を払い、30層までボス戦のみでスキップする方法もありますが、そっちだと今度は時間が経たな過ぎで、年末までに50層を攻略してしまいそうなんですよね。それはそれで、不味い。


 次回からは、4話分の閑話を更新します。

 新キャラ視点なのですが、途中でランドマイス村の様子を書いていたら、長くなってしまいました。リスレスの閑話と同じく、本編の裏側進行を描いた話になります。

 本編開始まで、暫しお付き合い下さい。

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