第361話 王族専用ジョブ

 返礼の太刀を頂いた後は王都の話を聞いたり、王族からの要望を聞いたりした。『もっと、大粒のダイヤモンドを作れないか?』なんて言われても、MPが足りないので無理と返し。ダイヤモンドは硬すぎるので、カットには別のダイヤモンドを粉末にして加工する等のアドバイスをしておいた……聞きかじりで自分はやった事は無いが、本職の宝石加工職人ラピダリーなら、恐らく分かるだろう。



 そんな雑談を含めたダイヤモンド関連の報告が終わり、次は俺の相談時間となる。大まかな内容は、騎士団で行われているジョブの検証に、複合ジョブも追加してもらう。そして、銀カードの販売許可と光魔法の解禁についてである。

 提出する資料や銀カードが入った木箱をストレージから出していると、隣のソフィアリーセ様が口元を扇で隠しながら、囁いた。


「銀カードの懸念事項は後に回しましょう。先に複合ジョブの報告をしなさい」

「了解、複合ジョブの検証からにします」


 資料をマルガネーテさん経由で執事さんへ渡し、両伯爵に持っていてもらう。テーブルの上を滑らせれば早いのだが、流石に不作法である。貴族同士が物を受け渡す時は、必ず両者の側仕えが仲介をする決まりらしい。毒殺を警戒していた昔の名残らしいが、身内に近い間柄なのに面倒な話だ。

 因みに、マルガネーテさんが対応してくれているのは、俺のサポートメンバーでは、まだまだ対応出来ないからである。まだ婚約者候補止まりなので、本当は側近の貸し出しなんてNGなのだが、主であるソフィアリーセ様がこっちに座っているので、サービスで対応してくれている……みたいなていらしい。


 資料が渡され、軽く目を通す時間をおいてから、立ち上がり解説を始める。


「先日、第2ダンジョンの30層を攻略し、周回をする事で手持ちのジョブを全てレベル30へと引き上げました。

 その結果、新しいジョブが発見された為、騎士団の皆様にも検証して頂きたく、お時間を頂きました。

 特に、1枚目に記載した魔法「待ちなさい!」」


 話を遮ったのはノートヘルム伯爵である。

 何か阻喪があったのかと、背筋を伸ばして様子を伺うのだが……ノートヘルム伯爵がエディング伯爵へ目配せすると、頷き合う。そして、執事へ指示を出すように、軽く手を上げた。


「人払いをする。防音の魔道具を準備したら、全員退室しろ」

「「「……ハッ!」」」


 向こうの側近の皆さんは一瞬戸惑ったものの、直ぐに動き始める。執事さんが四角い魔道具をテーブルに準備する間に文官が出て行き、側仕えもお茶を入れ替えてから、退室していった。護衛騎士は最後に出ていくようだ。

 取り敢えず、俺達は残っていい雰囲気なので、座り直して場が整うのを待つ……のだが、隣のソフィアリーセ様が、俺を飛び越してレスミアへと話しかけた。


「レスミア、貴女も退室しなさい。お父様が側近を排する程の機密事項なのです。貴女は知らない方が良いかも知れません」

「……分かりました。後はお願い致します」

「退室している間は、わたくしの部屋に行っていなさい。丁度、良い物が届いているの。

 マルガネーテ、案内と着替えを手伝いなさい。ルティルトは護衛ね」

「ああ、アレですね。畏まりました」


 レスミアは2人に連れられて退室して行った。アレとは何かソフィアリーセ様に聞いても「後のお楽しみよ」と、はぐらかされてしまう。

 そうして、護衛騎士達も退室していくと、部屋に残されたのは両伯爵と俺とソフィアリーセ様のみ。人払いをしたうえで、防音の魔道具で結界を張るとか、余程の機密事項に違いない。少し緊張する。

 ノートヘルム伯爵は、飲んでいたティーカップを置くと、吐き出すようにして話し始めた。


「第3王子が危惧していた通りになったな。こんなにも早いとは思わなかったが」

「ああ、『特別な儀式が行わなければならいので、直ぐには見つからない』とは、何だったんだ?

 この解放条件なら、知っていれば条件を満たすのも容易いぞ」

「恐らくだが、僧侶の時と同じだろう。今までジョブを得る儀式だと伝わっていた物が、実は関係ないものだったのだ」


 両伯爵が魔法戦士の資料を指差している。そこで、ピンッときた。『第3王子が危惧』、『魔法戦士の資料』、『王族専用ジョブの噂』、これらを合わせると、


「学園で噂になっていると聞きましたが、もしかして王族専用ジョブの正体は魔法戦士なのですか?」

「何? 知っておったのか?! ソフィ?」

「わたくしも魔法戦士の事は、午前中に報告を受けて驚いたのですよ。もちろん、王族専用ジョブの噂も、只の噂レベルでしか知りませんでした。

 お父様達の反応で確信が行ったと言いますか……やはり、領地の嫡男と王族が行うと聞く、卒業間際の合宿ですか?」


 ソフィアリーセ様も俺と同じ結論に至ったようだ。2人して両伯爵に問いただすと、隠す事は無理だと感じたのか、「他言無用だぞ」と念押ししてからノートヘルム伯爵が話し始めた。


「魔法戦士……そして、そのサードクラスである魔導剣士は王族専用のジョブとして秘匿されておる。

 例の合宿では、臨時パーティーを組み、王族の強さを知らしめられた後、口止めをされたのだ」

「なんで、そのような事を? 強いジョブなのだから、広めた方が良いと思うのですが……」


 ポコポコ湧き出るダンジョンは、どこの領地でも苦慮していると聞く。騎士団が領内を巡回し、早期発見して管理しなければならないからだ。当然、ダンジョンを潰すなら、強いジョブは有った方が良い。


「理由は2つある。1つは、ラントフェルガー王国の中興の祖である『積極果断なエストラ女王』が発見し、強い王族を目指したからだそうだ。

 エストラ女王は、救援や復興を手伝いに来た各地の領主に深く感謝し、同じように魔物の進行があった時は、王族からも救援に向かうと約束した。そして、作られたのが王族直轄の第0騎士団だ。主に王族の庶子で構成されており、各領地において、手に負えないダンジョンの討伐や魔物の氾濫を殲滅し、魔物の領域の間引きを手伝ってくれるのだ。

 王族の強さを知らしめ、権威を強めるための部隊であるな」


 ……エストラ女王とか、初めて聞く名前だけど、0番隊なんてネーミングセンスは、中二心を擽られるな!

 普通の騎士団(第1~3)よりもエリート集団であり、戦力も権限も強いから0番なのだとか。

 歴史の授業のような感じで聞いていたら、隣のソフィアリーセ様が扇子で小突いてきた。


「ザックス、ピンと来てないようだけど、エストラ女王は以前見た劇の『優柔不断なミューストラ姫』の事よ。王都の復興を掲げて女王に就いたとき名前を改めたの」

「えぇ……優柔不断から積極果断とか、性格が180度変わってませんか?」


 確かに、劇の最後では、凛々しく宣言をしていたけどさ……家族がほぼ全滅し、街が滅ぶなんて体験をしたら、それくらい変わるのかもな。


「もう一つは、ジョブの習得が難しく、命の危険がある為だ。安易に広めれば、魔法戦士を取るために犠牲者が増える。折角の魔法使いを減らしたくないと言う配慮らしい……もっとも、ザックスの資料で、誤りだったと分かったのだが……どう報告したものか……」


 確かに、先祖代々続く掟に対し、間違っているとは指摘し難い。ましてや、劇の主役になるような歴史上の人物が決めた事となると、猶更である。

 ただ、そのプライドの為に、若者を命がけの儀式に向かわせるのも間違っている気がした。


「公開するかどうかは王族の判断に任せるとして、解放条件は報告した方が良いと思います。貴族だから、王族だからといって、無駄に命を危険に晒す必要は無いですよね? 魔法戦士が増えれば、それだけ戦力も増えるのですから」

「うむ、であるな。加えて、我らの領地で検証させて貰えるのが良い。さて、どう説得するかだ」

「はっはっはっ、もし断られるようであれば、魔法戦士の存在を知っていた俺とノートヘルムで試すのも一興であるな。なに、戦士をレベル30に上げるだけならば、数日で出来る」


 なんて言い出したのはエディング伯爵だ。元々武闘派な為、普段から訓練は欠かす事が出来ないらしい。有事の際は、戦場に立つのが貴族の務めなのだから。

 逆にノートヘルム伯爵は、慎重な面持ちで考え込んでしまった。なんでも、ステータス補正の高さは魅力的なので、ジョブを取るのは構わない。しかし、執務が忙しいので、レベル上げの時間も取れないそうだ。


「ノートヘルム伯爵のおっしゃる通りですわ。お父様、レベル上げも結構ですが、執務に支障をきたさない範囲でお願いしますね。文官に押し付けてばかりいると、又、お母様に叱られますよ」

「ぐぬっ……休みを捻出してからにしよう」


 娘にやり込められてしまったエディング伯爵は、苦い顔をしてしまった。

 その様子に、ほっと一息いれたソフィアリーセ様は、紅茶を一口飲む。そして、改めて話し始めた。


「魔法戦士の解放条件については、王族に知らせるのは、決定で宜しいかと思います。難しい交渉になると思いますが、わたくしから別の交渉材料を提案いたしますわ。

 ザックス、〈ヒール〉の銀カードを出して頂ける?」


 ここで、銀カードの話かと思いながら、ストレージから銀カードの入った木箱を取り出した。〈ヒール〉が付与された銀カードをソフィアリーセ様に渡すと、その両面を伯爵達に見せ付けながら充填を始めた。銀カードに刻まれた奇跡の魔法陣が光始める。


「これは付与術師のスキル〈フェイクエンチャント〉で作られた魔道具です」

「フェイク? ……ああ、聞いた事があるが、効果までは覚えていないな。役に立たないスキルだった気がするが」

「ええ、ザックス以外ならば、役に立たないでしょうね。

 その効果は、術者の魔法やアクティブスキルを金属に込める事が出来るのです……つまり〈ヒール〉!」


 ソフィアリーセ様は解説をしながら充填を完了すると、そのままエディング伯爵へと〈ヒール〉を使用した。光に包まれる様子に、伯爵達は驚きを隠せない。そして、光が収まった後、銀カードを突き付けるように見せると、ソフィアリーセ様は得意気に笑った。


「この銀カードは、ザックスならば量産可能なのです。

 これは、僧侶の証である『宣誓のメダル』の代わりになる……いえ、カードでなく、同じメダルを錬金調合で作り、ザックスが〈ヒール〉を〈フェイクエンチャント〉すれば、『宣誓のメダル』が作成可能なのです。

 王族にも、教会にも有益な手札だとは思いませんこと?」

「おお!」「それは、誠か!」


 興奮した様子の伯爵達に比べ、俺は首を捻っていた。

 ……僧侶の証の宣誓のメダル? 字面から何となくは分かるけど、背景が分からないな。

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