第358話 白馬からの挑戦状

 休日の定例となってきたソフィアリーセ様との報告会は、つつがなく終わった。上司に棚上げしただけな気もするが。

 そして、終わりがけには、リプレリーアから聞いた王族専用ジョブについても、新たな情報を得ることが出来た。


「確かに、学園で聞いたことがある噂話だな」

「ただ、詳細は分からないのよね。王族の血筋でないと得られないとか、王族が安定してダンジョンを攻略するために独占しているとか、推測混じりの話だから、信憑性は……そうそう、お父様とお兄様なら知っているかも知れませんわ。

 領地の嫡男は学園の卒業間近になると、年の近い王族と親睦を深めるダンジョン合宿をすると、お兄様が言っていましたわ。」


 卒業旅行というより、コネ作りの為のレクリエーションかな?

 まぁ何にせよ、この件も上司へスルーパスされるのだった。




 その後、レスミアとスティラちゃんの姉妹も加えて、ボードゲームを楽しんだ。先週遊んでいた宝石を集めて、物件を買い、街を発展させるゲームである。

 実際にやってみると、以外と複雑であった。同系統の物件を買うとボーナスが付くので集めたくなるが、他のプレイヤーも同様に狙って来る。他の3人の手札から戦略を予想し、妨害に走るのか、自分の戦略を進めるのかで結構悩むのだが、それが面白い。自分の思うようにゲームが運べると、笑ってしまうほど楽しいのだ。

 ただ、学園で流行っているので、マルガネーテさんを含む貴族組は強い。4人制のゲームなので、メンバーを交代しつつ、アドバイスを貰ったりして、何ゲームも楽しんだのだった。





「ソフィお姉ちゃん、またにゃ~」

「ええ、来週も遊びましょうね」


 スティラちゃんにお見送りされて、名残惜しそうにしていたソフィアリーセ様がゴーレム馬車へと乗り込んだ。そして、その後ろからは、ドレス姿のレスミアも続く。何時ぞやにトゥータミンネ様から頂いた、薄緑色のドレスである。伯爵との会合であるため、正装に着替えたのだ。流石に今の時期だと肌寒いのか、白いふわふわなショールを羽織っている。これは、この間、プリメルちゃん達と買い物に行った際に購入したらしい。ただ、下級貴族用の店なので、品質的に高級ドレスとは合っていないらしい。着付けを手伝っていたマルガネーテさんが、不満げに漏らしていた。

 俺から見ると似合っているように見えたのだが、貴族はファッションも難しい。因みに、俺も以前に着た、軍服の様な正装である。取り敢えず、対貴族用にコレを着て置けば問題ない。


「スティラ、お店の手伝いは程々で良いからね。後、暗くなる前に帰りなさい。私の帰りは何時になるか分からないから」

「え~、伯爵様の御屋敷の話も聞きたいから、泊まっていこうと思ってたのに~」

「はいはい、また今度ね」


 その言葉に、座席に座ったソフィアリーセ様がこちらを向いた。なんとなくだけど、その目が『羨ましい』と言っている気がする。大きな猫と一緒に寝るとか、メルヘンチックだからな。憧れるのも無理はない。まぁ、伯爵令嬢って立場からするとNGだろうけど。

 取り敢えず、レスミアに馬車に乗るように促して、エスコート役を終えた。


 そして俺は馬車には乗らず、少し離れた所で魔導バイクに跨がる。これはフォルコ君が受け取って来てくれた新車……以前の砂漠を走った相棒はバラされてしまったので、只の同型だけどな。通行許可証をハンドルに引っ掛けてっと。


 婚約者候補止まりなので、ソフィアリーセ様とは同乗出来ない。ついでに、あの南の外壁にある立体駐車場のようなスロープを走ってみたかったので、バイクで付いて行く事にしたのだ。砂漠では坂道は少なかったので、急勾配な連続スロープは良いデータになる。下から屋上に駆け上がるのに、掛かる時間も知っておいた方が、有事の際に役立つ筈だ。


 ゴーレム馬車の準備が出来るのを待っていると、白馬が近付いてきた。手綱を引いているのはルティルトさんである。馬車の護衛に付くと言っていたが、近くまで来た白馬君は、鋭い目つきで俺を睨んできた。


 ……どこかで見たと思えば君か。何故睨んでくるんだ?

 いや、目線の先は少し下、バイクの方か。


「ハハハッ! すまないな。わたしの愛馬であるヴァイスクリガーが、バイクが気になるようでね……『お前には負けん』と言っているよ」

「ああ〈騎乗術の心得〉で、馬の気持ちが分かるんでしたね。ただ、ライバル認定されても、コレは魔道具ですよ?」

「騎士の騎馬となる雄馬は、気性が荒くてね。魔物に突っ込んでいける胆力があるけれど、同時に負けん気も強いのだよ。一回勝負すれば、大人しくなると思う。頼まれてくれないか?」


 流石に護衛任務中なうえ、町中でレースをするわけにも行かない。ただ、丁度お誂え向きに通行量が少ない場所があった。そう、俺が登る気でいたスロープである。ルティルトさんも、そこに目を付けていたのか、

「お嬢様に許可は頂いている。後はお前が受けるかどうかだな。まぁ、バイクも手軽に乗るには良いが、馬には勝てまい」と、根回しの良さをアピールしつつ、煽って来る。

 馬との比較には丁度良いので、デモンストレーション……宣伝にはもってこいと考え、引き受けたのだった。





「本当に男の人と騎士って、レースが好きなのよね。年末が待てないのかしら?」

「ザックス様~、頑張って下さーい!」


 外壁南門の広場では、ちょっとした観戦客が集まっていた。レースの為、スロープを貸し切り状態にするよう騎士団に、ルティルトさんが掛け合ったところ、待ち時間の間に噂を聞きつけた人が集まってきたのだ。

 休憩中や、非番の騎士団員とか、ダンジョンギルドの近くなので探索者とか。休日なせいか大通りにも人通りが多く、徐々に人が増えていったのだ。

 その為、ソフィアリーセ様のゴーレム馬車の周りには、騎士団員が護衛に付くと言う名目で、人集りが出来ている。レスミアの声援に手を振り返していると、ルティルトさんが戻って来た。


「ザックスの分の旗だ。レースが外から見えるように、背中に背負いなさい」


 『4』と書かれた柄の長い旗を渡された。柄には背負ベルトが付いており、腕を通して背負えば頭上に旗が立つ。スロープから離れた場所からでも、順位が見える工夫なんだそうだ。


 ……うん、なぜ4なのかと言うと、出場者が2人追加されたせいである。非番の騎士らしいけど、ノリが良いなぁ。


「只の調整レースで、賭けは無しだからな! 金を賭けたいやつは年末まで待て!

 軽騎兵は重量ハンデで、荷重リュックと馬鎧を着せるように!」

「へいへい、このハンデがなきゃ、ぶっちぎりなのによぉ」

「アレがちょっと前に噂になっていた魔道具か。あんなのが早いのか?」

「ああ、ゴーレム馬の新型と聞いたぞ。魔力が多い魔導師なら、馬代わりになるってな」


 周囲からザワザワと声が聞こえる。それでも、騎士団が仕切っているので、混雑や諍いは起きていない。『1』が白馬で白鎧装備のルティルトさん、『2』が馬鎧で大きなリュックを背負った革鎧の青年、『3』は栗毛でプレートメイルを着た重そうなオジさんである。なぜ重装備で乗るのか疑問だったので、近くの観客騎士に聞いてみたところ、普段の装備で参加するルールなのだとか。

 そうこうする内に、スロープから1台の馬車が降りてきた。これで貸し切り完了である。


「わたくし達は、14時から会議なのですよ! 早く始めなさい!」


 ソフィアリーセ様の一喝で、ざわつきが消え準備が進められる。俺を含めた参加者は、大通りの半分に横一列で並べられた。

 そして、白黒の布がいっぱい付いた旗を持った騎士が歩み出る。彼は俺の方を見ると、ルール解説をしてから、旗を横に構える。


「3、2、1で旗を振り上げるぞ。それがスタートの合図だ。ゴールは屋上、一番に辿り着いた奴の勝利である。スキルの使用や、他者への攻撃は禁止。落馬したら失格だ、留意するように。

 全員準備はいいな!

 3……2……1……GO!!」


 旗が上がると同時に、手首辺りで貯めていた魔力を一気に指先からハンドルへと流し込んだ。


 急加速する。その後ろで、鞭の音が響いた。

 出足は好調。軍服な正装は重いが、鎧ほどではないから、軽い俺が有利だっただけだ。その証拠に、後ろから追って来る馬の威圧感が凄い。魔力を出し惜しみせず、どんどん注いで加速した。


『これは予想外だ! 初参加の4番! 魔道具のバイクってのがトップに躍り出たぁ!!』


 解説らしき、男の声が聞こえたが、その声も後ろへと置き去りにした、

 大通りから広場へ入り、人だかりに合わせてカーブすれば、あっという間にスロープの入り口である。加速したスピードのままに、坂道へと乗り込んだ。

 好調だったのはここまでだった。

 最初の坂道の半分を過ぎた辺りから、どんどんと失速してしまう。魔力を流しても、一定以上は流れない。要は低級ゴーレムコアの馬力不足である。


「退け、退けぃ! 所詮は魔道具、馬の力には勝てんぞ!!」


 後続の3番、栗毛な馬と重装備なオジさんが、怒鳴り散らしながら追い抜いていく。そして、直ぐに1番、2番の馬にも追い抜かれた。ルティルトさんなんて、追い抜く瞬間にこちらを一瞥して笑っていた。余裕のつもりか!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る