第351話 アリンコ鉱山で試し打ち
「よーし、部屋も狭くなって来たから、一旦終わりにしよう。レスミア、頼む」
「はーい、もう少しで充填出来ます!
………………行きますよ! 〈ストームカッタ―〉!」
レスミアが手に持った銀のカードから、緑色の閃光が走る。すると、部屋の端に(召喚役として)転がされていた銀装甲のロックアント6匹を包み込むように範囲魔法が発動した。緑色の風の刃がミキサーの如く回転し、中のロックアント達を切り刻む。風の刃は上昇気流と共に上がっていき、洞窟の天井辺りで消えて行った。
残されたのは、銀装甲に大きな傷を作りながらも、未だ蠢くロックアント達。
「倒しきれていない! 止めを刺すぞ!」
「おう! 〈稲妻突き〉!」
駆け寄る俺を追い抜いて行くのは、片手に銀のカードを持ったベルンヴァルトだ。高速移動から、飢餓の重棍が突き出され、2匹のロックアントを吹き飛ばす。
その後を追って、俺も緑色の光を纏ったホーンソードで、ロックアントを斬りつけた。銀装甲は固いので、普段なら関節を狙うとか、切れ味の良いミスリルソードを使うのだが、今日はどちらも不要である。ロックアントの弱点である風属性を纏ったホーンソードは、易々と銀装甲ごと両断するのだった。
〈魔剣術・初級〉の効果である。これは属性バフなので、スキルの様に硬直も無い只の通常攻撃だ。〈剣術の心得〉のサポートも借りて、流れるような剣捌きで4匹を連続攻撃し、止めを刺した。
「弱点の範囲魔法でも倒せないなんて、やっぱ劣化したのか?」
「だね。でも、鉄よりは銀のカードの方が、劣化は少ないよ。範囲は三分の二くらいで、威力も瀕死にさせるくらいはあったからな。誰でも使えるなら、十分な気がする」
「範囲魔法を撃つのって、爽快感があっていいですよね。魔物達をまとめて倒せるとか、闇猫では味わえない感覚です。
でも、MPが結構要りますし、充填も大変なので、毎回使うのは大変ですよ」
ロックアントがドロップした銀鉱石を拾い集めながら、〈フェイクエンチャント〉の使用感を聞いた。
それと言うのも今日の午前中に銀のインゴットを作成、銀のカードへ作り替えたせいで、手持ちの銀鉱石が無くなったからである。銀ならば、アリンコ鉱山から無限に取れるので、採掘ついでに使用感を試しているのだった。
因みに、女性陣には〈ライトクリーニング〉の銀のカードでテスターをしてもらった。それで、色々と意見を反映して作ったのがこれだ。
【魔道具】【名称:白銀にゃんこの銀カード】【レア度:D】
・お菓子屋&魔道具店のロゴが描かれた銀製のカード。魔法が付与されており、回数制限があるものの簡易的な魔道具として使える。
・錬金術で作成(レシピ:銀のインゴット+マナインク)
・付与スキル〈ストームカッタ―〉【3回】
只の銀板では寂しいとか、重いので携帯出来るサイズでとか、絶対売れるから宣伝にも使いましょうとか。
完成したのは、トランプサイズの銀のカードに、白銀にゃんこのロゴマークと店名が入っている物だった。マナインクで印字する事で、少しだけマナの巡りが良くなり、充填しやすくなる。そして、裏面は何もないツルツルであるが、ここに〈フェイクエンチャント〉で魔法陣を刻むわけだ。
……魔道具の名前にまで『白銀にゃんこ』が入るとは思わなかったけどな!
錬金釜にレシピ登録するのは大変だった。ロゴや店名は、厚紙のケーキ箱を創造調合したので大分頭に焼き付いている。しかし、まとめて調合する分は集中力がいる。100枚で失敗、50枚でも失敗、結局30枚で成功した。
インゴットの重量からして、銀のカードは500枚くらいまとめて作れるのに、自分の集中力の無さが恨めしい。まぁ、インゴットを必要重量分だけ切り取っておけばいいので、レシピ調合の回数が増えるだけだけどね。
むしろ、1枚ずつ〈フェイクエンチャント〉を掛ける方が手間である。MP消費は少ない(魔力を込めるのは使用者な)ので、連続して使用できるのが救いか?
そんな感じで、失敗した分だけ銀のインゴットも煙となって消えてしまい、レシピ登録してからも色々と試している内に在庫が無くなったのである。
そして、午後からは図書室を冷やかしに行った後、ベルンヴァルトと合流して銀鉱石集め&試し打ち祭りを開催した。
アリンコ鉱山を3回ほど繰り返し、十分な量の銀鉱石とデータを得る。
〈フェイクエンチャント〉で施した魔法は、銀のカードでも劣化するが、元の5割~7割(使用者の知力値の違い含め)は出ている気がする。その為、元々の威力が高い範囲魔法(ランク3)や貫通魔法(ランク4ジャベリン系)ならば、十分に戦力になるだろう。この時、知力値に中補正がある僧侶系とか商人系、小補正がある錬金術師や付与術師ならば、なお良い。
その一方で、戦闘系のアクティブスキルは総じて微妙である。前衛職でもない非戦闘職が武器系のスキルを使ったところで大した威力は無く、むしろ前に出るのは危ない。スカウト系や、フノ―司祭の様に鍛えた僧侶系が〈挑発〉とか〈フルスイング〉を使うくらいか? 需要は少なそうだ。魔法と比べて、使用回数が倍の6回とかあるのは良いんだが……
【魔道具】【名称:白銀にゃんこの銀カード】【レア度:D】
・お菓子屋&魔道具店のロゴが描かれた銀製のカード。魔法が付与されており、回数制限があるものの簡易的な魔道具として使える。
・錬金術で作成(レシピ:銀のインゴット+マナインク)
・付与スキル〈稲妻突き〉【6回】
採取師系や職人系のアクティブスキルも同じだ。俺が細工でよく使う〈メタモトーン〉などは、効果時間は短くなるし、MPも余計にいる。これなら本職に頼んだ方が良いだろう。魔法使いと違って、そこらの町の人が熟練職人だったりするからね。
そして、希少価値と言えば植物採取師がいる。〈自動収穫〉は採取業者のみならず、農家でも引っ張りだこになる……のだが、肝心の〈果物農家の手腕〉等がパッシブスキルなので、〈自動収穫〉だけでは意味が無かった。
アイテムボックスも種別が【アクティブ/パッシブ】なので、付与出来ない。これが付与出来たら流通が大荒れになりそうだったので、魔法使いの解放条件と同じく、出来ない方が正解だったか?
「そんな訳で実用性がありそうなのは、魔法と僧侶の奇跡全般、商人の〈中級鑑定〉と〈トランスポートゲート〉……後は利便性が下がっているけど罠術くらいだな。
ああ、そう言えば俺の特殊スキルを試していないか。
〈フェイクエンチャント〉〈詳細鑑定〉!
〈フェイクエンチャント〉〈ゲート〉!」
「俺は使うのに手間が掛かる魔法より、手早く使える罠術の方が良いぜ。〈トリモチの罠〉とか確かに小さいけどよ、戦士系なら〈挑発〉で誘導して、片足でも踏ませりゃ十分だ」
3時のおやつをパクつきながら教えてくれたのはベルンヴァルトだ。罠術全般をロックアントに使って使用感を教えてくれた。〈落とし穴の罠〉なんて、穴が浅くなって2m程しかなく、頑張れば這い出てこられる。ベルンヴァルトが試しに入ったら、頭がはみ出たからな。
ただそれでも、スキルなので使用回数は6回と多く、発動も早いので足止めには十分である。
そして、今しがた作成した銀のカードを鑑定してみると、
【魔道具】【名称:白銀にゃんこの銀カード】【レア度:D】
・お菓子屋&魔道具店のロゴが描かれた銀製のカード。魔法が付与されており、回数制限があるものの簡易的な魔道具として使える。
・錬金術で作成(レシピ:銀のインゴット+マナインク)
・付与スキル〈詳細鑑定〉【1回】
「あれ? 特殊スキルは使用回数が1回なのか……レスミア、使ってみてくれないか?」
「はーい、お菓子でも鑑定してみましょう。
〈詳細鑑定〉!
わっ! 本当に色々書いてある! 私の〈初級鑑定〉だと、名前とバフ効果しかないのに……でも、便利ですけど1回で消えちゃうのは勿体ないですよね~」
レスミアは手元から霧散していった銀のカードを、名残惜しそうな顔で言う。確かに、銀なのだからアクセサリーにでもすれば長く使えるのに、湯水の如く消耗しているからな。価値観が壊れそうだ。アリンコ鉱山で補充出来るのが救いであるが。
「それと、私達が〈ライトクリーニング〉の銀のカードを使えるのは嬉しいのですけど、売っても大丈夫でしょうか?
確か、アドラシャフトの伯爵様に秘匿するよう言われていませんでした?」
「世界に2人しかいない光属性魔法の使い手とバレると、やっかみを買うかもって話だね。
まぁ、多分大丈夫だと思う。売るのは魔道具の銀のカードだから、新しく開発したと思われるさ。
一応、ノートヘルム伯爵にはお伺いを立てるつもりだけど、ダイヤモンドの交渉で王都に行っているから、少し時間をおいてフォルコ君に連絡に行ってもらうつもりだよ」
それと、エヴァルトさんから光魔法の使い手である学園長に、相談するとも聞いている。色々と相談事が溜まっているからな。『エメラルドの封結界石』や『始まりの地』とか、『大昔のジョブ』等々。
ただ、その学園長も、俺の現状を知れば興味が薄れるに違いない。村の英雄がカンストしてしまったので、新しい光魔法は増えないからね。
そんな説明をしたのだけど、レスミアはまだ少し心配そうにしている。
「……それより先に、ソフィアリーセ様に相談しましょうよ。貴族視点から、それで良いのかアドバイスしてくれると思います」
「ノートヘルム伯爵に話す方が筋と思っていたけど、相談くらいなら良いか」
俺とレスミアが話し込んでいる内に、ベルンヴァルトがお茶菓子を食べ尽くしてしまったので、お替りをだす。すると、ベルンヴァルトが話題を変えて来た。
「そういや、新しいジョブの使い心地はどうなんだ?」
「ん? 魔法戦士は継戦能力が高くて良いね。魔法でドカンと一発じゃなく、属性の力を剣に込めるから無駄なく使っている感じだ。ワンドで使うと、浪漫溢れる感じがあって良いぞ!」
剣の先に魔法陣を出し、充填が完了してから〈魔剣術・初級〉を使うと、魔法陣が剣に巻き付いて光を纏う。この状態で攻撃すれば、込めた魔法の分だけ威力が上がった斬撃が出来る。ただし、斬り付ける毎に光が減っていくので、長く使いたければランクの高い魔法を込めた方が良い。
それと、ワンド(杖系)でも使用可能である。剣の時とは違い、魔法陣が細長く丸まってワンドの先にくっ付く……見た目はビームサ〇ベル(レイピア)かライトセ〇バーか……残念ながら振っても音はしないけどな。
それと言うのも、実体が無いようで重さも無い。魔物を斬り付けても、実際に斬り裂く事は出来ないのだ。ただ、外見上に傷は付かなくても、属性ダメージは通っているようで、ロックアントを倒す事は出来た。
装甲が硬すぎて武器が効かない様な魔物には、ワンドのビームサ〇ベルの方が、効果があると思う。
そして、もう一つの初期スキルである〈エレメント・カウンター〉。これは、敵の攻撃を剣で受け流したり、躱したりすると、剣からランク1魔法が飛んでいく迎撃スキルである。自動発動なので、意識せずに反撃してくれるので便利な一方、剣に込めた属性魔力を消費してしまうので、〈魔剣術・初級〉が早く切れてしまう。痛し、痒しである。まぁ、最初からランク高めを込めて置けばいい話であるが。
アリンコ鉱山で戦う内にレベルも上がり、レベル5でもエレメントスキルを覚えた。
【スキル】【名称:エレメント・ソードガード】【パッシブ】
・魔剣術を発動中、敵の攻撃を受け止める、もしくは受け流す際に、武器が破損し難くなる。
効果が発動すると、剣に込めた魔力を少し消耗する。
戦闘中の武器破損は致命的なので、抑制してくれるだけでも有難い。頑丈なホーンソードは兎も角、薄刃のテイルサーベルは結構欠ける事が多いのだ。チタンのインゴットから、〈メタモトーン〉で補修をしているので、使えてはいるけどね。
それにしても、これも剣に込めた魔力を消耗するとか、本当に戦術の中心だな。
「後、武僧に関しては、セットしているだけで格闘攻撃は試していないんだ。流石に銀の装甲を纏ったロックアントは固そうだからなぁ」
「サソリ相手に殴り掛かっていたのに、今更じゃねぇか?」
「いや、本気で殴っていたのは最初の1戦目だけで、後は〈ファイアマイン〉を埋め込むための殴りだったからな」
「しゃーねぇ、それなら殴りやすい奴に行こうぜ!
10層のカンガルーとかどうだ?」
思い返してみると、第2ダンジョンって植物と虫ばかりである。そうなると、動物なのはクイックワラビーと、ボスのクイックボクサーのみ。一応、1層に藁人形がいるけど、アレは只のサンドバックだ。技を掛ける練習には良いかも知れないが、戦闘とは言わない。
結局、格闘と言う事もあり、ボクサーに挑むことにした。
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