第350話 複合ジョブの情報とコミュEX
翌日の午後、レスミアと2人で図書室へ向かった。目的はもちろん、新たに手に入れた複合ジョブについて、聞くためである。魔法戦士と
レスミアとベルンヴァルトにもジョブの情報を展開してみたが、やはり知らない様だった。
「新しいジョブと言っても、村の英雄とか、遊び人、賭博師もありますよね?」
第2ギルドの階段を登りながら話していると、レスミアは可愛らしく小首を傾げた。最近は、事あるごとにエスコートしているので、腕に掛かる重みが心地よい。緩みそうな口元を引き締めつつ、レスミアの疑問に答えた。
「そうだけど……少し違うのは、種別がジョブじゃなくて、複合ジョブなところだな。
戦士と魔法使いの両方を育てないといけないけど、複数ジョブは俺の専売特許じゃないんだよ。大昔……統一国家だっけ? その頃には、複数ジョブが当たり前にあったらしい。以前、リプレリーアから聞いた大昔のジョブも、何か関連性があると思うんだよ」
ただし、リプレリーアから聞いた大昔のジョブの中には、魔法戦士と武僧らしきものは無い。メモした紙を読み直しても、戦士や剣士はいるけど魔法っぽくないんだよな。
・竜を使役する騎士
・時を操る魔法使い
・転移ゲートを作る錬金術師
・残像を残す程の高速剣で敵を斬り裂き、凍り付かせる戦士
・騒がしく、目立つのが好きな暗殺者
・他者を癒やし、悪霊をも跳ね除ける光の騎士
・何本もの剣を同時に操る剣士
・他国からの侵略軍を眠らせ死者0で守った猫族の英雄
・革命に大量の白虎を引き連れてきた虎人族の王
・竜に変身する蜥蜴族の族長
・精霊を使役する魔法使い
「あ、この猫族の英雄なら、ドナテッラでも有名な御伽噺ですよ。ついでに、サードクラスになっているお爺ちゃんの持ちネタでもありますね。子供を寝かしつけるのに、眠らせるスキルを使ったりしますから」
「なるほど、それはスキルの平和利用でいいな」
そんな、雑談をしている内に、図書室へと辿り着いた。中のカウンターでは、首輪もチョーカーも無い(釈放された?)リプレリーアが読書をしている。どうせ、いつもの様に覚えていないのだろうから、先手を打った。カウンターにあるスイッチで赤ランプを点灯させ、本から顔を上げたところに、資料を1枚突き付けた。
「こんにちは、リプレリーア嬢。赤毛が来たんだけど、また相談に乗ってくれないか?」
「…………この文体は赤毛!? 献上品を持ってくるなんて、殊勝な心掛けね! むしろ、毎日持って来なさいよ!」
「いや、献上品じゃなくて、情報の対価だって言っているだろう。ついでに、資料じゃなくて、人の顔を見て話せよ」
諦めから名前でなく赤毛と名乗ったのに、資料に喰らい付いて、こちらを見ようともしない。見せ札として出したのが1枚で正解だったな。束で渡したら、読み終わるまで話にならなさそうだ。
一心不乱に資料を読むさまに、レスミアも少し引き気味である。
「ヴィナから聞いてますけど、変わったお嬢様?ですよね」
「頭に本狂いって付くタイプのお嬢様だけどなぁ。まぁ、知識量は凄いから、頼りにはなるんだけど」
図書室には他の利用者もいるようなので、小声で話す。コショコショと耳打ちしていると、早々に読み終えたリプレリーアが顔を上げた。
「ここのお花のボスを倒す方法を書いた本は幾つもあるけれど、囲んでサソリの鋏を使うのは初めて見たわ。透明な魔絶木で目を覆うって、毒花粉を防ぐのは面白いんじゃない? 実際に出来るか見ものだけど……
なに? 赤毛ったら、また違う女を連れているのね。前の痴女に、鬼人族にお盛んですこと! 受付嬢とかメイドの噂話の餌食になりなさい!」
「ええと、痴女ってヴィナの事ですよね? 鬼人族?」
何故か途中から下世話な顔をするリプレリーア、その目を向けられたレスミアは困惑していた。痴女呼ばわりは、前回弄られた恨みからフロヴィナちゃんと分かるが、鬼人族?
ただ、俺の知っている鬼人族なんて、一人しか居ない。そうなると……
「いや、多分ヴァルトの事だよ。コイツ、人の顔とか覚えないから」
「えぇ……アレをどうやったら女に見えるんですか???」
頭が良いけど、本が絡まないとポンコツなのでしょうがない。取り敢えず、ニヤニヤしているリプレリーアに反論しておいてから、本題に入る。
「痴女じゃなくて家の使用人だし、鬼人族は男のパーティーメンバー。隣にいる可愛い娘が婚約者なので、間違えるなよ。
それで、さっき見せた資料の対価として聞きたいことがある。複合ジョブって聞き覚え……読み覚えはないか?」
「複合……ジョブ?」
頬に手を当て、斜め上の虚空を見上げてフリーズするリプレリーアだったが、少しして頭を振った。
「知らないわね。字面からして、複数のジョブを使うアンタに関係しているんでしょうけど……詳細を教えなさいよ。
いえ、アンタの事だから、資料にしているのでしょう? 勿体ぶらずに、見せなさい!」
「図書室の司書なのに煩い。もうちょい声を落とせ。
……まだ、上司にも見せていない資料なんだ。他言無用で頼むぞ」
「資料が読めるなら、それくらい良いわ」
声を落としたリプレリーアに念押ししてから、2枚の資料を渡した。それは、魔法戦士と武僧ジョブの鑑定結果の写しである。
【複合ジョブ】【名称:魔法戦士】【ランク:2nd】解放条件:戦士Lv30、魔法使いLv30。近接距離で魔法を使い魔物を倒す。属性が付与された武器を使う。
・魔法の力を剣に込め戦う前衛職。魔剣術で敵の弱点を突きながら、特有のエレメントスキルで戦局を有利に運ぶ。ただ、魔剣術が全ての起点となるため、切らさないよう、切れても直ぐに再使用する必要がある。
また、このジョブは例外として、魔道士のスキルも引き継ぐ。並行して育てれば魔法の種類も増え、戦略に幅が出るだろう。
・ステータスアップ:HP小↑、MP中↑、筋力値中↑、耐久値中↑、知力値中↑、精神力小↑、敏捷値小↑
・初期スキル:戦士スキル、魔道士スキル、魔剣術・初級、エレメント・カウンター
【スキル】【名称:魔剣術・初級】【アクティブ】
・充填が完了した魔法陣(初級属性)がある場合にのみ、発動可能。初級属性魔法を剣に込め、属性の力を付与する。もしくは杖の先に属性剣を作り出す。
この時、使用した魔法のランクにより、属性ダメージと効果時間が変わる。
【スキル】【名称:エレメント・カウンター】【パッシブ】
・魔剣術を発動中にのみ、自動発動。敵の攻撃を受ける、もしくは躱すと、剣に込めた魔力を使用し、同属性のランク1魔法で反撃する。
戦士×魔法使いは定番中の定番だな。その中でも、自分の剣に属性バフを付与するタイプらしい。鑑定文にある魔道士も育てろと言っているのは、魔法使いではランク5までしか使えないせいだと思う。ランク6以降は魔道士だからな。
剣で戦いつつ、魔法も織り交ぜるので、俺にはピッタリのジョブだろう。解放条件の近接距離で魔法を使うなんて偶にあるし、属性が付与された武器はプラズマランスとか紅蓮剣で満たしたに違いない。
【複合ジョブ】【名称:
・僧侶の修業のみならず、肉体も鍛え上げた教会の僧兵である。格闘術に関するスキルを多く覚え、徒手空拳で魔物と渡り合い、対人戦においては無類の強さを誇る。
また、身に着ける装備品の重量が少ない程、アクティブスキル後の硬直が短くなる特性を持つ。身体の動きを妨げない軽装を心掛けよう。
・ステータスアップ:HP小↑、MP中↑、筋力値中↑、耐久値中↑、知力値小↑、精神力中↑、敏捷値小↑
・初期スキル:僧侶スキル、修行者スキル、格闘の技巧、格闘術の心得、三日月蹴り
【スキル】【名称:格闘の技巧】【パッシブ】
・格闘攻撃時の反動を半減する。また、装備重量が軽い程、アクティブスキルの硬直を短くする。
【スキル】【名称:格闘術の心得】【パッシブ】
・武器を持たず、徒手空拳で戦う際の行動全般を補正する。この際、手や足を防護するガントレットやブーツは着用していてもよい。
【スキル】【名称:三日月蹴り】【アクティブ】
・三日月のような軌道で放たれる中段蹴り。人相手ならば、ガードを擦り抜け脇腹を痛撃する。
〈格闘術の心得〉があっても、魔物相手に徒手空拳は無いよな。なんて言っていたら、専用のジョブが来たでござる。おあつらえ向きに、格闘攻撃時の反動も減らすスキル付きで。
ただ、解放条件の『徒手空拳、魔法無しで魔物を倒す』に関しては、心当たりが直ぐには思い出せなかった。大抵は武器か魔法を使っているし、ブラストナックルを使っていた時でさえ〈ファイアマイン〉に頼っていたからな(サソリは殴ると反動が痛いので)。
記憶を順に掘り返していくと、なんと村の最初の方。初めて戦った魔物であるパペット君を、素手で倒していた事もあったのを思い出した。戦闘に慣れて来た頃、採取巡りで急ぐあまりに、転がしてから首を蹴り壊していたなぁ。
リプレリーアは2枚の資料を読み終えると、怪訝な目で俺を見つめてくる。
「赤毛、これは貴方の創作?」
「いや、簡易ステータスを見れば分かるだろ、ほら。
以前、大昔のジョブについて聞いたよな? あの中にジョブを組み合わせたとか、複数育てたとか、そう言う情報は書いてなかったか?」
疑われる気はしていたので、最初からジョブに設定しておいた。簡易ステータスは誤魔化しようがないので、身の証を立てるのには最善である。ただ、それを見たリプレリーアは、額に手を当て、本格的に考え込んでしまった。
15分程して、リプレリーアが我に返った。
俺とレスミアは、手短な書棚にあった貴族街のタウンガイドみたいな本を読んでいた所であったので、それを元に戻し、カウンターへ向かう。すると、リプレリーアは手を振って駄目だったと示した。
「新しい情報は無いわ。私が読んだ本は、どれも最近の物が多いのよ。御伽噺には詳しい状況何て書いていないし、複数ジョブが当たり前だった時代の本でないと……やっぱり、地下書庫よね。
王都の図書館の調べ物の助手の件、まだなの? 私が調べてきてあげるから、早く許可なさい!」
「まだ、先方から返事が来ていないんだよ。向こうも忙しいらしくてね。
丁度今日、俺の上司が王都に行っているから、そのついでに状況を確認してきてくれるけど……リプレリーアの方は、家族の許可を得たのか?」
「えっ! ……お母様からはお許しを貰えたけれど、お父様からはまだなの。『誰の助手なのか、信頼できる奴なのか分かってからだ』って」
御尤もである。変人とはいえ年頃の御令嬢だからな。ただ、エヴァルトさんは僧侶系サードクラスの司教、加えてアドラシャフト教会のお偉いさんらしいので、信用としては大丈夫な気がする。許可が出そうならば、メディウス子爵家にも連絡するよう頼んでおこう。
そこら辺を教えると、リプレリーアはホッと胸をなでおろした。そして、何かを思い出したように手をポンと叩く。
「あ、そうそう、関係無いかも知れないけど、子供の頃にお父様から聞いた話を思い出したわ。
学生時代に『王族専用のジョブがある』って、噂になっていたそうよ」
「メディウス子爵の学生時代って、結構前だよな? 今の学園では噂になっていないのか?」
ツヴェルグ工房で会ったメディウス子爵の顔は、初老に差し掛かったくらいの歳に見えたと思い出す。実年齢は知らないが、15歳から入学する学生時代は3、40年前だと思ったのだ。その問いに、リプレリーアは興味も無いのか、思い出す素振りも無く、笑い飛ばした。
「さぁ? 私は学園に殆ど行っていないから知らないわ。だって、教科書を読めば暗記出来るもの! 図書館に通った方が有意義よね?!」
「そんなんだから、退学になんだよ……」
……知識はあっても、実践できる社交性は学べてないんだよなぁ。
メディウス子爵夫人が心配する訳である。俺には手に余る案件だと、思わず脱力してしまった。
すると、隣のレスミアが、慰めるように肩をポンポンと叩いてくれる。
「まぁまぁ、現役の学園生であるソフィアリーセ様に聞いてみれば良いじゃないですか。明日は休日ですからね」
「ああ、スティラちゃんと遊ぶ約束をしていたな」
そんな訳で、複合ジョブについては、何の成果も得られなかった。ただ、その代わりに、真偽不明な王族専用ジョブなんて情報を得る。魔法使いが血筋によるとか、種族専用ジョブもあるので、有り得ない話ではないのかな?
取り敢えず、リプレリーアには口止めの意味を含めて資料を貸し出し、図書室を後にした。
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