第348話 サブタイトルさん「ようやく出番が来た気がする!」
【スキル】【名称:フェイクエンチャント】【アクティブ】
・金属製の物に、種別【アクティブ】のスキル、もしくは魔法を込める。ただし、込めたスキルや魔法は大幅に劣化し、一定回数使用すると崩れ去る。
この際、使用した金属のレア度や大きさ、魔法陣の大きさにより、使用回数や威力が増減する。
使用する際は、〈フェイクエンチャント〉に続いて、付与したいスキルや魔法を連続使用すること。
「あの、どうかしたんです?
急に考え込んで……」
「ん? ……ああ、ゴメン。付与術師で新しく覚えたスキルが難物でね。
考え込むより、試した方が早いか」
金属製の物で、壊れてもいい奴はないかとストレージのフォルダを漁る。投擲用のダガーはお買い得品だったけど、勿体ない。自作したアイアンスレッジハンマーは、あぶら取り紙作成にしか使っていないが、大物なので勿体ない。
結局、一時期大量生産した、鉄の
「〈フェイクエンチャント〉!〈付与術・敏捷〉!」
鏃の平面部分に光の線が走る。すると、プリントアウトするかの様に、緑色の魔法陣?のような紋様と文字が描かれた。ただ、魔法陣と言うより、力こぶを作っている腕の絵である。付与したのは敏捷値なので、恐らくステータスアップを表しているのだろう。
肝心の文字は、錬金釜やレシピにも書かれている物と同じなので、何が書かれているのかは不明である。まぁ、スキル名とか説明文と推測している。複雑なので、解読する気にはなれんけどな。
【武具】【名称:鉄の鏃】【レア度:E】
・鉄製の鏃。矢の先端に取り付ける事で、貫通力を上げる。
・付与スキル〈付与術・敏捷〉【1回】
鑑定してみると、こんな感じである。付与スキルが明記されたのだが、その後ろに【1回】と付くのは初めてだ。恐らく使用回数なのだろう。物は試しと、早速魔力を込めてみると、腕マークに緑色の光が走る。普段、付与術を使う場合、スキルなので魔法陣には充填しない。手に貯めた魔力を消費して、即時発動するからである。
フェイクエンチャントをすると、描かれた魔法陣に充填するという、手間が発生するようだ。ついでに、鉄なので魔力が通し難い。
そして、腕マークが完全に緑色に点灯すると、脳裏に〈付与術・敏捷〉と浮かんだ。この辺は、癒しの盾と同じだな。レスミアを対象にして、発動する。
「いつもの付与術ですよね? あ、壊れちゃった」
「これじゃ、エンチャントストーンと同じじゃねぇか?」
「対象が選べる点は違うけどね。レスミアちょっと動いて、敏捷値が上がったか確認してくれないか」
「は~い」
階段入り口の広場なので、軽く走る程度の広さはある。ついでに、もう2つ作り、俺とベルンヴァルトも体験する事にした。使用する度に鏃が崩れ去って、マナの煙となって消えていくので、勿体ないけど。
〈フェイクエンチャント〉で施した〈付与術・敏捷〉の効果は5分程で消えてしまった。普通なら15分は持つのに……これが『大幅に劣化』と言う事なのだろう。念の為に、普通の〈付与術・敏捷〉も全員に掛け直し、比べてみると。
「やっぱり、こっちの方が、身体が軽くなりますよね?」
「体感で〈フェイクエンチャント〉の方と比べると、倍以上かな。つまり、半分以下に劣化していると……」
「ガハハハッ! 流石は付与術師だな! 微妙なスキルだ!」
他者にバフが掛けられるといっても、効果も効果時間も大幅に劣化し過ぎである。これなら、各々にエンチャントストーンを持たせておいた方が、マシだろう。
因みに〈クリエイト・エンチャントストーン〉で作ったエンチャントストーンも『少し劣化する』と鑑定文にあるが、問題視する程下がっていない。体感では、違う気がする程度なので、劣化具合も1割2割程度なのだろう。
さて、スキルの仕様が何となく分かったところで、本題に入ろう。鑑定文を読んだ時から気になっていた……『種別【アクティブ】のスキル、もしくは魔法を込める』……ここの部分だ。
……俺の予想が当たっていると、大事になりそうな気がしてならない。
鉄の鏃を取り出して、再度スキルを使用した。
「〈フェイクエンチャント〉!〈ファイアボール〉!」
「あれ? 何も起きませんよ?」
魔力の消費すら無かったので、不発である。普通の付与術師では、アクティブスキルなんて使い道がある物は少ないが、複数ジョブを持つ俺ならば、他ジョブの魔法でも付与できると踏んだのだ。
しかし、結果は失敗。改めて鑑定文を読み直すと……『この際、使用した金属のレア度や大きさ、魔法陣の大きさにより、使用回数や威力が増減する』これが怪しい。
ただ、手持ちに銀鉱石はあっても、消耗品として使える銀製品など無い。銀のインゴットのレシピはあるので、作れない事は無いのだが……お値段的に、在庫がある鉄のインゴットで試す事にした。
鉄のインゴットを聖剣で千切りにして、鉄のカードを作成する。鏃と比べれば、表面積は倍以上だ。
そう、魔法はランクが上がる毎に魔法陣も大きくなる。スキルである〈付与術・敏捷〉と比べても、ランク1の単体魔法のMP消費は多い。つまり、鏃の大きさでは魔法陣が入らないのではないかと推察したのだった。
「今度こそ!〈フェイクエンチャント〉!〈ファイアボール〉!」
2度目の正直! 鉄のカードの表面に赤い光が走り、見慣れた九芒星がプリントアウトされた。文字も魔法陣も赤字なのは火属性だからか?
【素材】【名称:鉄の板】【レア度:E】
・鉄製の板。防具素材や建材、日用品等々、幅広く使われる。
・付与スキル〈ファイアボール〉【1回】
付与には成功したが、使用回数は1回のままである。レア度Eの鉄ではこんなものだろうか?
取り敢えず、ベルンヴァルトに使うようお願いした。
「良いけどよ、なんで俺が試すんだ?
リーダーが自分で試した方が、違いを比較出来んだろ?」
「もしかしたらだけど、これで魔法が使えれば、魔法使いのジョブが得られるかも知れないからね。ほら、レスミアやルティルト様は癒しの盾で〈ヒール〉を使う事で、僧侶のジョブが得られただろ。それと同じさ。
後、今思い付いたけど、レスミアは水属性と風属性の適性しかないからな。〈ファイアボール〉は使えないかも?」
「「魔法使い!!!」」
2人の驚きようも尤もである。それと言うのも、ダンジョン攻略に欠かせない魔法使いが、血統によるからだ。貴族が特権階級でいるのも、魔法使い系を多く抱えて、ダンジョン攻略や騎士団で活躍しているからである。妾や愛人を増やす理由でもあるな。
魔法使いの解放条件は『基礎Lv5以上、魔法使い系の血筋、もしくは他のジョブで属性魔法攻撃を使う』である。ならば、魔道具で魔法を使っても条件を満たせるかも知れない。
そんな思惑で、試し打ちをしてもらう。
「……なぁ、魔力が全然入って行かねぇんだけど」
「鉄は魔力の通りが悪いからな。鉄のカードを持つ指先に魔力を集中させて、無理矢理押し込むと良いぞ」
「指先ぃ?!」
ベルンヴァルトが充填に苦戦している間に、レスミア用に〈アクアニードル〉、そして自分の比較用に〈ファイアボール〉を作っておく。
「おおっし! 行くぜ! 〈ファイアボール〉!……って小っせぇ!」
1分近く時間を掛けて、漸く発動した魔法は、火の玉を撃ち出した。ただし、本来ならバスケットボールサイズの筈なのに、出て来たのや野球の硬球サイズである。どう見ても劣化していた。そして、肝心のジョブは…………増えていなかった。
「駄目かぁ……いや、まだ諦めるには早いな。レスミアも試し打ちしてくれ。ヴァルトは他の属性もな」
「はーい。私は〈ウォーター〉で、魔法は使い慣れてますからね。ヴァルトよりも早く溜められますよ~」
「別に魔法使いになるつもりはねぇから、悔しくもないがな」
そんな訳で、色々試してみた。その結果をまとめてみると。
・発動に必要なMPは元と変わらないが、威力は大幅減。(火の玉が小さくなったり、水の針が5本から2本に減ったり)
・本人の魔法適正の有無に関わらず使用可能(レスミアは水と風属性しかないが、火と土属性も発動出来た)
・魔法使いの解放条件は満たせない(魔物に使っても駄目)
・鉄ではランク2のシールド魔法まで。鉄のカードを4枚くっ付けた大判でランク3まで付与できる。ただし、大きくて邪魔になる。しかも、回数はどれも1回のみ。
「魔法に関しては、完全にハズレだったな。まぁ、魔法使いの解放条件を満たせたら、満たせたで大事件になっていただろうけど。ある意味、セーフか?」
「えーっと、誰でもお手軽に魔法使いになれる……えっ! 私でも不味い事だって分かりますよ!
良かったぁ、また伯爵様やソフィアリーセ様に迷惑を掛けるところでしたね」
「だね。それじゃ、残り2枚ずつ試したら、一旦検証は終わりにて、ボスの周回に戻ろう」
色々試しながら、九十九折の土手道を歩いてきて、既にボスの大扉前の広場である。検証の続きは銀のインゴットを作った後にしたい。
2人に、2枚ずつ鉄のカードを渡すと、怪訝な顔をされた。
「黄色の魔法陣と、こっちはサイコロ?」
「俺の方は太陽と月の魔法陣? それと、剣を振るう絵か……何のスキルなんだ?」
まぁ、魔法陣とか絵柄では、何が付与されたのか分からないので、しょうがないか。販売を視野に入れるとなると、取り違えないような工夫が要るな。
「レスミアの方は、〈ライトクリーニング〉と〈ダイスに祈りを〉、ヴァルトの方は、僧侶の癒しの奇跡〈ファーストエイド〉と、村の英雄の〈ブレイブスラッシュ〉だよ」
「わぁ! 〈ライトクリーニング〉!! これがあれば、好きな時に使えるんですよね!」
レスミアは花咲くような笑顔を見せると、喜んで充填を始めた。毎晩、〈ライトクリーニング〉を掛けて回るのが日課になっているけど、足りない所があったのかな? まぁ、女の子には色々あるのだろう。
そして、魔法が発動すると、レスミアを中心に1m程の魔法陣が広がった。普段が3m程の円なので、明らかに劣化している。ただ、誰にでも使える点は良い。アドラシャフトの本館でも、鍋の黒ずみとか油汚れの酷い厨房周りは、メイドさん達に喝采を浴びたものだ。後は、女性探索者とかね。外にシャワーが完備されているけれど混むし、返り血に汚れた防具を洗うのも結構大変なんだ。
1回使えば崩れ去る消耗品なので、需要は無限にあるだろう。そんな、捕らぬ狸の皮算用をしていると、レスミアが次のカードを使用した。
「〈ダイスに祈りを〉! ……確か数字が大きい方が良い事が起きるんですよね? えいっ!」
この運試しスキルは1日1回しか使えないのだが、〈フェイクエンチャント〉で付与するのも、1回として数えられるようだ。今日は偶々使い忘れていたので付与出来たが、試しに2回目を行うと不発になった。
そんな訳で、レスミアが放り投げた10面ダイスが、コロコロと転がって行く。出たのは『2』! ファンブル一歩手前だ!
「全員警戒! モンスターハウスみたいに、数が出てくるぞ!」
俺の号令に、一早くベルンヴァルトが盾を構えて前に陣取る。レスミアも矢筒から矢を引き抜き、弓を番えた。俺も範囲魔法の充填を開始する……のだが、どうも様子がおかしい。10面ダイスが霧散していき、その煙から魔物が現れ出でるのだが、煙が少ないような?
少し待って、煙の中から出て来たのは、リーリゲン2匹だけだった。
「あっ! ダイスの効果も劣化して、数が減ったのか!
まぁ、不幸中の幸いかな。ヴァルト、ついでにさっき渡した〈ブレイブスラッシュ〉を試してくれ」
「なんか、拍子抜けだな」
そう言って前に出たベルンヴァルトは、長大なツヴァイハンダーを〈ブレイブスラッシュ〉の光で輝かせながら、横一文字に2匹まとめて両断したのだった。
ただし、大剣が纏う光量は少ないし、効果のノックバックも少し後ろに飛んだ程度。武器を使ったアクティブスキルでも、やはり劣化する事が確認できた。
「じゃあ、使うぞ〈ファーストエイド〉!」
最後に、ベルンヴァルトがレスミアを対象にして、回復の奇跡を使った。〈ヒール〉は鉄のカードには付与出来なかったので、初期スキルの〈ファーストエイド〉にした次第である。ただ、回復量は2の次。目的であるベルンヴァルトのステータスを見てみると、僧侶のジョブが増えていた。
因みに解放条件はこれだ。『基礎Lv5以上、他者を無償で治療する(薬品はレア度B以上、身内は除く)』
「僧侶は増えるのか。確かに文言は違うけどさ。
そうだな……ついでだから、ヴァルトも僧侶を育てようぜ!」
「また、それか……まぁ鬼徒士も、重戦士もレベル30になったから、良いけどよ。普段は使わねーぞ」
「ああ、使わなくても構わないよ。ここのボスの周回なんて、〈ダーツスロー〉以外のスキルは使わない、伐採作業だからね。経験値が勿体ないから、育ててみるだけでいいさ」
「あ、私は植物採取師に変えて下さい」
レスミアの方は慣れっこだからな。俺の方も残るは、賭博師と各種ファーストクラスのみ。
〈フェイクエンチャント〉の検証はここまでにして、ボスの周回へ戻るのだった。
ただし、そのファーストクラスにも地雷が埋まっている事に気が付いたのは、夕方の話である。
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