第347話 ギャンブルスキルの検証と新しい地雷
レスミアが合流する昼休憩まで、12層で口笛狩りを継続した。クゥオッカワラビーが現れたら、罠術で吊り上げてウォッカを強奪し、ロックアントやクイックワラビーならば、ポーカー勝負を仕掛ける。当然、そんなギャンブルスキルばかり使っていると、ブタを引くのは自明の理である。何度かワンペアを引いて、他の役も引きたいと使い続けた結果……
『スペード1』、『スペード13』、『クラブ2』、『クラブ4』、『クラブ5』
惜しい! 黒一色だけどフラッシュでもないし、ストレートには3を飛ばしている。結局は、只のブタだ。
慌てて保険の〈いかさまの拙技〉を使おうとしたのだが、不発する。そう、〈いかさまの拙技〉は2時間に1度しか使えないのだった。
点滅する5枚のトランプが、近寄って来る。思わずバックステップで逃げると、同じ速度で追っかけて来た。いや、むしろ俺が吸い寄せているようである。
……デメリットの踏み倒しはNGってか!
覚悟を決めて、両腕でガード態勢を取ると、そこに点滅するトランプが接触する。その直後、5枚のトランプが一斉に爆発した。
爆風に押されて、後ろへ吹き飛んだ。不思議と爆発による痛みは無かったが、衝撃で麻痺しているだけか?
そんな、疑問を考える間もなく、後ろの壁に激突した。
ぶつかった衝撃で頭がクラっとしたものの、意識を失うほどでもない。むしろ、痛みは無いのだが、身体が動かないのだ。
予想外の展開に驚いていると、魔物を殲滅したベルンヴァルトが駆け寄って来た。
「おい! リーダー、大丈夫か!
壁に減り込む威力なんて、聞いてないぞ!」
「あー、これは派手なだけで、怪我も無いから大丈夫だ。〈リアクション芸人〉の暴発だな」
壁に大の字になって減り込んでいるが、痛みも無いしHPも減っていない。そして、賭博師は遊び人スキルを継承しているので、ダメージが発生する爆発に対して、派手なリアクションで相殺したのだろう。
ベルンヴァルトに引っ張り出してもらうと、壁が見事な大の字に陥没していた。芸人と言うより、ギャグ漫画かな?
「まったく、脅かすなよ」
「すまん、すまん。〈リアクション芸人〉は俺も忘れた頃に、突然発動するからな。ダメージを無効化してくれるのは良いんだけど……まぁ、派手に吹き飛んだらコイツのせいだと思ってくれ」
ギャンブルスキルを外した時の保険になるのは、知らなかった。ただ、これも4時間に一度の発動なので、過信は出来ない。〈いかさまの拙技〉は2時間なので、合わせて4時間で3回は使える。1日中探索するとしても、8時間で保険は6回か。いや、〈いかさまの拙技〉の成功率も50%なので、期待値としては4回と見積もった方が良い。
……ネタにするなら、ハズレのダメージも体験しておいた方が良いか。
そんな訳で、ギャンブルタイムを継続する事にした。
そして、ツーペアを出して喜んだ束の間、その次にブタさんがやってくる。実際に爆発を喰らってみると、爆風が身体を突き抜けていくように、痛みが走った。この感じは、範囲魔法の属性ダメージと似ている。爆発が直撃しても、防具には傷一つない辺り、物理現象ではなく、魔法的な効果だと推測した。
爆風を受けても痛いだけで、後ろに吹き飛ぶどころか、ちょっと押された程度であったからな。吹き飛んだのは100%〈リアクション芸人〉のせいだった。
結局、3連続でブタを引いた辺りで検証は止めにして、ウォッカの採取に専念する事にした。
うん、言うまでも無く、幸運のぬいぐるみはドロップしなかったんだ。クゥオッカワラビー相手にストレートフラッシュが出れば、確定レアドロップだったのに、保険無しでは当たる気がしなかったよ。
昼時になりレスミアと合流、30層の入り口の広場で昼食となった。午前中の顛末をレスミアに語って聞かせると、可笑しそうに笑う。
「アハハ! それで、疲れた様子だったんですね。大した事が無くて良かったです。
それにしても、検証が終わったのなら、無理にギャンブルスキルを使わなくても良いじゃないですか」
「まあね。ギャンブルだから結果が安定しないし、攻略中の階層では使うつもりもないよ。逆に言うと、対処法が確立した階層なら、保険ありで使う分には良いと思う」
〈ダイスに祈りを〉と同じく、掛け金も無しで使えるので、保険ありならば有りだろう。ブタでダメージを喰らっても、痛みを我慢すれば、〈ヒール〉で治せる程度とも言える。そんな感じで、ギャンブルにのめり込んではいないと、アピールしていると、対面で極太ホットドッグをパクついていたベルンヴァルトが指摘してきた。
「ポーカーの一発引きで、役を作れとか無茶なスキルだぜ。普通は1回か2回は、カードチェンジしないと揃わんだろ。賭けポーカーじゃ、掛け金を積めば何度も引けたりするルールもあるしな。
あー、もしかすると、レベルを上げればそんな感じのスキルが増えたりしてな!」
「掛け金を積むとか、ギャンブラーっぽいから、ありそうだよなぁ。他には、いかさまの手口が巧妙になるとか?」
昼食を取りながら、新スキルで盛り上がるのだった。
午前中で上がったのは以下の通り。
・重戦士レベル28→30 ・賭博師レベル7→20
・新興商人レベル26→30 ・熟練職人レベル27→30
・採掘師レベル28→30 ・付与術師レベル27→30
重戦士はHPの補正が上がっただけなので割愛する。
【ジョブ】【名称:新興商人】【ランク:2nd】解放条件:商人Lv25以上、金貨を使った商いをする
・非戦闘職。売買をするたびに経験値が貰えるため、精力的に大きな商売をしよう。初期スキルである〈契約遵守〉は、大口契約の保障となるだけでなく、あらゆる契約に有効である為、為政者からも重宝される。目指せ、御用商人!
・ステータスアップ:MP小↑、耐久値小↑、知力値中↑【NEW】、敏捷値小↑、器用値小↑
・初期スキル:商人スキル、契約遵守
・習得スキル
Lv 5:交渉術、中級鑑定
Lv 10:MP小↑、大口取引の経験
Lv 15:礼儀作法の心得
Lv 20:鑑定図鑑閲覧
Lv 25:営業スマイルのペルソナ、週刊帳簿チェック
Lv 30:知力値中↑【NEW】
新興商人は知力補正が上がった。知力値は魔法威力だけでなく、賢さと言うか、頭の回転の速さにも影響がある……らしい。〈週刊帳簿チェック〉があるように、事務仕事が多い商人には必要なステータスなのだろう。
今のところ、俺は実感していないけどね。魔法使いのスキル〈カームネス〉を使った方が、頭が回る気がする。
【ジョブ】【名称:熟練職人】【ランク:2nd】解放条件:職人Lv15。
・熟練した技術により、様々な物を作り出すサポートジョブ。アクセサリー等の小物から、服飾、革加工、写本等々、様々なスキルを習得できる。自分の職業に合ったスキルを使い、効率化しよう。
・ステータスアップ:HP小↑、MP小↑、筋力値小↑、耐久値中↑、器用値大↑【NEW】
・初期スキル:職人スキル、アイテムボックス小、ポリッシング
・習得スキル
Lv 5:熟練集中
Lv 10:耐久値中↑、エアリング
Lv 15:初級鑑定、メタモトーン
Lv 20:MP小↑、マニュリプト
Lv 25:アイテムボックス中、オートスピニング
Lv 30:器用値大↑【NEW】、オートウィーバー【NEW】
熟練と言うだけあって、手持ちのジョブの中で器用値が一番に大補正となった。スキル構成的には統一感がないけどね。洗濯物を乾かす〈エアリング〉、細工物をする〈メタモトーン〉、手書きコピーな〈マニュリプト〉、糸紡ぎの〈オートスピニング〉と、見事にバラバラ……と、思っていたが、レベル30では連続性のあるスキルを覚えた。
【スキル】【名称:オートウィーバー】【アクティブ】
・糸素材を消費して、布へと加工する。複数色の糸を使った場合、術者のイメージで模様や絵柄を入れる事も可能。ただし、複雑である程、集中力とMPが必要となる。 風火魔法の亜種。
糸紡ぎスキルの次は、機織りスキルだった。しかも、集中力がいる辺りが錬金調合っぽい。
試しに、シルクスパイダーのレアドロップである『シルクの糸束』に使ってみたところ、1m程の球体の膜が現れて、内側へと素材を取り込んでいく。そして、自動的に糸が絡み合い、織り込まれていった。
作業工程は〈オートスピニング〉とそっくりである。そして、真っ白な光沢のあるスカーフくらいのサイズの布へと生まれ変わった。俺が持っていてもしょうがないので、レスミアにプレゼントしておく。
このスキルは俺よりも、服作りが得意なフロヴィナちゃん用だな。次の機会にでもレベリングをしよう。
【ジョブ】【名称:採掘師】【ランク:2nd】解放条件:採取師Lv15以上、鉱物系採取地で多く採取する。宝石を採掘する。
・非戦闘職。鉱物系採取地に特化し、採取地で採取をすると経験値が貰える。レベルが上がると狙った素材を採掘しやすくなるスキルを習得する。しかし、あくまでも入手しやすくなるだけなので、数を掘ろう。
・ステータスアップ:HP中↑【NEW】、筋力値中↑、耐久値中↑、器用値小↑
・初期スキル:採取師スキル、アイテムボックス小、採掘道具強化
・習得スキル
Lv 5:初級鑑定
Lv 10:筋力値中↑
Lv 15:石炭供給操作、投擲術
Lv 20:耐久値中↑、鉱脈狙い
Lv 25:潜伏迷彩、サーチ・ボナンザ
Lv 30:HP中↑【NEW】、鉱脈の見極め【NEW】
【スキル】【名称:鉱脈の見極め】【パッシブ】
・採掘をして鉱物を掘り当てた際、鉱物の含有量が増える。
鉱脈の位置を見極めて、鉱物の含有量が多いところを掘る……みたいな感じか? 実際はパッシブなので、付けたまま普通に採掘すれば良いだけのようだが。
これは『採掘をして』と言うのがミソだな。最近は、アリンコ鉱山からしか採取していないので、普通の鉱物系の採取地はスルーしているのだが、これには効果が無いだろう。休憩時の暇つぶしに使う〈サーチ・ボナンザ〉は、自力で掘るので効果はあるだろうけど。
まぁ、31層からは黒魔鉄とウーツ鉱が出るので、活躍してくれる事だろう。
【ジョブ】【名称:付与術師】【ランク:2nd】解放条件:職人Lv15、魔法使い系の血筋、エンチャントストーンを使用する。
・仲間や装備品を強化して、ダンジョン探索をサポートするジョブ。付与術で各種ステータスや耐性を一時的に上げる。また、専用スキル〈スキルエンチャント初級〉で装備品にスキルを永続付与することが出来る。ただし、専用アイテムの『付与の輝石』が必要なため、入手する伝手を確保しよう。
戦闘系のスキルは一切覚えないため、戦闘中は後ろで補助に徹した方が良い。
・ステータスアップ:HP小↑、MP小↑、筋力値小↑、耐久値中↑、器用値中↑
・初期スキル:職人スキル、初級鑑定、付与術・筋力、スキルエンチャント初級
・習得スキル
Lv 5:付与術・耐久
Lv 10:知力値小↑
Lv 15:付与術・敏捷、付与術・知力
Lv 20:精神力小↑、付与術・器用
Lv 25:クリエイト・エンチャントストーン、付与術・精神力
Lv 30:MP自然回復量小↑【NEW】、フェイクエンチャント【NEW】
【スキル】【名称:フェイクエンチャント】【アクティブ】
・金属製の物に、種別【アクティブ】のスキル、もしくは魔法を込める。ただし、込めたスキルや魔法は大幅に劣化し、一定回数使用すると崩れ去る。
この際、使用した金属のレア度や大きさ、魔法陣の大きさにより、使用回数や威力が増減する。
使用する際は、〈フェイクエンチャント〉に続いて、付与したいスキルや魔法を連続使用すること。
MP自然回復量は置いておくとして、また変わったスキルが来た。どうやら、使い捨ての魔道具を作るスキルのようだ。
ただ、アクティブスキルと言っても、付与術師には〈スキルエンチャント初級〉や、各種付与術しかない訳で。そんなもの、劣化させてまで魔道具化する意味なんて……
……あれ? これ、ヤバい案件なのでは???
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