第346話 ロックアントとポーカー勝負?


 次の日はベアトリスちゃんを連れて、レベリングを行った。残りのサポートメンバーは不参加である。フォルコ君は二日酔いがキツイのと、出張続きで仕事が溜まっているから、先に処理をしておきたいそうだ。そして、フロヴィナちゃんはボス素材でメイド服作りである。以前から話していた通り、レベリング用の防具として使う為の物であるが、出て来たデザイン画は何故かメイド服であった。

 念のため弁明しておくと、俺が強要した訳でもない。


 当初は、レスミアのお下がりである革のドレスとか、ローブで良いじゃないかと話していたけれど、地味過ぎて嫌だそうだ。逆にルティルトさんが着ているようなドレスアーマーのドレス部分だけと言う案もあったが、これは派手過ぎて貴族か金持ちに間違われるので駄目。女性陣が話し合ったところ、ぱっと見で使用人と分かるメイド服に落ち着いたそうな。ただし、アドラシャフト家の本館に居た上級使用人のような、少し豪華なメイド服をイメージしている。更に、普段の業務でも使えるようにするそうだ。


……お菓子屋とか、家事に防御力がいるのか?

 なんて疑問が浮かんだが、不慮の事故だとか、強盗に入られた時にいると熱弁された。騎士団の門番が直ぐ近くにいるのに、強盗に入るなんて余程の強者だけど、従業員の安全のためならば仕方ない。Goサインを出したのだった。


 昨日、ナールング商会に行ったのも、リスレスさんに加工用の断ち切り鋏や、縫い針を注文する目的もあったそうだ。鉄製の鋏では、花乙女の花弁に歯が立たないので……ウーツ鋼製の裁縫セットは結構なお値段だったが必要経費であろう。




 午後の営業に間に合うように、手早く3周した。囲んでからダーツを投げ、高枝サソリ鋏で伐採するだけなので、既に作業である。ベアトリスちゃんも真面目なので、ボス戦も部屋の端の花畑に大人しく隠れており、トラブルも起こりようがない。暇だったからと、芍薬や牡丹の花を摘んでいた程度である。家と店に飾る用だそうだ。


「ありがとうございます! 料理人がレベル30になりました!

 早速……〈温度の見極め〉!

 あー、こんな感じなのか~。あっ、ミーアの温度36.9℃。人も測れるのね」

「え! 本当?! 私も……〈温度の見極め〉!

 わっ! 本当だ~。トリクシーは36.3℃か……これ、病気で熱を出しているか分かって良いね。

 ザックス様36.7℃で、ヴァルトは……38.3℃!? え?! 体調が悪いなら言ってよ!」


 〈温度の見極め〉を、非接触体温計の様に使えるとは気が付かなかった。レスミアが連想したのも、ティクム君の例があったせいだろう。そして、最後に目を向けられたベルンヴァルトだったが、別段平気そうである。皆に注目を浴びても、ピンと来ないのか小首を傾げていた。


「いんにゃ。今日は二日酔いもないから、普通だぜ?」

「戦闘直後だからじゃないのか? ……って、そんな激しい戦闘でもないか」

「ああ、そうだ! 自分の体温何て知らねぇが、鬼人族は体温が高いと言われた事はあるな。冬場でも薄着で平気だしよ」


 ベルンヴァルトは筋骨隆々なので、代謝が高いだけかもしれないが、種族差と言うのもあるのか。そんな感想を呟くと、レスミアが思い出したように、手をポンと叩く。


「ウチのスティラとか、猫族も体温が高いので、鬼人族もそうなのかも知れませんね。

 冬の寒い時なんて、猫族を抱っこすると暖かくて良いんですよ~」


 なるほど、猫や犬などの動物は人より体温が高いと聞く。人と獣の中間な獣人ならば、体温が高くても不思議はない。鬼人族は角と体格以外は、ほぼ人な気もするけど……鬼の体温なんて知らんしな。本人が普通と言うなら、高めの体温が普通なのだろう。

 ただし、冬の寒い時でもベルンヴァルトで暖を取る気は、微塵も起きないけどな。猫ちゃんなら兎も角。




 レベリングが終わり、女性陣は一足先に帰っていった。レスミアは、ベアトリスちゃんを家に送り届けた後に戻って来るので、その間はベルンヴァルトと二人である。ボスの周回を続けても勝てない事はないが、囲んで伐採戦法が使えないとなると、蔦腕の相手をするのが一苦労だ。MP消費を度外視して、魔法で殲滅しても良いのだが……中途半端に空いた時間の利用法を考えていると、珍しくベルンヴァルトから提案があった。


「中途半端な時間だからな、ウォッカを取りに行こうぜ。ついでに、ぬいぐるみが手に入るかもしれんぞ」

「逆だって言いたいけど、幸運のバフが無いから、期待しない方が良いだろうね。

 つーか、昨日も散々飲んだのに、まだ欲しいのか?」


 昨晩の宴会では、テオとフォルコ君が酔い潰されていた。俺はウォッカが飲み慣れず、低アルコールのワインの炭酸割りに逃げたのでセーフである。いや、ウォッカは水で割っても、ジュースでカクテルにしても、度数が高くてキツイのだ。


「はっはっはっ、美味い酒なら、幾らあっても困らんからな!

 むしろ、減った分を補充せんといかん」

「まぁ、俺も新スキルの試し打ちがしたいから、良いけどな。じゃあ、12層に行くか」




 12層の魔物がいない小部屋に移動した。〈ディグ〉で穴を掘って、松膨栗をお供えする。後は〈口笛〉するだけなのだが、今回は幸運のバフも無いので、ハズレの魔物が出てもそのまま倒す事にした。

 そして、口笛に誘われて煙から出て来たのはロックアント2匹。試し打ちをするには、鈍重なので丁度良い。


「〈ダーツスロー〉!」


 手の中に現れた1本の半透明なダーツを、ロックアント目掛けて投擲する。すると、そのダーツが途中で3本へと分裂した。程よくバラけた3本のダーツは、狙ったロックアントに2本、もう1匹に1本当たると、どちらも動きを止めるのだった。



【スキル】【名称:ワンスロー】【パッシブ】

・スキル〈ダーツスロー〉で投げたダーツが、3本に分裂するようになる。この時、1本当たる毎に2秒停止させる。ただし、3本全て外した場合、術者が10秒停止する。ON/OFF切り替え可能。



 賭博師レベル20で覚えたスキルで、〈ダーツスロー〉を強化するパッシブスキルである。

 元々が1本で3秒だったので、全部当たれば倍の6秒に伸びる。全部外した場合のデメリットも、5秒から10秒に伸びるのが痛いが、どれか1本でも当たれば俺が止まる事は無いので、安全性は増した……はず。いや、なんでパッシブスキルにまで、デメリットを入れるのか理解に苦しむけどな。

 まぁ、使いどころを間違わなければ、今見たいに複数の魔物も停止させられる強力なスキルである。


 止まっていたロックアントの1匹が、飢餓の重棍で叩き潰される。そして、残った方に対して、もう一つの新スキルを発動させた。


「〈ポーカースラッシュ〉!」


 その直後、1m程前に5枚のトランプが虚空から現れる。そして、裏面だったトランプが、左から順にくるりと回転して、数字やマークのある表面に変わった。


『ハート5』『クラブ12』『ハート3』『ダイヤ9』『スペード4』


 ……役が無い! ブタだ!

 ハズレと悟った瞬間に、備えておいたスキルを連続発動させた。


「〈いかさまの拙技せつぎ〉!」


 すると、右端の『スペード4』が、くるりと回転し『スペード5』へと変わった。

 ……50%の賭けに勝った! 5のワンペア!


 結果が確定したのか、トランプが点滅すると、『ハート5』と『スペード5』以外が砕け散る様に、霧散していく。そして、残った2枚が高速回転し始め、そのままロックアントへと飛んで行った。


 高速回転したトランプはロックアントの脚を1本切り落とし、頭に纏った石の甲殻を大きく斬り裂く。ただ、ワンペアなせいか、これで終了だった。トランプが消え去ると、ロックアントは〈ダーツスロー〉の停止効果が切れて動き出す。結局、結果が出るまで待っていたベルンヴァルトが叩き潰して終了となった。



「はっはっはっ! まさか、ポーカーで戦う日が来るとはな!

 騎士団でも、酒場でも賭けポーカーをやっている奴らはいるが、魔物相手にやるのはリーダーが初じゃねぇか?!」

「いやいや、れっきとしたスキルなんだから、俺だけじゃないって。大昔に遊び人ジョブの王族がいたらしいし、きっと賭博師だって居たさ。

 それに、魔物はカードを引かないから、勝負と言うより一人遊びな気もするけどな」


 戦闘が終わり、〈ポーカースラッシュ〉の効果を見たベルンヴァルトが茶化して来たので、反論しておく。ポーカーは対戦相手がいて勝負するから賭け事に使われる訳だ。一人でカード引いて、役に一喜一憂するなんて、まるでRPGに出てくるカジノのゲームのようだ。



【スキル】【名称:ポーカースラッシュ】【アクティブ】

・スキル発動すると使用者の前にカードが5枚現れ、役に応じた効果のカードで敵を斬撃する。

 ただし、以下の効果の内、即死はボスには無効され、属性弱点ダメージ×3となる。


●ロイヤルストレートフラッシュ:敵全員即死+レアドロップ確定2個+金貨10枚

●ストレートフラッシュ:敵5体即死+レアドロップ確定2個+金貨1枚

●フォーカード    :敵4体に弱点属性ダメージ+麻痺の状態異常+レアドロップ確定

●フルハウス     :敵3体に弱点属性ダメージ+麻痺の状態異常+ドロップ品2個

●フラッシュ      :敵2体に弱点属性ダメージ+盲目の状態異常

●ストレート      :敵2体に弱点属性ダメージ

●スリーカード    :敵1体に弱点属性ダメージ(相手の弱点が中級以上の場合は大ダメージ)

●ツーペア      :敵1体にカードが飛んでいき中ダメージ

●ワンペア      :敵1体にカードが飛んでいき小ダメージ

●ブタ(役無し)    :カードが自爆し、術者に最大HPの1割分のダメージ



 賭博師レベル15で覚えたスキルである。

 先程はワンペアだったので、『小ダメージ』だったわけだ。






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小ネタ

 ジョーカー無しなので、ファイブカードは役にありません。

 そして当初は、当てた役のみ順次公開していこうと考えていましたけど、5枚引きのみだとロイヤルなんて引ける訳が無いですよね。リアルで遊んでも(ジョーカー有で交換1回)、運が良くてフォーカードがいいところですし。

 なので、スキルの鑑定結果に効果も載せておきました。ついでに5枚引きの確率は以下の通り。

 ブタ(50%)、ワンペア(42%)、ツーペア(5%)、スリーカード(2%)、残りの役合わせて1%。

 そりゃ、当たらんわw

 賭博師は、幸運のステータス補正が小アップしているので、多少は引きが良いとは思いますが……

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