第342話 賭博師
「〈ダーツスロー〉!」
手の中に現れた半透明なダーツ……魔力製のそれを、魔法陣を充填しているリーリゲンへ投擲した。アクティブスキルなのにオートではなく、自力での投擲だ。それでも、軽戦士のスキル〈パワースロー〉が補正してくれる。初めて投げたダーツは、リーリゲンの花弁へと吸い込まれていった。
すると、魔法陣の充填が止まる。
……良しっ! 情報通り! 3秒も止まれば十分だ。
その隙に、高枝サソリ鋏で根っこの伐採に掛かった。
現在、本日最後の周回である。丁度、夕方頃であり、面白いネタが手に入ったので、無理する必要は無いと判断した。
伐採作業の大体は1回目と同じである。囲んで花乙女ポージーを恥ずかしがらせ、両腕の蔦でグルグル巻きになり始めたところで攻勢にでた。
そして、先程のスキル〈ダーツスロー〉は、新ジョブである賭博師の初期スキルだ。
【スキル】【名称:ダーツスロー】【アクティブ】
・スキルを使用する事で、魔力製のダーツを生み出す。このダーツを投げ、当たった相手を3秒停止させる。また、急所に当たれば10秒停止、外した場合は術者が5秒停止する。
このスキルではダメージは与えられない。
見覚えがあると思えば、アレだ。赤くて小さいサボテン……乱れ緋牡丹が使ってきた謎のスキルの正体だった。
『ダメージは与えられない』そうなので、既に休憩所で色々試し打ちさせてもらった。以前、ベルンヴァルトが止まったように、盾で受けても停止してしまう。他には、服の端とか髪の毛でも効果があったので、身に着けている物や身体の末端でも対象らしい。そして、少し怖かっただが、手の平に刺してみると、衝撃はあるが怪我は無く、停止時間の終了と共にダーツも消えて行った。
手に持った感触はあるのに、当たると消え失せてしまう。迷路階層で見かけたサンカヨウのようだった。
便利なスキルではあるが、使用後の硬直は無い代わりに、クールタイムがある。それは、停止が解けてから10秒間、連射は出来ない仕様のようだ。つまり、『ずっと俺のターン!』は出来ない。残念である。
リーリゲンが止まった隙に、近くのポージーの根っこを伐採した。そして、3本伐採したところで、2回目の〈ダーツスロー〉を投げる。再度、止まったリーリゲンの弱点を両断して、討伐した。
〈ダーツスロー〉の活躍はこれだけに留まらない。牡丹の花弁を伐採中にも、手短な部分に投げて刺せば停止させられる。的がデカいから、外す心配も無い。
こうして、時折停止させつつ、楽に花乙女ポージーを伐採した。
「あの小せえサボテンは厄介だったが、味方が使えるとはなぁ」
「強力なのは間違いないね。
ただ、素の状態の賭博師だと、連打は出来ないかも知れないよ。〈ダーツスロー〉2回で、単体魔法1回分くらいのMPがいるんだ。俺は魔道士のジョブで最大MPが増えているから、1戦で4、5回使っても平気だけどね。
後は〈投擲術〉か〈パワースロー〉が補正してくれないと、外す危険もあるし……外したら自分が5秒停止ってもの怖い」
俺も〈エアカッター〉で遠距離から狙う事が多かったので、自信はある……と思いたい。最近、何かを投げる時は、大抵〈投擲術〉か〈パワースロー〉が付けているから。まぁ、補正があってもウインドビーみたいな回避特化、敏捷特化な魔物に使いたくはない。万が一外したら、5秒も無防備になる。
「そこら辺を踏まえると、盾役の陰から援護するジョブなのかもな。後、撤退する時の足止め役とか?」
「また、灰汁の強いジョブですね。他にはどんなスキルがあるんです?」
「お、ボス1戦でレベル7まで上がっているな。追加されたのは……って益々、サボテンっぽくなってきた」
【ジョブ】【名称:賭博師】【ランク:2nd】解放条件:遊び人Lv30、ギャンブルスキルのダイスで10を出す。
・遊び人の中でもギャンブルに溺れた者。ダンジョン攻略においてもギャンブルスキルでスリルを味わう。あらゆるスキルに運要素が織り込まれているため、当たる前提で戦術に組み込むのは危険。当たるも八卦当たらぬも八卦、運命神へ祈れ。
・ステータスアップ:MP小↑、知力値小↑、敏捷値小↑、器用値中↑、幸運小↑
・初期スキル:遊び人スキル、ダーツスロー、いかさまの拙技
・習得スキル
Lv 5:ダイスマジック
まさかの遊び人のセカンドクラスだった。遊び人レベル30では、アレになるかと期待していたのに、悟るどころかギャンブル落ちだったよ。ただ、幸運ステータスしか補正が無かった遊び人に比べると、色々上がっているのは良い。
【スキル】【名称:いかさまの
・ギャンブルスキルの結果が出た直後のみ、使用可能となる。50%の確率で、ギャンブルスキルの結果を一段階良い方へすり替える。ただし、外した場合一段階悪くなる。
まだまだ未熟な為、このスキルが発動できるのは2時間に1度のみ。
……早速、いかさまに手を出していやがる!!
いや、ダイスの結果が悪い時に、フォロー出来るのは良いかも知れない。たとえ50%の確率だとしても……いやいや、この思考がギャンブルに身を落としそうで怖い。
【スキル】【名称:ダイスマジック】【アクティブ】
・10面ダイスを振り、出目の2~0に対応する属性のランク1単体魔法で攻撃する。ただし、出目が1だった場合、術者がランダム属性の単体魔法で攻撃される。
ダイスマジックの実と同じ効果である。勿体なくて1回しか試した事はないが、出目が0(10)と9が上級属性、8~6が中級属性、5~2が初級属性らしい。ハズレはあるものの1割の確率なので、魔法使い系が居ないパーティーに、よく売れると、買い取り所の職員が話していた。
……ダイスマジックの実が、MP消費で使い放題と考えると、お得なスキルなのか?
一応、上級中級属性が5割の確率(出目が6以上)なので、初級属性の魔物には有効かもしれない。
「まぁ、弱点属性を突いた方が早いから、基本は使わないな。使っても、ポージーみたいな中級属性に対して、ワンチャン試すくらいか?
う~ん? 後は、戦闘がマンネリ化した時の気分転換?」
「気分転換は、戦闘中にしないで下さいね。
それにしても、ギャンブルスキルばかりなんて……あの服を剥ぎ取るエッチなスキルも覚えますかね?
もし、ザックス様が使うとなると、複雑な気持ちです」
そう言うと、レスミアは眉を
「いやいや、もし覚えたとして、合意があれば使うのもやぶさかではないけど、基本的には魔物に対して使うんだよ?
〈いかさまの拙技〉があれば、引き直しが出来る。75%の確率で勝てるなら、一考の余地がある……いかんいかん、ギャンブルスキルを容認しかけているな」
賭博師のジョブをセットしている影響だったりするのだろうか?
いや、他のジョブを付けていても、そのジョブの行動をしたくなる訳ではないので、違うと思いたい。取り敢えず、試し打ちをしてから、戦術に組み込むか検討するとして、今日は終わりにした。賭博師なんてジョブの情報があれば、先方も喜んでくれるだろうからな。
今日1日のレベル変動は以下の通り。ずっとセットしていた戦技指導者や、29層で育成枠に入れていた、料理人と罠術師も伸びている。順に新スキルを確認していこう。
・基礎レベル31
・重戦士レベル25→28 ・司祭レベル27→30
・遊び人 レベル27→30 ・賭博師レベル1→7
・戦技指導者レベル18→30
・錬金術師レベル27→30 ・料理人レベル25→30
・罠術師レベル25→30 ・植物採取師レベル27→30
・採掘師レベル25→27
司祭レベル30では敏捷値のステータス補正が加わった。
【ジョブ】【名称:司祭】【ランク:2nd】解放条件:僧侶Lv25以上、他者を20回以上治療する。
・位階が上がり、創造神の信仰を広げる僧侶。神へ魔力を捧げる事で回復の奇跡を授かる。各種状態異常を治し、他者を補助するスキルを習得する。打たれ弱いのは相変わらずなので、パーティーの後方で仲間を回復することに専念しよう。
・ステータスアップ:HP小↑、MP中↑、知力値小↑、精神力中↑、敏捷値小↑【NEW】
・初期スキル:僧侶スキル、ヒールサークル、充填速度小アップ
・習得スキル
Lv 5:魔封耐性小↑、ホーリーボール
Lv 10:HP中↑
Lv 15:ムスクルス、マナドネ
Lv 20:知力値中↑
Lv 25:ディスパライズ、癒しの聖印
Lv 30:敏捷値小↑【NEW】
後方の回復要員なので、いざという時は逃げられるように、敏捷値が増えたのだろうか?
複数ジョブでステータスを補い合う俺には関係の無い話であるが。こうして、スキルを見直すと、〈ホーリーボール〉の使い道がないな。無属性で弱点を突けないから、石玉でも投げた方が早い気がする。
【ジョブ】【名称:遊び人】【ランク:1st】解放条件:2ndジョブに就いたことがなく、1stジョブ8種類のうち戦闘系ジョブをLv5以上、非戦闘系ジョブをLv10以上にする。
・ジョブを転々と変え、遊び歩いた結果……末路とも言う。
戦闘力は無いが、色々なジョブを経験した事により口が回り、レベルが上がれば歌や踊りも覚える。ダンジョン内での休憩時や、寝泊りする場合、その話術や芸でパーティーメンバーを楽しませる事が出来るかもしれない。
・ステータスアップ:幸運小↑
・初期スキル:逃走加速、気休め話術、スタチュー、獲得経験値中アップ
・習得スキル
Lv 5:歌う、踊る
Lv 10:ジャグリング、絵を描く
Lv 15:タップダンス
Lv 20:口笛、口軽話術
Lv 25:ダイスに祈りを、リアクション芸人
Lv 30:獲得経験値大アップ【NEW】、
そして、賭博師の元になった遊び人であるが、レベル30になったのにENDマークが付いていない。つまり、まだ成長させられるようだ。どの道、育てるけどさ、ちょっと期待してしまうではないか。
〈獲得経験値大アップ〉は戦技指導者で覚えているので割愛、新スキルは噺家だ。
【スキル】【名称:噺家】【パッシブ】
・物語を語るのが上手くなる。
確か、落語家と同じ意味だったよな?
〈口軽話術〉で話すのが上手くなるけれど、デメリット(口が滑りやすくなる)で酷い目にあったからなぁ。〈噺家〉は何も書いていないので、大丈夫と思うが……物語限定なので、ランドマイス村での宴会で武勇伝を話しような機会があれば、役に立つかも知れないな。
落語みたいに、話に落ちを付けたくなったりしないと良いが。
【ジョブ】【名称:戦技指導者】【ランク:2nd】解放条件:修行者Lv30。
・アクティブスキルに頼らず、自身の肉体を鍛え上げ、修行を終えた者である。今後は後進の育成に努めて、自ら会得した技を伝授していこう。
様々な武器の『心得』系スキルを会得し、使いこなすことが出来る。
・ステータスアップ:HP小↑、筋力値中↑、耐久値中↑、敏捷値中↑、器用値中↑
・初期スキル:修行者スキル、基礎指導、剣術の心得
・習得スキル
Lv 5:身体操作の心得
Lv 10:槍術の心得、指弾術
Lv 15:棒術の心得
Lv 20:受け身の心得、盾術の心得
Lv 25:弓術の心得【NEW】
Lv 30:格闘術の心得【NEW】、適正指導【NEW】
見事に心得系ばかりである。〈弓術の心得〉はスカウト系で覚えているので割愛する。
【スキル】【名称:格闘術の心得】【パッシブ】
・武器を持たず、徒手空拳で戦う際の行動全般を補正する。この際、手や足を防護するガントレットやブーツは着用していてもよい。
いや、魔物相手に徒手空拳で戦う予定はないけどな。砂漠のサソリ相手に、殴った反動で腕を痛めた思い出しかない。一応、鷲翼流を習って入るけれど、アレは対人用(酔っぱらいや暴徒鎮圧)である。虫や植物に投げ技なんて、どうすれば……いや、それも補正で何とかしてくれるのだろうか?
【スキル】【名称:適正指導】【パッシブ】
・『心得』と名の付くスキル持っている武術を教える場合に限り、指導力が上がり、教える対象の練度が上がりやすくなる。
武術の基礎を教える〈基礎指導〉の、次の段階のようだ。心得スキルを覚えていれば、弟子に適正な指導が出来るといった感じかな? 弟子の練度が上がれば、〈基礎指導〉の効果で、自分は経験値が貰える。『練度が上がる』ってのが大分、ふわっとしているけど。
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長くなったので、一旦切ります。非戦闘職は次回。
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