第341話 花乙女ポージーの伐採作業

 4戦目。

 ボスが登場する魔法陣が光るさなか、俺達は囲むように配置に付いた。俺が正面で、左右にレスミアとベルンヴァルトだ。後ろを取らなかったのは理由がある。それは、鑑定文に書いてあった『多人数に囲まれると頭を振って、盲目効果のある花粉を飛ばす。少女らしく、恥ずかしがっているらしい』、この部分だ。

 花乙女ポージーが人型の黒い目で、敵を認識しているか分からないが、背後に居たのでは気付かれない可能性もあるからな。



 そして、魔法陣の光が消え、敵が動き始める。お供の2本が魔法を充填し始めたので、その赤い方へ、釘を弾いた。〈指弾術〉でコントロールされ、〈パワースロー〉の力で弾かれた釘は、灼躍の弱点である目玉を撃ち抜いた……はず。既に視線を外していたので、結果は見ていないが、視界の端から赤い光が消えたので、当たったのだろう。もう一方の青い光、リーリゲンは後回しだ。


 花乙女ポージーに視線を向ける。緑色のマネキンなので、お世辞にも可愛いとは言い難いが、頭に咲いた花環の芍薬の花は可愛いかな?

 数秒見ていると、両の蔦腕を振り上げた花乙女ポージーは、そのポーズのまま停止した。そして、左右にキョロキョロと首を振る。囲まれているのを認識し、注目されて恥ずかしくなったのだろう。慌てた様子で、顔を隠すように両腕をクロスさせると、蔦腕が身体に巻き付き始めた。

 グルグルと巻き付いたそれは、人型部分だけでなく、下の巨大牡丹の花の上部まで完全に覆い隠す。見えているのは天辺に咲いた芍薬の花環と、下の巨大牡丹の花の下の方だけである。一見すると防御形態にも見えなくもない。


 すると、次はくねくねと踊り始め、天辺の芍薬の花から、赤い花粉が噴出し始めた。恐らくアレが盲目の状態異常にする花粉だ。それを見てから、俺は指示の声を上げた。


「攻撃開始!」


 手に持っていた高枝サソリ鋏を、近い根っこへと向け両断する。既に〈ムスクルス〉を掛けてあるので、切れ味が良い。

 2箇所も根っこを斬れば、防衛網に穴が空いた。そこから内側へ入り込んだ。次の狙いは充填が完了しそうなリーリゲンだ。青い魔法陣へ高枝サソリ鋏を突き込み、そのまま花弁を斬り裂く。さらに、そこから2撃目を突き込み、弱点の茎まで一気に両断した。



 ただ、これで一息付ける訳でもない。この作戦は、花乙女ポージーが花粉を振り撒いている間に、刈り込んで斬り倒す速さが求められる。周囲の赤い花粉が濃度を増していて視界が悪いが、左右からも『シャキン、シャキッン』と、子気味良い鋏を開閉する音が聞こえた。レスミアとベルンヴァルトも、順調のようである。

 俺も負けじと、本体の牡丹の花へ取り掛かった。


 高枝サソリ鋏を横向きではなく縦向きにして、花を斬り裂く。ただ、防具に使える程の花弁なので、中々斬り難い。八重咲の花弁をまとめて切ろうとすると、バフ有でも鋏が止まってしまう。面倒ではあるが、1枚ずつ斬り裂いた。


「花弁は一枚ずつなら、切れる。まとめてじゃ切れないぞ!」

「おおう、道理で切れんわけだ!」


 そうして、下の方を伐採すると、ようやく弱点の茎が見えて来る。

 しかし、その頃には花粉の追加が収まり、巻き付いていた蔦腕が解かれ始めていた。


 ……不味い! 急がないと、蔦腕の振り下ろしが来る!


 斬り裂いた花弁の下に潜り込み、膝をついて高枝サソリ鋏を構えた。長めに作っておいて正解だったな。高枝サソリ鋏なら、茎まで届く。

 そして、茎を挟み込んで刃を閉じたのだが、切れたのは三分の一程度。もう一度開閉して、もう三分の一。数本絡み合った蔦なので、一気に切れないのがもどかしい。最後の一回と鋏を開いた時、横合いから別の鋏が突き出てきて『ジャキンッ』と残りを切断した。


 頭上の巨大花が横倒しに倒れ「ぐぇっ!」光が差し込むと共に、赤い霧が吹き流される。すると、俺の左斜め前には、腹這いに倒れたままのレスミアが居て、興奮気味に笑った。


「アハハッ、やりましたよ~。何とか、届きました!」


 またしてもスライディングして来たようである。それもそのはず、レスミアの手にしている枝サソリ鋏はフロヴィナちゃん用なので柄が短く、1mほどしかない。弱点の茎を切ろうとするなら、牡丹の下に潜り込まなければならなかったのだ。


 またもや土だらけなレスミアに手を差し伸べて、助け起こす。その時、倒れた筈の巨大牡丹の花が横に転がって行く。何事かと思いきや、その下からはベルンヴァルトが現れた。


 ……そういや、倒れた方向って、ベルンヴァルトが戦っていた方だった!


 幸いにも、HPバーも減っていないので、怪我もなさそうである。ただ、ベルンヴァルトは不満そうに、手に持っていた大鋏をコンコンとノックした。


「切れはするんだが、リーチが短じけぇわ。コイツにも柄を付けてくれよ」

「あー、そんなに直ぐ出来る改良じゃないからなぁ。帰ったら……明日にでも作っておくよ」


 そんなベルンヴァルトが持っている大鋏は、ビュスコル・イェーガーがドロップした『猟師さそりの大鋏』そのまんまである。高枝サソリ鋏は2本しか作っていないので、苦肉の策である。大鋏の付け根に手を入れれば、開閉させる事は可能なのであるが、刃の部分しかリーチが無い。

 そして、柄を付けるにしても、どれだけ甲殻部分を加工(軽量化)するとか、重量バランスとか、接合部の強度も考えなければならない。この場でパッと出来る事ではないので保留し、戦利品を回収してから次の周回へと向かった。



 ボス戦後の休憩所が使えないのは、少し不便だな。いや、身内でしか出来ない話が多いのでしょうがないが。ショートカットを歩きながら反省会をする。囲んでから、バフ付き高枝サソリ鋏で伐採するのは上手くいったが、危ない場面もあった。


「攻撃に移るタイミングは、もっと早くて良かったな。花粉を出すまで待たずに、両腕の蔦で顔を隠したらで、良いと思う」

「俺はアレだな。花びらをまとめて切ろうとして、大分時間をロスしちまった。リーダーの声がなけりゃ、気付かんかったしな。まぁ、1枚ずつ斬るのが面倒で、茎まで届かんかったけどよ」

「ヴァルトの体格だと、花の下に潜り込むのは大変だよね。牡丹の下側を少し切れば潜り込める、私が適任じゃないですか?」

「いや、俺の高枝サソリ鋏の長さなら、少し切り込めば届くさ。確かに下側は狭いけど……〈ディグ〉で穴を掘るって方法も良いかも知れない」



 そんな感じで話し合いは続いた。

 そして、ボス部屋前の休憩所で、小休止をしながら、再度準備を整える。

 レスミアの狩猫はレベル30に到達し、カンストとなった。



【ジョブ】【名称:狩猫】【ランク:1st】解放条件:基礎Lv5以上、猫族、猫人族専用

・猫の身体能力を生かした、戦闘寄りのスカウト。罠の看破も出来るが習得は遅め。回避型の前衛として戦おう。

・猫族が狩猫の上位にクラスチェンジすると、猫人族よりの体格に近づく。


・ステータスアップ:HP小↑、MP小↑【NEW】、筋力値小↑、敏捷値中↑、器用値中↑

・初期スキル:隠密行動、不意打ち

・習得スキル

 Lv 5:投擲術、猫着地術

 Lv 10:敏捷値中↑

 Lv 15:猫耳探知術、マッピング

 Lv 20:器用値中↑、罠看破初級

 Lv 25:猫体術、猫受け身術

 Lv 30:MP小↑【NEW】、エアリアルキラー【NEW】

 END



 何故か、MP補正が付いた。MPを沢山使うようなアクティブスキルは無いのに……強いて言えば、〈宵闇の帳〉くらいだろうか?

 ただ、レスミア曰く、発動時に魔力が多めにいるけれど、維持コストは無い。砂漠で1日中、暗幕状態でいられたのは、そのお陰だそうだ。頻繁に切れる〈潜伏迷彩〉なら兎も角、自身で解除しない限り、暗幕状態な〈宵闇の帳〉は何度も使う事は少ない。

 まぁ、闇猫のレベルを上げれば、MPを多く使うアクティブスキルが増えるのだろうと、推測しておく。



【スキル】【名称:エアリアルキラー】【パッシブ】

 ・空中に位置する敵に攻撃する場合、そのダメージを増やす。

 なお、『空中』とは、術者の身長よりも上の位置、且つ接地していない状態と定義する。



 格ゲーみたいなスキルが来た。〈猫体機動〉の三角飛びで、飛ぶ敵を迎撃しろと言う事だろう。いや、この空中の定義からして、自分で敵を打ち上げるのも手か?

 ただ、狩猫系にはそんなスキルが無いけどな。もちろん他のジョブにも。上方向なら、風魔法の〈ストームカッタ―〉があるけれど、あれのメインは切り刻む方だからなぁ。〈ファイアマイン〉の地雷で、打ち上げるくらいか?

 いや、爆風で打ち上げたところを追撃なんてロマンがあるが、普通に考えたら爆風に巻き込まれそうで危ない。まだ、ベルンヴァルトの飢餓の重棍で打ち上げた方がマシだろう。


「どうでしょう? あの棍棒で、1.5mも浮く程叩いたら、既に死んでませんか?」

「重棍は重いから、叩き降ろす方が、威力が出るんだがなぁ。こっちより、リーダーの〈くくり罠〉の方が良いんじゃないか? この間、ぬいぐるみ相手にやったけどよ、アレなら接地もしてねえし、高い位置に吊り上げんだろ?」

「あれはクゥオッカワラビーが小さいから高く吊り上がったけど、他の魔物だと角が地面スレスレの場合もあったからな。魔物次第としか言えないよ」


 結局、相手次第なので、無理に使う事はないという結論になった。安全第一で、使えそうならで良い。どの道、第2ダンジョンで試せる相手で、空飛ぶのはカブトムシしか居ないので。

 そして、ベルンヴァルトも無事、戦士レベル30になった。新しく覚えたのは〈骨砕き〉と〈剣術の心得〉である。



【スキル】【名称:骨砕き】【アクティブ】

・体内に浸透する打撃ダメージを与える。その際、骨及び外骨格へのダメージが増える。



 テオの時に確認済みであるが、念のため。〈骨砕き〉は飢餓の重棍でも壊せないような固い敵に有効だろう。


 二人ともファーストクラスがカンストしたので、次に上げるジョブを何にするか相談する。


「私は料理人でお願いします。確かレベル25で殻剥きが楽になるスキルを覚えるんですよね?」

「〈アデプト・シェラー〉だね。了解」


「俺は、残っているのが鬼足軽だけだから、それな」

「別に、新しく他のジョブを上げても良いんだぞ? 職人系でも、採取師系でも」

「バカ言え、目指すのは騎士なんだ、増やしてもしゃーねーよ」


 そう言って、追い払うような動作で手を振った。

 まぁ、これが普通の考えである。普通の人は経験値が勿体ないからと、コロコロとジョブを替えないからな。レスミアは料理人と植物採取師、熟練職人を育てているのは、俺の影響であるけれど。

 無理強いしても、しょうがないな。


 そして、俺のジョブも色々と上がっており、30を超えた物も多い。そうして、育成枠のジョブを入れ替えようとした時、ジョブ一覧に【NEW】マークが付いている事に気が付いた。


 ……新ジョブが追加された!?


 ここで追加があるとは、思ってもみなかった。喜び勇んで見に行くと、遊び人ジョブの下に、新しいジョブが増えている。


 その名は【賭博師】だった。

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