第340話 魔法で圧殺する周回と閃き

 反省会をしながら、ショートカットをのんびり歩いていたのだが、ボス部屋前の待機部屋まで来ても良いアイデアは思い浮かばなかった。その為、2戦目は、安全な次善策を取る事にした。




「〈ストームカッタ―〉! 〈アクアジャベリン〉! 〈ストーンジャベリン〉! 〈ウインドジャベリン〉! 〈ファイアジャベリン〉!

 もう一つオマケに〈ライトボール〉!」


 〈無詠唱無充填〉をセットして、魔法を連打していた。これならアビリティポイントは10で済むので、聖剣を使うよりは負担は軽い。これならば、効果的な魔法を調べる事にもなり、ファーストクラスに変えた2人を戦闘に出さなくても良いからだ。


 〈ストームカッタ―〉の緑色の風の刃が回転し、魔物の群れを切り刻めて……いない。花乙女ポージーが、その長い蔦腕を自身に巻き付けて防御しているからだ。多少は蔦を切っているようだけど、腕を切断するにはまだまだ足りない。

 次いで、撃った水と石の投げ槍は、足元に咲く灼躍とリーリゲンの弱点であり、あっさりと貫き倒す。そして、風と炎の投げ槍は、花乙女ポージーを狙って撃ったのだが、これも蔦腕に刺さっただけで、貫通には至らなかった。炎の槍が刺さったまま、延焼する事も期待していたのに、蔦腕同士を擦り合わせるようにして、炎の槍を破壊されてしまう。

 〈ライトボール〉に至っては、効いているのか、いないのか判断が付かない。着弾しても光に包まれるだけだからなぁ。外傷も出来ないし、植物なので声も上げない……萎れるとか、分かり易い反応をすればいいのに。



 因みに、魔法にもスキルと同じくクールタイムがあるが、スキルとは少し違う。同一の魔法は連打出来ないが、別の魔法ならば、連打可能である。先程の魔法の様に、全部属性を変えつつ使用したのが良い例だ。

 ただし、範囲魔法が発動中、充填は出来るけれど、2発目の範囲魔法は撃てない。こっちは属性を変えても駄目。範囲魔法を同時に使うには、魔法使い系が2人いるのである。


 まぁ、〈無詠唱無充填〉がなければ、意味がない情報だけどね。普通は魔法陣を充填するので、その間に再使用可となるから、同じ魔法でも連続使用は可能である。


 閑話休題。


 特殊魔法である〈ファイアマイン〉と〈ベリィ・ピット〉を、花乙女ポージーの真下に設置しようとしたのだが、点滅魔法陣が途中から動かない。どうやら、敵が生えている地面には設置できないようである。罠術は敵の足元にも仕掛けられるのに、融通が利かないな。

 仕方なく魔法をキャンセルしていると、花乙女ポージーの蔓腕も届かない距離を取っている為か、向こうも魔法陣に充填を始めた。

 それを阻止するべく、1戦目でも効果のあった魔法を連打する。


「〈フレイムウォール〉! 〈ウインドウォール〉! 〈フレイムウォール〉! 〈ウインドウォール〉!」


 囲い込む様に、4方に壁魔法を立ててあげた。燃え盛る炎と、小さな竜巻の壁で出来た囲いだ、格好良い。壁魔法自体が3mあるので、ギリギリを攻めて設置するのは結構面倒であった。上から見たら『井』みたいな感じだな。

 ただし、中の部屋の間取りは2㎡。はみ出るサイズのポージーさんは、その綺麗な牡丹のドレスを、盛大に燃やされ、斬り裂かれる。壁魔法を壊そうと暴れて蔦腕を振り回しているが、その度に破片や火の粉が舞い散った。


「凄いっつーか、えげつないな。そんなに、魔法を連続で使えたのかよ」

「私も2発くらいなら見た事はありますけど、5発は初めてですよ。普段は節約してますからね」


 なんて、ギャラリーから感想が聞こえて来た。確かに貧乏性で、ついついMPを温存したくなるので、しょうがない。これだけ連打するのも、一人で魔法を検証する時くらいである。MPの回復方法が限られているからな。時間経過(回復力アップのパッシブスキル付けて)か、高価なマナポーション、後は特殊武器のもう一つの聖剣、天之尾羽張アメノオハバリだ。


 ……ただ、アレは使い方が分からんからなぁ。付与術師が覚えるという〈スキル鑑定〉があれば、分かるかも知れないが。

 なんて、考えを巡らせていると、〈ウインドウォール〉の1枚が破られた。中級属性の魔物だけあって、しぶとい。追加で〈ストームカッタ―〉をお見舞いしてあげた。すると、2枚の〈フレイムウォール〉の炎を巻き込み、風の刃が火炎旋風の様に舞い上がる。クロタール副団長に見せてもらった連携魔法の様であるが、規模は大分小さい。一人連携では、これが精一杯か。


 〈ストームカッタ―〉が消えていくと、ボロボロになった花乙女ポージーが残されていた。両の蔦腕を失くし、本体の牡丹の花も大方燃えて、切られてしまっており、弱点の茎が丸出し状態である。

 折角なので、最後まで魔法で決める事にした。ワンドを弱点へ向け、単体攻撃魔法を連打する。


「〈エアカッター〉! 〈ファイアボール〉!   ……〈エアカッター〉! 〈ファイアボール〉!」


 〈エアカッター〉の方が、弾速が早いので、ワンテンポ置いてから連打したところ、風の刃が茎を斬り裂き、爆発が傷口を広げ、追撃の風の刃が残りを斬り裂き、両断した。最後の〈ファイアボール〉は余計だったかも知れないが、その爆風で花乙女ポージーが横倒しになり転がって行く。無事倒せたようだ。


 終わってみれば、魔法だけでも圧勝である。ただし、


「総MPの4割も使ったから、後1回……節約しても2回が限度だな。二人のレベルは?」

「私の狩猫はレベル29です。ちょっと足りなかったみたい」

「俺の戦士は27だ。後2回は、回らにゃならんな」


 経験値増を減らして、〈無詠唱無充填〉を付けた弊害である。ただ、次はもう少し効率的に魔法を使えばいいだけの話だな。最初のジャベリン系は要らないので、最初から壁魔法で囲めばいい。

 そんな算段を付けていると、レスミアがちょいちょいと手招きする。


「次の止めは、私が〈不意打ち〉してきますよ。MPの節約になりますし、私も少しは手伝いたいです」

「お、それなら、俺は〈挑発〉で魔物の気を引いてやろうか?」

「う~ん……それじゃ、止めは二人に任せるよ。レスミアは、どの武器を使う?」


 レスミアのジョブは狩猫に変えたけれど、装備は弓のままだ。普段は薄刃なテイルサーベルを使っているが、あの太く絡み合った茎を斬れるか少し不安である。その為、ベルンヴァルトに貸していたホーンソードを薦めてみた。闇猫から狩猫に変更しているので、筋力値補正が一段落ちているが、レベル30で上がった分を加味すれば筋力値Dで、十分に使える。

 まぁ、スライド式にベルンヴァルトの武器が無くなってしまったのだけど。こちらも戦士ジョブに〈装備重量軽減〉が無いので、大盾を装備しつつ、重量武器が装備できないのが痛い。テイルサーベルだと、軽すぎるとか文句を言うし。


 ……そろそろ、武器の買い替え時でもあるな。ウーツ鋼や黒魔鉄製の武器で、スキル付きの専用武器の他に、使い回せるショートソードがとかも欲しい。


 取り敢えず、一時的な処置として、ベルンヴァルトにはテイルサーベルを持たせた。腰に佩くだけなら、問題無いからな。

 ただ、ストレージの装備品フォルダを漁っている内に、アレがあるのを思い出した。迷路階層で大活躍だったアレである。


「なぁ、レスミアはこれを使ってみるのはどうだ? 植物を刈るには丁度良いと思うよ」

「え~、ですか~。本当に鋏が好きですよね。

 〈不意打ち〉の効果で切れるとは思いますけど、重いですからちょっと……」

「大丈夫! フロヴィナ用に作った軽量版があるから!」


 なんて、高枝サソリ鋏をアピールしたのだが、いきなり実戦で使うのは怖いと断られてしまった。流石に信頼性ではテイルサーベルの方が上のようだ。

 それならばと、残っている花乙女ポージーの切り花で、試し斬り(試し伐採?)をしようとしたのだが、既に消え去ってドロップ品に変わっていた。タイミングが悪い。

 ピンク色と赤色の、花乙女の花弁を手に入れて、次の周回へ向かった。




 3戦目。

 お供のリーリゲンを巻き込む様に〈ウインドウォール〉を張り、残りの3面にも押し込めるようにして壁魔法を張る。そこから、範囲魔法の〈ストームカッタ―〉を2回続けて使う事で、ボロボロの状態に追い込むことに成功した。

 そして、予定通りに正面から〈挑発〉からの、背後から忍び寄った〈不意打ち〉で伐採する。無事倒せたのだが、一つ盲点があった。花弁から地面までの隙間が狭いので、攻撃に行ったレスミアは前傾姿勢から、飛び込むようにして、斬撃するしかない。残っている根っこや花弁に触れたら、花乙女ポージーに気付かれて〈不意打ち〉出来なかったのだ。

 結果、レスミアは受け身も取れずにスライディングして、土だらけになってしまった。本人が「訓練の時を思えば、なんて事は無いですよ。それに、ザックス様が浄化してくれますよね?」と、笑って言うので、即座に〈ライトクリーニング〉したのは言うまでもない。


 ……ショートソードサイズのホーンソードでは、リーチが足りない。そうなると、重い槍よりも、多少は軽い高枝サソリ鋏を試すしかない。ついでに、あの習性も利用すれば、楽に倒せるはず。


 切り花が消えないうちに、試し伐採を試みた。しかし、太い茎、根っこのどちらにも、途中までは食い込むが切断には至らない。根っこの方は2度3度と、開閉してやれば切れるが……。いや、切れ味、攻撃力が足りないなら、足せば良い!


「〈ムスクルス〉!」



【スキル】【名称:ムスクルス】【アクティブ】

・対象に闇の神の祝福を授け、一定時間攻撃力を上げる。



 司祭のレベル15で覚えたバフである。似たようなスキルに、付与術師の〈付与術・筋力〉があるが、少し違う。

 本職であるピリナさんに教えて貰ったのだが、〈ムスクルス〉はステータスアップのバフだけではなく、武器も含めた攻撃力を上げるらしい。つまり、魔力を纏った分だけ、切れ味も良くなる。付与術とも兼用できるので、ボス戦などの強敵と戦う際には、エンチャントストーンと併用すると良いらしい。


 ……付与術師をパーティーに入れるのではなく、エンチャントストーンで済んでしまうのが、悲しい事実だな。



 それはさておき、攻撃力アップのバフを追加した状態で、伐採してみると、見事一回で根っこを両断した。面白い程に輪切りに出来る。弱点である太い茎は数本絡んでいるので、1回では無理だったが、半分近く切れた。十分な威力である。


 この実験結果に満足した俺は、喜び勇んで4戦目の戦術を組み立てた。それを二人にも発表したところ、レスミアは苦笑し、ベルンヴァルトはこめかみを押さえて、しかめっ面する。


「あはは~、ザックス様は鋏が好きですもんねぇ。そうなる気がしてましたよ」

「いや、試すのは良いんだけどよ。戦士を30にまで上げる意味が無くなるんじゃねぇか?」

「あ~、騎士ジョブを手に入れるのに、戦士30は必要だったからな。〈剣術の心得〉はオマケだって」


 前言を翻して悪いが、見通しの立っていない時の話であるからな。取り敢えず、詳しく話し合いしながら、次の周回へと向かった。




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本日で連載2周年です、イェイ!

そんな近況ノートをアップしましたので、良ければご覧下さい。いつもの裏話付きですよ。

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