第339話 花弁のお洒落な使い方と反省会

「〈二段突き〉!」

「止めだぁ! 〈フルスイング〉!」


 花乙女ポージーの弱点である茎は、大きな花を支えるせいか、蔓腕と同じく何本もの茎が絡まっていた。その為、ベルンヴァルトと連携して、連続攻撃を仕掛ける。俺の突いてからの、スキルを使った疑似三段突きで茎に穴を空け、強度が落ちたところをベルンヴァルトが切り落とした。


 横倒しになる花乙女ポージー。その人型には、矢が沢山突き刺さっている。レスミアの頑張った成果であるが、蔦腕が千切れるまでは、あまり弱った感じがしなかったな。やはり、疑似餌と言うか、攻撃用の端末みたいなものなのだろう。

 当のレスミアと合流すると、クスクスと笑った。


「二人とも、口元が黄色ですよ。口紅を塗ったみたいです」


 思わずベルンヴァルトと顔を見合わせると、確かに呼吸をしていた口元と、鼻の辺りが花粉で黄色くなっていた。少し、ぞっとする。マスクがなければ、これだけの量の麻痺毒の花粉を吸っていたのだろう。念の為、全員に確認するが、手足の痺れも無く、HPバーにも状態異常を示すアイコンが点灯していない。予防策は十分に機能したと考えられる。ただ、このままでは、2戦目中に目詰まりしそうなので〈ライトクリーニング〉で浄化した。


 そうこうしている間に魔物が霧散していき、ドロップ品と鉄の宝箱が現れる。床に落ちたドロップ品は、オレンジ色の大きな1枚の花弁である。目的の素材なのだが、花乙女ポージーはピンク色だったのに、何故にオレンジ色?



【素材】【名称:花乙女の花弁】【レア度:C】

・アルラウネ種の大きな花弁。軽くて丈夫であり、布の様に扱える為、防具だけでなく、服の素材としても人気がある。また、状態異常に特化した魔物であったせいか、その花弁には毒花粉を軽減する効果がある。

 花弁の色や柄は、元々の魔物と同じ種類の物が出やすい傾向にあるが、基本的にはランダムでドロップする。



「色はランダムなのか……これ1枚じゃ服は作れないよな? 同じ色が出るまで周回しないといけないのか?」

「あ、それなら、マルガネーテさんに聞いてますよ。薄い色なら、布と同じ方法で染め直しが出来るそうです。

 後、この大きさだと、1着仕立てるのに2枚は欲しいですね」


「なるほど、つまりオレンジは目立ちすぎるし、染め直しも出来ないからハズレだよなぁ」

「いえいえ、明るく春らしくて良いと思いますよ。全身でなく、スカートとか小物に使えば華やかさが増しますから。

 ヴィナだったら、新しく作るメイド服のエプロンだとか、フリルに使いそうですね」


 男ではオレンジ色の服を着ようなんて、端から選択肢にないからな。

 鉄の宝箱からは、白い花弁が出て来たので、「こう、合わせるとオレンジ色が華やかに」なんて、解説してくれた。そう言われると、喫茶店とかファミレスだと、オレンジ色が入った制服もあったような気がする。


 そんな雑談をしつつ、宝箱も回収した後、部屋の中心に現れた転移魔法陣で、休憩所へと移動した。



 休憩所は、11層21層と同じ間取りのようである。そして、以前ポカミスした経験から、案内の看板もチェックすると、31層と書かれていた。つまり、この先の階層もあるようだ。アメリーさんからは、全30層と聞いているし、地図本もそこまでしかない。

 ただ、そんな疑問は、直ぐに晴れた。次の階層への扉を見に行ったら、その前に緑色の隊服を着た騎士が居たのだ。壮年くらいの男性騎士は、椅子に座り込んだまま、腕組をして船を漕いでいる。


「あぁ、この先は騎士団の管轄か」

「ダンジョンの管理も騎士団の仕事だからな。門番みたいなもんだ。人通りの少ない階層は暇でしょうがねぇけど、眠ってんのは駄目だろ。

 おいっ! 起きろっ!」


 ベルンヴァルトが寝ている騎士の肩を叩くと、飛び起きた。そして、俺達の方を見ると、慌てた様子で立て掛けてあった槍を手に取る。


「なんだ、怪しい奴らめっ! ……ッハ!? もしや、通達のあった山賊か!」

「ッハ!? じゃねーよ。只の探索者だ! そっちこそ、居眠りすんな!」

「そんな怪しい格好で、よくも言う! 簡易ステータスを見せろ!」

「いやいや、赤字ネームなら、休憩所は強制退室ですよ……あ、ゴーグルとマスクしたまんまだ。ヴァルトも外しなよ」


 麻痺対策品を装備したままだったよ。そりゃ傍から見たら不審者である。

 俺達がゴーグル等を外して顔を見せると、途端に態度を軟化させた。ベルンヴァルトの簡易ステータスを見せた事もあるが、主にレスミアを見てからである。


「すまん、早合点したようだ。こんな、可愛いお嬢ちゃんが山賊な訳はないからな」

「あはは~、誤解が解けて良かったです」


 なんて、レスミアが笑いかけると、オジさん騎士も相好を崩して笑う。そして、口の前で人差し指を立てた。


「なら、俺が居眠りしとったのは黙っといてくれ。

 代わりと言っちゃあ何だが、良い事を教えてやろう。ここは、騎士団の管理階層だから、入れてはやれんが、同じ31層でも、第1ダンジョンの方が良い物が取れるぞ。しかしまぁ、30層のボスドロップが良いのは、こっちの第2ダンジョンだがな……ここで、稼いで装備を整えて、第1に行くのが鉄板だろう。

 まぁ、その怪しい装備もフルフェイスの兜を買えないのであれば、仕方ない。ここのボスで稼いでいきな」


 簡単に31層について教えてくれた。

 やはり、騎士団管轄の階層らしく、一般人は使用不可。ただ、登場する魔物はリーリゲン達なので、あまり旨味がある訳でも無く、31層以上から取れるレア度Cの素材が取れ始めるだけだそうだ。しかも、行き止まりで32層は無い。


 ……レア度Cだと、ウーツ鉱とか黒魔鉄が取れる筈だから、その安定供給用かな? いや、ダンジョンに入る人が少ない時の調整用かも知れない。確か、放置し過ぎると、ダンジョンが成長してしまうらしいから。



 情報を貰えたのは助かるが、騎士が常駐していると、内輪の話がし難い。周回するからと理由を付けて、一旦エントランスに戻り、再度30層へ入り直した。

 そして、ショートカットの道をのんびり歩きながら、反省会をする。いの一番に発言したのはベルンヴァルトであった。ツヴァイハンダーを振り回すような素振りを見せてから、悔しそうに言う。


「飢餓の重棍でぶん殴るよりは、大剣の方が効くと思ったんだがよ。あの根っこ、くねくねし過ぎだろ。切ろうと大剣を振り回しても、切れやしねぇ」

「あぁ、それは、くねっている下辺りの、動きが止まった所を狙うと良いよ。ただ、その切れそうな位置も、常に流動しているからなぁ。俺は〈槍術の心得〉があるから、なんとなく分かるんだけど……ヴァルトは次、戦士のジョブを上げてみるか?

 確かレベル30で〈剣術の心得〉を覚えるから、重戦士にも反映されるはずだ」


 ベルンヴァルトの重戦士は2レベル上がり、30に到達した。スキルの追加は無く、ステータス補正が向上している。



【ジョブ】【名称:重戦士】【ランク:2nd】解放条件:戦士Lv25以上、重量武器を使用し、レベルを3上げる。

・前衛系の中でも盾役と物理攻撃役を兼ね備えたパーティーの要。〈装備重量軽減〉スキルで重厚な装備をして、挑発系スキルで敵の注意を一身に引き受け、攻撃を受け止める。そして、重量武器にて敵を叩き潰す。魔法に弱いのは相変わらずなので、回復手段を忘れずに。


・ステータスアップ:HP大↑【NEW】、筋力値中↑、耐久値大↑、敏捷値小↑

・初期スキル:戦士スキル、装備重量軽減

・習得スキル

 Lv 5:シールドガード

 Lv 10:HP中↑

 Lv 15:ヘイトリアクション、衝撃浸透

 Lv 20:耐久値大↑

 Lv 25:カバーシールド、ブラッドウェポン

 Lv 30:HP大↑【NEW】



 重戦士になってから、耐久とHPしか上がっていない。正に盾役にはピッタリなのだが、今回根っこが切れなかったのは、器用値の補正が無いせいかも知れない。アレが高いと武器の取り回しだとか、狙った位置へ攻撃を当てやすい気がするからだ。

 素の戦士には器用値補正が無いので仕方ないが、〈剣術の心得〉があれば、多少は改善されるだろう。そんな提案をして、ジョブを戦士に変える。ただ、〈装備重量軽減〉が無くなるので、大盾とツヴァイハンダーの同時装備は厳しい。俺のテイルサーベルを貸しておいた。


「ポージーのダブルスレッジハンマーを防御して耐えてくれたのは、助かっていたし、その後の押さえ込みもヴァルトの力がなければ逃げられていたからな。十分活躍しているよ。むしろ、俺の方が力押しな作戦を立てて、すまん」

「あ~、それを言ったら私もですよ~。灼躍を倒したのは良いですけど、ポージーちゃんに矢を当てても効いている気がしませんでしたから。私のトレジャーハンターもレベル30になりましたから、次は狩猫で〈不意打ち〉しましょう!

 牡丹の花なんて、摘み取ってやりますよ!」


 トレジャーハンターは俺も既に30を超えている。覚えたのは〈盲目耐性小アップ〉と、タイムリーな耐性スキルだ。いや、花乙女ポージーを囲まなければ盲目の花粉は使ってこないみたいだけど。


 ……ふむ、ゴーグルを当てにして、敢えて囲むのも手か?

 一度試してみたいアイディアではあるが、2人のジョブをファーストクラスに落としたところで、やる必要は無いだろう。取り敢えず、考えをまとめつつ、俺の意見も言う。


「俺としても、勝てはしたけれど、力押しだったのが駄目だな。これから周回するうえで、何度も戦うのだから、もっとスマートに、嵌め殺す感じの作戦で行きたい。ついでに、報告書の受けもよくなるから」

「そっちかよ!」


 王族が楽しみにしていると言う情報もあったので、読者受けを考えたら変わっている方が良い。ベルンヴァルトのツッコミを受け流していると、レスミアは思い出すように、斜め上を見た。坂道を登りながらなので、可愛らしい尻尾もゆらゆら揺れるのが良く見える。


「確か、村の20層のボスを周回した時は、聖剣で瞬殺してましたよね?

 今回も使ってはどうです?」


「それは最終手段だな。アビリティポイントを20pも使うから、経験値増か追加ジョブを減らさないといけない。

 報告書の期限が明日の午前中だから、今日中にレベルを上げられるとこまで、上げたいし……後、俺しか使えない聖剣より、誰でも取れるジョブとか戦法で、嵌め殺した方が面白いよな?」

「どうでしょう? 英雄にしかない特別な剣とか、物語の定番ですよ?」

「いやいや、俺の英雄は村止まりだったから、もう一般人だろ?」


「「それは無い!」です!」


 ……2人にハモってまで、否定されるとは、解せぬ。

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